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未来
最終話
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「ここは全く変わらない。先程夕日が見えましたがあの頃と同じ色でした」
最上階の母親が滞在している部屋で4人集まって新年を迎えようとしていた。吾妻の父親と伊都の母親はワインを飲みながら昔を懐かしんでいる。
「そうでしたか、それは嬉しいわ。私達グループの全てのホテルが大きなリニューアルをしないことにしているんです。いつでも同じ景色があることが何より人を落ち着かせますから」
テーブルに肘をつき手を組むとじっと伊都の母親の話に耳を傾けている。
「それは強い魅力です、あなたの判断は正しい」
「先進的な進化も大切ですが古いものを次の代に繋げることもまた重要ですよね」
吾妻の父親は大きく頷いた。
その頃、吾妻と伊都はキッチンにいた。
椅子に座ろうとする伊都を抱き上げキッチンカウンターに座らせる。
「ちゃんと冷やせば楽になるから」
伊都の顔は日に焼けて真っ赤で、吾妻は冷やしたタオルを伊都の頬に当てている。
「明日伊都のお母さんに頼んでエステの予約入れてもらおう、ちゃんと手当したほうがいい」
「いいよ、放っておけば」
「だめだ」
吾妻が睨む。
伊都の目の前に吾妻の顔があると、先程のキスを思い出して勝手にドキドキしてくる。
「そんな顔してるとキスするぞ」
吾妻は伊都の顔をのぞき込んで片眉をあげながら伊都の太ももを割り入ってこようとする。
「駄目!」
太ももに力を入れ入り込ませないようにガードしながら吾妻の胸を押すと、吾妻はおとなしくと伊都の隣へ回りカウンターに寄りかかった。ちらりと横顔を見ると吾妻は眉を下げて笑っている。それを確認してから伊都は吾妻に聞きたいことがあると打ち明ける。
「吾妻は男を好きになったことがある?」
「それは、つまりゲイかどうかということか?」
「うーん、そうなのかな」
「男を好きになったことがあるか、それはイエスだな、伊都を愛しているんだから」
いきなりで面食らう伊都。
回りくどく説明がちなのは弁護士の片鱗が伺える。
「過去にということならばノーだ。俺は彼女は居たが男を好きになったことはない」
「僕は高二の時、好きな先輩がいた」
伊都は男子校出身、言わずともそれが男であることは吾妻も察した。
「僕は、……男が好きなんだ、女の子を好きになれない」
伊都は過去を告白しようとしていた。
「それは子供の頃に判ってた?」
「……ううん、ちゃんと理解できたのは高校の時」
「その先輩……ということか」
「うん」
「そうか……俺は今まで伊都にしか気持ちがなかったから自分がゲイなのかどうかってことは正直わからない。でも……伊都への気持ちが自分の中ではっきりした時からずっと考えていたことではあった」
「はっきりしたのはいつなの……?」
「伊都が高校を退学したと聞いたときだよ」
退学したことを吾妻が知っていたことをこのとき初めて伊都は知った。
「たどり着いたのはゲイだとかそういう括りはどうでもよくて、伊都を愛しているということだけ。それだけで十分だと思うんだが、どうかな?」
「恥ずかしいよ」
「ずっと言えなかったんだ、これからは毎日言うよ」
吾妻はやさしく伊都の髪を撫でる。
「吾妻さっき高校を退学したときって言ってたけど、その理由は知っているの……?」
「あぁ、いじめを受けたと聞いているが……」
「逆に聞きたくないかもしれないけど話しておくよ、いつかは話すことになるかもしれないから」
「……わかった」
「その好きな人は部活の先輩で告白されたんだ」
「あぁ、確かに聞きたくない話だな」
吾妻は冷蔵庫のドアを開けて交換の冷えたタオルを出した。
「でもその日は人生最悪の日になったんだ。教室で告白されてその場でキスされて、シャツを脱がされてさ、散々な初恋」
伊都に差し出した手が止まる。伊都は「もう昔の話だから大丈夫」と冷えたタオルを受け取った。
「伊都、無理に話さなくてもいいんだよ」
伊都は首を横に振った。
