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第一章
第39話 結婚式
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エドワード公爵家が統治する、ここエドワード領はその広大な領地と潤った経済のお陰で王国屈指の領地として名高い。
その為、領民達からのエドワード家へ対する反感の声はあまり聞かれない。むしろ、他領と比べてかなり厚い支持を受けている。
そんな領民達だからこそ、エドワード家悲願の嫁である私――ハンナ・スカーレットへの関心度はかなり高い。
騎士服姿のヴィルドレット様に手を引かれ、純白のウェディングドレスを身に纏った私は開かれた正面玄関の扉を、彼と共に潜った。
――瞬間、上段から見下ろす形で視界に広がったのは、私の想像を遥かに超えた光景だった。
「嘘……信じられない。まさかこんな大勢の領民達が集まって私達の結婚を祝福してくれるなんて」
広大な庭園を埋め尽くす程の領民達はそのほぼ全員が歓声を上げ、桃色の花びらを空へ向かって投げていた。
視界の上部に澄み渡った青空と無数の桃の花びらが舞い、下部に領民達とその歓声。
それらが織り成す光景はとても美しくて、まるで幸せを絵に描いたような光景だ。
「……まさか、結婚式がこんなにも美しく、こんなにも幸せな気持ちにさせられるとは思いもしなかった」
ヴィルドレット様でさえも隣でこう呟き、驚きを隠せないといった表情だ。その言葉と表情から彼は今、幸せを感じている事が分かり、それを知った私もまた、幸福感が込み上げてくる。
――時間よ、止まれ! 今この瞬間を永遠に噛み締めていたい。
そんな私の思いなどお構い無しに、進む時の流れ。
せめて記憶だけでもと思い、今2人で共有するこの景色を可能な限り目に焼き付けた後、私は隣の彼の顔を見上げた。
「ヴィルドレット様」
振り向いた彼の顔は一目で読み取れる程の幸せな表情で、きっと今の私も同じ顔をしているのだと思う。
「私は、今――もの凄く幸せです」
「それは、今の君の顔を見れば分かる」
「それはお互い様ですよ」
見合わせた私達は同じタイミングで吹き出し、ふわっと、幸せ色の空気が舞った。
「行こう」
「はい」
重ね合わせた手を引かれながら10段程の階段をゆっくりと降りてゆく。
「足元に気をつけるんだ」
「はい」
後方に長く伸びたスカートの縁は侍女が持ち、前方はヴィルドレット様が一段先を降りた所からこちら側を向いて慎重にエスコートしてくれる。
視線を下へ向けるも、スカートのふわっとしたシルエットのせいで足元が全く見えない。でも恐くない。むしろ、踏み外すのもいいかも。そうすれば目の前の彼の胸に堂々と飛び込む事ができるから。
しかしそんな私の思いとは裏腹に、意外と順調に階段を下っていく。
下っていくにつれて視点が低くなっていき、頭上に花びらが舞い、領民達の表情が近くなって歓声がはっきりと聞こえてくる。
「ヴィルドレット様、ハンナ様おめでとうございます!」
「共に美男美女でとてもお似合いですよ!」
庭園の中心に走る正門までの歩道を進みながら両サイドから降り注ぐ祝福に私は「ありがとうございます」と笑顔で頭を下げ続けた。
その為、領民達からのエドワード家へ対する反感の声はあまり聞かれない。むしろ、他領と比べてかなり厚い支持を受けている。
そんな領民達だからこそ、エドワード家悲願の嫁である私――ハンナ・スカーレットへの関心度はかなり高い。
騎士服姿のヴィルドレット様に手を引かれ、純白のウェディングドレスを身に纏った私は開かれた正面玄関の扉を、彼と共に潜った。
――瞬間、上段から見下ろす形で視界に広がったのは、私の想像を遥かに超えた光景だった。
「嘘……信じられない。まさかこんな大勢の領民達が集まって私達の結婚を祝福してくれるなんて」
広大な庭園を埋め尽くす程の領民達はそのほぼ全員が歓声を上げ、桃色の花びらを空へ向かって投げていた。
視界の上部に澄み渡った青空と無数の桃の花びらが舞い、下部に領民達とその歓声。
それらが織り成す光景はとても美しくて、まるで幸せを絵に描いたような光景だ。
「……まさか、結婚式がこんなにも美しく、こんなにも幸せな気持ちにさせられるとは思いもしなかった」
ヴィルドレット様でさえも隣でこう呟き、驚きを隠せないといった表情だ。その言葉と表情から彼は今、幸せを感じている事が分かり、それを知った私もまた、幸福感が込み上げてくる。
――時間よ、止まれ! 今この瞬間を永遠に噛み締めていたい。
そんな私の思いなどお構い無しに、進む時の流れ。
せめて記憶だけでもと思い、今2人で共有するこの景色を可能な限り目に焼き付けた後、私は隣の彼の顔を見上げた。
「ヴィルドレット様」
振り向いた彼の顔は一目で読み取れる程の幸せな表情で、きっと今の私も同じ顔をしているのだと思う。
「私は、今――もの凄く幸せです」
「それは、今の君の顔を見れば分かる」
「それはお互い様ですよ」
見合わせた私達は同じタイミングで吹き出し、ふわっと、幸せ色の空気が舞った。
「行こう」
「はい」
重ね合わせた手を引かれながら10段程の階段をゆっくりと降りてゆく。
「足元に気をつけるんだ」
「はい」
後方に長く伸びたスカートの縁は侍女が持ち、前方はヴィルドレット様が一段先を降りた所からこちら側を向いて慎重にエスコートしてくれる。
視線を下へ向けるも、スカートのふわっとしたシルエットのせいで足元が全く見えない。でも恐くない。むしろ、踏み外すのもいいかも。そうすれば目の前の彼の胸に堂々と飛び込む事ができるから。
しかしそんな私の思いとは裏腹に、意外と順調に階段を下っていく。
下っていくにつれて視点が低くなっていき、頭上に花びらが舞い、領民達の表情が近くなって歓声がはっきりと聞こえてくる。
「ヴィルドレット様、ハンナ様おめでとうございます!」
「共に美男美女でとてもお似合いですよ!」
庭園の中心に走る正門までの歩道を進みながら両サイドから降り注ぐ祝福に私は「ありがとうございます」と笑顔で頭を下げ続けた。
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