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169 ニセ宇宙人紛争強制介入
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ニケア、キャメラ国境沿いのルフト渓谷。
両国に争いが絶えないのは、ルフト鉱山の存在だった。ルフト鉱山からは、良質の鉱物資源が採れる。厄介なことに、両国の国境は、ルフト山の頂上で決められていた。
両国とも坑道を掘り進めた結果、ミスリルの鉱脈に突き当たった。
現在の測量技術では、正確に国境線を定められない。ミスリル鉱脈がどちらに属するのか、ここ一年間協議を重ねていた。
双方一歩も譲らず、警備兵同士の小競り合いが続いていた。
ニケアの前王は、そこそこ理性的であった。本格的に戦争となったら、採算が合うか疑問だ。ミスリルの埋蔵量が、どれほどあるのか、掘りつくさないとわからないから。
多少の争いがあっても、なあなあで、ミスリルを掘り続けるのが得策と判断していた。
ところが前王は急死。後継の現王は、とにかく欲が深い。あの鉱脈は全部俺の物、というわけで、数人の警備兵が殺されたことを口実に、キャメルのルフト砦に攻撃を仕掛けた。
現在砦を占領し、自国領内の砦を拡張。兵站を蓄え、兵力を充実させている。
ケーンとミゾレは、上空から偵察していた。F75改には、魔石塗料が塗られ、認識阻害魔法がかけられている。高位の魔導師なら、気配を察知できるだろうが、正確な位置はつかめない。
大気中だから、宇宙空間ほどの速度と機動性は望めないが、そこはエルファードの超科学技術。速度を落としたら、音も聞こえないし、ソニックブームも起こらない。
「こちら二番機。
ケーンさん、どうしますか?
今のところ、にらみ合いという感じですが」
ミゾレ機から通信が入った。
「そうね……。一応は警告しようか」
ケーンは一番機をホバリング。外部スピーカーをオン。
「ワレワレハ、ウチュウジンダ。
ワレラ、エルファードセイジンハ、アイトヘイワヲアイスル。
ケンカヲヤメテ」
ケーンは喉元を叩きながら、大音量で放送。
ざわ、ざわ、ざわ……。
「なんだ?」
「あの変な声、空から聞こえてるようだけど」
「宇宙人? エルファード星人? なんだそれ?」
砦のニケア兵や、取り巻くキャメラ兵は、上空を見上げ、困惑の声をあげる。
「ミゾレ、ソニックブームで、ちょいと威して」
ケーンが命じる。
「ラジャー!」
砦上空でホバリングしていた二番機は、一気に加速。砦上空を超音速でよぎる。
ソニックブーム、つまり音速を超えることで、発生する衝撃波と集束波。
ミゾレ二番機は、三度ソニックブームをぶつけた。
砦に張り巡らされた、しょぼい結界が破られた。辺境小国の魔導師、実力はこんなものなのね……。
かろうじて矢と、中級までの攻撃魔法が、しばらく防げる程度だろう。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……。
ケーンはホバリングした一番機から、機銃をシングルショットで撃つ。
木に強化魔法が施された、防御柵が破壊される。
「ミゾレ、ソニックブーム、もう一丁!」
「ラジャー!」
超でかいカマイタチが、防御柵と兵士を吹き飛ばした。
「モウイチド、ケイコクスル。
ケンカヲヤメテ」
ケーンは再び放送。もちろん、喉元を叩くこと、忘れていない。
無事な兵は、矢を声の方へ次々と放つ。ほとんど当たるわけがない。それでも、三本ほどF75改の、シールドにはじかれた。
ケーンは、認識阻害装置を解除。砦と兵士の上を何度も飛び回る。
F75改がよぎるたび、吹き飛ばされる砦と兵士。
「ケーンさん、F75改に火器、必要なのでしょうか?」
ミゾレが、通信を通しぼそっと言う。
「機銃なら、兵の装備貫通しそうだね。
ミゾレもやってみろよ。
結構楽しいぞ!」
「ラジャー!
