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第一章
第9話 夕食と奇跡のような一日の終わり
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本日の夕食は、ハンバーグを予定している。しかも目玉焼きのせ。
幼女たちは動物的な特徴をもつので、タマネギは抜きにした。本人たちは『なんでも食べられる!』と豪語していたが、ちょっと心配だしね。
メインの他には、簡単なサラダと白飯を用意する。時間の都合で白米はレトルトだけど。
「では、まずハンバーグから作っていきます」
「はい! はんばぐ、作りますっ! ……はんばぐってなんですか?」
横でお手伝いする気満々のエマに、「ひき肉に色々混ぜて成形して焼いたものだよ」と答えて料理開始。絶品だから期待するがいい。
他の二人は……台所の設備が気になってお手伝いどころではない。お風呂のときと同じ展開だ。
「サクタロー、これはなに?」
「ん? ああ、それは冷蔵庫だよ」
「レイゾーコ?」
「食べ物や飲み物を保管する箱だね。開けてごらん、中が冷たくなっているから」
リリの質問に答え、実際に扉を開けて冷たさを体験させてやる。するとそれがツボにはまったらしく、ルルとかわるがわる手を突っ込んできゃあきゃあ騒ぎ出す。
エマも気になるみたいだったので「一緒に見てきな」と促せば、すぐにまざって笑顔ではしゃぎ始めた。
よし、今のうちに調理してしまおう。あれこれ相手をしながらだと支度がぜんぜん進まないからな。
ルルを冷蔵庫につめる、という謎の遊びをはじめた幼女たちの様子を時おり確認しながら、俺は手際よく夕飯を作りあげる。
姉に頼んだ物資の中には子供用の食器も含まれており、見せれば「自分の物なんて初めて!」と凄く喜んでくれた。そんな反応を微笑ましく思いつつ、俺は料理を盛りつけた皿を居間のローテーブルに配膳する。
それから皆が席にすわり、いよいよディナータイム。
「じゃあ食べようか。手を合わせて、いただきます」
「いた、だきます……?」
「なにそれ、へんなのー。お祈りじゃないの?」
「お祈りみたいなものだよ。はい、手を合わせてー」
いただきます、とみんなで食事を開始する――が、すぐに中断する羽目になった。
食べ方がわからないだろうからと俺はまず実演した。幼女たちはふんふん頷きつつお手本を真剣に観察していた。にもかかわらず、一斉に熱々ソースのかかったハンバーグを手づかみで食べようとしたのである。
「ちょっと待って、いったん食事中止!」
あの神妙な頷きは何だったのか……俺が焦って止めると、三人ともピタリと動きを止めた。次いでこちらに向けられたのは絶望の視線。きっとご飯を取り上げられるとでも思ったのだろう。
「俺がやってみせたように、フォークを使って食べてね」
当然ながら『キッズカトラリーセット』も準備されており、各自の食器の横にはフォークとスプーンが並ぶ。
それゆえ我が家の食卓では今後、パンなどの例外をのぞき手づかみ食べは禁止とした。火傷するかもしれないし、そもそも不衛生だ。
俺は再度お手本を示し、丁寧にフォークの使い方を教える。
「これをこうして、口に運びます。ほら、やってみて」
「はいっ!」
「こんなのカンタンよ!」
エマとリリはのみ込みが早くあっという間に習得して、「なにこれっ!?」や「おいしいっ!」といった感嘆の声をあげつつ夢中になってハンバーグを食べはじめた。白米は馴染みがないらしく反応は微妙である。
しかし、ただ一人。ルルだけは上手にフォークが使えなくて不満顔。物覚えの問題ではなく、とりわけ年少であることが理由だろう。
「もう一度やってみよう。大丈夫、すぐできるようになるから」
続けて指導するもやっぱり思うように食べられず、ルルはむっと頬を膨らませる。けれどすぐに何か閃いたらしく、明るい表情を浮かべてこちらに寄ってくる。
