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第01章 転生編
01 迷いこんだ先で
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ここは現代日本。不況やら何やらで著しく経済活動が停滞している時代。そんな現代日本でこの物語の主人公【千葉 蓮太】は、いわゆるブラック企業といわれる職場に勤めていた。
サービス残業、休日出勤は当たり前、サボろうものなら自宅まで同僚が迎えにくる始末。現に蓮太も上司の命令を受け、今サボった同僚を迎えに来ている。
「勘弁してくださいよ先輩っ、俺これ以上働かされたら過労死しちゃいますよっ!」
「言うな……っ。俺だって今にも死にそうなんだよ!」
たまにある休日はひたすら寝て過ごす。だが疲れはとれず、目の下には消えない隈が刻まれている。
泣く泣く出社準備を始めた後輩が蓮太に問い掛ける。
「先輩、先輩はこの仕事辞めたいと思わないんですか?」
「辞めたところで再就職先がなぁ。資格でもあればまた別なんだろうけど」
「不景気っすからね……。あぁ~……どこか違う世界に行きたいなぁ~」
「お前はまたそんな事言って」
この後輩はファンタジー系の小説や漫画、ゲームを生き甲斐にしている奴だ。ざっと部屋を見回しただけでその趣味の深さがうかがえる。
「そんなの現実にあるわけないだろ?」
「……そうでも思わなきゃやってらんないんっすよ。ここにある本やゲーム、買ったは良いものの全然手を付けられてないんっすよ? あぁ~……異世界でスローライフしたいぃぃ~っ!」
蓮太もこの後輩の気持ちはよくわかる。蓮太自身も昔はこの後輩と同じ趣味を持っていたからだ。だが仕事の忙しさに流され、いつしか趣味から離れていた。
「ほら、もう準備できただろ。行くぞ」
「うぇぇ……」
なんとか渋る後輩を連れ昼前に出社、そして退社は深夜二時。労働基準法はどこにいったのだろうか。
「……やってられるかっ!」
蓮太はついにキレた。
「こんな時間まで働かせておいて明日──いや、もう今日か。朝一から県外出張なんて酷すぎるっ!」
蓮太は上司から明日朝一で他県にある処理場の監査と上がりを受け取りに行くよう命じられた。何を処理しているかは極秘であり、その処理場も山深い所にあるらしい。そしてその処理場へは電車もバスも通っておらず、最寄りの駅からは車か徒歩でしか行くことができない。
「ちゃんと迎えに来てくれるんだろうなぁ」
退社後、蓮太は急ぎ出張のための荷物をまとめ、駅へと走る。タクシー代は経費として落ちないため、時腹をきりたくないなら足を使うしかないのである。
「はぁっはぁっ! ま、間に合った……!」
どうにか新幹線に間に合い、揺られる事一時間弱。そこからさらに私鉄に乗り換える。
「や、やば……寝そう……くぅ……」
不眠不休だった蓮太は心地よい揺れと静かな車内の空気に負け眠りに落ちてしまった。
「お客さん、お客さん!」
「う……んん……はぇっ!?」
蓮太は車掌に身体を揺らされようやく目を覚ました。
「もう終点ですよ」
「し、終点!? じゃあ◯✕駅は……」
「一時間前に通過してますね」
「や、やっちゃった!」
「あと十分したら戻りの列車が出ますよ」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
そうして引き返した蓮太だったが、目的地の駅に到着し辺りを見回した。
「はぁ……、こんなに待たせて迎えなんてあるわけないよなぁ……」
ひとまず謝罪のため処理場に連絡を入れると、迎えに出した車は蓮太がいくら待っても来なかったため帰ったのだと言われた。さらに、こちらも急ぎなので今すぐ歩いてでも来いと言われる始末。
「今から歩きとか……遭難する予感しかしないぞ……」
現在昼を少し過ぎた時間。だがこの駅から歩くとなるといくら時間がかかるかわかったものではない。
「寝過ごしたのは俺だもんなぁ、仕方ない」
蓮太は泣く泣く自腹を切りタクシーを使った。駅からタクシーの使い三十分。
「悪いね兄ちゃん。こっから先は車が入れねんだわ」
「……ええ、そうみたいですね」
目の前には深い森。スマホの電波は届かず通話もできない。
「ああ、最近ここらで熊が出た話があっから~、気ぃつけてな~」
「く、くくくく熊っ!? あ、待って! やっぱ帰っ──」
無情にもタクシーは町へと引き返してしまった。
「熊とか嘘だろぉぉぉ……はぁぁ……」
それでも行くしかなかった。蓮太はスマホから大音量で音楽を流しながら山へと足を踏み入れた。
「熊に会いませんように、熊に会いませんように!」
そうして獣道を歩く事一時間。
「ん~……迷った! 処理場なんかどこにもないじゃん!!」
迎えの車もあのタクシーが止まった場所までしか入れないのだろう。あれ以降道らしい道はなく、案内板もない。あるのは木についた爪痕のみ。蓮太は気付かぬ内に熊の縄張りへと侵入してしまっていた。
「しょうがない、一度引き返──」
その時だった。
