我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

文字の大きさ
59 / 71
第二章

第59話 フィーナさんたちの事情

しおりを挟む
「この姫さんはなあ……エルフの中でも群を抜いて見目がいいからって、そりゃもう周りに甘やかされて育ってきたのよ。厳しく言えるのは、王太子の兄貴くらいのもんだな」

 俺が困惑して首を傾げていたら、ガンドールさんがため息混じりに口を挟んできた。こちらは兄の方だ。このドワーフの兄弟はどちらも髭もじゃゴリマッチョで見分けづらいけど、衣服が微妙に違うから間違いない。

 そんな彼が言うには、フィーナさんはエルフの中でも抜群の美人らしい。
 おまけに少し年の離れた末娘だったこともあり、国王夫妻や兄姉にめいっぱい可愛がられてきたそうな。

 民からの人気も高く、国元では誰しもがチヤホヤするほどだとか。もはや国民的アイドルだ。

 結果、フィーナさんは長じるに連れ奔放になっていき……いつしか、公務をサボって城下町で遊び回るダメ王女へと成長を遂げていた。

 それでもただ一人、王太子のお兄さんだけは本気で妹の将来を心配していた。その甘ったれた性格を矯正しようと、日々奮闘していたのだ。しかしその甲斐も虚しく、フィーナさんは国宝である海神の涙を耳飾りにしようとする暴挙へ至る。

「お父様たちもひどいのですよ。私のお小遣いをぜんぶ取り上げたばかりか、『海神の涙を手に入れるまで帰国することまかりならん』などと突き放すのですから――ああ、このお茶の香り高さといったら言葉もありません。こちらのお菓子も、芳醇な味わいで本当に美味しいですね」

「ありがとうございます……よければ、お茶のおかわりでもいかがです?」

「あら、よろしいのですか? それでは、お言葉に甘えさせていただきますわ。せっかくですから、お菓子の方もいただけると嬉しいです」

 ニッコリと微笑み、おかわり待ちの体勢に入るフィーナさん。

 この人、自分の状況をちゃんと理解できているのかな……半ば国外追放中の身の上だというのに、どうにも浮き世離れして見える。これが生粋のプリンセスとやらの生態なのだろうか。

 とりあえず、俺はお茶とお菓子のおかわりを差し出す。
 ついでに、獣耳幼女たちの頭を撫で回して気持ちをリフレッシュする。三人ともきゃっきゃっと楽しげな反応を見せてくれて、こちらまで嬉しくなった。

 さて、そろそろ話を本題へ戻すか。
 俺は椅子に腰を落ち着け、最も気になる問いを投げかけた。

「それで、フィーナさん。肝心の『海神の涙』は見つかったのですか?」

「いいえ。今のところ、捜索は徒労に終わっています。ラクスジットの迷宮なら見つかると思ったのですが……ああ、やはりこのお茶は素晴らしいですね。お菓子の方をもう少し頂戴しても?」

「姫さんの護衛や世話を任されたオレら特使団の滞在費も、何かと入り用で底をつきかけているからな。帰国を検討していたところだ」

 のんきにお茶を飲みつつ、またおかわりを催促してくるフィーナさん。
 続いて口を開いたのは、ドワーフの弟のグレンディルさんだ……が、わりと衝撃的な事実が明かされた。

 その内容は、女神教の特使団が結成された理由――どうやら、フィーナさんのやらかしの尻拭いをするためだったらしい。国王夫妻も困り果てたとはいえ、可愛い末娘を一人で旅立たせるまでの覚悟はなかったのだろう。

 ちなみに、女神教の特使団の体裁を取ったのは、外交上の配慮からだそうだ。
 ハッキリ言って、甘々の沙汰だな……けれど、気持ちはわからないでもない。

 仮にうちの獣耳幼女たちが盛大にやらかしたとして、俺もそこまで厳しくはできないだろうからな。もっとも、三人とも天使なのでそんな心配は皆無だけど。

「そのような事情があり、ラクスジットに到着してからは迷宮に手一杯でした。ゆえに女神教の特使団を名乗っておきながらも、この聖堂の惨状に……同胞たちの苦境に、気づいてあげられませんでした。その点については、本当に申し訳なく思っております」

 フィーナさんはのんきそうな笑顔から一転、神妙な面持ちで謝罪を口にする。
 なるほど。おおよそのところは理解した……だが、廃聖堂の処置に関してだけは極めて不満である。

 うらぶれたこの廃聖堂で幼き身を寄せ合い、過酷な貧困生活を送る中、エマたちがどれだけ心細く思っていたか……あのまま放置されていたら、最悪の結末を迎えてもおかしくはなかった。

