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最終章
第81話 牢獄の中で
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王城の地下最下層にある独居房。そこには極めて危険人物だとして認められた死刑囚が収容されるようになっている。
特別仕様の牢獄は一際太い鉄格子で囲まれており、6人の看守の目がその独居房に張り付く。死刑囚はそこで執行までの最後の時を過ごす。
400年の時を経て最恐最悪の魔女が甦ったとして、そんな私が入れられる牢獄はまさにそこだった。
私の魔女としての力を恐れての事か、魔力を無効化する術が施された重厚な造りをした手枷、足枷を嵌められて、更にそれらは太い鎖で壁に繋がらている。
ただ、鎖にある程度のゆとりがある為、限られた可動域ではあるが多少手足を動かせる事がせめてもの救いだ。
この牢獄へ入れられて一体どれほど時間が経過したのだろうか。
1日?いや、もしかしたら数日経っているのかもしれない。
地べたに頬をつけながら、私はただただその時を待つ。
多分、罰が下ったのだろうと思う。
今世、人間として生まれた私は幸せだった。
家族、友人に恵まれ、魔女だった頃の私では考えられないような充実した日々を過ごせていた。魔女の頃に憧れた人並みの幸せを私は手に入れていた。私の居場所はそこにあったはず。それなのに私はそれら全てを自ら捨てたのだ。
今世の私は姿を消す事で心配を掛ける人達がいる。それを知った上での行動。彼等は対する裏切りと言っていい。
だからこうして天から罰が下ったのだろう。だとすればこの死を受けれねばならない。それに、
「……もう、疲れた」
地べたに這うつくばりながら私はそう小さく呟いた。
――コツ、コツ、コツ
誰かがこちらへ歩いて来る。足音からして看守ではない。高貴な女性特有のハイヒールの足音。
「ご機嫌いかがかしら? 魔女さん」
視線を声の方へ向けると、そこにはこの洞窟のような薄暗い空間に不自然に佇む純白と金――聖女アリスが美しい笑みを浮かべていた。
「――――」
「あら、そんな恐い顔で睨まないで?」
これから来る死を受けれる覚悟が出来たとはいえ、目の前のこの女に対する憎しみは計り知れない。
前世の私が殺された後、私の首はこの女によって大衆に晒された。そして、この女は『大聖女』としての栄光を手に入れたのだ。悔しくないわけがない!
そして、今世でも全く同じように私のこの首が、この女の出世の為に差し出されようとしている。
「大丈夫よ。ハンナさん、安心して?」
アリスはしゃがみ込み、地に這いつくばる私に聖女の微笑みを浮かべながらその後を続けた。
「ヴィルドレット様の妻というあなたの跡は私がちゃんと責任をもって引き継ぐわ。あなたが貰うはずだったヴィルドレット様からの愛は全て私が貰ってあげる。あなたの代わりに私が幸せになってあげる。 だから安心して? 天から私とヴィルドレット様の事を優しく見守っててね?」
「あなた、フェリクス王子の婚約者でしょ?」
「あー、それね。それはヴィルドレット様が誰とも結婚しないって言ってたから仕方なしにフェリクス王子にしたまでの事。でも、あなたは証明してくれた。ヴィルドレット様と結ばれる事は可能だと。あなたが可能でこの私が不可能なわけ無いじゃない?より魅力的な男性に靡く事は自然な事よ?」
この女は本気でそんな事を思っているのだろうか……
「馬鹿な女ね」
「あら、負け惜しみかしら?」
「そもそも、ヴィルドレット様が愛する人は私じゃない」
「……じゃあ、それは一体誰なのよ」
聖女のような表情を見せていたアリスの顔がまたあの悍ましい表情に変わった。
この女にはむしろこの顔の方がよっぽど似合っていると思う。
「知らない」
私とアリスが話してるところへ看守が入ってきた。
「恐れ入ります、アリス様。そろそろ時間でございます」
「あら、そう?もうそんな時間? お楽しみの時間ね」
