我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

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第一章

第31話 探索者に人気の食事処

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 俺は再びルルを抱っこして足を進める。エマとリリは、サリアさんとしっかり手を繋いで歩いている。

 それにしても、すごい食欲だ。幼女たちは『またゴハンだ!』と大喜びしているし、サリアさんに関しては言わずもがな。お腹が空いてないのは俺だけみたい。

 異世界の街の観光は、グルメツアーの様相を呈してきた……まあ、みんなが楽しいならそれでいいけどね。

 そして、歩くことしばらく。
 俺たちは、大通りに面したとある飲食店へたどり着く。

 遠目で気づいていたが、かなりの盛況ぶりだ。開け放たれた店内からせり出す形で、軒下にこれでもかと並べられた木製のテーブルと椅子は、すでに半分以上が埋まっていた。

 客は普通の人間と獣人が半々くらいで、その多くが剣や槍などの武器を携帯している。
 雰囲気は、『荒くれ者たちの酒場』みたいな感じだ。皆ガヤガヤと騒ぎ立て、豪快に飯をかっくらいながら樽製のジョッキを呷っている。

 ちょっと感動だ。多分、地球ではテーマパークなどでしか拝めない粗暴な饗宴である――けれど、そんな荒くれ者たちがこぞってサリアさんの登場に慌てふためくのだから、思わず笑ってしまった。

「さ、サリアだ!?」「なんでアイツが!?」「あれが無双の餓狼……」「奴隷になったんじゃ……?」「やめろ、目を合わせるな」「近づくなよ、飯をたかられるぞ!」「おい、なんだあの服?」「貴族のお抱えにでもなったのか?」「とにかく関わるな!」

 などなど、周囲はたちまち浮き足立つ。
 それでも本人が「騒ぐな」と一喝すればある程度騒ぎは収まったので、俺たちも遠慮なく空いているテーブルを確保させてもらった。

「ここは探索者に人気がある店だ。私も世話になっている」
 
 椅子に腰掛けたサリアさんが、少し得意げに教えてくれた。
 量も多く、味も良いと評判だそうだ。事実、付近には複数の飲食店が軒を連ねているが、この店がダントツで混雑している。

 これは期待できそうだ、とワクワクしながら周囲の光景を目で楽しむ。ところが、すぐに「サクタロー殿の作る飯には到底及ばないがな」と補足が入った。

 やや出鼻をくじかれた感は否めない……が、異世界の料理に興味があるのは変わらない。美味しかったら作り方を聞いてみようかな。

 ちなみに、同じテーブルには身内だけで座っている。
 エマとリリはちょこんと椅子に腰掛け、楽しげに足をブラブラやっている。ルルは俺の膝の上だ。どうやら眠くなってきたらしく、服をぎゅっと握って離れたがらなかった。

 それと、案内してくれた男たちは隣の別のテーブルで顔を突き合わせている。なにせ向こうは四人組だからね。数の都合で自然とこうなった。

「サリアさん、メニューは選べる?」

「いや、この時間帯は店主のお任せのみだ」

 昼は日替わり定食的なメニューのみで、夜になれば酒といくつかの料理が選べるらしい。
 その説明の終わり際、お仕着せ姿の中年女性が注文を取りに来たので、サリアさんは人数分を頼んでいた。

 それから彼女は、隣のテーブルへとそのグレーアッシュの瞳を向け、尖った口調で問いかける。

「小悪党ども、感謝しろ。私に殴られなかったのはエマのおかげだぞ。神のごとく敬え。それで、なぜサクタロー殿に絡んできた」

「それは、その……」

「正直に答えろ。嘘をついたら、その口をねじ切る」

 観念したらしく、リーダー格っぽい男がおずおずと答えてくれた。
 曰く、珍しいうえにとんでもなくキレイな服を着た一行が街中をふらふらしていると噂に聞き、因縁をつけて小銭でもせびってやろうと接触してきたそうだ。

 浅慮すぎるだろ。なんか奢ってもらっていいような気がしてきた。
 サリアさんも、「やっぱり一発殴っといた方がいい」とお怒りだ。またエマに止められていたが……これ、もう慈愛の天使だよね。

「ねぇ、サクタロー。口をネジキルってどうやるの?」

「うーん、どうやるんだろうね……」

 先程の物騒な会話が気になったらしく、リリが狐っぽい尻尾を揺らしつつ尋ねてくる。
 サリアさん、教育に悪いから言葉を選んでね……それはさておき、俺たちのことが噂にまでなっているのは問題だ。

 観光中から注目されていることは自覚していたし、今も不躾な視線を向けられている。サリアさんのひと睨みで対処可能なものの、あまり好ましい状況ではない。

 今後はもっと服装や立ち振る舞いなどに気を使うか、シンプルに護衛を増やす必要があるかもな。夜にでも対策を相談するとしよう。

「安心してくれ、サクタロー殿。この私がいれば問題ない。どんな悪党もひと捻りだ」

「その通りだぜ、兄貴。サリアにちょっかいを出す命知らずは、このラクスジットにもそう多くいねえ」

 男たちは隣のテーブルに突っ伏し、『俺たちも始めから知っていれば』なんて口々に後悔を吐露している。

 いやいや、まずは日頃の行いを省みるべきだろ……いや、ちょっと待て。聞き流せない言葉があったぞ。

「兄貴って、まさか俺のこと?」

「もちろんですとも! これからもひとつ、よろしく頼みます! エマさんもどうかお見知りおきを!」

 リーダーっぽい男が、もみ手で媚を売ってくる。
 ものすごい変わり身だ。大人のプライドをかなぐり捨て、幼女にまで頭を下げているのは逆に感心する。この潔さが、これまで小悪党たちを生き延びさせてきた秘訣に違いない。

 そうこうしているうちに、人数分の料理が運ばれてくる。
 メニューは、肉が入ったボリュームたっぷりのスープに黒っぽいパンのセット。これでお値段、一人前で銅貨八枚だそうだ。
 
 皆の前に料理が並んだら、さっそく食べ始める。
 エマとリリは木の匙を器用に操り、もぐもぐと懸命に頬張っている。我が家でいつもスプーンを使っているので、もうすっかり慣れっこだ。

 肝心の味の方は……うーん、けっこう薄めかな?
 俺もスープをひと口だけ食べてみたのだが、素材の風味に塩気をほどよく効かせた素朴な味わいだった。

 我が家の味付けに慣れてしまっていると、ちょっと物足りないかも。とはいえ、うちの子たちは健啖家揃い。どんな料理でもキレイに平らげようとするのだから偉すぎる。

 でも、無理はしなくていいからね。
 残してもサリアさんが全部食べてくれるからね。

 さて、膝の上のルルは……ふと覗き込むと、ウトウトしながらも口を開けてゴハンが運ばれてくるのを待っている。なんだこの生き物、可愛すぎる。

 この様子だと、昼食が終わったら帰宅した方がよさそうだ。きっとエマとリリもお眠になるだろうから、暖かくして皆でお昼寝タイムだね。

 俺としてはもっと街を見て回りたいところではあったが、この先いくらでも機会は作れる。またの楽しみにとっておくとしよう。
 次はどこを見に行こうか、なんて考えながら食事を続けた。
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