スキルは見るだけ簡単入手! ~ローグの冒険譚~

夜夢

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1巻

1-3

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 その日、ローグは公爵の屋敷に泊まる事になったが……彼の部屋には夜遅くまで三人の娘達が順番に訪問してきて、なかなか寝かせてもらえなかった。

「遅くに押しかけてしまって、申し訳ございません。でも、もう少しゆっくりお話ししてみたくて」

 そう言って、長女のフローラはローグに身を寄せてしなだれかかる。
 ローグは苦笑しながらさりげなく身を引く。そんなやり取りが先程から繰り返されていた。

「いや、気にしなくていいですよ。あ、これは質問ですが……私のような一般人が公爵家の娘の夫になんて……アリなんでしょうか?」
「もし、三人のうち誰かと結婚したら、公爵家に婿入りする形なので、ローグ様は貴族になります。公爵家の跡取りは私達姉妹しかいませんし」
「貴族か……なんか気が引けるな……」
「愛に爵位なんて関係ありませんわっ!」
「あ、そうですか……」

 フローラにダメ押しされ、ローグは笑うしかなかった。

(何か大事おおごとになってきたな。旅立ってすぐに貴族に……とか。俺まだ十五歳で、成人したばかりだぞ? 結婚云々うんぬんはともかく、三人とはこれからゆっくりと仲を深めていくとしよう)

 こうして、奇妙な縁からローグは公爵家を拠点として両親達を捜す事になるのであった。


 †


 翌朝、娘達がローグの部屋に押しかけた事がもうアランの耳に入っていた。
 アランは自室にローグを呼び出し、平謝りする。

「旅の疲れもあっただろうに、すまなかった! 娘達を許してやってくれ! 特に長女のフローラは婚期を逃すまいと焦っておるのだ! 娘の気持ちもんで、出来れば前向きに検討を……」

 したたかな公爵は結婚の念押しを忘れない。

「いえ、お嬢様方に良くしていただいて、悪い気はしませんでしたので。目的を果たしたら考えさせていただきます」
「そ、そうかそうか! いや、ははは。安心したぞ! 我が家もこれで安泰あんたいだな。セバス、他家に見合いは今後必要ないと断りを入れておけ、三人全員だ。それと……ローグ殿、これを」

 ローグの返事に気をよくしたアランは、何やらセバスに耳打ちすると、机の上にあったカードを差し出した。

「これは君のギルドカードだ。君の能力、ギルドで鑑定されたら間違いなく騒ぎになる。なので、ギルドマスターに無理を通して特別に作らせた。これを持っていくといい。それから、一度ギルド長に会ってみてくれ。力になってくれるはずだ」

 実にありがたい計らいではあるが、ローグには疑問もあった。

「何故私の能力をご存じなのですか?」
「失礼かとは思ったが、服選びの時にメイドに【鑑定】させた。うちのメイド達は優秀でな、外敵から家を守るために、一応全ての客人を鑑定しておるのだ。しかし……【神眼】とはな……もしやローグ殿は神から直接この力を授かったのか?」
「えぇ。以前、神を助けたお礼にと。その時、両親と親友が生きている事を教えていただきました。それから私の旅が始まったのです」

 アランは椅子に座り、目をつぶって口を開いた。

「そうか……実は五年前に君の村を襲った盗賊団について、ギルド長に尋ねてみたのだ。どうやら既に潰されているようでな、攫われた者の行方の手がかりは、そこで途切れてしまった。恐らくどこかに売られたか、逃げ出したか……あるいは何かの理由で身を隠しているか。あのバランに限って、滅多めったな事はないと思うが、五年経っても戻らないとは、もしかすると何かに巻き込まれているやもしれんな……」

 アランの口ぶりでは、どうもローグの父はただ者ではない様子だ。ローグは気になって尋ねてみた。

「父は強かったのですか? 家だと母に叱らしかれてばっかりだったので……」
「ははは、そりゃ強かったぞ? ワシらの兄弟の中じゃあ一番だったな。だが、どんなに強くても、誰かを守りながら多数の相手と渡り合うとなれば……キツイだろうな」
「なるほど。色々とありがとうございました。ひとまず、ギルドに顔を出してみます。しばらくはこの町を拠点にする予定なので、何かありましたらギルドに連絡を。それでは……」

 ローグは礼を言って立ち去ろうとしたが、アランがそれを制止する。

「はっはっは、待て待て、まさか宿を取ろうと言うんじゃないだろうな? 君の住む場所はここだ。今日も帰ってくるとちかえ。そうしたら、屋敷から出る事を許そう……ニカッ」
(まったく、囲う気満々じゃないか。ここで暮らすとなると、誘惑が多そうだなぁ……)

