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第一章 始まりの章
03 教会の裏
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司祭は自分を見上げるオウルに対し教会の秘密を口にした。
「オウル殿は今の世界をどう思われますか?」
「言っている意味がわかりかねます」
司祭はスッと立ち上がり女神像を見る。
「今の世はスキルに支配されています。女神樣はこの様な世界にするためにスキルを与え給うたわけではないっ! スキルとは生活を豊かにするため、愛し子である女神樣が生み落とした全ての命が平等に生きる権利を有している! それが我々教会の中にいる【人魔平等派】の考えなのです」
「じ、人魔平等派? なんですかそれは」
司祭はオウルに向き直り口を開いた。
「すでに魔大陸には我々の仲間が潜伏しております。オウル殿、我々の仲間に入りませんか?」
「お、俺は……死ななくても良いのですか」
「はい。我々の力によりすでに魔大陸の中でもスキルを有する者がおります。今の間違った世界を変えましょう。神が与えしスキル一つで命ある者が不幸になるなどあってはならない。我々が貴方に救いを与えましょう」
「し、司祭樣……っ! はいっ!!」
まだ助かる道があったと希望を手にしたオウルは差し出された司祭の手を強く握った。
「今日はここに泊まって行きなさい。明日船を出しましょう」
「あ、ありがとうございますっ!」
この日の深夜、司祭はオウルが眠った事を確認し教会地下にある隠し部屋に入った。室内は薄暗く女神像ではなく魔王像が飾られており、台座には通信用の水晶が置かれている。司祭は水晶に魔力を流し回線を開いた。
「魔王樣、夜分遅くに失礼いたします。こちら東南大陸南部グローリア王国担当の邪神官【ギュネイ】にございます」
《……何事か》
司祭が水晶に語りかける。
「かねてよりお探しのコピースキル持ちが現れましたのでご報告までと」
《なっ!? ま、まことか!?》
「はい。ただ一つ問題が」
《問題?》
「はい。確かにコピースキルではあるのですが名称が違いまして。名称は【コピペ】というのてすが」
《コピペ? なんだその舌を噛みそうな名称は》
「わかりかねます。明日魔大陸へと移送致しますのであとはそちら側にお任せしてもよろしいでしょうか?」
《うむ。魔王の名においてゲートの使用を許可する。速やかに我が大陸へ送るのだ。そのコピペとやらは我自ら調べるとしよう》
「ははっ。かしこまりました」
司祭は通信を切り地下室をあとにした。
「彼は我々魔族の希望たり得るでしょうか。だいぶ家族に絶望感を抱いていましたし……あとはスキルの詳細次第ですかねぇ。魔王樣の【魔王眼】ならば詳細までわかるでしょう」
司祭の正体は魔大陸から人間側に送られたスパイだった。そしてスパイは密かに教会の中で人魔平等派を組織し、素質がありそうな者を魔大陸へと送り込んでいた。
「教会は全土にある上、独自の組織であり国々の干渉を受けない組織ですからねぇ。我々魔族の隠れ蓑として最高の寄生先ですね」
スキルに支配されている人の大陸ではオウルのように追放される者も多くいる。中には処刑される者まで出る始末だ。これが人類至上主義、スキル至上主義を掲げてきた六大陸の現実である。
そうして全てが司祭の思惑通りに進み、翌朝。
「司祭樣、港へはいつ向かうのですか?」
「港へは向かいませんよ」
「え?」
「貴方の父には明日早朝の船で魔族大陸へと向かうと伝えております」
「えっと、意味が……」
「それは今から説明しますよ。さあ、私に続いて地下へ」
「は、はあ」
オウルは首を傾げながら司祭のあとに続き地下室へと続く階段を降りた。地下廊下には扉が二つ見え、司祭は左側が扉を開きオウルを招き入れた。
「これは?」
「転送の魔法陣です。貴方にはこれで魔大陸にある魔王城へと向かってもらいます」
「ま、魔王城!? え?」
司祭が自分の顔を撫でると人とは違う顔、単眼の魔族へと変貌した。
「ま、魔族!?」
「はい。私は魔王樣に仕える邪神官ギュネイと申します。オウル殿、騙す形になり申し訳ない」
司祭は深々と頭を下げた。
「だ、騙すってなんの事ですか。まさかスキルも?」
「いえ、スキルは儀式のまま変わりません。騙したのは我々魔族が人間側に潜伏し人材を集めている件についてです。今から全てを語りましょう。その上で貴方はどうするのかお聞かせ下さいませ」
司祭は人魔大戦の起りから人間の魔族に対する扱い、六人の王が魔王をどう扱っていたかゆっくりと語った。
「それが真実なら魔族は何も悪くないんじゃ……。いや、むしろ人間が悪いのでは?」
「もちろん真実です。我々魔族は長年虐げられてきました。しかし六人の王がようやく消え、我々にも希望が見えてきました」
「希望……? ま、まさか再び人魔大戦を引き起こすつもりか!」