ひゃっは~~~!」
ケーンの手綱から解き放たれたミゾレは、思う存分ソニックブームの蹂躙を楽しんだ。
数十分後。砦はバラバラ。立っている兵士は、両軍とも皆無。死者は……、多少いるかもしれないが不明。
ルフト山上空に、巨大な宇宙船が姿を現した。エルファードの中型探査船だ。
「ワレワレハ、アイトヘイワノ、エルファードセイジンダ。
ケンカノタネノ、ミスリル、ワレワレガイタダク」
ケンイチの声だ。もちろん、喉元を叩くこと、忘れていない。そしてもちろん、長いつけ耳も装着済み。
ノリが命の性格は、この親子に共通するものだった。
探査船から、小型のドローンが何機も舞い降りる。
ドドドド……。ドローンから発射された男のロマン、すなわちドリルマシーンが、ルフト山に潜っていく。
なるほどね! さすが父ちゃん!
ケンカの大本、ミスリルをごっそり頂いたら、ケンカする気になれない。
攻撃は俺しかしてないから、ぎりぎり介入にはならない。母ちゃんが許したということは、そういうことだろ?
ニケア側から、細い山道を通って、兵が駆けつけてきた。
「ミゾレ、もうちょっと遊ぼうか?」
「ラジャー!
ひゃ~~~!
たのしぃ~~~!」
F75改は、人族に対し、明らかな過剰戦力だった。
光の女神は、天上界から「強制仲裁」の様子を見ていた。
ケーン、ケンイチ、ちょっとやり過ぎじゃない?
でも、一見乱暴なこのやり方は、戦争が長く続くより、ずっと被害は少ないか……。
それに、エルファード艦船の戦闘力。超抑えてあれだから。科学技術の力は恐ろしい。
たしかにあの火力と、正面から対立したら話にならない。この星のすべての生物は、夜の女王とケンイチ、それにケーンと嫁たち。返しきれない借りを作ることになる。
借りといえば、今回の件を含め、私には手に負えないことを、ケーンに頼り切ってしまった。
これでいいのかな、と思う。
光の女神は、自らの無力さを痛切に味わっていた。
探査船とケーンたちは夜の王宮へ帰還。
「あ~、楽しかった!」
ケーンは謁見の間に。
「ケーン、ありがとう!
お疲れ様!」
テレサのヒカリちゃんが、両手を広げて出迎えた。
テレサは妊婦さんにつき、ケーンは優しくハグ。
「ヒカリちゃん、どこかもめてる国ない?
後二三回やったら、かなりの抑止力になると思うけど」
ケーンは、まだ遊び足りなかった模様。それに、「謎の宇宙人」が紛争に介入したら、うかつに戦争が起こせなくなることも事実だ。
「気持ちはうれしいんだけど……。
すっかりケーンに頼り切っちゃって。
自分が情けないというか、人族の愚かさが恥ずかしいというか……。
それに、ケーンが大掃除してくれたでしょ?
