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1 勇者二世旅立つ

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 ここは夜空城王宮。夜空城とは、その名の通り。惑星アンジェラの自転に逆回転で合わせ、永遠に夜の上空、約五百メートルに浮かんだ都市だ。

その都市の中心に、リッチモンド一族の王宮がある。

その「夜の王宮」の私室に、本篇の主人公が母親に呼び出された。

「母ちゃん。なんの用?」
 彼の名はケーン・リッチモンド。

年齢は五十歳。見た目年齢は十代後半、といった感じ。

彼が住まう世界は、地球とは違う。それは彼にとって幸いだった。
地球の美醜基準で言えば、「どこにでもいそうな日本人」という形容がぴったりくるから。

彫りの浅い顔立ち。ちょっぴり細めで垂れ気味の目。体つきも際立った特徴がない。
強いて言えば、犬歯が多少長いかな、といったところ。

この世界では、そういった癖のない、平凡そのものの容貌は逆に新鮮。
馴染んだらやみつきになるケースも、ままあるかもしれない。あったらいいね……。

「あんたも、もう五十歳だね。
父ちゃんの子だから、そろそろ人間とエッチしたくなったでしょ? 
下の世界へ行って、やりまくってきなさい」
 母親はにこりともせず、超エロイことを言う。

その西洋のお姫様めいた冷厳な美貌は、とても主人公の母親だとは思えない。
だが、実の母親だから仕方ない。

もっとも、そんな感じの美貌は、この世界において結構スタンダード。

その中でも特に際立っているだけの話だ。特に、というか、超際立っているかもしれない。人間離れしているので、「かもしれない」と形容しておく。実際人間じゃないから。

「マジかよ! 行く行く!」
 少年は興奮して母親に詰め寄る。

「期間は五年。いい感じだと思った女を連れて帰りなさい。
種族は問わない。
人数も何人でもいい。
じゃ」

「オッス! 行ってくる!」
 少年は母親の私室を飛び出した。


その続き部屋から、父親が顔をのぞかせた。

「行っちゃったか……。
どんな女、連れて帰ることやら」
 その父親の容姿は、少年に酷似していた。

つまり、父親のDNAが、圧勝してしまった結果が主人公だった。

「変な女におだてられて、勇者になる、なんて言い出さなければいいんだけど。
あんたの子だから、今の女魔王には絶対勝てない」
 母親の表情は一転。でれ~んとした顔で、夫に抱きつく。彼女は人間から離れた存在だが、夫とラブラブモードに突入したら、きわめて人間臭くなる。

「今の俺なら勝てる!」

「そうね。あの女の魅了魔法を上回るのは私だけ。
なんならさくっと討伐しちゃう?」

「メンドクセー!」
 いい歳をした夫婦は、濃厚ないちゃラブに突入した。

ちなみに、夫婦はお互いの年齢を忘れてしまっている。
父親は多分百歳ぐらい? 

母親の年齢は誰も知らない。
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