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嫌いな人が助けてくれた
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私は春谷麗奈、愛知県の中学校に通っている。恋愛経験はなく、誰かを好きになったこともない。
しかし嫌っている人はいる。松山智樹、私の同級生だ。彼は私の母を見捨てた。いや、見殺しにしたと言った方が正しい。私は一生忘れることない悲しみと怒りをこの男に植え付けられた。
2017年某日。1年前。母が働いていた保育園とその周辺で爆弾テロが起きた。最初に保育園で爆弾が発見され、その後周辺地区でも発見された。ほとんどの職員は子供を置いて避難した。その中で母だけは児童の避難のため最後まで残り続けた。そのとき職場体験学習で保育園で働いていた智樹は、母と一緒に児童を避難させた。そして児童が保育園から出た直後だった。保育園に仕掛けられた爆弾の2つの内1つが爆発した。母はその犠牲となった。その後遺体安置所で静かに眠る母を見ているときに医者から
「誰かがいれば助けられた」
と聞かされた。智樹は母を置いて逃げたのだ。そう確信した私は彼が許せなかった。
後日私は彼に思い切りぶつかった。
「なんであの時母を見殺しにしたの。なんで助けてくれなかったの。そんなのひどいよ。私のわがままなのはわかってる。でも子供の面倒をみるのと人を助けるのはどっちも責任を持つことじゃないの?その場にはあなたしかいなかったんだし無傷だったあなたしか人を助けられなかったんだよ。なのに見捨てるなんて....」
そう言いながら私は完全に泣き崩れていた。そして数秒経った後に智樹は
「ごめん、麗奈」
と言った。私はそこで我に返った。複雑な心境だった。この悲しみをどう言えばいいのかわからなくなった私は静かにその場から去った。
それから智樹と顔を合わせる機会はほぼなくなった。恨みをぶつけられたことで少しは気が和らいだ私は普通の生活を取り戻すことができた。母はいないが出来る限りは昔の生活に戻ったかも。そんな毎日を過ごしていた。
そんなある日のこと。普通車がガードレールを突き破って私の方にきた。私は何も考えられなくなった。その時だ。私の背中に衝撃が走った。私は前に2、3歩よろめくように歩きそのまま転んだ。そして後ろを向くと歩道に乗り上げて止まった車と、倒れた智樹がいた。私はすぐに救急車を呼んだ。
「死なないで!死んじゃ駄目!」
あの出来事を忘れたかのように私は智樹にそう言っていた。
意識不明。そう診断が出た。私の心にはなぜ私を助けたのかという疑問とはやく起きてほしいという感情が同時に現れた。
その後病院で私は彼の家族に会い、事情を説明した。家族は私を責めることなく理解してくれた。私は家族と一緒にいた。そして時間は20時に回り家族は一旦帰る事にした。帰る間際に彼の妹は
「これ...兄が麗奈さん宛に書いた手紙です。私は読んでいないので安心してください」
と言って私に手紙を渡すと優しい表情で会釈をして病室から出ていった。
私は手紙の封を開け、読み始めた。
“麗奈へ 君の母を助けられなくてごめん。言い訳になってしまうけど、実は君の母、葵さんにに頼まれたんだ。葵さんは児童のことを第一に考えていて、自分が瓦礫の下敷きになっても僕に
「私は自分でなんとかするから子供達を避難させて」
と言ったんだ。僕は葵さんが抜け出すのは無理だと思って助けようとしたんだ。でも葵さんは
「あの子達は被害にあってほしくないの。生きててほしいの!」
そう言ったんだ。葵さんは自分ではここから抜け出せないことを知っていながらも児童を絶対に無事に返そうとしていた。その必死の表情を見て僕は葵さんの思いを裏切らないことが一番だと思ったんだ。だから子供達を安全な場所まで避難させてからもし出来ることなら、と思って保育園に戻ったんだ。そうしたら葵さんは意識が朦朧としていながらも生きていたんだ。僕は助けに行こうと走り出した瞬間、もう1つの爆弾が爆発し、その炎に飲まれて葵さんは亡くなったんだ。
これだけは知ってほしかったんだ。でも言い訳になってしまった。本当にごめん。”
読み終わった私は涙が止まらなかった。ずっと見捨てたと勘違いしていた自分が許せなかった。どうしても智樹に謝りたい。そう思っていた。
その時奇跡は起こった。智樹の目が開いた。私は咄嗟に彼の手を強く握った。彼は辛そうにしながらも起き上がり
「ごめんな。麗奈」
そう私に言った。
「私こそごめんね。ずっと智樹のせいにしてた...私何も知らずに智樹のこと恨んでた...ずっと言い訳しなかった智樹の気持ちも知らずに...私....」
そう言った瞬間、智樹は何も言わずに私の頭を撫でて抱きしめてくれた。私はそれが嬉しくて、そのまま私は彼の胸の上で泣いた。
そして心を落ち着かせると、彼が
「麗奈。好きだ。こんな僕でもよかったら付き合って。」
と言った。私は言葉では表せないほど嬉しかった。
「....はい!」
私は目を涙で潤わせながらそう答えた。
しばらくして智樹の家族に連絡し、家族に状況を説明し一件落着、となった。
それから3ヶ月経ち、体の傷はほとんど消え、リハビリによってかなり動けるようになり退院となった。
その1ヶ月後、現在に至る。智樹はリハビリのために病院に通っていたがその回数も減り、学校にも通っている。私は今も彼と付き合っている。彼は私の話をいつも聞いてくれて、悲しいことがあると優しく抱きしめてくれる。私は彼が大好きだ。これまでも、これからも