「そこに他の生徒がやってきて先輩は僕に無理やり誘われたんだと言ったらみんなはそれを信じたんだ」
「最低だな……」
「本当に。なんでそんな先輩が好きになったんだろうね。僕はそこから逃げ出したかったのに身動きが取れなかった……」
ただ、時が過ぎてくれと願った。
「先輩は逃げてどこか行って、いつの間にか先生が来て僕は先生に呼び出されたんだけど、先生は僕が誘ったと信じてた。だから僕はだんだん学校へは行かなくなったんだ」
吾妻は伊都がいじめを受けて退学したと聞いたあの頃を思い出していた。父親に連絡したとき父親に違和感を覚えたのはこのことがあったからだと悟った。父親は伊都の性指向についてその時に既に分かっていたんだ。
「母さんは先生から話を聞いても先生のことは信じなかった、僕を信じてくれた。だから退学も認めてくれたし、今があると思ってる。自分がゲイだとはまだちゃんと話したことはないんだけど……多分わかってる。いつかは伝えたいと思ってるんだけど……なかなか、ね」
「その時に信じてくれたことがお母さんの全てだ、大丈夫だよ」
「うん……。そうだね」
伊都は目を瞑って深呼吸した。吾妻はその背中をやさしくさする。
「俺が弁護士になったら一番にその先輩見つけ出してコテンパにやっつけてやるから」
「やめてよ、本当にやりそう」
「まだ時効前だしな、徹底的にやれる」
「僕という原告が訴えないと吾妻は動けないよ」
「お、よく知ってるな」
片眉をあげてニヤリとした。
「伊都、ありがとう」
「え、うん」
「俺を好きになってくれて」
「吾妻……」
「伊都のそばにいさせてくれて」
伊都は吾妻の胸にしがみつくように抱きついた。
「俺に伊都を愛する権利をくれてありがとう」
そこに大きな花火があがった。
まもなく新しい年がやってくる。
「花火だ! 見に行こう?」
「あぁ」
ふたりはバルコニーに出て夜空を見上げる。
「うわぁ……大きいね」
「きれいだね」
伊都はバルコニーの端まで行き花火を見上げる。その横で吾妻が伊都の肩を抱いた。
「伊都、新年おめでとう」
「あけましておめでとう」
吾妻は伊都のおでこにやさしくキスを落とす。
そのふたりを父親は片眉をあげて見守っている。
「吾妻くんはとても良い青年になりましたね」
伊都の母親もまた二人の後ろ姿を見ていた。お互い言いたいことを抑えながらも顔は僅かに笑顔で、吾妻の父親に至ってはニヤニヤしているに違いない。
「寄宿舎に入れてしまったのを心配したときもあったが、結果的にそれがあの子を強くしてくれました」
「親は子供を育てていますが、親も子供と一緒に成長しなければなりません、けれど私は成長できたかどうか……。伊都のこれからの人生を思うと私はまだ手放せないようです」
母親は伊都が心配でならないのだ、いつもそばにいてやれない分、甘やかしてしまう。
「ならば、吾妻をそばに置いてやってくれませんか」
「…………」
「伊都くんのそばに、あいつを置いてやってほしいんです」
「九条さん……」
「ふたりを見守っていきませんか」
母親は涙がこみあげる。
「きっとあの子たちは幸せになる」
「えぇ、そうですね」
「なぁ伊都」
「うん」
吾妻が伊都の手を握った。
「俺は伊都が他の男に見向きもしないほど良い男になる。それに……、伊都が自分をゲイだとか、男が好きというのは他と違うとか、そういうことを考えないでいいような、俺と伊都とそのまわりの世界はそう感じる隙もないような世界にするから」
吾妻は自分がゲイかどうかは気にしていない。男である伊都を好きになることは吾妻の障壁にはなっていないということだ。
伊都はゲイだと自分で自分に暗示かけて障壁を作ってたのかもしれない。
「吾妻、僕も吾妻の隣にふさわしい大人になれるよう成長したい、だから」
「俺は伊都の先にいるんじゃない、伊都の隣にいるんだ。一緒に成長していこう?」
「そっか……、うん」
伊都も繋がれた手を握り返す。
「吾妻、お母さんたちのところへ行こう」
「うん」
ご拝読ありがとうございました。
私にとっては長編となる初めての小説でした。
伊都と吾妻の淡い恋が成就して、私もほっとしたところであります。