 アランの半ば強制的な誘いに、ローグは苦笑しながらも頷くしかなかった。

「分かりました。行ってきます」
「ほほっ。行ってこい、未来の息子よ! はっはっは」


 ようやく解放されたローグは、町にある冒険者ギルドを訪れた。
 建物の中には屈強な冒険者達がひしめき、依頼を探したり、仲間と準備をしたりしているようだった。ローグはカウンターにいた娘に話し掛ける。

「すまない、ギルド長はいるかな? ローグが会いに来たと伝えてもらえないだろうか?」
「は、はははははいっ! ローグ様ですね! 少々お待ちくださいっ! あいたぁっ!」

 娘は何やら慌てた様子で奥に駆けていくが……途中で盛大に転倒した。

「だ、大丈夫なのか、アレ?」

 心配しながら待っていると、先程の娘が戻ってきた。

「お、お待たせいたしました。ギルド長が会うそうなので、二階の部屋へどうぞ」

 二人は二階の廊下を進んだ先にある部屋へ移動し、娘が扉をノックする。

「ギルド長、お連れしました~」
「開いてるぞ」

 娘はローグを中に入れると、扉を閉めて立ち去った。
 中で待っていたのは、スキンヘッドに顎髭あごひげを蓄えた筋骨隆々きんこつりゅうりゅうな中年の男性。どうやら彼がギルド長らしく、机の上に書類の山を築き、忙しそうに仕事をしている。

「お前さんがローグか。アランから聞いているぞ。すまんが、ちょっとその球に触ってもらえるか?」

 ギルド長はそう言って、机とは別のテーブルの上に置かれた水晶球を指差した。
 ギルド長には能力を隠さない方が良いだろうというアランの助言があったため、ローグは言われるがままに手を触れる。すると、水晶にローグのステータスが表示された。


 名前:ローグ・セルシュ
 種族:ヒューマン  レベル:32
 体力:710/710  魔力:420/420
 ▼スキル
 【神眼】【習熟度最大化】【ナビゲート】
 ▽戦闘系スキル
 【短剣術/レベル:MAX】【投擲術/レベル:MAX】
 【咆哮/レベル:MAX】【高速移動/レベル:MAX】【火属性魔法/レベル:MAX】
 ▽生産系スキル
 【剥ぎ取り/レベル:MAX】【鍛冶/レベル:MAX】【調理/レベル:MAX】
 【裁縫/レベル:MAX】【細工/レベル:MAX】【木工/レベル:MAX】
 【釣り/レベル:MAX】


 魔物や盗賊との戦闘をて、レベルがいくらか上昇している。
 ギルド長は席を立って水晶球に歩み寄ると、溜息をこぼした。

「ほう。これは……なるほど。これじゃ、見られたら騒ぎになるのは必至だな。仕方ない、アランに頼まれたからな。お前、他人がスキルを使っているのを見るだけでスキルが手に入るんだっけ?」
「はい」
「なら、お前に良いスキルをくれてやる。【偽装ぎそう】と【隠蔽いんぺい】だ。お前のカードを貸せ。【偽装】でスキルレベルを、【隠蔽】で隠したい能力を消すんだ。こんな風にな」

 ギルド長はスキルを使ってローグのカードの表示を改竄かいざんしてみせた。レベルの数値が変わったり、スキルが消えたりしている。


 スキル【偽装】を入手しました。
 スキル【隠蔽】を入手しました。


「ほら、次は自分でやってみろ」

 そう言って、ギルド長は偽装を解除したカードをローグに返した。
 ローグはカードを受け取り、さっそくステータス部分を偽装・隠蔽していく。


 名前:ローグ・セルシュ
 種族:ヒューマン  レベル:32
 体力:710/710  魔力:420/420
 ▼スキル
 ▽戦闘系スキル
 【短剣術/レベル:3】【投擲術/レベル:3】
 ▽魔法系スキル
 【火属性魔法/レベル:4】
 ▽生産系スキル
 【剥ぎ取り/レベル:5】【鍛冶/レベル:2】【調理/レベル:3】【裁縫/レベル:3】
 【細工/レベル:3】【木工/レベル:3】【釣り/レベル:4】


 「ふむ、まぁ、このくらいなら、田舎から出てきた新人と言って通じるだろう。このカードは鑑定を阻害そがいする術式が組み込まれている。他のギルドで鑑定されても、偽装はバレないはずだ」

