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第2章 獣人の章
07 使者
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人間の軍を退けてから数日後、国境の警備兵から人間の国からの使者が来ているとの知らせを受け、時期獣王のミニッツと、その婿である枢が話を聞く事にし、国境へと向かった。2人は今その使者の様子を窺う為、外壁の上に立っていた。
「あれは…イーグルの兵ね。前回攻めてきた癖に今更何の用かしら?」
「さてな。どうする?話を聞いてやるか?」
「え?必要無くない?和睦する気は無いし、従う気も無いわ。そして、助ける気も無い。」
「成る程、ミニッツの考えは分かった。なら…お引き取り願おうかね。行ってくる。」
「ん、宜しくね。」
枢は外壁の上から人間側の領地へと降り立った。そして、使者の一団に話し掛けた。
「イーグルの使者だな?数日前に敗北した分際で良く来れたものだな。」
「その事で話があって来たのだ。信じられないかも知れんが聞いて貰えないだろうか?」
「ま、聞くだけは聞いてやろう。話せ。」
「その前に…貴方は誰ですか?出来れば獣人のトップと話したいのですが。」
「俺は獣王の娘の婿だよ。それじゃ不満か?ならこのままお帰り願おうか。聞いて貰えるだけ有り難く思え。」
「し、失礼しましたっ!」
使者達は揃って頭を下げた。
「で?何しに来た。」
枢の問い掛けに使者が口を開いた。
「数日前、イーグルの兵を語った兵がこの国に攻め込みました。我が国イーグルは獣人国とは戦を望んでおりません。攻め込んだのは我がイーグルと対立する国、ラインセットの兵なのであります!」
「ふ~ん、で?」
「はい?で、ですから…」
「バカじゃ無いんだ。一度聞いたら分かる。数日前に来たのはイーグル兵に偽装したラインセット兵なんだろ?それを知らせてどうする気だ?別に俺達獣人の国はどちらが相手でも構わないんだよ。ラインセットの狙いは獣人国にイーグルを潰させる事なのだろう。で、お前達はそれを防ごうと使者として来た。違うか?」
「そ、その通りです。」
「言いたい事は分かった。此方は攻めて来られなければ手は出さない。戦がしたいなら人間達で勝手にやれ。手も出さないが、手も貸さない。俺達に関わるな。と、時期獣王様は仰っている。話は以上だ、ではな。」
「お、お待ち下さい!」
帰ろうとする枢を使者が引き留めた。
「…何だ?もう話す事は無いぞ。」
「いえ、これからイーグルとラインセットは戦に入ります。イーグルが勝てばこの国は今まで通り手を出しません。が、ラインセットが勝てばイーグルの兵も使いこの国を落としに来るでしょう。そこで提案があります。我がイーグルと同盟を…」
「断る。」
枢は最後まで聞かずに返事をした。
「な、何故ですか!?」
「勘違いしている様だから言っておくぞ。どっちが勝とうが知った事じゃない。例え勝った方が戦力を整えて攻めて来ようが俺1人で十分事足りる。攻めて来た時がお前等の最後だ。全部纏めて吹き飛ばす。それだけの力が俺にはあるんだよ。お前達が負けて嫌々攻めて来ようが俺は容赦しない。来たら殺す。良いな?同盟等結ぶ気も無い。だが、戦の最中に後ろから狙う様な真似はしないとだけ約束しよう。それでいいだろ。」
「…分かり…ました。我が国の敵はラインセット!我が国が勝った時にまた来ます。」
「もう来るな。何度来ても意見は変わらない。どの国が相手でもだ。行け。」
「…お時間、有難う御座いました。行くぞ!」
「「「「はっ!」」」」
使者達は枢に一礼し、国へと戻って行った。
「面倒な奴等だ。」
枢は帰るのを見届けミニッツの所に戻った。
「随分掛かったわね?何かあったの?」
「実はな…」
と、枢は聞いた内容をミニッツに話した。
「ふ~ん、まぁ…どうぞご勝手にって話ね。同盟とか話にならないわ。断ってくれてありがとね。」