黒い尻尾をゆらす末妹は、そのまま胡座をかく俺の懐へ潜りこみ、すとんと腰をおろしてローテーブルとの隙間におさまった。さらに上を向き、こちらを見つめてパカッと口を開く。
「これは……」
催促だ。食べさせろ、とキラキラの青い双眸が雄弁に語っている。
よくない、非常によくない……子供の教育において、『甘やかすと甘えさせるは別物だ』と姉が言っていた。甘やかしすぎるとダメになるとも。
そして、上手にできないからと代わりに食べさせてあげる行為は、間違いなく甘やかしに該当する。
「………………まったく、今日だけだぞ」
だがしかし、独り身の俺は『子供に甘えられる』という経験があまりに少なく、可愛らしいおねだりへの耐性がほぼゼロなのであった。
姪の夏実ちゃんが小さい頃もつい甘やかし、姉に散々怒られたものだ。
でもまあ、今日くらいはいいよね、の精神である。
「あ、ずるいっ! リリもやって!」
「あの、わたしも……」
「はいはい、順番にね」
結局のところ、ハンバーグの味に興奮して飛び跳ねようとするルルを押さえたり、リリとエマにも順番でご飯を食べさせてあげたりと、俺にとっては非常に忙しない夕飯となった。子育てに奮闘する世のご家庭の苦労が偲ばれる。
食後は、洗面所で嫌がる三人に歯磨きを体験させながらしっかり教えこみ、トイレを済ませるのと同時に使い方を習得してもらった。するとルルがうとうとし始めたので揃ってパジャマに着替えさせ、居間に布団を敷いて就寝の準備を整える。
時刻はまだ二十時すぎ。昼寝もしていることだし、眠るには少し早くないかな……と思いかけてはたと気づく。
エマたちは、孤児院が閉鎖されてからはあの廃聖堂で暮らしていた。異世界の暦は不明だが、半年近くものあいだ野宿を続けていた状況なのではないだろうか。
当然ながら幼子が落ちついて眠れるはずもなく、むしろ体力と精神を消耗する一方だったことは想像に難くない――つまり、いま最も必要なのは、栄養たっぷりの食事と質の良い睡眠なのである。
「俺がついているから、ゆっくり休んでね」
今夜は俺も一緒だ。居間に布団を二枚並べ、みんなで川の字になる。
おやすみ、といって照明をオレンジ色の常夜灯に切り替えれば、やはりいくらも経たずに小さな寝息が聞こえてきた。
大人が眠るにはまだ早い時間だったので、俺は目を閉じて今日をふり返る――ずいぶんと不思議な出来事が起きたものだ。まさか、新居と異世界が謎の地下通路で繋がるなんて想像すらしなかった。
とはいえ、三人を保護できたことは幸いだった。あのまま放置されていたら最悪の結末を迎えていたかもしれない。
そういった諸々の事情を踏まえれば、警察や役所などに報告すべき案件だ……けれど、いったい誰がこんなぶっ飛んだ話を信じてくれるだろうか。
まあ、たとえ信じてもらえたとしても、すぐに通報する気はない。
最優先はエマたちの『身の安全と平穏な日常』なので、何事も三人に『安定した生活基盤』を用意した後の話になる。万が一に備えての避難場所を設けることが最低条件だ。
具体的な方針は……と、俺はそこでいったん思考を止める。ふと誰かが近づいてくる気配を感じ取ったからだ。
「あの、サクタローさん……」
「どうした? 眠れないのかな」
俺が目を開けると、ルルとリリを挟んだ反対側で寝ていたはずのエマの姿が側にあった。枕がわりのクッションを抱え、横でぺたりと座り込んでいる。
「ああ、もしかして不安になった?」
こちらに害意がないと理解してからは、三人とも懐いてくれているような印象を受けた。しかし会ったばかりの大人の家で寝泊まりするとなると、流石に不安を感じずにはいられないのかもしれない。
とりわけ、長姉として振る舞うエマであれば尚更だろう。
ところが、俺の予想は見当違いだったらしい。
「えっと……おれい、を言いたくて」
「お礼?」