腐敗王族や貴族たち。
今のところ、深刻な紛争は起こってない」
「ならいいんだけどさ。
俺は人族のために、やってるわけじゃないから。
ヒカリちゃんの悩みを解消したいだけ。
もっと頼ってくれてもいいよ」
「うん……」
テレサのヒカリちゃんは、上目づかいで目を閉じた。
ケーンはちょっぴり力を強め、テレサのヒカリちゃんに熱~いキス。
ヒカリちゃんは思う。私の立場では、本来一人の男を、愛することは許されない。
だけど、もうダメ。
引き返すことができないほど、ケーンを愛してしまった。
「ヒカリちゃん、そこそこにしておいて。
恒星ヒカリの活動、活発になりすぎる」
夜の女王が苦笑して言う。
「無理!」
その後アンジェラでは、ケーンたちが旅立つまで、平均気温が二度上昇したそうな。
完全に異常気象のレベルです。
両国に争いが絶えないのは、ルフト鉱山の存在だった。ルフト鉱山からは、良質の鉱物資源が採れる。厄介なことに、両国の国境は、ルフト山の頂上で決められていた。
両国とも坑道を掘り進めた結果、ミスリルの鉱脈に突き当たった。
現在の測量技術では、正確に国境線を定められない。ミスリル鉱脈がどちらに属するのか、ここ一年間協議を重ねていた。
双方一歩も譲らず、警備兵同士の小競り合いが続いていた。
ニケアの前王は、そこそこ理性的であった。本格的に戦争となったら、採算が合うか疑問だ。ミスリルの埋蔵量が、どれほどあるのか、掘りつくさないとわからないから。
多少の争いがあっても、なあなあで、ミスリルを掘り続けるのが得策と判断していた。
ところが前王は急死。後継の現王は、とにかく欲が深い。あの鉱脈は全部俺の物、というわけで、数人の警備兵が殺されたことを口実に、キャメルのルフト砦に攻撃を仕掛けた。
現在砦を占領し、自国領内の砦を拡張。兵站を蓄え、兵力を充実させている。
ケーンとミゾレは、上空から偵察していた。F75改には、魔石塗料が塗られ、認識阻害魔法がかけられている。高位の魔導師なら、気配を察知できるだろうが、正確な位置はつかめない。
大気中だから、宇宙空間ほどの速度と機動性は望めないが、そこはエルファードの超科学技術。速度を落としたら、音も聞こえないし、ソニックブームも起こらない。
「こちら二番機。
ケーンさん、どうしますか?
今のところ、にらみ合いという感じですが」
ミゾレ機から通信が入った。
「そうね……。一応は警告しようか」
ケーンは一番機をホバリング。外部スピーカーをオン。
「ワレワレハ、ウチュウジンダ。
ワレラ、エルファードセイジンハ、アイトヘイワヲアイスル。
ケンカヲヤメテ」
ケーンは喉元を叩きながら、大音量で放送。
ざわ、ざわ、ざわ……。
「なんだ?」
「あの変な声、空から聞こえてるようだけど」
「宇宙人? エルファード星人? なんだそれ?」
砦のニケア兵や、取り巻くキャメラ兵は、上空を見上げ、困惑の声をあげる。
「ミゾレ、ソニックブームで、ちょいと威して」
ケーンが命じる。
「ラジャー!」
砦上空でホバリングしていた二番機は、一気に加速。砦上空を超音速でよぎる。
ソニックブーム、つまり音速を超えることで、発生する衝撃波と集束波。
ミゾレ二番機は、三度ソニックブームをぶつけた。
砦に張り巡らされた、しょぼい結界が破られた。辺境小国の魔導師、実力はこんなものなのね……。
かろうじて矢と、中級までの攻撃魔法が、しばらく防げる程度だろう。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……。
ケーンはホバリングした一番機から、機銃をシングルショットで撃つ。
木に強化魔法が施された、防御柵が破壊される。
「ミゾレ、ソニックブーム、もう一丁!」
「ラジャー!」
超でかいカマイタチが、防御柵と兵士を吹き飛ばした。
「モウイチド、ケイコクスル。
ケンカヲヤメテ」
ケーンは再び放送。もちろん、喉元を叩くこと、忘れていない。
無事な兵は、矢を声の方へ次々と放つ。ほとんど当たるわけがない。それでも、三本ほどF75改の、シールドにはじかれた。
ケーンは、認識阻害装置を解除。砦と兵士の上を何度も飛び回る。
F75改がよぎるたび、吹き飛ばされる砦と兵士。
「ケーンさん、F75改に火器、必要なのでしょうか?」
ミゾレが、通信を通しぼそっと言う。
「機銃なら、兵の装備貫通しそうだね。
ミゾレもやってみろよ。
結構楽しいぞ!」
「ラジャー!
