我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

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第二章

第83話 きな臭い雰囲気プンプンの貴族街情報

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「サクタロー殿。よろしければ、あの破落戸どもの教育をお任せいただけませぬか? 我が団に伝わる特別な鍛錬法で性根を叩き直してみせましょう」

 俺の視線に気づいてか、エルフの金髪騎士ことカーティスさんが小声で問いかけてくる。

 彼はいつもピシッと背筋を伸ばし、威厳を纏った佇まいが印象的だ。チョコレート好きという意外な一面を併せ持つものの甘さをなかなか見せない、そんな御仁である。

 だからこそ、とうとう小悪党スクワッドのぐーたらっぷりを看過できなくなったようだ……とはいえ、あれで今日の検証の立役者。俺としては、あまり悲惨な目に遭って欲しくないのが本音である。

「特別な鍛錬法……差し支えなければ、どのような内容か伺っても?」

「我が団は特殊で、よく貴族の子息が配属されてきます。そして大抵の者が増長しているものですから、伸びきった鼻っ柱を折るための鍛錬法が伝統として受け継がれているのです。もっとも場所が場所ですから、聖堂の外で軽く肉体を鍛えるに留まりますが」

 ああ、なるほど。要はブートキャンプのようなものか。
 動画サイトで、アメリカ海兵隊の新兵訓練を見たことがあるけど……あれ、めちゃくちゃキツそうだったなあ。

 でも、小悪党スクワッドも探索者だ。騎士仕込みの鍛錬法を知っておいて損はないだろう。何より、もうちょっとお行儀が良ければ付き合いやすくなるってものだ。

 ゲストであるゴルドさんとケネトさんを席に案内したら、俺は笑顔でゴーサインを出す。

「カーティスさん、ほどほどに鍛え直してあげてやってください」

「御意。ちょうど私の部下たちも体を動かしたがっておりましたので、撫でる程度に可愛がるよう伝えてまいります」

 騎士らしく胸に手を当てつつ慇懃に頭を下げ、迅速に部下を動かすカーティスさん。
 小悪党スクワッドは多少抵抗したが、結局は情けない悲鳴を上げつつ外へ追い立てられていった。またお菓子やらを差し入れするので、ぜひ頑張ってもらいたい。

 これで気兼ねなく話ができそうだ。ゴルドさんたちを交えた会談はわりと真剣な内容だし、あまり部外者に聞かせたくもなかったので、むしろ好都合まである。

 エルフの侍女さん方にお茶を淹れるようお願いし、席を移る。もちろん、寂しがる獣耳幼女たちの頭を撫で回すのも忘れない。

 俺も立ち会うが、ここからの主役は女神教の特使団の面々とゴルドさんとなる。
 軽くテーブルを動かして場が整ったら、まずは両者とも自己紹介を行う。

 ゴルドさんとケネトさんは、商会の主とその腹心の部下。加えて、ベルトン子爵家の縁者としての立場を表明した。さらに俺が、『信頼できる方でとてもお世話になっている』と付け足した。

 続いては、女神教の特使団の番。廃聖堂の修繕を請け負うドワーフ兄弟や騎士のカーティスさんを筆頭に、主要メンバーが順に名を告げていく。
 大トリは、すっかり我が家に馴染んでいるフィーナさん。

「私は、セレフィーナ・ルミルテ・フィルメリス・ドゥ・レーデリメニア――レーデリメニアの第三王女にして、女神ミレイシュの巫女を拝命しております。サクタローさんのご友人とのことですから、お気軽に『フィーナ』とお呼びくださいませ」

 席を立ち、華麗にカーテシーを交えてのご挨拶。
 少し離れたテーブルでお絵かき中だった獣耳幼女たちがすかさず色めき立ち、マネをしようとはしゃぎ始めた。憧れのプリンセスな振る舞いに目を輝かせている。

 そばについていたサリアさんが、「足運びはもっと機敏に!」とピント外れなアドバイスを飛ばしている。なんとも微笑ましい光景だ。

 一方、視線を間近へ戻すと……ゴルドさんとケネトさんが弾かれたように跪き、恐縮した口調で謝罪を告げていた。

「レーデリメニアの第三王女殿下が御来訪なさっていたとは、露ほども存じ上げず……拝謁の礼も欠き、大変なご無礼をいたしました。追って、我が国の然るべき貴族より謝罪をお届けいたします。ですが、まずはこのゴルドが伏してお詫びいたしますゆえ、どうかご寛恕賜りますようお願い申し上げます」

 お忍びで来訪中のフィーナさんだが、ゴルドさんたちには正式な身分を明かした。俺が信頼する相手であることに加え、もしもの時に備えての選択である。

 というか、本来なら国を上げて歓待すべき立場の要人なんだよなあ……我が家のコタツでのほほんとお茶を飲んでたり、獣耳幼女たちと一緒に縄跳びを楽しんでいる姿からはあまり想像がつかないけど。