アリスは私の方を見てニヤリと不敵な笑みを浮かべて去って行った。
「おい、魔女。死刑執行の時間だ。」
今度も私は『魔女』として死ぬ。
特別仕様の牢獄は一際太い鉄格子で囲まれており、6人の看守の目がその独居房に張り付く。死刑囚はそこで執行までの最後の時を過ごす。
400年の時を経て最恐最悪の魔女が甦ったとして、そんな私が入れられる牢獄はまさにそこだった。
私の魔女としての力を恐れての事か、魔力を無効化する術が施された重厚な造りをした手枷、足枷を嵌められて、更にそれらは太い鎖で壁に繋がらている。
ただ、鎖にある程度のゆとりがある為、限られた可動域ではあるが多少手足を動かせる事がせめてもの救いだ。
この牢獄へ入れられて一体どれほど時間が経過したのだろうか。
1日?いや、もしかしたら数日経っているのかもしれない。
地べたに頬をつけながら、私はただただその時を待つ。
多分、罰が下ったのだろうと思う。
今世、人間として生まれた私は幸せだった。
家族、友人に恵まれ、魔女だった頃の私では考えられないような充実した日々を過ごせていた。魔女の頃に憧れた人並みの幸せを私は手に入れていた。私の居場所はそこにあったはず。それなのに私はそれら全てを自ら捨てたのだ。
今世の私は姿を消す事で心配を掛ける人達がいる。それを知った上での行動。彼等は対する裏切りと言っていい。
だからこうして天から罰が下ったのだろう。だとすればこの死を受けれねばならない。それに、
「……もう、疲れた」
地べたに這うつくばりながら私はそう小さく呟いた。
――コツ、コツ、コツ
誰かがこちらへ歩いて来る。足音からして看守ではない。高貴な女性特有のハイヒールの足音。
「ご機嫌いかがかしら? 魔女さん」
視線を声の方へ向けると、そこにはこの洞窟のような薄暗い空間に不自然に佇む純白と金――聖女アリスが美しい笑みを浮かべていた。
「――――」
「あら、そんな恐い顔で睨まないで?」
これから来る死を受けれる覚悟が出来たとはいえ、目の前のこの女に対する憎しみは計り知れない。
前世の私が殺された後、私の首はこの女によって大衆に晒された。そして、この女は『大聖女』としての栄光を手に入れたのだ。悔しくないわけがない!
そして、今世でも全く同じように私のこの首が、この女の出世の為に差し出されようとしている。
「大丈夫よ。ハンナさん、安心して?」
アリスはしゃがみ込み、地に這いつくばる私に聖女の微笑みを浮かべながらその後を続けた。
「ヴィルドレット様の妻というあなたの跡は私がちゃんと責任をもって引き継ぐわ。あなたが貰うはずだったヴィルドレット様からの愛は全て私が貰ってあげる。あなたの代わりに私が幸せになってあげる。 だから安心して? 天から私とヴィルドレット様の事を優しく見守っててね?」
「あなた、フェリクス王子の婚約者でしょ?」
「あー、それね。それはヴィルドレット様が誰とも結婚しないって言ってたから仕方なしにフェリクス王子にしたまでの事。でも、あなたは証明してくれた。ヴィルドレット様と結ばれる事は可能だと。あなたが可能でこの私が不可能なわけ無いじゃない?より魅力的な男性に靡く事は自然な事よ?」
この女は本気でそんな事を思っているのだろうか……
「馬鹿な女ね」
「あら、負け惜しみかしら?」
「そもそも、ヴィルドレット様が愛する人は私じゃない」
「……じゃあ、それは一体誰なのよ」
聖女のような表情を見せていたアリスの顔がまたあの悍ましい表情に変わった。
この女にはむしろこの顔の方がよっぽど似合っていると思う。
「知らない」
私とアリスが話してるところへ看守が入ってきた。
「恐れ入ります、アリス様。そろそろ時間でございます」
「あら、そう?もうそんな時間? お楽しみの時間ね」
アリスは私の方を見てニヤリと不敵な笑みを浮かべて去って行った。
「おい、魔女。死刑執行の時間だ。」
今度も私は『魔女』として死ぬ。
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