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第一章 始まりの章
01 世界
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ここは地球とは全く異なる世界【イグナース】。イグナースには魔力と称される力が存在し、多種多様な種族が共存している。
しかしこの共存に至るまで人類は多大なる犠牲を払わなければならなかった。
千百年前、人族と魔族の間で史上最大の戦【人魔大戦】が起きた。この戦の発端は人族からだった。人族の中から【人族至上主義者】が現れ、この者らは人族以外の全種族を蔑み淘汰しようとした。これに人族以外の種族が反抗し、魔族を中心とした連合軍と人族のみの人類軍の戦争が始まった。この対立は全ての大陸へと伝播していき、やがて争いは世界中に拡大していった。その戦は百年続き、連合軍・人類軍共に甚大な損害をもたらした。この戦により世界の総人口は三割にまで激減し、両軍共に滅亡へと突き進んでいった。
しかしその戦にも終わりが見えた。今から千年前、戦を治めるために人族の中から六人の猛者が立ち上がり連合軍の王である魔王と存亡を賭けて戦い、激戦の末にどうにか和解へと持ち込んだ。これにより百年続いた戦はようやく終結し、全ての命は滅亡の危機を脱したのである。
その後、荒れ果てた世界と激減した人口を取り戻すべく、魔王を倒した六人の英雄を王【全王】【剣王】【拳王】【賢王】【魔導王】【聖王】とし、これに連合軍の王であった【魔王】を加え、世界に七つある大陸を各々が守護し導く事となった。
だがこの決定は魔族に与した者全てを荒廃した南大陸へと送る不平等なものだった。当然反発はあったが、六人の王は人智を超越した力【スキル】を有しており、連合軍は嫌でも従うしかなかった。もちろん魔王にもスキルはあったが、六対一で一度敗北を喫しており、到底勝ち目がなかったため連合軍は最も荒廃した南大陸送りを受け入れるしかなかった。
それから百年ごとに全ての王が一堂に会す【世界会議】という定例会議が行われ、各大陸の情勢把握に加え魔族や亜人、獣人による反乱はないか報告されていった。
そうして十回目となった人族にのみ都合の良い世界会議の場でついに魔王が怒りを露わにした。
魔王は円卓に拳を振り下ろし長い黒髪を振り乱しながら立ち上がり叫ぶ。
「妾ら魔族達はいったいいつまで虐げられれば良いのじゃっ!! 戦の元凶は人族至上主義を掲げた人間どもではないかっ!!」
その態度にフードとローブで姿形すらわからない五人の王が警戒する。この魔王にも叫びに声を発したのは人族の頂点に立つ第一席【全王】だ。
「不服か、魔王」
「当たり前じゃっ!! 妾らは何も悪くないっ! にも関わらず千年もの間貴様ら人族から監視され続けてきたっ!! もううんざりじゃっ!!」
息を荒げる魔王の宣言を第二席【剣王】は無視、第三席である【拳王】は嘲笑い、第四席である【賢王】は呆れ、第五席である【魔導王】は我関せず。魔王を制止したのは第六席である【聖王】だった。
「仕方ないのではないかのう? この件は千年前にお主も受け入れてなかったかの?」
「受け入れた? 押し付けただけじゃろう!」
苛立つ魔王を拳王が嘲笑う。
「くははっ、嫌なら力で抗えば良かっただろう?」
「くっ!!」
魔王は六人に背を向け扉に向かった。その背を向けた魔王を全王が制止する。
「待て魔王。まだ会議は終わっておらん。座れ」
「……もう終わりじゃ」
「何だと? また争いを起こすつもりか?」
この言葉に魔王が捨て台詞を吐き扉に手をかけた。
「争いを始めたのは貴様らじゃ。あれから我らは千年もの永き間我慢してきた。だがもうその我慢も限界じゃ! 我ら魔族と亜人、獣人は世界連合を脱退する!」