ひゃっは~~~!」
ケーンの手綱から解き放たれたミゾレは、思う存分ソニックブームの蹂躙を楽しんだ。
数十分後。砦はバラバラ。立っている兵士は、両軍とも皆無。死者は……、多少いるかもしれないが不明。
ルフト山上空に、巨大な宇宙船が姿を現した。エルファードの中型探査船だ。
「ワレワレハ、アイトヘイワノ、エルファードセイジンダ。
ケンカノタネノ、ミスリル、ワレワレガイタダク」
ケンイチの声だ。もちろん、喉元を叩くこと、忘れていない。そしてもちろん、長いつけ耳も装着済み。
ノリが命の性格は、この親子に共通するものだった。
探査船から、小型のドローンが何機も舞い降りる。
ドドドド……。ドローンから発射された男のロマン、すなわちドリルマシーンが、ルフト山に潜っていく。
なるほどね! さすが父ちゃん!
ケンカの大本、ミスリルをごっそり頂いたら、ケンカする気になれない。
攻撃は俺しかしてないから、ぎりぎり介入にはならない。母ちゃんが許したということは、そういうことだろ?
ニケア側から、細い山道を通って、兵が駆けつけてきた。
「ミゾレ、もうちょっと遊ぼうか?」
「ラジャー!
ひゃ~~~!
たのしぃ~~~!」
F75改は、人族に対し、明らかな過剰戦力だった。
光の女神は、天上界から「強制仲裁」の様子を見ていた。
ケーン、ケンイチ、ちょっとやり過ぎじゃない?
でも、一見乱暴なこのやり方は、戦争が長く続くより、ずっと被害は少ないか……。
それに、エルファード艦船の戦闘力。超抑えてあれだから。科学技術の力は恐ろしい。
たしかにあの火力と、正面から対立したら話にならない。この星のすべての生物は、夜の女王とケンイチ、それにケーンと嫁たち。返しきれない借りを作ることになる。
借りといえば、今回の件を含め、私には手に負えないことを、ケーンに頼り切ってしまった。
これでいいのかな、と思う。
光の女神は、自らの無力さを痛切に味わっていた。
探査船とケーンたちは夜の王宮へ帰還。
「あ~、楽しかった!」
ケーンは謁見の間に。
「ケーン、ありがとう!
お疲れ様!」
テレサのヒカリちゃんが、両手を広げて出迎えた。
テレサは妊婦さんにつき、ケーンは優しくハグ。
「ヒカリちゃん、どこかもめてる国ない?
後二三回やったら、かなりの抑止力になると思うけど」
ケーンは、まだ遊び足りなかった模様。それに、「謎の宇宙人」が紛争に介入したら、うかつに戦争が起こせなくなることも事実だ。
「気持ちはうれしいんだけど……。
すっかりケーンに頼り切っちゃって。
自分が情けないというか、人族の愚かさが恥ずかしいというか……。
それに、ケーンが大掃除してくれたでしょ?
腐敗王族や貴族たち。
今のところ、深刻な紛争は起こってない」
「ならいいんだけどさ。
俺は人族のために、やってるわけじゃないから。
ヒカリちゃんの悩みを解消したいだけ。
もっと頼ってくれてもいいよ」
「うん……」
テレサのヒカリちゃんは、上目づかいで目を閉じた。
ケーンはちょっぴり力を強め、テレサのヒカリちゃんに熱~いキス。
ヒカリちゃんは思う。私の立場では、本来一人の男を、愛することは許されない。
だけど、もうダメ。
引き返すことができないほど、ケーンを愛してしまった。
「ヒカリちゃん、そこそこにしておいて。
恒星ヒカリの活動、活発になりすぎる」
夜の女王が苦笑して言う。
「無理!」
その後アンジェラでは、ケーンたちが旅立つまで、平均気温が二度上昇したそうな。
完全に異常気象のレベルです。
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