「ありがとうございます。それで……ギルドは始めてでして。出来ればシステムを教えていただきたいのですが……」

 ローグは礼を言って質問をするが、ギルド長は顔をしかめる。

「ちっ……この書類の山が見えねぇのかよ……俺は物凄く忙しいんだ。システムならさっきの受付に聞け! ほら、しっしっ!」

 追い払われたローグは、仕方なく一階に下りて、先程の受付の娘を探した。彼女はちょうどどこかに出かけるところらしい。ローグは慌てて後を追って声を掛ける。

「待ってくれ!」
「あら、ローグさん? どうしたんですか?」

 ローグは娘の目を見て言った。

「すまない、ちょっと質問があるんだけど、少し時間を貰えないか?」

 娘は突然の要求に少し困惑の表情を浮かべる。

「え? 今から休憩で、お昼ご飯に行くところなんですが……」
「いや、ギルドのシステムが分からなくてさ。ギルド長に君に聞けって言われたんだよ。これから食事なら、おごるから、そこで話してもらうってのはどうかな?」
「え? い、一緒に食事? し、仕方ないですね、これも仕事ですし? 分かりました」

 口ではそう言いながらも、娘は満更まんざらでもない様子で、ローグの申し出を承諾した。
 ギルドの建物を出たローグは、彼女に連れられて町を歩く。

「へえ、こんな場所もあるんだな。昨日着いたばかりでさっぱり地理が分からないんだ。誰か案内してくれるといいんだけど……」
「――し、ししし、少々お待ちくださいっ!」

 ローグのつぶやきを聞いた娘は、ふところから取り出したカードに向かって何やら話しはじめる。

「ギルド長! 私、今日はこれで業務上がりますので! それでは」
《おいっ! ちょ……プツン……》
「オーケーです。特別に、私が案内しますよ! さぁ、行きましょう、ローグさん。隅から隅まで案内します!」

 どうやらカードには通話機能が付いているらしく、それでギルド長に許可を取ったようだ。

「そ、そうだな、とりあえず美味い食事を出してくれる店に行こう。値段は気にしなくていいから、君の行きたい店に連れて行ってくれ」
「はいっ! じゃあ行きましょう」

 急に張り切りだした彼女は、ローグの腕にピッタリと組みつき、案内を始める。
 ギルドの近くの食事処で昼食を済ませた二人は、冒険者がよく使う店や飲食店、教会や市場など、町全体を見て回った。


 さんざん歩き回って日も暮れかけた頃、ローグ達は宿屋を兼ねた酒場に立ち寄った。ギルドのシステムを教えるから飲みに付き合えという受付の娘に押し切られた形だ。
 ……それが間違いの始まりだった。

「だからですね~、聞いてます?」

 明らかに酔っている様子の受付の娘が、ローグに酒臭い息を吐きかける。こうなっては色気も何もあったものではない。

「聞いてるよ。依頼を探して、受付に提出する。期日以内に達成して報告。成功なら報酬ほうしゅうが貰える。失敗すると違約金が発生する依頼もあるから、依頼書はきちんと読む……だろ?」
「んふふ~。あってます。ではぁ、次はランクについて、はいどうぞ~」
「ランクは依頼を複数回達成する事で上昇する他、何か偉業を達成した場合も上がる。ランクの種類は下から順にブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ゴッドで、ゴッドは現在世界に三人しか存在しない。ゴッドになるためには、複数の国の承認が必要」
「正解~。ぱちぱちぱち! では最後に……ギルド員としての禁止事項と遵守事項じゅんしゅじこうをどうぞ~」
「ギルド内での武力行使は禁止。また、犯罪行為が発覚した場合、ライセンスの停止、もしくは剥奪処分はくだつしょぶんが科される。依頼で得た情報は外部に漏らしてはいけない。もし危険な状況を発見した際は依頼と無関係でもギルド長に即時報告する」
「おめでと~。これでアナタも立派なギルド員になりました~。さ、祝杯です。どうぞどうぞ」

 受付の娘が差し出したグラスを受け取り、ローグは中身を一気に飲み干した。

「おぉ~! ローグさん、イケる口ですね! 私も負けていられませんっ! んくっんくっ!」
「だ、大丈夫……か?」

 赤ワインを一気にあおる娘に、ローグは若干引き気味だ。

「ら~いじょ~ぶれすよ~。酒は百薬ひゃくやくちょう!」
「……呂律ろれつが回ってないじゃん……」

 この夜、彼女が酔い潰れるまでローグが解放される事はなかった。


 †


「昨日は散々だったなぁ……気を取り直して、今日はクエストを受注してみるか」

 早起きしてギルドを訪れたローグに、ナギサが声を掛けてきた。

《マスター、どうせクエストを受けるのなら採取系や護衛等はやめて、討伐系にしましょう》
「護衛はそのままの意味として、採取と討伐は何をすればいいか、もう少し詳しく教えてくれ」
《採取系は主に調合等に使われる素材集めのクエストですね。たとえば〝薬草を何枚集めろ〟みたいなものです。次に、討伐系は、簡単に言ってしまえばモンスター退治です。中には、手配書が出ている悪人等を捕まえるクエストなどもあります。生死問わずと明記されていれば、殺害しても構いません》
「分かった。ありがとう、ナギサ。じゃあ、討伐依頼を見てみようかな」