「はい。わたしずっと怖くて……きっともうすぐ死んじゃうんだ、って思ってました。でもサクタローさんがおいしいゴハンをくれて、ほんとうにうれしくて……だから、ありがとうございます」
エマは一度言葉を区切ってから、ぎゅっとクッションを抱え込む。続けてふにゃりと笑みを浮かべて続ける。
「サクタローさんは神様じゃないっていうけど、わたしにとっては神様よりもっとすごい人です。これからなにがあっても、サクタローさんがやさしくしてくれたこと、わたしは忘れたりしません」
お礼は素直に嬉しい。俺のやっていることがいらぬお節介ではないと証明されたからだ――しかし、その後がまったくいただけない。まるで『すぐにお別れがくることを覚悟している』とでも言いたげな口ぶりじゃないか。
上体を起こしてその顔をよく見れば、やはり笑顔では覆い隠せない諦めのような感情がにじんでいた。
正直、ずっと保護者でいられるかどうかはわからない。異世界人と日本人という埋めがたい隔たりがある以上、いつかお別れの時がやってくるかも……だが、それはまだまだ先のことだ。
「いいかい、エマ。俺はこれから、君たちが安心して暮らせる環境をどうにか用意するつもりだ。でも今はその方法を探す段階で、すべて整うまでにはたくさんの時間がかかってしまう。だから、その間は一緒にいたいと思っているよ」
「ほんとう……? これからもいっしょにいてくれるんですか?」
「もちろん。ただし、君たちが嫌だったら別の方法を考えるから言ってね」
「イヤなんて、ぜったい思いません」
「よかった。それなら、ちゃんとそばにいるからね。今日はもう安心して寝なさい」
「はいっ。じゃあ、あの……いっしょに寝てもいいですか?」
なんと可愛らしいおねだりだろうか。快く了承して掛け布団をめくると、エマがおずおずと懐へ潜り込んでくる。それから俺は、ちょうどいい位置にある頭を優しくなでて寝かしつけた。
最初は布団の中で尻尾の揺れる気配がしていたけれど、すぐに穏やかな寝息へと変わる。
こうして、奇跡のような一日が終わりを迎えたのだった。
幼女たちは動物的な特徴をもつので、タマネギは抜きにした。本人たちは『なんでも食べられる!』と豪語していたが、ちょっと心配だしね。
メインの他には、簡単なサラダと白飯を用意する。時間の都合で白米はレトルトだけど。
「では、まずハンバーグから作っていきます」
「はい! はんばぐ、作りますっ! ……はんばぐってなんですか?」
横でお手伝いする気満々のエマに、「ひき肉に色々混ぜて成形して焼いたものだよ」と答えて料理開始。絶品だから期待するがいい。
他の二人は……台所の設備が気になってお手伝いどころではない。お風呂のときと同じ展開だ。
「サクタロー、これはなに?」
「ん? ああ、それは冷蔵庫だよ」
「レイゾーコ?」
「食べ物や飲み物を保管する箱だね。開けてごらん、中が冷たくなっているから」
リリの質問に答え、実際に扉を開けて冷たさを体験させてやる。するとそれがツボにはまったらしく、ルルとかわるがわる手を突っ込んできゃあきゃあ騒ぎ出す。
エマも気になるみたいだったので「一緒に見てきな」と促せば、すぐにまざって笑顔ではしゃぎ始めた。
よし、今のうちに調理してしまおう。あれこれ相手をしながらだと支度がぜんぜん進まないからな。
ルルを冷蔵庫につめる、という謎の遊びをはじめた幼女たちの様子を時おり確認しながら、俺は手際よく夕飯を作りあげる。
姉に頼んだ物資の中には子供用の食器も含まれており、見せれば「自分の物なんて初めて!」と凄く喜んでくれた。そんな反応を微笑ましく思いつつ、俺は料理を盛りつけた皿を居間のローテーブルに配膳する。
それから皆が席にすわり、いよいよディナータイム。
「じゃあ食べようか。手を合わせて、いただきます」
「いた、だきます……?」
「なにそれ、へんなのー。お祈りじゃないの?」