「いえいえ。我々の望みは一つ。魔族にも正統に生きる権利を与えてもらいたいだけです。ただ魔族だというだけで虐げられたり侵略されたりしたくない。我々だって生きて意思を持った命なのです。すでに六人の王が所持していたスキルはこちらで確保しております。残すは魔王樣のスキルを魔王様が生きたまま引き継げる者、すなわちコピーのスキルを持つ貴方なのです」
人間と違い魔族の寿命は長い。六人の王は後継者を探させているが魔王は存命だ。そこで必要となる複製系スキルである。オウルはまさに魔王が必要としていた人材だった。
オウルはギュネイの口から真実を知り決意した。
「魔族が被害者だったなんて知らなかった。家族に捨てられた俺はもう人の地にいる気もない。司祭樣、俺の力が役に立つなら魔大陸へと送って下さい」
「おおっ! ありがとうございますオウル殿! 魔大陸は少しずつではありますが我々が送った方々の手により良き方へと変わりつつあります。そこにオウル殿の力を加え世界一の大陸へと変えてやりましょう」
固く握手を交わし司祭はオウルを魔法陣の上に立たせた。
「送り先では魔王樣がお待ち下さっております。オウル殿の持つスキルに関する詳細は私には看破できませんでしたが魔王樣のスキルならば看破されましょう。オウル殿、我ら魔族と同胞の未来……お頼み申します」
「はい、自分にできる事があるなら喜んで魔王樣──いえ、魔大陸で暮らす者の力となりましょう」
オウルの言葉を耳にした司祭は笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。さあ、そろそろ転送が始まります。私達魔族のためだけではなく、これからはオウル殿の人生も良きものとなるよう遠くから祈っております」
「あ、ありがとうございます!」
そうしてオウルは転送魔法陣の光に包まれグローリア王国から消えた。そして司祭は翌朝幻術で船を出したように見せかけ男爵を欺いた。
それが幻術と知らず、一族の汚点だったオウルが乗った船が海へと消えていく様を見て男爵は口角を上げ喜んだ。
「ふん、ようやく去ったか。司祭樣、今回の件についてはくれぐれも口外なさらぬよう頼みますぞ」
「もちろんですとも。口にした所で私に得はありませんので」
「……ご苦労だった。後ほど謝礼金を送る」
「ありがたく存じます」
司祭は遠ざかっていく男爵の後ろ姿を眺めながら呟いた。
「……無能で矮小な人間め。ようやくだ、ようやく我らが待ち望んでいた希望が現れたっ! 世界を牛耳っていた六人の王はもういない。そして六王のスキルも我ら魔族が確保済み! これからは我ら魔族の時代となるのだっ!」
司祭は心の中で高笑いしながら教会へと戻るのだった。
「オウル殿は今の世界をどう思われますか?」
「言っている意味がわかりかねます」
司祭はスッと立ち上がり女神像を見る。
「今の世はスキルに支配されています。女神樣はこの様な世界にするためにスキルを与え給うたわけではないっ! スキルとは生活を豊かにするため、愛し子である女神樣が生み落とした全ての命が平等に生きる権利を有している! それが我々教会の中にいる【人魔平等派】の考えなのです」
「じ、人魔平等派? なんですかそれは」
司祭はオウルに向き直り口を開いた。
「すでに魔大陸には我々の仲間が潜伏しております。オウル殿、我々の仲間に入りませんか?」
「お、俺は……死ななくても良いのですか」
「はい。我々の力によりすでに魔大陸の中でもスキルを有する者がおります。今の間違った世界を変えましょう。神が与えしスキル一つで命ある者が不幸になるなどあってはならない。我々が貴方に救いを与えましょう」
「し、司祭樣……っ! はいっ!!」
まだ助かる道があったと希望を手にしたオウルは差し出された司祭の手を強く握った。
「今日はここに泊まって行きなさい。明日船を出しましょう」
「あ、ありがとうございますっ!」
この日の深夜、司祭はオウルが眠った事を確認し教会地下にある隠し部屋に入った。室内は薄暗く女神像ではなく魔王像が飾られており、台座には通信用の水晶が置かれている。司祭は水晶に魔力を流し回線を開いた。
「魔王樣、夜分遅くに失礼いたします。こちら東南大陸南部グローリア王国担当の邪神官【ギュネイ】にございます」
《……何事か》
司祭が水晶に語りかける。
「かねてよりお探しのコピースキル持ちが現れましたのでご報告までと」
《なっ!? ま、まことか!?》
「はい。ただ一つ問題が」
《問題?》
「はい。確かにコピースキルではあるのですが名称が違いまして。名称は【コピペ】というのてすが」
《コピペ? なんだその舌を噛みそうな名称は》
「わかりかねます。明日魔大陸へと移送致しますのであとはそちら側にお任せしてもよろしいでしょうか?」
《うむ。魔王の名においてゲートの使用を許可する。速やかに我が大陸へ送るのだ。そのコピペとやらは我自ら調べるとしよう》
「ははっ。かしこまりました」
司祭は通信を切り地下室をあとにした。
「彼は我々魔族の希望たり得るでしょうか。だいぶ家族に絶望感を抱いていましたし……あとはスキルの詳細次第ですかねぇ。魔王樣の【魔王眼】ならば詳細までわかるでしょう」