 ローグは壁に貼り出された無数の依頼書に一つずつ目を通していく。

「えっと俺が受けられるのは……何々……ゴブリン退治、ワイルドウルフ退治、オーク退治……この町周辺のモンスター退治ばっかりじゃないか」
《まぁ……冒険者になり立てですから。普通はこんなものでしょう。オークとはまだ戦っていなかったので、オーク退治でいいのでは? あるいは、改めて討伐実績を得るためにゴブリンでもいいですが……》

 公爵からカードを貰ってからまだ一度も戦っていない。カードに討伐数を記載したいならゴブリン討伐でもいいというわけか。

「いや、新しいスキルを入手したいからオークにするよ。それに、確か肉が美味いんだろ?」

 ローグは依頼書の中からオーク討伐を選び、受付へと持っていった。

「すみません、これ受けたいんだけど、大丈夫かな?」

 昨日の娘はいなかったので、違う受付職員に声を掛ける。

「カードを提示してください。ステータスを見てから判断いたします」

 ローグは偽装・隠蔽をほどこしたカードを、職員の女性に手渡した。

「このレベルなら……大丈夫かな。お待たせいたしました。今回の依頼はオーク討伐ですね。最近、この町周辺でも目撃件数が増えています。もしかすると、どこかにオークの集落があるかもしれません。十分お気を付けください。期間はありませんので、無理はしないでください」
「分かりました。ありがとうございます」

 ローグはカードを受け取り、ギルドを後にした。


 町を出たローグは、街道沿いを北に向かって歩いていた。

「ナギサ、近くにオークの集落はあるか?」
《お待ちください……見つけました。このまま北に十キロメートル行った山の中腹にあるようです。山にはオーク以外にワイバーンや、危険な毒を持つバジリスクなども棲息せいそくしています。それでも行きますか?》
「ワイバーンにバジリスクね。新しいスキルが得られそうだな。ところで、状態異常耐性は、どうしたら手に入るんだ? これも見るだけか?」
《耐性は見ても分からないので、体内に直接取り込むしかありません。耐性持ちのモンスターの肉をたくさん食べてください》
「なるほど。耐性が付くまで食べればいいのか。でも、それって【神眼】って言うのかな……ま、とりあえず、山を目指しますか」

 小さな疑問は生じたものの、ローグは気にせず歩きはじめた。
 道中、ゴブリンやワイルドウルフと遭遇したが、サクサク退治して、行程の半分くらいを難なく進んだ。しかしそこで、オークが集団で何かを抱えて運んでいる場面に出くわした。

「何かを運んでいるけど……」
《女性ですね。どうやら集落に運んで繁殖はんしょくのための〝苗床なえどこ〟に使うつもりなのしょう》
「許せないな……」
《ええ、まったく。早急に殺しましょう》

 ローグは気配を殺して一団に近づいた後、【高速移動】で最後尾にいたオークをミスリルソードで頭から真っ二つに両断した。

「ぐるあっ! (何事だ!)」
「ぐるるるがあ! (最後尾が一人られた!)」
「ぐが、がぁぁっ! (ちくしょう、反撃だ!)」

 残ったオーク三匹は、運んでいた女をその場に捨て、持っていた武器を構えてローグに襲い掛かってきた。

「斧、大剣、棍棒か。よし、掛かってこい!」

 ローグはまず〝けん〟にてっした。三対一ではあったが、囲まれないように【高速移動】で距離をたもち、危なげなく攻撃を躱していく。


 スキル【操斧術/レベル:MAX】を入手しました。
 スキル【大剣術/レベル:MAX】を入手しました。
 スキル【棒術/レベル:MAX】を入手しました。


「よし、様子見は終わりだ! くたばれ、オークどもっ!」

 ローグは【ファイアーランス】を唱えた。
 さかる火の槍が斧と棍棒を持ったオークの頭をつらぬき、一瞬で二匹を絶命させた。

「ぐおぉぉっ! (くそっ、キャスターか!?)」

 二匹の仲間を一度に殺され、大剣を持ったオークが動揺を見せる。
 ローグは剣を構えて対峙たいじした。

「まだ手があるなら使って見せろ」

 言葉を理解したのかは定かではないが、オークがうなり声を上る。

「がぁぁぁっ! (黙ってられるかっ! 【身体能力強化】!)」


 スキル【身体能力強化/レベル:MAX】を入手しました。


 オークは大剣を上段に構え、すさまじい速さで振り下ろす。先ほどまでの攻撃に比べて、見るからに威力が上がっている。ローグは【高速移動】で斬撃を回避したものの、地面は大きくえぐれていた。まともに受けると危険な攻撃だ。