「お祈りみたいなものだよ。はい、手を合わせてー」
いただきます、とみんなで食事を開始する――が、すぐに中断する羽目になった。
食べ方がわからないだろうからと俺はまず実演した。幼女たちはふんふん頷きつつお手本を真剣に観察していた。にもかかわらず、一斉に熱々ソースのかかったハンバーグを手づかみで食べようとしたのである。
「ちょっと待って、いったん食事中止!」
あの神妙な頷きは何だったのか……俺が焦って止めると、三人ともピタリと動きを止めた。次いでこちらに向けられたのは絶望の視線。きっとご飯を取り上げられるとでも思ったのだろう。
「俺がやってみせたように、フォークを使って食べてね」
当然ながら『キッズカトラリーセット』も準備されており、各自の食器の横にはフォークとスプーンが並ぶ。
それゆえ我が家の食卓では今後、パンなどの例外をのぞき手づかみ食べは禁止とした。火傷するかもしれないし、そもそも不衛生だ。
俺は再度お手本を示し、丁寧にフォークの使い方を教える。
「これをこうして、口に運びます。ほら、やってみて」
「はいっ!」
「こんなのカンタンよ!」
エマとリリはのみ込みが早くあっという間に習得して、「なにこれっ!?」や「おいしいっ!」といった感嘆の声をあげつつ夢中になってハンバーグを食べはじめた。白米は馴染みがないらしく反応は微妙である。
しかし、ただ一人。ルルだけは上手にフォークが使えなくて不満顔。物覚えの問題ではなく、とりわけ年少であることが理由だろう。
「もう一度やってみよう。大丈夫、すぐできるようになるから」
続けて指導するもやっぱり思うように食べられず、ルルはむっと頬を膨らませる。けれどすぐに何か閃いたらしく、明るい表情を浮かべてこちらに寄ってくる。
黒い尻尾をゆらす末妹は、そのまま胡座をかく俺の懐へ潜りこみ、すとんと腰をおろしてローテーブルとの隙間におさまった。さらに上を向き、こちらを見つめてパカッと口を開く。
「これは……」
催促だ。食べさせろ、とキラキラの青い双眸が雄弁に語っている。
よくない、非常によくない……子供の教育において、『甘やかすと甘えさせるは別物だ』と姉が言っていた。甘やかしすぎるとダメになるとも。
そして、上手にできないからと代わりに食べさせてあげる行為は、間違いなく甘やかしに該当する。
「………………まったく、今日だけだぞ」
だがしかし、独り身の俺は『子供に甘えられる』という経験があまりに少なく、可愛らしいおねだりへの耐性がほぼゼロなのであった。
姪の夏実ちゃんが小さい頃もつい甘やかし、姉に散々怒られたものだ。
でもまあ、今日くらいはいいよね、の精神である。
「あ、ずるいっ! リリもやって!」
「あの、わたしも……」
「はいはい、順番にね」
結局のところ、ハンバーグの味に興奮して飛び跳ねようとするルルを押さえたり、リリとエマにも順番でご飯を食べさせてあげたりと、俺にとっては非常に忙しない夕飯となった。子育てに奮闘する世のご家庭の苦労が偲ばれる。
食後は、洗面所で嫌がる三人に歯磨きを体験させながらしっかり教えこみ、トイレを済ませるのと同時に使い方を習得してもらった。するとルルがうとうとし始めたので揃ってパジャマに着替えさせ、居間に布団を敷いて就寝の準備を整える。
時刻はまだ二十時すぎ。昼寝もしていることだし、眠るには少し早くないかな……と思いかけてはたと気づく。
エマたちは、孤児院が閉鎖されてからはあの廃聖堂で暮らしていた。異世界の暦は不明だが、半年近くものあいだ野宿を続けていた状況なのではないだろうか。
当然ながら幼子が落ちついて眠れるはずもなく、むしろ体力と精神を消耗する一方だったことは想像に難くない――つまり、いま最も必要なのは、栄養たっぷりの食事と質の良い睡眠なのである。
「俺がついているから、ゆっくり休んでね」
今夜は俺も一緒だ。居間に布団を二枚並べ、みんなで川の字になる。