「ああ、人間に関わるとロクな事が無いからな。戦にしてもそうだ。組むより潰す方が後々楽だぜ。」
「そうよね、魔族も人間には酷い目に合わされてきたものね。じゃあ…帰ろっか。父にも報告しないと。」
「だな、城に飛ぶぞ。【転移】!」
枢はミニッツと2人城に戻り、獣王に使者と話した内容を報告した。
「ふむ…、この前来た奴等はラインセットであったか、成る程のう。相変わらず姑息な奴等だ。イーグルは我等とラインセットから同時に狙われるのを回避する為に使者を送って来たのか。良い手だ…が、同盟はやり過ぎだな。断ってくれて助かった。」
「ああ、俺も同盟は必要無いと思っている。使者にはキツく言っておいたから、取り敢えず今の所は大丈夫だろう。で、イーグルはラインセットとこれから戦に突入するらしい。」
王は椅子に座り直し溜め息を吐いた。
「ふぅ…っ、そうか…。まぁ勝手にやってくれと言いたい。関わる気なぞ無いわ。ラインセットにはミニッツの件もあるから許せんが…な。」
忘れていた。そうだ、そうだった。ミニッツはラインセットの兵に汚され瀕死の状態で流れ着いていたんだった。
枢はスッと立ち上がり王の間を出ようとした。
「枢、何処に?」
「外壁に落とし物をした。ちょっと行って探してくるよ。何処で落としたか分からないから少し時間が掛かるかもしれん。」
「…そ。あまり遅くならない様にね?」
「ああ。じゃあ…行くわ。【転移】!」
枢は単身外壁へと飛び、使者の後を追った。
城に残った親子は密談を始めていた。
「ふっ、枢め。何だかんだ言ってお前を汚した国が許せんらしい。」
「子供ねぇ…。綺麗にしてくれたからもう良いのに。あ、でもラインセットが潰れたらスッキリするかも。」
「全くだ。さて…これでラインセットはお仕舞いだ。この次はどう出る?」
「そうね…。恐らく枢はイーグルと一緒にラインセットを潰しに行くと思うから…、この国が接する国はイーグルだけになるわ。そうなったら不可侵条約でも結んでやれば満足すると思うわ。」
「ふむ、それが良いな。我々は成り行きを見守るとしようか。」
「ええ。」
こうして、小国イーグルは強力な切り札を獲得する事になるのである。
「あれは…イーグルの兵ね。前回攻めてきた癖に今更何の用かしら?」
「さてな。どうする?話を聞いてやるか?」
「え?必要無くない?和睦する気は無いし、従う気も無いわ。そして、助ける気も無い。」
「成る程、ミニッツの考えは分かった。なら…お引き取り願おうかね。行ってくる。」
「ん、宜しくね。」
枢は外壁の上から人間側の領地へと降り立った。そして、使者の一団に話し掛けた。
「イーグルの使者だな?数日前に敗北した分際で良く来れたものだな。」
「その事で話があって来たのだ。信じられないかも知れんが聞いて貰えないだろうか?」
「ま、聞くだけは聞いてやろう。話せ。」
「その前に…貴方は誰ですか?出来れば獣人のトップと話したいのですが。」
「俺は獣王の娘の婿だよ。それじゃ不満か?ならこのままお帰り願おうか。聞いて貰えるだけ有り難く思え。」
「し、失礼しましたっ!」
使者達は揃って頭を下げた。
「で?何しに来た。」
枢の問い掛けに使者が口を開いた。
「数日前、イーグルの兵を語った兵がこの国に攻め込みました。我が国イーグルは獣人国とは戦を望んでおりません。攻め込んだのは我がイーグルと対立する国、ラインセットの兵なのであります!」
「ふ~ん、で?」
「はい?で、ですから…」
「バカじゃ無いんだ。一度聞いたら分かる。数日前に来たのはイーグル兵に偽装したラインセット兵なんだろ?それを知らせてどうする気だ?別に俺達獣人の国はどちらが相手でも構わないんだよ。ラインセットの狙いは獣人国にイーグルを潰させる事なのだろう。で、お前達はそれを防ごうと使者として来た。違うか?」
「そ、その通りです。」
