幸せになっても良いですか? 

あさがお

文字の大きさ
41 / 64
第二章

40

しおりを挟む
 
 「着替え終わったか?」
 
 「な、なんとか、終わりました…」

 見るからにサイズが合っていない。まあ俺とは正反対の体型をしてるから当然なのだが。そのサイズがあってないダボッとした感じが可愛らしく、一瞬、「これが彼シャツというやつか」とか考えなくもなかったが、付き合ってもなければそんな場合でもない。すぐに馬鹿な考えを打ち消した。

 「こっちも大方終わったから、早く出るぞ、こんな気持ち悪いところ。ほら」

 目の前でしゃがんで見せると、蓮見は首をかしげてどうしたらいいかわからないというように困った顔をしていた。

 「背中乗れよ。その怪我、歩くと痛いだろ」

 「そ、そんなっ、助けてもらって、片付けしてもらって、その上おぶってもらうなんて! できません、そんなこと…!」

 「んなこと気にすんな。さっきもいっただろ、俺がしたくてやってんの」

 「…でも…! これ以上迷惑をかけるわけには!」

 「はあ。あのな、人ひとりおぶって歩くことより、ひでぇ怪我してるやつを歩かせることのほうができねぇの、俺のプライド的に。男が廃る。ただでさえ……」

 好きな人をこんな目にあわせているのに。
 
 「……?」

 「なんでもない。で、お前は俺のプライドを守ってくれんの?」

 「……うぅ。そんな言い方されたら……。……お、お願いします……」

 「ん。最初からそういえばいいんだよ」




 広い間隔で配置されている電灯に照らされた暗い田舎道。背中に蓮見を背負い、両肩には自分の荷物と蓮見の荷物をかけている。大した重量ではないのだが、蓮見は気になるのか、ずっとそわそわしている。

 「お、重くないですか…? 重かったら、僕、自分で……」

 「むしろ軽い。筋トレにもならねえ。お前ちゃんと食ってる?」

 「……たべてる…はず…」

 「じゃ、体につかないタイプか」

 「そうなのかも…。 瑠威は…すごくがっしりしてるよね。何を食べたら、そうなれるんですか…?」

 「何って、別にフツーだけど。米と味噌汁となんかとか。あー、強いて言うなら朝起きたら牛乳飲む習慣はあるな」

 「じゃあ牛乳飲んだら僕も瑠威みたいになれる?」

 「さあな。やってみればいいんじゃねーの? でも俺みたいな蓮見か……ふっ!」

 「あ! 想像して笑ったでしょう!」
 
 「似合わなすぎて」

 「ひどい!」

 蓮見のトラウマを呼び起こさないために、いつも通りに話しながら歩いていた。


 
 
 疲れて寝てしまったのだろうか、途中から蓮見は話さなくなった。まあ起こすこともないかと思ってしばらく黙って歩いていると、

 「……瑠威は、さ……」

 蓮見が、小さな声で何かを言い始めた。その声はかすかに震えているように聞こえる。

 「起きてたのか。なんだ?」

 「…どうして……、……僕なんかに、…よくしてくれるの……?」

 「よくする?」

 「…僕が、人に慣れる練習をしてくれたり…、田辺先生の、かばってくれたり…。今日も、そう‥。僕のこと、探してくれて……あんなに、汚いのも…掃除、してくれて、今は、こうやって、おぶってくれて…。なんで…?」

 そんなの。
 好きだからに決まってんだろ。
 そう言いたい。言いたいが──蓮見はクソ野郎共に好き放題された後。そんなタイミングで男から「好き」と言われたらどう感じるかなんて考えなくてもわかる。ひたすらに気持ち悪いはずだ。友達だと思っている相手からなら尚更。
 なんて返すのが一番いいのだろうなどと考えていると、蓮見は言葉を続けた。

 「なんで、ここまでしてもらえるの…? ずっと、考えていたんだけど……考えてもわからないんだ…。だって、僕には……瑠威に、そこまでしてもらえるほどの、価値はないから…」

 「価値?」

 なんだそれ。

 「今日も、ほら…ね…? みた…でしょ…? 僕、汚くなった……」

 「……」

 「なんの取り柄もなくて、……汚くて…、なんの価値もない、最低な僕に、どうして……」

 自分を悪く言う蓮見を止めたいが、本当の理由は言えない。どうする?

 「瑠威は、どうして、そんなに、……、よく、してくれるの…?」

 俺が思考を巡らせていると、蓮見は震える声で言った。



 「もしかして、……瑠威も、

  ──お金、が、欲しいの…?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...