至らない文章ゆえ、読みづらい、分かりにくいなどあったと思いますが、最後まで読んで頂きありがとうございました。
お気に入り登録、また感想頂けたら幸いです。
最上階の母親が滞在している部屋で4人集まって新年を迎えようとしていた。吾妻の父親と伊都の母親はワインを飲みながら昔を懐かしんでいる。
「そうでしたか、それは嬉しいわ。私達グループの全てのホテルが大きなリニューアルをしないことにしているんです。いつでも同じ景色があることが何より人を落ち着かせますから」
テーブルに肘をつき手を組むとじっと伊都の母親の話に耳を傾けている。
「それは強い魅力です、あなたの判断は正しい」
「先進的な進化も大切ですが古いものを次の代に繋げることもまた重要ですよね」
吾妻の父親は大きく頷いた。
その頃、吾妻と伊都はキッチンにいた。
椅子に座ろうとする伊都を抱き上げキッチンカウンターに座らせる。
「ちゃんと冷やせば楽になるから」
伊都の顔は日に焼けて真っ赤で、吾妻は冷やしたタオルを伊都の頬に当てている。
「明日伊都のお母さんに頼んでエステの予約入れてもらおう、ちゃんと手当したほうがいい」
「いいよ、放っておけば」
「だめだ」
吾妻が睨む。
伊都の目の前に吾妻の顔があると、先程のキスを思い出して勝手にドキドキしてくる。
「そんな顔してるとキスするぞ」
吾妻は伊都の顔をのぞき込んで片眉をあげながら伊都の太ももを割り入ってこようとする。
「駄目!」
太ももに力を入れ入り込ませないようにガードしながら吾妻の胸を押すと、吾妻はおとなしくと伊都の隣へ回りカウンターに寄りかかった。ちらりと横顔を見ると吾妻は眉を下げて笑っている。それを確認してから伊都は吾妻に聞きたいことがあると打ち明ける。
「吾妻は男を好きになったことがある?」
「それは、つまりゲイかどうかということか?」
「うーん、そうなのかな」
「男を好きになったことがあるか、それはイエスだな、伊都を愛しているんだから」
いきなりで面食らう伊都。
回りくどく説明がちなのは弁護士の片鱗が伺える。
「過去にということならばノーだ。俺は彼女は居たが男を好きになったことはない」
「僕は高二の時、好きな先輩がいた」
伊都は男子校出身、言わずともそれが男であることは吾妻も察した。
「僕は、……男が好きなんだ、女の子を好きになれない」
伊都は過去を告白しようとしていた。
「それは子供の頃に判ってた?」
「……ううん、ちゃんと理解できたのは高校の時」
「その先輩……ということか」
「うん」
「そうか……俺は今まで伊都にしか気持ちがなかったから自分がゲイなのかどうかってことは正直わからない。でも……伊都への気持ちが自分の中ではっきりした時からずっと考えていたことではあった」
「はっきりしたのはいつなの……?」
「伊都が高校を退学したと聞いたときだよ」
退学したことを吾妻が知っていたことをこのとき初めて伊都は知った。
「たどり着いたのはゲイだとかそういう括りはどうでもよくて、伊都を愛しているということだけ。それだけで十分だと思うんだが、どうかな?」
「恥ずかしいよ」
「ずっと言えなかったんだ、これからは毎日言うよ」
吾妻はやさしく伊都の髪を撫でる。
「吾妻さっき高校を退学したときって言ってたけど、その理由は知っているの……?」
「あぁ、いじめを受けたと聞いているが……」
「逆に聞きたくないかもしれないけど話しておくよ、いつかは話すことになるかもしれないから」
「……わかった」
「その好きな人は部活の先輩で告白されたんだ」
「あぁ、確かに聞きたくない話だな」
吾妻は冷蔵庫のドアを開けて交換の冷えたタオルを出した。
「でもその日は人生最悪の日になったんだ。教室で告白されてその場でキスされて、シャツを脱がされてさ、散々な初恋」
伊都に差し出した手が止まる。伊都は「もう昔の話だから大丈夫」と冷えたタオルを受け取った。
「伊都、無理に話さなくてもいいんだよ」
伊都は首を横に振った。
「そこに他の生徒がやってきて先輩は僕に無理やり誘われたんだと言ったらみんなはそれを信じたんだ」
「最低だな……」
「本当に。なんでそんな先輩が好きになったんだろうね。僕はそこから逃げ出したかったのに身動きが取れなかった……」