「ふむ。支援は受けられなくなるが良いのか?」
「支援だと? そんなものは一度たりともなかったではないかっ!! 貴様らの面など二度と拝みたくもないわっ!! これより妾ら南大陸は他大陸からの上陸、接近を拒否する! 近付いたら命の保障はせぬからなっ!」
そう吐き捨て魔王は会議の場から姿を消した。魔王が消えた所で全王が首を傾げた。
「おかしいな。確かに支援物資は送っていたのだが」
そこで嘲笑っていた拳王が口を開いた。
「がははははっ。奴らに支援などいらぬと思ってな。ワシらがいただいておったわ!」
「拳王か。相変わらずだな」
六人がフードを外すと室内に火が灯り明るくなった。
「……老けたのうお主ら」
「あんたもな全王」
全王を含む六人は人智を超えた力を有しているとはいえ短命な人族だ。
深い皺の入った全王が溜め息を吐きながら呟く。
「魔導王と賢王が考案した延命魔法もそろそろ限界だろうな」
「はい。もう我らに残された時間はあまりありません」
六人となってからが本当の会議だった。全王が五人に尋ねる。
「ちと不味いな。魔族を含む亜人種は我らと違い長命だ。お主ら、今現在どれほどの力が使える?」
まず剣王が立ち上がる。だが腰は曲がり自慢の剣は杖代わりだった。
「一撃も放てんわい」
「さては寝ていたな剣王」
「最近眠くてのう……」
続いて拳王が口を開く。
「ワシはまだ鹿くらいなら倒せるぞ」
「拳王よ。それでよく魔王を笑えたの。次は賢王……はいらぬか。主は頭脳担当じゃったからの」
「えぇ。しかし最近はどうも頭の回転が鈍く……。朝飯は……はて何食ったかの」
賢王は認知機能に問題が生じ始めていた。
「ま、魔導王はどうだ?」
「わしぁ~問題ないぞい。魔法は全て無詠唱じゃしの。ただ新しい魔法は作れんわい」
「そ、そうか。聖王のバアさんは?」
「最近は神様の声がよく聞こえるようになりましたねぇ~」
延命し続け千年。六人の英雄には限界が近づいていた。
「お主ら、前回の会議でワシが言った後継者の問題はどうなったか?」
その問い掛けに五人は表情を曇らせる。
「け、剣王!」
「目ぼしいのはおらんな。我が弟子らは誰一人まだ壁を超えておらんわい」
「拳王は?」
「同じくだな。弟子はかなりおるが誰も壁を超えておらんわ」
「賢王!」
「あい~? 飯は食っただよ~」
「──っ! ま、魔導王は!?」
「わしの所ものぅ……。魔法は覚えられるが飛び抜けた魔力を持つ者がおらん。あれでは魔族に負けてしまうの」
「せ、聖王のバアさんは!?」
「私の所は聖なる結界がありますので大丈夫ですねぇ」
「せ、聖なる結界では魔物は防げても魔族からの攻撃は防げんと前回も言ったであろうっ!?」
「そうでしたかねぇ~」
「くぅぅぅっ!」
全王が円卓に崩れ落ちた。
「ま、不味いぞ。すぐにでも後継者を見つけんと魔族らに復讐されてしまう!!」
「そもそも全王、あんたが人族至上主義なんぞ掲げるから……」
「う、うるさい! 一番偉いのは人族! その頂点に立つワシが一番偉いのだ!」
「ならば全王、主が魔族らをどうにかしたらどうじゃ?」
「できるものならやっとるわいっ! いや、物資を強奪しておった拳王がなんとかせんかいっ!」
「拳やら体術だけで勝てるかい」
「で、ではどうするのだ!」
その場にいた六人全員が同じ考えに至る。
「後継者を育成するよりワシらの考えに忠実ですでに力ある者を探さぬか? そしてその者に我らのスキルを発現させた者を探させるのだ」
「そうだな。ワシらが死ねばワシらのスキルは他者に移る」
「我らのスキルを手にした者を必ず新たな王に任命するように導けば良いのか」
「なるほどの。それなら我らが今持つ全ての知識を書物に記し後世に託そう。いつか我らの意志を継ぐ者の手に渡るようにの」
「そうですねぇ~」