《グルルルル……ガアァァァァァァァッ!!》
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ! く、くくくく熊ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
体長二メートルはあろうかという熊が森の奥から蓮太目掛けて走ってくる。蓮太は慌てて踵を返し、山を下る。
「なんなんだよもぉぉぉぉぉぉぉっ! 死ぬっ、これはマジで死ぬぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
脇目もふらず薄暗い森を必死の思いで駆け抜ける。だが人間の足で熊から逃げられるはずもなく、蓮太は今にも襲い掛かられそうになっていた。
「うわっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ろくに足下も見ずに走っていた蓮太は崖から真っ逆さまに転落してしまった。落下中意識を失った蓮太は多分死ぬんだろうなと、自らの死を覚悟していた。
それからどれだけ時間が過ぎただろうか。蓮太は身体中に走る激痛で目を覚ました。
「ってぇ~……。生きてる……のか。って足が変な方向に!? 身体も痛くて動かな──な、なん……だ、あれ……っ!?」
猛烈な痛みに襲われながら見たものはまだ熊の方が可愛げがあるほどとんでもない生き物だった。しかもおよそ地球にいるはずのない生物。
「あ、頭が三つもある犬なんて……、しかも三メートルはある……」
《グルルルル》
蓮太は我が目を疑った。見た事のない生き物もそうだが、その生き物が食べている物。どう見ても人間だ。
「ひっ、人を食ってる……」
《グワフッガフッガフッ!》
もはや絶望しかない。蓮太は見つからないように必死の思いで息を殺して謎の生き物が去るのを待った。だが、それは無情にも叶わなかった。それは蓮太の懐にあったスマホ。そのスマホがアラームを鳴らしてしまったのである。
《グルル……ガァァァァァァァァァァッ!!》
「ひぃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! あ──」
謎の生物は一気に蓮太へと襲い掛かり、その鋭い爪で肩から腹まで引き裂いた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
《グアオォォォォォッ!!》
「いぎっ!? あ……あぁぁ……」
引き裂かれた腹から臓物が飛び出す。そして三つある内の頭の一つが飛び出した臓物を食いちぎった。
そうして蓮太はわけがわからないまま、謎の生き物に襲われ、二十五年の生を終えたのだった。
サービス残業、休日出勤は当たり前、サボろうものなら自宅まで同僚が迎えにくる始末。現に蓮太も上司の命令を受け、今サボった同僚を迎えに来ている。
「勘弁してくださいよ先輩っ、俺これ以上働かされたら過労死しちゃいますよっ!」
「言うな……っ。俺だって今にも死にそうなんだよ!」
たまにある休日はひたすら寝て過ごす。だが疲れはとれず、目の下には消えない隈が刻まれている。
泣く泣く出社準備を始めた後輩が蓮太に問い掛ける。
「先輩、先輩はこの仕事辞めたいと思わないんですか?」
「辞めたところで再就職先がなぁ。資格でもあればまた別なんだろうけど」
「不景気っすからね……。あぁ~……どこか違う世界に行きたいなぁ~」
「お前はまたそんな事言って」
この後輩はファンタジー系の小説や漫画、ゲームを生き甲斐にしている奴だ。ざっと部屋を見回しただけでその趣味の深さがうかがえる。
「そんなの現実にあるわけないだろ?」
「……そうでも思わなきゃやってらんないんっすよ。ここにある本やゲーム、買ったは良いものの全然手を付けられてないんっすよ? あぁ~……異世界でスローライフしたいぃぃ~っ!」
蓮太もこの後輩の気持ちはよくわかる。蓮太自身も昔はこの後輩と同じ趣味を持っていたからだ。だが仕事の忙しさに流され、いつしか趣味から離れていた。
「ほら、もう準備できただろ。行くぞ」
「うぇぇ……」
なんとか渋る後輩を連れ昼前に出社、そして退社は深夜二時。労働基準法はどこにいったのだろうか。
「……やってられるかっ!」
蓮太はついにキレた。
「こんな時間まで働かせておいて明日──いや、もう今日か。朝一から県外出張なんて酷すぎるっ!」
蓮太は上司から明日朝一で他県にある処理場の監査と上がりを受け取りに行くよう命じられた。何を処理しているかは極秘であり、その処理場も山深い所にあるらしい。そしてその処理場へは電車もバスも通っておらず、最寄りの駅からは車か徒歩でしか行くことができない。
「ちゃんと迎えに来てくれるんだろうなぁ」
退社後、蓮太は急ぎ出張のための荷物をまとめ、駅へと走る。タクシー代は経費として落ちないため、時腹をきりたくないなら足を使うしかないのである。
「はぁっはぁっ! ま、間に合った……!」
どうにか新幹線に間に合い、揺られる事一時間弱。そこからさらに私鉄に乗り換える。
