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第1章 はじまり
第24話 動く帝国
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アインが正体を明かし、ドワーフ達と親睦を深めている頃、ガーデン帝国皇帝に報告があった。
「うっ──」
「なんだ、何か用か?」
皇帝は異様な臭いを放つ焼いた肉にかぶり付き恍惚な笑みを浮かべていた。グラスはワインかと思いきや、酒の匂いがしない。
「くふぅ……っ、美味い……っ! 肉は人間に限るな! そしてどんな酒にも勝るこの血! あぁ……最高だっ!」
「へ、陛下。ご報告が……」
「早く言え宰相。貴様も喰われたいか?」
「ひっ! じ、実は……」
先代皇帝に仕えていた宰相は恐る恐る報告書を読み上げた。
「ふむ。帝国内に反抗勢力はなくなったか」
「はっ。各地を治めている領主は陛下に恭順の意を示しました。ですがいくつか問題がございまして」
「問題だと?」
「はっ。実は最後まで抵抗を続けていたハーチェット領に突如要塞が現れました」
「要塞だと? 誰が率いておる」
「それが……ハーチェット領主には隣国に出ていた娘がおりまして……。恐らくその娘が率いていると思われます」
「……はっ、小娘一人に何ができる。そうだな……ならば表向き従っているだろう奴らに向かうように言え。要塞を潰さねば貴様らの領地を潰すと脅すのも忘れるな」
「ははっ、かしこまりました! ではそのように……」
宰相が部屋を出ると皇帝は再び分厚い肉にかぶりついた。
「くはぁぁぁ……っ、美味いっ! いくら食っても食い足りんっ! 人間の肉とはなぜこんなにも美味いのだ! くくくっ、この国は良いな。まだまだ肉がたんまりある……。最高の餌場だな。我をこの地に派遣してくれたディザーム様には感謝しかないなぁ。くくくくっかはははははははっ!」
翌日、宰相は従ってはいるが未だ反抗的な領主に向け書簡を送った。
「ハーチェット領を潰さねば私の領地を潰すだと? あそこはもう何もないはずでは……」
「いえ、どうやらハーチェット領主の娘が要塞を作ったそうでして」
「要塞? まさか表立って皇帝に逆らう気か!」
「どうやらそのようです。私達はいかがいたしますか?」
「……すぐに出立する。領民共々だ。ただし行きたい者だけで良い。民には民の暮らしがあるだろうからな。死ぬとわかっていても育った地を捨てられぬ者もいるだろう」
「かしこまりました。では御触れを出し、移動は闇に紛れてという事で」
「ああ。あんな魔族になんぞ従えるか! 私はこの時を待っていたのだ!」
他にも心の底から従う気のない領主達が行動に出た。
そして宰相の報告から半月後、ハーチェット領には多くの移民が流れ着いていた。
「アインさん! すごい数の人がやってきました!」
「うむ。予想通りだな。迎えに行くぞリーリエ」
「はいっ!」
アインはリーリエを連れ門の前に移動した。
「この集団の代表は誰だ?」
「私だ」
アインとリーリエの前に重厚な鎧を纏った男が歩み出てきた。
「あ! あなたは確かスタット領主?」
「ああ。私はスタットの領主【エルム・スタット】だ。爵位はハーチェット殿と同じ伯爵だ。そなたはリーリエ嬢だったか」
「はい! あの……もしかして私達の味方に?」
「ああ。私はあの皇帝に従う気はない。私の力で良ければ使って欲しい。その代わり、我が民を受け入れてはくれまいか」
するとアインがエルムにこう言った。
「エルム殿、助力感謝する。もちろん全員受け入れる用意はある。あの門から中に進んでくれ」
「貴殿は?」
「俺はアインだ。縁あってリーリエに力を貸している。怪しい者ではないよ」
「そうか。すまないが世話になる。協力して皇帝を倒そうではないか」
「そうだな」
