幸せになっても良いですか? 

あさがお

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第一章 

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 「天音君が私のことを好きじゃなくてもいいから! 好きになってもらえるよう努力するから!」

 三波の袖をひっぱり、そう懇願する女子。
 三波と親友をやっていると、度々この現場に遭遇するのだが、俺はその度に女子がうらやましい。結果はどうあれ、『想いを伝えること』はできているのだから。

 俺はこの学校の誰よりも三波と時間を共有しているが、そしてそれを羨ましいと言うやつもいるが、どんなに時間を共有しても、どんなに近くにいても、俺に『想いを伝える』権利はない。

 三波も俺も男だから。俺のこの気持ちはあんな風に伝えることはできないんだ。

 「…いいな」

 「だよなぁ、あんなかわいい子に告白されてえ」

 「…っ!」

 振り向くと、柏山瑠威がいた。こいつとは同じクラスで同じ部活だが、俺はこいつが好きではない。髪を茶色に染め、制服も好きなように着崩すなど校則違反の常習犯。もはや教師にも注意されないほど繰り返しており、それを鼻に掛けている感じがムカつく。

 「んだよ」

 肩に乗せられた腕を払い落とす。
 おっと、なんていいながら、次は肩に腕を回してくる。三波以外にベタベタされるのはごめんだ。俺はもう一度腕を払い落とした。

 「千尋ああいうのがタイプ?」
 柏山は嬉しそうに聞いてくる。

 「るせ」

 違うし、でも言う気ないし、なんかもうとりあえずうるさい。

 「はじめて聞いたかもなぁ、千尋のタイプ。結構王道が好きなんだな」

 「黙れ」

 「俺てっきり天音が好きなんだと思ってたわ」

 柏山がどこか意味ありげな顔をしながら、そういってくる。何て返せばいいのかわからなくて、一瞬、反応が遅れた。

 「…っ…は?」

 なんで、どうして、わかった。嫌だ、ばれたくない、気持ち悪いって言われる──と混乱する俺をよそに、柏山は三波たちに向き直る。

 「あれ、3組の佐伯さんだろ。かわいいって有名だよなあ」

 マジでかわいいな、なんていいながら二人を観察する柏山。これ以上俺のことを追求するつもりはないらしい。

 「…はあ…」
 よかった、たすかった。

 「…あ、天音泣かせてやんの」
 
 「せめて! せめてキスしてください! じゃないと、帰りません!」
 
 女子がわめきだす。わんわん泣いて、条件を飲まなければ一歩たりとも動かないといわんばかりだ。三波は当然戸惑っているが、するのだろうか。あの形のいい唇で、優しく、慰めるように。

 「千尋ー、俺が代わりにしてやるっていってこれば?」

 「……」
 三波は女子の肩に触れ、引き寄せる。いいな。女子はわめいてもかわいいし、キスだってできる。女に生まれただけで勝ち組だ。

 「…いいな」

 羨ましくて、見ていられない。三波が女子とキスをするところなんて見たくなくて、目をそらす。

 「……。わ、見ろよあれ」

 「んだよっ」

 なのに柏山が見るように促してきて。
 俺は、その瞬間を見た。

 「……!」

 三波は女子の口を手で塞ぎ、その上からキスをした。要は自分の手の甲にキスをした形である。
 
 「ごめん、できない。俺を許して」
 
 三波は告白も受けないしキスもしない。
 男の俺には関係ないことなのに、嬉しくなってしまうのだ。
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