しかし嫌っている人はいる。松山智樹、私の同級生だ。彼は私の母を見捨てた。いや、見殺しにしたと言った方が正しい。私は一生忘れることない悲しみと怒りをこの男に植え付けられた。
2017年某日。1年前。母が働いていた保育園とその周辺で爆弾テロが起きた。最初に保育園で爆弾が発見され、その後周辺地区でも発見された。ほとんどの職員は子供を置いて避難した。その中で母だけは児童の避難のため最後まで残り続けた。そのとき職場体験学習で保育園で働いていた智樹は、母と一緒に児童を避難させた。そして児童が保育園から出た直後だった。保育園に仕掛けられた爆弾の2つの内1つが爆発した。母はその犠牲となった。その後遺体安置所で静かに眠る母を見ているときに医者から
「誰かがいれば助けられた」
と聞かされた。智樹は母を置いて逃げたのだ。そう確信した私は彼が許せなかった。
後日私は彼に思い切りぶつかった。
「なんであの時母を見殺しにしたの。なんで助けてくれなかったの。そんなのひどいよ。私のわがままなのはわかってる。でも子供の面倒をみるのと人を助けるのはどっちも責任を持つことじゃないの?その場にはあなたしかいなかったんだし無傷だったあなたしか人を助けられなかったんだよ。なのに見捨てるなんて....」
そう言いながら私は完全に泣き崩れていた。そして数秒経った後に智樹は
「ごめん、麗奈」
と言った。私はそこで我に返った。複雑な心境だった。この悲しみをどう言えばいいのかわからなくなった私は静かにその場から去った。
それから智樹と顔を合わせる機会はほぼなくなった。恨みをぶつけられたことで少しは気が和らいだ私は普通の生活を取り戻すことができた。母はいないが出来る限りは昔の生活に戻ったかも。そんな毎日を過ごしていた。
そんなある日のこと。普通車がガードレールを突き破って私の方にきた。私は何も考えられなくなった。その時だ。私の背中に衝撃が走った。私は前に2、3歩よろめくように歩きそのまま転んだ。そして後ろを向くと歩道に乗り上げて止まった車と、倒れた智樹がいた。私はすぐに救急車を呼んだ。
「死なないで!死んじゃ駄目!」
あの出来事を忘れたかのように私は智樹にそう言っていた。
意識不明。そう診断が出た。私の心にはなぜ私を助けたのかという疑問とはやく起きてほしいという感情が同時に現れた。
その後病院で私は彼の家族に会い、事情を説明した。家族は私を責めることなく理解してくれた。私は家族と一緒にいた。そして時間は20時に回り家族は一旦帰る事にした。帰る間際に彼の妹は
「これ...兄が麗奈さん宛に書いた手紙です。私は読んでいないので安心してください」
と言って私に手紙を渡すと優しい表情で会釈をして病室から出ていった。
私は手紙の封を開け、読み始めた。
“麗奈へ 君の母を助けられなくてごめん。言い訳になってしまうけど、実は君の母、葵さんにに頼まれたんだ。葵さんは児童のことを第一に考えていて、自分が瓦礫の下敷きになっても僕に
「私は自分でなんとかするから子供達を避難させて」
と言ったんだ。僕は葵さんが抜け出すのは無理だと思って助けようとしたんだ。でも葵さんは
「あの子達は被害にあってほしくないの。生きててほしいの!」
そう言ったんだ。葵さんは自分ではここから抜け出せないことを知っていながらも児童を絶対に無事に返そうとしていた。その必死の表情を見て僕は葵さんの思いを裏切らないことが一番だと思ったんだ。だから子供達を安全な場所まで避難させてからもし出来ることなら、と思って保育園に戻ったんだ。そうしたら葵さんは意識が朦朧としていながらも生きていたんだ。僕は助けに行こうと走り出した瞬間、もう1つの爆弾が爆発し、その炎に飲まれて葵さんは亡くなったんだ。
これだけは知ってほしかったんだ。でも言い訳になってしまった。本当にごめん。”
読み終わった私は涙が止まらなかった。ずっと見捨てたと勘違いしていた自分が許せなかった。どうしても智樹に謝りたい。そう思っていた。
その時奇跡は起こった。智樹の目が開いた。私は咄嗟に彼の手を強く握った。彼は辛そうにしながらも起き上がり
「ごめんな。麗奈」
そう私に言った。
「私こそごめんね。ずっと智樹のせいにしてた...私何も知らずに智樹のこと恨んでた...ずっと言い訳しなかった智樹の気持ちも知らずに...私....」
そう言った瞬間、智樹は何も言わずに私の頭を撫でて抱きしめてくれた。私はそれが嬉しくて、そのまま私は彼の胸の上で泣いた。
そして心を落ち着かせると、彼が
「麗奈。好きだ。こんな僕でもよかったら付き合って。」
と言った。私は言葉では表せないほど嬉しかった。
「....はい!」
私は目を涙で潤わせながらそう答えた。
しばらくして智樹の家族に連絡し、家族に状況を説明し一件落着、となった。
それから3ヶ月経ち、体の傷はほとんど消え、リハビリによってかなり動けるようになり退院となった。
その1ヶ月後、現在に至る。智樹はリハビリのために病院に通っていたがその回数も減り、学校にも通っている。私は今も彼と付き合っている。彼は私の話をいつも聞いてくれて、悲しいことがあると優しく抱きしめてくれる。私は彼が大好きだ。これまでも、これからも
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