それから連日大勢の民が要塞に終結していった。閑散としていた要塞は今やちょっとした町より賑わっている。食糧はこれまで備蓄してきた物があり、さらに毎日新鮮な食糧が手に入る。集まった民は一万を超えたが、まだまだ余裕があった。
そして人の流れが終わりを迎えた頃、アインは味方についた領主達を集め会議を開いた。
「エルム殿、移民はこれで終わりかな?」
「ああ。私の知る限りでは皇帝に従わない領主はこれで全員だ」
「わかった。では今後の事について話し合うとしよう」
アインは集まった領主達に向け作戦と要塞の機能について伝えた。
「籠城作戦か。食糧は足りるだろうか」
「そこは問題ない。問題は皇帝自ら攻めてくるかどうかだ。エルム殿から見て皇帝は攻めてくると思うか?」
「……恐らく最後まで来ないだろう。あの魔族は人間の命など餌程度にしか思っていないからな。駒がなくなるまで城に引きこもっているだろう」
「なるほど。エルム殿は皇帝の姿を見たか?」
「ああ。醜く肥え太った豚野郎だ。オークの方がまだ整っているだろう」
「その魔族の名は?」
「【エンドリクセン】とか言っていたな」
「エンドリクセン!? 確かか!?」
「あ、ああ。どうした?」
アインは眉間にしわを寄せた。
「エンドリクセンはリヒトーの弟だ」
「リヒトー?」
「魔王ディザームがまだ人間だった頃の話だ。エンドリクセンはシュバイン帝国の第二皇子だよ」
「な、なんだと!? いや、待て。なぜアイン殿はそれを知っている」
アインは集まった領主達にも正体を明かした。
「ゆ、勇者アインの生まれ変わり!?」
「そうだ。だがこの話は内密に頼む。俺が生まれ変わっていると知ったら魔王ディザームは全軍を率いて侵攻してくるだろうからな」
「は……ははっ。そうか……勇者アイン! あの人類最強の勇者が味方に! これは勝てる! アイン殿、私達は貴方様に従いましょう!」
アインは鼻息を荒くするエルム達に言った。
「俺はあくまでもリーリエの補佐だ。従うならリーリエにだ」
「あの魔族をどうにかできるなら誰にでも従おう。この国をこれ以上汚されたくはない」
「ああ。ではこれより籠城作戦を開始する」
「「「「おうっ!」」」」
こうして帝国は二つに割れ、アインとリーリエを先頭に反皇帝派ができあがったのだった。
「うっ──」
「なんだ、何か用か?」
皇帝は異様な臭いを放つ焼いた肉にかぶり付き恍惚な笑みを浮かべていた。グラスはワインかと思いきや、酒の匂いがしない。
「くふぅ……っ、美味い……っ! 肉は人間に限るな! そしてどんな酒にも勝るこの血! あぁ……最高だっ!」
「へ、陛下。ご報告が……」
「早く言え宰相。貴様も喰われたいか?」
「ひっ! じ、実は……」
先代皇帝に仕えていた宰相は恐る恐る報告書を読み上げた。
「ふむ。帝国内に反抗勢力はなくなったか」
「はっ。各地を治めている領主は陛下に恭順の意を示しました。ですがいくつか問題がございまして」
「問題だと?」
「はっ。実は最後まで抵抗を続けていたハーチェット領に突如要塞が現れました」
「要塞だと? 誰が率いておる」
「それが……ハーチェット領主には隣国に出ていた娘がおりまして……。恐らくその娘が率いていると思われます」
「……はっ、小娘一人に何ができる。そうだな……ならば表向き従っているだろう奴らに向かうように言え。要塞を潰さねば貴様らの領地を潰すと脅すのも忘れるな」
「ははっ、かしこまりました! ではそのように……」
宰相が部屋を出ると皇帝は再び分厚い肉にかぶりついた。
「くはぁぁぁ……っ、美味いっ! いくら食っても食い足りんっ! 人間の肉とはなぜこんなにも美味いのだ! くくくっ、この国は良いな。まだまだ肉がたんまりある……。最高の餌場だな。我をこの地に派遣してくれたディザーム様には感謝しかないなぁ。くくくくっかはははははははっ!」
翌日、宰相は従ってはいるが未だ反抗的な領主に向け書簡を送った。
「ハーチェット領を潰さねば私の領地を潰すだと? あそこはもう何もないはずでは……」