この会議から十年後、後継者を任命し終えた六人の王は順番に天寿を全うしていき、各大陸で六人の意志を引き継いだ者の手により、王のスキルを受け継いだ者の大捜索が始められたのだった。
しかしこの共存に至るまで人類は多大なる犠牲を払わなければならなかった。
千百年前、人族と魔族の間で史上最大の戦【人魔大戦】が起きた。この戦の発端は人族からだった。人族の中から【人族至上主義者】が現れ、この者らは人族以外の全種族を蔑み淘汰しようとした。これに人族以外の種族が反抗し、魔族を中心とした連合軍と人族のみの人類軍の戦争が始まった。この対立は全ての大陸へと伝播していき、やがて争いは世界中に拡大していった。その戦は百年続き、連合軍・人類軍共に甚大な損害をもたらした。この戦により世界の総人口は三割にまで激減し、両軍共に滅亡へと突き進んでいった。
しかしその戦にも終わりが見えた。今から千年前、戦を治めるために人族の中から六人の猛者が立ち上がり連合軍の王である魔王と存亡を賭けて戦い、激戦の末にどうにか和解へと持ち込んだ。これにより百年続いた戦はようやく終結し、全ての命は滅亡の危機を脱したのである。
その後、荒れ果てた世界と激減した人口を取り戻すべく、魔王を倒した六人の英雄を王【全王】【剣王】【拳王】【賢王】【魔導王】【聖王】とし、これに連合軍の王であった【魔王】を加え、世界に七つある大陸を各々が守護し導く事となった。
だがこの決定は魔族に与した者全てを荒廃した南大陸へと送る不平等なものだった。当然反発はあったが、六人の王は人智を超越した力【スキル】を有しており、連合軍は嫌でも従うしかなかった。もちろん魔王にもスキルはあったが、六対一で一度敗北を喫しており、到底勝ち目がなかったため連合軍は最も荒廃した南大陸送りを受け入れるしかなかった。
それから百年ごとに全ての王が一堂に会す【世界会議】という定例会議が行われ、各大陸の情勢把握に加え魔族や亜人、獣人による反乱はないか報告されていった。
そうして十回目となった人族にのみ都合の良い世界会議の場でついに魔王が怒りを露わにした。
魔王は円卓に拳を振り下ろし長い黒髪を振り乱しながら立ち上がり叫ぶ。
「妾ら魔族達はいったいいつまで虐げられれば良いのじゃっ!! 戦の元凶は人族至上主義を掲げた人間どもではないかっ!!」
その態度にフードとローブで姿形すらわからない五人の王が警戒する。この魔王にも叫びに声を発したのは人族の頂点に立つ第一席【全王】だ。
「不服か、魔王」
「当たり前じゃっ!! 妾らは何も悪くないっ! にも関わらず千年もの間貴様ら人族から監視され続けてきたっ!! もううんざりじゃっ!!」
息を荒げる魔王の宣言を第二席【剣王】は無視、第三席である【拳王】は嘲笑い、第四席である【賢王】は呆れ、第五席である【魔導王】は我関せず。魔王を制止したのは第六席である【聖王】だった。
「仕方ないのではないかのう? この件は千年前にお主も受け入れてなかったかの?」
「受け入れた? 押し付けただけじゃろう!」
苛立つ魔王を拳王が嘲笑う。
「くははっ、嫌なら力で抗えば良かっただろう?」
「くっ!!」
魔王は六人に背を向け扉に向かった。その背を向けた魔王を全王が制止する。
「待て魔王。まだ会議は終わっておらん。座れ」
「……もう終わりじゃ」
「何だと? また争いを起こすつもりか?」
この言葉に魔王が捨て台詞を吐き扉に手をかけた。
「争いを始めたのは貴様らじゃ。あれから我らは千年もの永き間我慢してきた。だがもうその我慢も限界じゃ! 我ら魔族と亜人、獣人は世界連合を脱退する!」
「ふむ。支援は受けられなくなるが良いのか?」
「支援だと? そんなものは一度たりともなかったではないかっ!! 貴様らの面など二度と拝みたくもないわっ!! これより妾ら南大陸は他大陸からの上陸、接近を拒否する! 近付いたら命の保障はせぬからなっ!」
