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第二章

第53話 リズの恋心

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「お嬢様は引き続きお休みになられてて下さい」

 そう言うとリズは私が実家から持ってきた荷物が入ったカバンを持ってきて中身を取り出し、それを部屋に整えていく。

「ところでリズって、歳は幾つなの?」

 私は寝台に座りながらリズに声を掛けた。

「18でございます」

「…………」

 まさかの2歳年下だった事に私は言葉を失う。

 私はおもむろに姿鏡の前に立ち、映る己の幼い容姿に深く溜息をつく。

「ねぇ、リズ――」

「はい?」

「私って幾つに見える?」

 それまで作業の手を止めずに私の質問に答えていたリズは初めて作業の手を止め、吟味するように私を頭からつま先まで見た後、こう告げた。

「16いや、15歳ですか?」

 それはいくらなんでも言い過ぎだ。これまでに言われてきた中でも最も幼く見られたのは実年齢より3歳下までだ。

「ひどい! 私これでも20歳よ!?4歳も年下に見られるなて初めての事よ!」

 泣きそうになりながら言う私にリズは小首を傾げながら不思議そうにこう切り返した。

「若く見られる事に何かご不満でも?」

「私はリズみたく大人っぽい女性に憧れるわ」

「わたくしは、あのお坊ちゃまと……ヴィルドレット様と結婚さなれたお嬢様の事が羨ましいです」

「…………」

 リズの困ったような哀しい笑顔と言葉を受けて、私はリズの抱く恋心を悟った。
 
 リズのヴィルドレット様を想う気持ちはきっと本物で、でも、その立場上それは決して叶わないものとして己の胸に仕舞い込んでいるのだろう。

「も、申し訳ございません。 今のはお忘れ下さいませ」

「いや、いいのよ。気にしないで」

 リズは再び作業の手を動かし、私は寝台に腰掛ける。

 なんとも重く、気まずい空気感に耐えかねた私は先程朝食後に少し気になった事をリズに聞いてみた。

「ねぇ、リズ」

「はい、何でしょう?」

「お義父様とヴィルドレット様って、何と言うか……普段あまり怒ったりしないよね?」

「えぇ、そうですね。比較的穏やかな方々と思うておりますが、それが何か?」

「いや、さっきもの凄く恐い顔でお義父様とヴィルドレット様が見合っていたから」

 2人のあまりの悍ましい表情に思わず脚がすくんだ程だ。
 リズは作業の手を止め、私の方へ向き直り、目を伏せながら答えた。

「もしかすると、それはシンシア様の事についてかもしれませんね」
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