「や、やば……寝そう……くぅ……」
不眠不休だった蓮太は心地よい揺れと静かな車内の空気に負け眠りに落ちてしまった。
「お客さん、お客さん!」
「う……んん……はぇっ!?」
蓮太は車掌に身体を揺らされようやく目を覚ました。
「もう終点ですよ」
「し、終点!? じゃあ◯✕駅は……」
「一時間前に通過してますね」
「や、やっちゃった!」
「あと十分したら戻りの列車が出ますよ」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
そうして引き返した蓮太だったが、目的地の駅に到着し辺りを見回した。
「はぁ……、こんなに待たせて迎えなんてあるわけないよなぁ……」
ひとまず謝罪のため処理場に連絡を入れると、迎えに出した車は蓮太がいくら待っても来なかったため帰ったのだと言われた。さらに、こちらも急ぎなので今すぐ歩いてでも来いと言われる始末。
「今から歩きとか……遭難する予感しかしないぞ……」
現在昼を少し過ぎた時間。だがこの駅から歩くとなるといくら時間がかかるかわかったものではない。
「寝過ごしたのは俺だもんなぁ、仕方ない」
蓮太は泣く泣く自腹を切りタクシーを使った。駅からタクシーの使い三十分。
「悪いね兄ちゃん。こっから先は車が入れねんだわ」
「……ええ、そうみたいですね」
目の前には深い森。スマホの電波は届かず通話もできない。
「ああ、最近ここらで熊が出た話があっから~、気ぃつけてな~」
「く、くくくく熊っ!? あ、待って! やっぱ帰っ──」
無情にもタクシーは町へと引き返してしまった。
「熊とか嘘だろぉぉぉ……はぁぁ……」
それでも行くしかなかった。蓮太はスマホから大音量で音楽を流しながら山へと足を踏み入れた。
「熊に会いませんように、熊に会いませんように!」
そうして獣道を歩く事一時間。
「ん~……迷った! 処理場なんかどこにもないじゃん!!」
迎えの車もあのタクシーが止まった場所までしか入れないのだろう。あれ以降道らしい道はなく、案内板もない。あるのは木についた爪痕のみ。蓮太は気付かぬ内に熊の縄張りへと侵入してしまっていた。
「しょうがない、一度引き返──」
その時だった。
《グルルルル……ガアァァァァァァァッ!!》
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ! く、くくくく熊ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
体長二メートルはあろうかという熊が森の奥から蓮太目掛けて走ってくる。蓮太は慌てて踵を返し、山を下る。
「なんなんだよもぉぉぉぉぉぉぉっ! 死ぬっ、これはマジで死ぬぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
脇目もふらず薄暗い森を必死の思いで駆け抜ける。だが人間の足で熊から逃げられるはずもなく、蓮太は今にも襲い掛かられそうになっていた。
「うわっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ろくに足下も見ずに走っていた蓮太は崖から真っ逆さまに転落してしまった。落下中意識を失った蓮太は多分死ぬんだろうなと、自らの死を覚悟していた。
それからどれだけ時間が過ぎただろうか。蓮太は身体中に走る激痛で目を覚ました。
「ってぇ~……。生きてる……のか。って足が変な方向に!? 身体も痛くて動かな──な、なん……だ、あれ……っ!?」
猛烈な痛みに襲われながら見たものはまだ熊の方が可愛げがあるほどとんでもない生き物だった。しかもおよそ地球にいるはずのない生物。
「あ、頭が三つもある犬なんて……、しかも三メートルはある……」
《グルルルル》
蓮太は我が目を疑った。見た事のない生き物もそうだが、その生き物が食べている物。どう見ても人間だ。
「ひっ、人を食ってる……」
《グワフッガフッガフッ!》
もはや絶望しかない。蓮太は見つからないように必死の思いで息を殺して謎の生き物が去るのを待った。だが、それは無情にも叶わなかった。それは蓮太の懐にあったスマホ。そのスマホがアラームを鳴らしてしまったのである。
《グルル……ガァァァァァァァァァァッ!!》
「ひぃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! あ──」
謎の生物は一気に蓮太へと襲い掛かり、その鋭い爪で肩から腹まで引き裂いた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
《グアオォォォォォッ!!》
「いぎっ!? あ……あぁぁ……」
引き裂かれた腹から臓物が飛び出す。そして三つある内の頭の一つが飛び出した臓物を食いちぎった。
そうして蓮太はわけがわからないまま、謎の生き物に襲われ、二十五年の生を終えたのだった。
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