司祭の正体は魔大陸から人間側に送られたスパイだった。そしてスパイは密かに教会の中で人魔平等派を組織し、素質がありそうな者を魔大陸へと送り込んでいた。
「教会は全土にある上、独自の組織であり国々の干渉を受けない組織ですからねぇ。我々魔族の隠れ蓑として最高の寄生先ですね」
スキルに支配されている人の大陸ではオウルのように追放される者も多くいる。中には処刑される者まで出る始末だ。これが人類至上主義、スキル至上主義を掲げてきた六大陸の現実である。
そうして全てが司祭の思惑通りに進み、翌朝。
「司祭樣、港へはいつ向かうのですか?」
「港へは向かいませんよ」
「え?」
「貴方の父には明日早朝の船で魔族大陸へと向かうと伝えております」
「えっと、意味が……」
「それは今から説明しますよ。さあ、私に続いて地下へ」
「は、はあ」
オウルは首を傾げながら司祭のあとに続き地下室へと続く階段を降りた。地下廊下には扉が二つ見え、司祭は左側が扉を開きオウルを招き入れた。
「これは?」
「転送の魔法陣です。貴方にはこれで魔大陸にある魔王城へと向かってもらいます」
「ま、魔王城!? え?」
司祭が自分の顔を撫でると人とは違う顔、単眼の魔族へと変貌した。
「ま、魔族!?」
「はい。私は魔王樣に仕える邪神官ギュネイと申します。オウル殿、騙す形になり申し訳ない」
司祭は深々と頭を下げた。
「だ、騙すってなんの事ですか。まさかスキルも?」
「いえ、スキルは儀式のまま変わりません。騙したのは我々魔族が人間側に潜伏し人材を集めている件についてです。今から全てを語りましょう。その上で貴方はどうするのかお聞かせ下さいませ」
司祭は人魔大戦の起りから人間の魔族に対する扱い、六人の王が魔王をどう扱っていたかゆっくりと語った。
「それが真実なら魔族は何も悪くないんじゃ……。いや、むしろ人間が悪いのでは?」
「もちろん真実です。我々魔族は長年虐げられてきました。しかし六人の王がようやく消え、我々にも希望が見えてきました」
「希望……? ま、まさか再び人魔大戦を引き起こすつもりか!」
「いえいえ。我々の望みは一つ。魔族にも正統に生きる権利を与えてもらいたいだけです。ただ魔族だというだけで虐げられたり侵略されたりしたくない。我々だって生きて意思を持った命なのです。すでに六人の王が所持していたスキルはこちらで確保しております。残すは魔王樣のスキルを魔王様が生きたまま引き継げる者、すなわちコピーのスキルを持つ貴方なのです」
人間と違い魔族の寿命は長い。六人の王は後継者を探させているが魔王は存命だ。そこで必要となる複製系スキルである。オウルはまさに魔王が必要としていた人材だった。
オウルはギュネイの口から真実を知り決意した。
「魔族が被害者だったなんて知らなかった。家族に捨てられた俺はもう人の地にいる気もない。司祭樣、俺の力が役に立つなら魔大陸へと送って下さい」
「おおっ! ありがとうございますオウル殿! 魔大陸は少しずつではありますが我々が送った方々の手により良き方へと変わりつつあります。そこにオウル殿の力を加え世界一の大陸へと変えてやりましょう」
固く握手を交わし司祭はオウルを魔法陣の上に立たせた。
「送り先では魔王樣がお待ち下さっております。オウル殿の持つスキルに関する詳細は私には看破できませんでしたが魔王樣のスキルならば看破されましょう。オウル殿、我ら魔族と同胞の未来……お頼み申します」
「はい、自分にできる事があるなら喜んで魔王樣──いえ、魔大陸で暮らす者の力となりましょう」
オウルの言葉を耳にした司祭は笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。さあ、そろそろ転送が始まります。私達魔族のためだけではなく、これからはオウル殿の人生も良きものとなるよう遠くから祈っております」
「あ、ありがとうございます!」
そうしてオウルは転送魔法陣の光に包まれグローリア王国から消えた。そして司祭は翌朝幻術で船を出したように見せかけ男爵を欺いた。
それが幻術と知らず、一族の汚点だったオウルが乗った船が海へと消えていく様を見て男爵は口角を上げ喜んだ。
「ふん、ようやく去ったか。司祭樣、今回の件についてはくれぐれも口外なさらぬよう頼みますぞ」
「もちろんですとも。口にした所で私に得はありませんので」
「……ご苦労だった。後ほど謝礼金を送る」
「ありがたく存じます」
司祭は遠ざかっていく男爵の後ろ姿を眺めながら呟いた。
「……無能で矮小な人間め。ようやくだ、ようやく我らが待ち望んでいた希望が現れたっ! 世界を牛耳っていた六人の王はもういない。そして六王のスキルも我ら魔族が確保済み! これからは我ら魔族の時代となるのだっ!」
司祭は心の中で高笑いしながら教会へと戻るのだった。
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