「どうぞ楽になさってくださいな。此度の来訪は、ゆえあって非公式のもの。ですので、どうぞ気を楽に。私の存在は、このまま秘匿することを望みます」

「フィーナ姫殿下の仰せのままに。万が一ラクスジットで社交に興じたくなった折は、いつでもお申し付けください」

「ええ。その際はよしなに」

 自己紹介はひとまず終わり。椅子に座り直したゴルドさんは、フィーナさんを最上位の要人として扱うことに決めたようだ。本人の意向通り、その正体も秘匿したまま。おかげで行動を縛られずに済みそうで、俺としてもホッとした。

「ところで、サクタロー殿。こういう重要な情報は、今後はもう少し早くお教え願いたい……」

「私も悠長に構えすぎておりました……サクタロー殿の気風を考慮すれば、もっとこまめに接触を図るべきでした」

 ゴルドさんとケネトさんは、もっと早く報告して欲しかったと頭を抱えていた。
 彼らはわりと早くから、『女神教の一行がこの廃聖堂を出入りしている』との情報を掴んでいた。しかし気になるからと言ってしゃしゃり出るわけにはいかず、軽い監視に留めていたそうだ。どうやら、かなりヤキモキさせてしまったらしい。

 あれ、また何か俺やっちゃいました? 
 ……いえ、ごめんなさい。一端の社会人としては、もう少し『報連相』に気を配らないとダメですよね。

「驚かせてしまって申し訳ありません、ゴルドさん。今後はもっと気をつけますね。それで本日お越しいただいた件ですが……」

「サクタローさん。詳しい話は、私の方からお伝えしましょう」

 俺が佇まいを正しつつ話を先に進めると、隣に座るフィーナさんが引き取って本題が切り出された。

 先ほども思い浮かべたが、この会談をセッティングしたのは俺だ。
 女神教の使節館の機能移転、廃聖堂の惨状――この街の支配者である公爵家へ陳述を行うに際して適切な仲介役を、との考えからである。

 そして実際に訴えを聞いたゴルドさんは、眉間に刻まれたシワを一層深めながら「むうう……」と唸り声を上げた。 

「包み隠さず申し上げると、ラクスジットの貴族街は穏やかならざる状況にあり……」

 ため息混じりにゴルドさんから明かされた事情は、わりと物騒な内容に終始した。
 ことの起こりは、公爵邸でのボヤ騒ぎ。人の寝静まったある夜更けに、敷地を囲う外壁の一部に付け火されたらしい。警備の網を掻い潜っての犯行である。

 立て続けに、屋敷厨房への毒物混入事件が発生。幸いどちらも人的被害はなかったものの、公爵家は面会謝絶の厳戒態勢へ移行。晩餐会や茶会など、重要な社交は直ちに取りやめ。それどころか、執政自体が若干麻痺しているそうだ。

 話を聞く限り、きな臭い雰囲気プンプンだ。
 ラクスジットの治安を乱そうとする不穏分子の存在が予見される。しかも陰謀はこの廃聖堂に留まらず、とうとう貴族街にまで影を伸ばし始めた。

 そんな中、新たにフィーナさんたちからの陳述が舞い込めば……いや、これも狙いの一つか。

 公爵家の権威はさらに傷つき、次なる騒動を引き起こすことは避けられない。それこそ黒幕の思うツボだろう。

 嫌なやり口だ。思いつく限りに種を撒き、どれかが芽を出せばそれで良し。だが、すべての問題の責任が向かう先はこの街の支配者である公爵家。おまけに情報操作の気配もあり、完全に後手に回っている。

 黒幕の最大の目的は、ラクスジットが生む利権の収奪……あるいは、実権の簒奪か。 

 最も許せないのは、立場の弱い者が被る被害をまるで勘定に含めていない点だ。うちの天使たち(獣耳幼女たち)を巻き込むだなんて、腸が煮えくり返る思いだ。

 現状行っている根回しをより加速させ、横槍が入らない形で必ず話を通して見せる――ゴルドさんは己の家名に懸けてそう誓い、深々と頭を下げた。

 これに対し、フィーナさんたちは『ひとまずはお任せする』という結論で一致。
 陳述はそう急ぐ必要もないし、ラクスジットの混乱は殊更望むところではないそうだ。

 俺の返答も同様。早く状況が落ち着いてリリの魔法のレッスンをお願いできたらいいな、くらいの心持ちだ。元より、ゴルドさんたちの味方であることは揺るがない。

 結局のところ、使節館の機能移転と廃聖堂の陳述の件はお預けとなった。
 これで、真剣かつ不穏な話にも一区切り。

 だが、会談はまだ終わらない。
 次の主役は俺。すなわち、日本の品の商談タイムだ。
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