雨のナイフ

Me-ya

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「少し困らせたいヤツがいるんだけど」

軽い気持ちで言ったその言葉が馨を失うことになるなんて。

その時の僕は思ってもいなかった。

-そして、結局。

僕の怒りは全て由貴に向かっていく。

僕の親友面をする由貴にムカついた。

馨に犯されボロボロになっているくせに、何でもないと言って僕に笑いかける由貴にムカついた。

何も知らず僕を守っている気になっている由貴にもムカついた。

僕が好きな馨に抱かれている由貴にムカついた。

馨に執着されている由貴にムカついた。

由貴の顔を見るだけでムカついた。

だから馨に抱かれている由貴を見て、由貴の顔を殴ってやった。

僕に殴られて気を失った由貴を見て馨は慌てていた。

今まであんなに慌てた馨を見たことはなかった。

そして、僕は馨に殴られ蹴られた。

それこそ、死んでしまうと思うほど。

そうして僕は思い知ったのだ。

馨が僕の事を、何とも思っていないことを。

馨にとっては僕も馨の取り巻き達と同じで、その他大勢だったということを。

信じたくなかった現実を。

僕は馨に受けた暴力で大怪我をし、入院した。

その間に、馨は由貴をどこかに隠してしまった。

退院した後、由貴の居場所を探し出した僕は機会を窺った。

その場所、由貴が居るマンションに入り込む機会を。

そして馨が居ない時を狙い、見張りに金を渡してマンションに入り込んだ。

由貴は全裸で、その部屋に居た。

馨に愛されている印を、全身に付けて。

オマケに足の内股には馨の所有物の焼き印が。

それは由貴が一生、馨のモノという印。

馨が由貴を一生、手放さないという印。

そこまで馨に執着されている由貴。

嫉妬と憎しみ。

僕は全てを由貴にぶちまけてやった。

真実の中に、嘘を混ぜて。

本当は馨は由貴を知らなかった。

馨が僕に由貴に会わせろと言ってきたんじゃない。

僕が馨に頼んだんだ。

由貴を痛めつけてくれと。

こんな事になるとは思わずに。

由貴はマンションを出る時も、僕の心配をしてきた。

人の心配より、自分の心配をしろよ。

馬鹿なヤツ。

やっぱり、ムカつく。

そして由貴はマンションを去り、僕の前から消えた。

あまりにも呆気なく。
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