おやすみ、といって照明をオレンジ色の常夜灯に切り替えれば、やはりいくらも経たずに小さな寝息が聞こえてきた。
大人が眠るにはまだ早い時間だったので、俺は目を閉じて今日をふり返る――ずいぶんと不思議な出来事が起きたものだ。まさか、新居と異世界が謎の地下通路で繋がるなんて想像すらしなかった。
とはいえ、三人を保護できたことは幸いだった。あのまま放置されていたら最悪の結末を迎えていたかもしれない。
そういった諸々の事情を踏まえれば、警察や役所などに報告すべき案件だ……けれど、いったい誰がこんなぶっ飛んだ話を信じてくれるだろうか。
まあ、たとえ信じてもらえたとしても、すぐに通報する気はない。
最優先はエマたちの『身の安全と平穏な日常』なので、何事も三人に『安定した生活基盤』を用意した後の話になる。万が一に備えての避難場所を設けることが最低条件だ。
具体的な方針は……と、俺はそこでいったん思考を止める。ふと誰かが近づいてくる気配を感じ取ったからだ。
「あの、サクタローさん……」
「どうした? 眠れないのかな」
俺が目を開けると、ルルとリリを挟んだ反対側で寝ていたはずのエマの姿が側にあった。枕がわりのクッションを抱え、横でぺたりと座り込んでいる。
「ああ、もしかして不安になった?」
こちらに害意がないと理解してからは、三人とも懐いてくれているような印象を受けた。しかし会ったばかりの大人の家で寝泊まりするとなると、流石に不安を感じずにはいられないのかもしれない。
とりわけ、長姉として振る舞うエマであれば尚更だろう。
ところが、俺の予想は見当違いだったらしい。
「えっと……おれい、を言いたくて」
「お礼?」
「はい。わたしずっと怖くて……きっともうすぐ死んじゃうんだ、って思ってました。でもサクタローさんがおいしいゴハンをくれて、ほんとうにうれしくて……だから、ありがとうございます」
エマは一度言葉を区切ってから、ぎゅっとクッションを抱え込む。続けてふにゃりと笑みを浮かべて続ける。
「サクタローさんは神様じゃないっていうけど、わたしにとっては神様よりもっとすごい人です。これからなにがあっても、サクタローさんがやさしくしてくれたこと、わたしは忘れたりしません」
お礼は素直に嬉しい。俺のやっていることがいらぬお節介ではないと証明されたからだ――しかし、その後がまったくいただけない。まるで『すぐにお別れがくることを覚悟している』とでも言いたげな口ぶりじゃないか。
上体を起こしてその顔をよく見れば、やはり笑顔では覆い隠せない諦めのような感情がにじんでいた。
正直、ずっと保護者でいられるかどうかはわからない。異世界人と日本人という埋めがたい隔たりがある以上、いつかお別れの時がやってくるかも……だが、それはまだまだ先のことだ。
「いいかい、エマ。俺はこれから、君たちが安心して暮らせる環境をどうにか用意するつもりだ。でも今はその方法を探す段階で、すべて整うまでにはたくさんの時間がかかってしまう。だから、その間は一緒にいたいと思っているよ」
「ほんとう……? これからもいっしょにいてくれるんですか?」
「もちろん。ただし、君たちが嫌だったら別の方法を考えるから言ってね」
「イヤなんて、ぜったい思いません」
「よかった。それなら、ちゃんとそばにいるからね。今日はもう安心して寝なさい」
「はいっ。じゃあ、あの……いっしょに寝てもいいですか?」
なんと可愛らしいおねだりだろうか。快く了承して掛け布団をめくると、エマがおずおずと懐へ潜り込んでくる。それから俺は、ちょうどいい位置にある頭を優しくなでて寝かしつけた。
最初は布団の中で尻尾の揺れる気配がしていたけれど、すぐに穏やかな寝息へと変わる。
こうして、奇跡のような一日が終わりを迎えたのだった。
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