「【身体能力強化】ね、ありがとう」
「ぐげっ、ぐおぉっ! (舐めるな、ニンゲン!)」

 オークは大剣を横薙ぎに繰り出してローグを両断しようとしたが、ローグはこれをバックステップで避ける。大剣を振り切ってがら空きになったオークの懐に、今度はローグが飛び込んだ。

「がっ――!? (何っ――!?)」

 驚愕きょうがくの唸り声を上げる間もなく、オークの首が胴体から切り離された。
 ローグは剣を鞘に収めながら一息つく。

「ふぅ……スキル四つか。まぁまぁだな」
《お疲れ様です、マスター。周囲に敵性反応はありません》
「ありがとう、ナギサ。さて、女の人は無事かな?」

 ローグは先程オークに運ばれていた女性に歩み寄った。どうやら気絶しているようだ。目立った外傷はないが意識を失っている。放っておくわけにもいかないので、ひとまず彼女が目を覚ますまで待つ事にする。
 この時間を利用して、ローグはオークの死体を切り分け、オーク肉にしてから魔法の袋に収納した。それから火をおこし、木に刺したオーク肉に火を通す。味付けは市場で買った調味料を振りかけただけだが、肉が焼ける香ばしい匂いが辺りに広がり、食欲をそそられる。

「初めて食べるが……本当に美味いのかねぇ……」
《オークはレベルの高い個体ほど美味おいしくなるそうです。今回の奴らはそれほどでもなかったので、まぁ、普通の味でしょう》

 肉が焼けると、ナイフで薄切りにし、近くにえていたハーブに巻いて一口食べた。

「美味いっ! これで普通の味!? いのししの肉より全然美味いぞ!?」

 ローグはあっという間に平らげて、焼いた肉は一瞬でなくなった。

「これは……集落に行ったら全部狩らないと……きっと酒にも合うだろうな」
《極上のオーク肉は市場にはあまり出ませんので価値があります。それより、女性が目を覚ましそうですよ?》

 ナギサにうながされ、ローグは助けた女性を抱き起こした。

「ん……んん……ここは……」

 女性はゆっくりと目を開けて、辺りを見回す。

「気が付いた? 自分がどうなっていたか思い出せるかい?」
「街道を散歩していたら……いきなりオークの群れに遭遇して……はっ! オ、オークは!!」

 女性は自分に起こった事を思い出し、驚きに身を硬くする。

「安心して。君を運んでいたオーク達はもう倒した。無事でよかったよ。あのまま連れて行かれたら何をされていたか……」
「はっ……! ありがとうございました。何事もなかったのはあなたのおかげです。助かりました」

 女性はおぞましい光景を想像して涙ながらに感謝の言葉を連ねた。

「気にしなくていいよ。それより……ここから町まで五キロくらいあるんだけど、帰れそう? 無理ならギルド長に連絡するけど……」
「まだそんなに歩けそうにないので、出来たら連絡していたければ……でもその前に何かお礼をしないと……」
「いや、礼とか全然いいから、本当に」

 固辞こじするローグの話も聞かず、女性は何やら怪しげな笑みを浮かべる。

「今はお金もないし……身体で……」
「ま、待て! そういう目的で助けたわけじゃないぞ! もっと自分を大切にしてくれ」

 その言葉を聞き、助けた女性は一つ息を吐き、ニコッと笑った。

「もう、冗談よ。ちょっと素敵な男の子だったから、からかってみたの。ごめんなさいね」
「まったく……人が悪いぞ?」
「ふふっ、ごめんなさい。でも……歳の割に結構しっかりしてるのね。何か頼れる男って感じ」
「うーん……むしろ、偉そうだったりしない? 村では顔馴染みばかりだったから、気を抜くとすぐにこういう話し方になるんだよな」

 女はローグの答えに笑いながら返事をする。

「全然! むしろワイルドで格好良いわよ?」
「なら……気にしないでいいか」
「そうね。そっちの方がモテると思うわ」
「さいですか……」

 しばらく話していると、女性の体調も回復してきたので、二人は歩いて町に戻ったのだった。


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