「いえ、どうやらハーチェット領主の娘が要塞を作ったそうでして」
「要塞? まさか表立って皇帝に逆らう気か!」
「どうやらそのようです。私達はいかがいたしますか?」
「……すぐに出立する。領民共々だ。ただし行きたい者だけで良い。民には民の暮らしがあるだろうからな。死ぬとわかっていても育った地を捨てられぬ者もいるだろう」
「かしこまりました。では御触れを出し、移動は闇に紛れてという事で」
「ああ。あんな魔族になんぞ従えるか! 私はこの時を待っていたのだ!」
他にも心の底から従う気のない領主達が行動に出た。
そして宰相の報告から半月後、ハーチェット領には多くの移民が流れ着いていた。
「アインさん! すごい数の人がやってきました!」
「うむ。予想通りだな。迎えに行くぞリーリエ」
「はいっ!」
アインはリーリエを連れ門の前に移動した。
「この集団の代表は誰だ?」
「私だ」
アインとリーリエの前に重厚な鎧を纏った男が歩み出てきた。
「あ! あなたは確かスタット領主?」
「ああ。私はスタットの領主【エルム・スタット】だ。爵位はハーチェット殿と同じ伯爵だ。そなたはリーリエ嬢だったか」
「はい! あの……もしかして私達の味方に?」
「ああ。私はあの皇帝に従う気はない。私の力で良ければ使って欲しい。その代わり、我が民を受け入れてはくれまいか」
するとアインがエルムにこう言った。
「エルム殿、助力感謝する。もちろん全員受け入れる用意はある。あの門から中に進んでくれ」
「貴殿は?」
「俺はアインだ。縁あってリーリエに力を貸している。怪しい者ではないよ」
「そうか。すまないが世話になる。協力して皇帝を倒そうではないか」
「そうだな」
それから連日大勢の民が要塞に終結していった。閑散としていた要塞は今やちょっとした町より賑わっている。食糧はこれまで備蓄してきた物があり、さらに毎日新鮮な食糧が手に入る。集まった民は一万を超えたが、まだまだ余裕があった。
そして人の流れが終わりを迎えた頃、アインは味方についた領主達を集め会議を開いた。
「エルム殿、移民はこれで終わりかな?」
「ああ。私の知る限りでは皇帝に従わない領主はこれで全員だ」
「わかった。では今後の事について話し合うとしよう」
アインは集まった領主達に向け作戦と要塞の機能について伝えた。
「籠城作戦か。食糧は足りるだろうか」
「そこは問題ない。問題は皇帝自ら攻めてくるかどうかだ。エルム殿から見て皇帝は攻めてくると思うか?」
「……恐らく最後まで来ないだろう。あの魔族は人間の命など餌程度にしか思っていないからな。駒がなくなるまで城に引きこもっているだろう」
「なるほど。エルム殿は皇帝の姿を見たか?」
「ああ。醜く肥え太った豚野郎だ。オークの方がまだ整っているだろう」
「その魔族の名は?」
「【エンドリクセン】とか言っていたな」
「エンドリクセン!? 確かか!?」
「あ、ああ。どうした?」
アインは眉間にしわを寄せた。
「エンドリクセンはリヒトーの弟だ」
「リヒトー?」
「魔王ディザームがまだ人間だった頃の話だ。エンドリクセンはシュバイン帝国の第二皇子だよ」
「な、なんだと!? いや、待て。なぜアイン殿はそれを知っている」
アインは集まった領主達にも正体を明かした。
「ゆ、勇者アインの生まれ変わり!?」
「そうだ。だがこの話は内密に頼む。俺が生まれ変わっていると知ったら魔王ディザームは全軍を率いて侵攻してくるだろうからな」
「は……ははっ。そうか……勇者アイン! あの人類最強の勇者が味方に! これは勝てる! アイン殿、私達は貴方様に従いましょう!」
アインは鼻息を荒くするエルム達に言った。
「俺はあくまでもリーリエの補佐だ。従うならリーリエにだ」
「あの魔族をどうにかできるなら誰にでも従おう。この国をこれ以上汚されたくはない」
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