そう吐き捨て魔王は会議の場から姿を消した。魔王が消えた所で全王が首を傾げた。
「おかしいな。確かに支援物資は送っていたのだが」
そこで嘲笑っていた拳王が口を開いた。
「がははははっ。奴らに支援などいらぬと思ってな。ワシらがいただいておったわ!」
「拳王か。相変わらずだな」
六人がフードを外すと室内に火が灯り明るくなった。
「……老けたのうお主ら」
「あんたもな全王」
全王を含む六人は人智を超えた力を有しているとはいえ短命な人族だ。
深い皺の入った全王が溜め息を吐きながら呟く。
「魔導王と賢王が考案した延命魔法もそろそろ限界だろうな」
「はい。もう我らに残された時間はあまりありません」
六人となってからが本当の会議だった。全王が五人に尋ねる。
「ちと不味いな。魔族を含む亜人種は我らと違い長命だ。お主ら、今現在どれほどの力が使える?」
まず剣王が立ち上がる。だが腰は曲がり自慢の剣は杖代わりだった。
「一撃も放てんわい」
「さては寝ていたな剣王」
「最近眠くてのう……」
続いて拳王が口を開く。
「ワシはまだ鹿くらいなら倒せるぞ」
「拳王よ。それでよく魔王を笑えたの。次は賢王……はいらぬか。主は頭脳担当じゃったからの」
「えぇ。しかし最近はどうも頭の回転が鈍く……。朝飯は……はて何食ったかの」
賢王は認知機能に問題が生じ始めていた。
「ま、魔導王はどうだ?」
「わしぁ~問題ないぞい。魔法は全て無詠唱じゃしの。ただ新しい魔法は作れんわい」
「そ、そうか。聖王のバアさんは?」
「最近は神様の声がよく聞こえるようになりましたねぇ~」
延命し続け千年。六人の英雄には限界が近づいていた。
「お主ら、前回の会議でワシが言った後継者の問題はどうなったか?」
その問い掛けに五人は表情を曇らせる。
「け、剣王!」
「目ぼしいのはおらんな。我が弟子らは誰一人まだ壁を超えておらんわい」
「拳王は?」
「同じくだな。弟子はかなりおるが誰も壁を超えておらんわ」
「賢王!」
「あい~? 飯は食っただよ~」
「──っ! ま、魔導王は!?」
「わしの所ものぅ……。魔法は覚えられるが飛び抜けた魔力を持つ者がおらん。あれでは魔族に負けてしまうの」
「せ、聖王のバアさんは!?」
「私の所は聖なる結界がありますので大丈夫ですねぇ」
「せ、聖なる結界では魔物は防げても魔族からの攻撃は防げんと前回も言ったであろうっ!?」
「そうでしたかねぇ~」
「くぅぅぅっ!」
全王が円卓に崩れ落ちた。
「ま、不味いぞ。すぐにでも後継者を見つけんと魔族らに復讐されてしまう!!」
「そもそも全王、あんたが人族至上主義なんぞ掲げるから……」
「う、うるさい! 一番偉いのは人族! その頂点に立つワシが一番偉いのだ!」
「ならば全王、主が魔族らをどうにかしたらどうじゃ?」
「できるものならやっとるわいっ! いや、物資を強奪しておった拳王がなんとかせんかいっ!」
「拳やら体術だけで勝てるかい」
「で、ではどうするのだ!」
その場にいた六人全員が同じ考えに至る。
「後継者を育成するよりワシらの考えに忠実ですでに力ある者を探さぬか? そしてその者に我らのスキルを発現させた者を探させるのだ」
「そうだな。ワシらが死ねばワシらのスキルは他者に移る」
「我らのスキルを手にした者を必ず新たな王に任命するように導けば良いのか」
「なるほどの。それなら我らが今持つ全ての知識を書物に記し後世に託そう。いつか我らの意志を継ぐ者の手に渡るようにの」
「そうですねぇ~」
この会議から十年後、後継者を任命し終えた六人の王は順番に天寿を全うしていき、各大陸で六人の意志を引き継いだ者の手により、王のスキルを受け継いだ者の大捜索が始められたのだった。
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