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第1章 盗賊になりました

第03話 初仕事

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    グリッドの初の仕事だ。普通は緊張したりするモノだが、グリッドは妙に落ち着き払っていた。

「…来たぞ、あの馬車だ。グリッド、俺達が護衛の馬を引き離す。その隙にお前は荷台に侵入し、中身を拐って来い。拘束魔法は覚えているな?」

「問題無いよ。」

「…良し…。行くぞ!野郎共っ!!」

「「「「っしゃあぁぁぁぁぁっ!!」」」」

    盗賊団は大声で叫び馬車に向かって馬を走らせる。

「な、何だ!?っ!盗賊っ!!不味いっ!」

「ヒャッハー!もう遅ぇよ!オラァッ!!」

「がっ!?ぐっ…不覚っ!」

「「「「隊長っ!?」」」」

    アレックスが護衛の隊長を一撃で倒した。普段のアレックスを見て知っていたらまるで別人だ。普段からああならモテるのに。と、グリッドは冷静に状況を見ていた。

「よっしゃ!後は雑魚だ!グリッド、行けっ!」

「了解。」

    グリッドは離れた場所から一気に馬を走らせ、馬車と並走する。 

「ひ、ひぃぃぃぃっ!勘弁してくれぇっ!」

    御者は雇われの様だ。自分の身が危険と知るや否や、馬車を捨てて逃げ出した。

「よっと。」

    グリッドは走る馬から荷台に飛び移り、扉を開く。

「させませんぞ!なっ!?子供!?」

「…はい、サヨウナラ。」

「かひゅっ!お…ぉぉぉ………。」

    グリッドは短剣で執事風の老人の首を切り裂き、荷台から放り投げる。

「今晩和、盗賊で~す。今から貴女方を拘束します。【バインド】。」

「「っ!!?~~っ!?」」

    バインドは実に使魔法だ。成功すれば相手は一切抵抗出来ないし、声をあげる事も出来なくなる。何より、宙に浮かせて運べるのが一番有用だ。

    グリッドは2人を浮かべ、並走させていた馬に戻った。

「ギラン、オッケーだ。」

    ギランはその手際を見てニヤリと笑った。 

「良し!獲物は手に入れた!野郎共、引き上げだ!」

「「「「うぃ~す!」」」」

    クライム盗賊団は誰1人欠ける事無く、貴族の母娘を誘拐する事に成功していた。そして、グリッドはこの件をこなした事で新たな職業、【盗賊】を得ていた。

    ギラン達は笑みを浮かべアジトへと戻った。

「グリッド!大丈夫!?怪我は無い!?あぁ…こんな血だらけになって…!」

    到着早々マイラがグリッドを抱き締めていた。

「あの~?俺達は?」

「おだまり!あぁ、グリッド…グリッド~!」

    グリッドは笑顔でマイラに告げた。

「心配要りませんよ。これは全部返り血なので。俺は傷一つ無いですよ。寧ろ護衛と戦った皆さんの方がひど…」

「あぁぁぁ!良かったぁぁぁっ!」

「く、苦し…!」

    ギランがマイラに言った。

「その辺にしとけ。グリッド、良く殺った。あの執事はどうだった?」

「結構な使い手らしかったですが…俺が子供だったせいで油断したみたいで。その隙に。」

「かかっ、成る程な。まぁ、兎に角良く殺った。今日の主役はお前だな、グリッド。その2人の初乗りはお前にやる。好きに犯せ。」

    ギランの言葉に拐われた2人は顔を真っ青にしていた。

「団長~?俺も結構頑張ったんすケド!?」

「お前はあの後逃げ出した御者を馬で踏んで転がってただろうが!全く…先輩として恥ずかしくないのか!?」

「うっ!ありゃあ暗くてよく見えなかったせいで…。」

    グリッドが言った。

「アレックスさんて【夜目】持ってないんですか?」

「は?グリッド、お前持ってんの?」

「ええまぁ。意識する様になったらスキルにありました。暗くても昼間みたいに見えますよ?」

「いつの間に…。仕方ねぇ…。その2人はくれてやるよちきしょぉぉぉぉ…。」

    アレックスは泣きながら塞ぎこんだ。それを見て団員がグリッドに話し掛けてきた。 

「あ~あ、アレックスの奴なぁ…。アイツ、高貴な身分の女じゃなけりゃ勃たないからなぁ。なぁに夢みてんだか。グリッド、お前はその辺の好みは?」

「好みですか?う~ん…強いて言えばマイラさんかなぁ?」

    マイラの耳がピクリと反応した。

「よりにもよって姐さんか!?お前…正気…ぶべらっ!?」

    男は地面を転がり動かなくなった。マイラは息を荒げ、グリッドに迫った。

「はぁ…はぁ…!も、もうダメ…♪結婚してぇぇぇぇっ!愛してるわぁぁぁっ、グリッドぉぉぉぉぉっ♪」

「ちょっ!?マイラさん!?苦しいぃぃぃぃっ!?」

「盗賊なんて引退して…何処か田舎の小さな村で子供を作ってのんびり暮らすの!大丈夫…愛さえあれば何とでもなるわっ!はぁ…はぁ…!さぁ…今すぐ子作り…あいたぁっ!?」