ただ、時が過ぎてくれと願った。
「先輩は逃げてどこか行って、いつの間にか先生が来て僕は先生に呼び出されたんだけど、先生は僕が誘ったと信じてた。だから僕はだんだん学校へは行かなくなったんだ」
吾妻は伊都がいじめを受けて退学したと聞いたあの頃を思い出していた。父親に連絡したとき父親に違和感を覚えたのはこのことがあったからだと悟った。父親は伊都の性指向についてその時に既に分かっていたんだ。
「母さんは先生から話を聞いても先生のことは信じなかった、僕を信じてくれた。だから退学も認めてくれたし、今があると思ってる。自分がゲイだとはまだちゃんと話したことはないんだけど……多分わかってる。いつかは伝えたいと思ってるんだけど……なかなか、ね」
「その時に信じてくれたことがお母さんの全てだ、大丈夫だよ」
「うん……。そうだね」
伊都は目を瞑って深呼吸した。吾妻はその背中をやさしくさする。
「俺が弁護士になったら一番にその先輩見つけ出してコテンパにやっつけてやるから」
「やめてよ、本当にやりそう」
「まだ時効前だしな、徹底的にやれる」
「僕という原告が訴えないと吾妻は動けないよ」
「お、よく知ってるな」
片眉をあげてニヤリとした。
「伊都、ありがとう」
「え、うん」
「俺を好きになってくれて」
「吾妻……」
「伊都のそばにいさせてくれて」
伊都は吾妻の胸にしがみつくように抱きついた。
「俺に伊都を愛する権利をくれてありがとう」
そこに大きな花火があがった。
まもなく新しい年がやってくる。
「花火だ! 見に行こう?」
「あぁ」
ふたりはバルコニーに出て夜空を見上げる。
「うわぁ……大きいね」
「きれいだね」
伊都はバルコニーの端まで行き花火を見上げる。その横で吾妻が伊都の肩を抱いた。
「伊都、新年おめでとう」
「あけましておめでとう」
吾妻は伊都のおでこにやさしくキスを落とす。
そのふたりを父親は片眉をあげて見守っている。
「吾妻くんはとても良い青年になりましたね」
伊都の母親もまた二人の後ろ姿を見ていた。お互い言いたいことを抑えながらも顔は僅かに笑顔で、吾妻の父親に至ってはニヤニヤしているに違いない。
「寄宿舎に入れてしまったのを心配したときもあったが、結果的にそれがあの子を強くしてくれました」
「親は子供を育てていますが、親も子供と一緒に成長しなければなりません、けれど私は成長できたかどうか……。伊都のこれからの人生を思うと私はまだ手放せないようです」
母親は伊都が心配でならないのだ、いつもそばにいてやれない分、甘やかしてしまう。
「ならば、吾妻をそばに置いてやってくれませんか」
「…………」
「伊都くんのそばに、あいつを置いてやってほしいんです」
「九条さん……」
「ふたりを見守っていきませんか」
母親は涙がこみあげる。
「きっとあの子たちは幸せになる」
「えぇ、そうですね」
「なぁ伊都」
「うん」
吾妻が伊都の手を握った。
「俺は伊都が他の男に見向きもしないほど良い男になる。それに……、伊都が自分をゲイだとか、男が好きというのは他と違うとか、そういうことを考えないでいいような、俺と伊都とそのまわりの世界はそう感じる隙もないような世界にするから」
吾妻は自分がゲイかどうかは気にしていない。男である伊都を好きになることは吾妻の障壁にはなっていないということだ。
伊都はゲイだと自分で自分に暗示かけて障壁を作ってたのかもしれない。
「吾妻、僕も吾妻の隣にふさわしい大人になれるよう成長したい、だから」
「俺は伊都の先にいるんじゃない、伊都の隣にいるんだ。一緒に成長していこう?」
「そっか……、うん」
伊都も繋がれた手を握り返す。
「吾妻、お母さんたちのところへ行こう」
「うん」
ご拝読ありがとうございました。
私にとっては長編となる初めての小説でした。
伊都と吾妻の淡い恋が成就して、私もほっとしたところであります。
至らない文章ゆえ、読みづらい、分かりにくいなどあったと思いますが、最後まで読んで頂きありがとうございました。
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