「言いたい事は分かった。此方は攻めて来られなければ手は出さない。戦がしたいなら人間達で勝手にやれ。手も出さないが、手も貸さない。俺達に関わるな。と、時期獣王様は仰っている。話は以上だ、ではな。」
「お、お待ち下さい!」
帰ろうとする枢を使者が引き留めた。
「…何だ?もう話す事は無いぞ。」
「いえ、これからイーグルとラインセットは戦に入ります。イーグルが勝てばこの国は今まで通り手を出しません。が、ラインセットが勝てばイーグルの兵も使いこの国を落としに来るでしょう。そこで提案があります。我がイーグルと同盟を…」
「断る。」
枢は最後まで聞かずに返事をした。
「な、何故ですか!?」
「勘違いしている様だから言っておくぞ。どっちが勝とうが知った事じゃない。例え勝った方が戦力を整えて攻めて来ようが俺1人で十分事足りる。攻めて来た時がお前等の最後だ。全部纏めて吹き飛ばす。それだけの力が俺にはあるんだよ。お前達が負けて嫌々攻めて来ようが俺は容赦しない。来たら殺す。良いな?同盟等結ぶ気も無い。だが、戦の最中に後ろから狙う様な真似はしないとだけ約束しよう。それでいいだろ。」
「…分かり…ました。我が国の敵はラインセット!我が国が勝った時にまた来ます。」
「もう来るな。何度来ても意見は変わらない。どの国が相手でもだ。行け。」
「…お時間、有難う御座いました。行くぞ!」
「「「「はっ!」」」」
使者達は枢に一礼し、国へと戻って行った。
「面倒な奴等だ。」
枢は帰るのを見届けミニッツの所に戻った。
「随分掛かったわね?何かあったの?」
「実はな…」
と、枢は聞いた内容をミニッツに話した。
「ふ~ん、まぁ…どうぞご勝手にって話ね。同盟とか話にならないわ。断ってくれてありがとね。」
「ああ、人間に関わるとロクな事が無いからな。戦にしてもそうだ。組むより潰す方が後々楽だぜ。」
「そうよね、魔族も人間には酷い目に合わされてきたものね。じゃあ…帰ろっか。父にも報告しないと。」
「だな、城に飛ぶぞ。【転移】!」
枢はミニッツと2人城に戻り、獣王に使者と話した内容を報告した。
「ふむ…、この前来た奴等はラインセットであったか、成る程のう。相変わらず姑息な奴等だ。イーグルは我等とラインセットから同時に狙われるのを回避する為に使者を送って来たのか。良い手だ…が、同盟はやり過ぎだな。断ってくれて助かった。」
「ああ、俺も同盟は必要無いと思っている。使者にはキツく言っておいたから、取り敢えず今の所は大丈夫だろう。で、イーグルはラインセットとこれから戦に突入するらしい。」
王は椅子に座り直し溜め息を吐いた。
「ふぅ…っ、そうか…。まぁ勝手にやってくれと言いたい。関わる気なぞ無いわ。ラインセットにはミニッツの件もあるから許せんが…な。」
忘れていた。そうだ、そうだった。ミニッツはラインセットの兵に汚され瀕死の状態で流れ着いていたんだった。
枢はスッと立ち上がり王の間を出ようとした。
「枢、何処に?」
「外壁に落とし物をした。ちょっと行って探してくるよ。何処で落としたか分からないから少し時間が掛かるかもしれん。」
「…そ。あまり遅くならない様にね?」
「ああ。じゃあ…行くわ。【転移】!」
枢は単身外壁へと飛び、使者の後を追った。
城に残った親子は密談を始めていた。
「ふっ、枢め。何だかんだ言ってお前を汚した国が許せんらしい。」
「子供ねぇ…。綺麗にしてくれたからもう良いのに。あ、でもラインセットが潰れたらスッキリするかも。」
「全くだ。さて…これでラインセットはお仕舞いだ。この次はどう出る?」
「そうね…。恐らく枢はイーグルと一緒にラインセットを潰しに行くと思うから…、この国が接する国はイーグルだけになるわ。そうなったら不可侵条約でも結んでやれば満足すると思うわ。」
「ふむ、それが良いな。我々は成り行きを見守るとしようか。」
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