    マイラの頭にギランの拳が落ちた。

「バカ言ってんじゃねぇ!グリッドは俺の子だ!誰がお前にやるか!グリッド、早く行け。数日後にはそいつらを1人づつ金に変えるからよ。ヤるなら今の内だ。」

「…はぁ。別に興味無いんですけどねぇ…。ヤれと言われればヤりますよ。じゃあ、皆さん。お先に。」

    グリッドは2人を抱え寝室へと向かった。

「あぁぁ…、私のグリッドがぁ…。」

「お前、グリッドの事好き過ぎだろ…。」

「当たり前じゃない!あの子は天使よ!この男臭いアジトに咲いた一輪の花!あぁ…グリッド~…。」

    マイラは口唇を感電泣いていた。

「やれやれ…。マイラがこの調子だと…獲物の2人も危ないかもしれんなぁ…。全く…何処で育て方を間違ったのやら。」

    マイラに預けた時からである。

    そんな騒ぎの中、グリッドは寝室で2人をしっかり抱いていた。母親の方は20代後半、娘はグリッドと同じ歳だ。

「ふぅ…。お疲れ様でした。では俺はこれで…。」

    グリッドは事を終え部屋を出ようとした時、両腕を2人に抱きつかれ止められた。

「ま、待って下さい…。その…もう一度抱いて頂けませんでしょうか…♪恥ずかしながら私…最近主人とは…その…。」

「お母さん狡い!グリッドくんは私とするの!歳も同じだし!ね、グリッドくん?私の方が良かったでしょ?」

    何なんだろう…。自分達が拐われて犯されたって自覚は無いのかな?

「君達…拐われて犯されたって自覚はある?それを自ら懇願するなんて…。」

    2人は声を重ねて叫んだ。

「「犯されてなんかいません!」」

「うんうん………は?」

    グリッドは唖然としていた。

「確かに私達は拐われましたが…私は合意の上で股を開きました…♪娘と違い、一切抵抗しなかったでしょう?」

「わ、私だって!最初はその…痛かったから暴れたけど…。良くなって来てからはちゃんと受け入れたもん!」

    本当に何なんだろう…。グリッドが頭を悩ませていると、マイラが寝室にやってきた。

「ふふふ、良かったでしょう?貴方達。この子はね、私達女盗賊でミッチリ仕込んだ逸材よ♪どうやら貴女達もグリッドの魅力に参ってしまった様ね。」

「「はい。それはもう…♪」」

「…は?」

    マイラは言葉を続ける。

「で・も。グリッドは盗賊で、貴女達は貴族。身分違いよ。諦めなさい。母親は旦那からたっぷり身代金をせしめて返す。娘は…奴隷商人行きね。さあ、グリッド、娘にこう言いなさい。命令だ、俺の為にお金になってくれるかい?ってね!お~っほっほっほ♪」

    娘は言った。

「それがグリッドくんの為になるなら喜んで♪でも…出来れば売られる前に赤ちゃん欲しいなぁ…。そしたら何でも我慢出来るから!ね?グリッドくんっ!」

「あら、それなら私も娘を失うのですから新しい子が欲しいですわ。寂しさを埋める為に。ねぇ、グリッドさん?」

「「ふふふふふふ…♪」」

    結論、女は怖い生き物だ。

    数日後、母親は莫大な身代金と引き換えに家へと返された。お腹には勿論グリッドの子を宿し。そして娘は…。

「新人の【コーデリア】です!今日から宜しくお願いしまぁす♪あ、お腹にグリッドの赤ちゃんがいるからそっち系は間に合ってま~す。」

    娘は奴隷商人に一度売られた後、あまりに泣き叫び嫌がった為、グリッドが泣く泣く買い戻した。

「これが…盗賊…?何か想像と違う!?」

「えへへ…♪宜しくね、パ~パ♪」

    グリッドは今盗賊になった事を若干後悔していた。





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