 そもそも、奴隷堕ちする前のサリアさんやこの街の住人はどうなんだ? 
 獣人、エルフ、ドワーフ。この三種族は、共に女神ミレイシュの子で同胞なのだという。ならば見知らぬ孤児とはいえ、もっと気にかけてあげても良かったのではないか――俺はつい感情的になり、そんな不満をぽろっと口にしてしまう。

「サクタロー殿、あまり言いたくはなかったのだが……この街では、食い扶持のない孤児は厄介者だ。スリや盗み、暴力や脅迫、奴らは生きるためになんでもやる。まっとうな生活を送っている者からすれば、煙たがって当然の存在なのだ」

 思いっきり眉根を寄せる俺を諭すように、サリアさんがこの街の事情を教えてくれた。

 全員がそうではないが、行き場を持たず、飢えに直面する孤児も多い……そういった者たちは徒党を組み、生き延びるため街で悪さを働く。挙句、貧民窟で幅を利かすギャングにスカウトされるのだとか。 

 まして迷宮が存在する以上、孤児の発生しやすい条件が揃っているらしい……非常に言葉は悪いが、個人で救うにはキリがない状況だ。

「何より女神教の聖堂は、一部の貴族に疎まれていると噂があったからな。獣人の民ですら、表立って関わり合いになるのを避けていた」

 聖堂などをはじめ、孤児たちの居場所はわずかに確保されている。しかし圧倒的に数が足りていないばかりか、権力者の思惑ひとつでこの有様だ。日本では当然のセーフティーネットなんて望むべくもなく、制度はカケラほども確立されていない。

 自助というか、自力で生き抜くのが大前提。無理なら、そこらで野垂れ死ぬだけ。あるいは、悪事に手を染めてでも生き延びるか……だとしても、辿る結末にそう大きな違いがあるとは思えない。

 これはもう個人がどうのではなく、社会規模で対処すべき問題だ。
 誰が指揮を取るべきかも明確で、この街を治める貴族様の仕事である……これ、ゴルドさん経由で嘆願書でも送ろうかな。

 と、思考に一区切りついたところで。
 俺は断りを入れてから、再びエマたちの元へ歩み寄る。そして両手を広げ、ぎゅうっと三人まとめて抱きしめた。

「わあっ! サクタローさんがきた!」

「サクタロー! みて、じょうずにぬれた!」

「ん、だっこ!」

 何があったのかわかってないながらも、無邪気に喜ぶ三人の笑顔を見て心底安堵した――間に合って本当に良かった。この子たちが孤児として迫害されたり、もっと酷い目に遭う可能性が少しでもあったかと思うと、途端に胸が痛いほど締め付けられる。

 それに、つい感情的になってしまったが、この聖堂を潰したのはこの街の名も知らぬ貴族なのだ。サリアさんやフィーナさんに怒りを向けるなど、八つ当たりも甚だしい。反省しなければ。

 その一方で、俺に何か出来ることがあるのでは……そんな思いが頭をよぎる。
 この街には、まだまだたくさんの孤児がいる。流石に我が家で保護するのは難しいけど、違った方法で手を差し伸べられないものだろうか。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

異世界ネットスーパー始めました。〜家事万能スパダリ主夫、嫁のために世界を幸せにする〜

きっこ
ファンタジー
家事万能の主夫が、異世界のものを取り寄せられる異世界ネットスーパーを使ってお嫁ちゃんを癒やしつつも、有名になっていく話です。 AIと一緒に作りました。私の読みたいを共有します 感想もらえたら飛んで喜びます。 (おぼろ豆腐メンタルなので厳しいご意見はご勘弁下さい) カクヨムにも掲載予定

過労死した家具職人、異世界で快適な寝具を作ったら辺境の村が要塞になりました ~もう働きたくないので、面倒ごとは自動迎撃ベッドにお任せします

☆ほしい
ファンタジー
ブラック工房で働き詰め、最後は作りかけの椅子の上で息絶えた家具職人の木崎巧(キザキ・タクミ)。 目覚めると、そこは木材資源だけは豊富な異世界の貧しい開拓村だった。 タクミとして新たな生を得た彼は、もう二度とあんな働き方はしないと固く誓う。 最優先事項は、自分のための快適な寝具の確保。 前世の知識とこの世界の素材(魔石や魔物の皮)を組み合わせ、最高のベッド作りを開始する。 しかし、完成したのは侵入者を感知して自動で拘束する、とんでもない性能を持つ魔法のベッドだった。 そのベッドが村をゴブリンの襲撃から守ったことで、彼の作る家具は「快適防衛家具」として注目を集め始める。 本人はあくまで安眠第一でスローライフを望むだけなのに、貴族や商人から面倒な依頼が舞い込み始め、村はいつの間にか彼の家具によって難攻不落の要塞へと姿を変えていく。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??

シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。 何とかお姉様を救わなくては! 日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする! 小説家になろうで日間総合1位を取れました~ 転載防止のためにこちらでも投稿します。

処理中です...