「外れスキル【道案内】」と蔑まれた俺、実は最強の【空間把握】能力者だった件〜方向音痴の最強剣聖(美少女)とコ未踏破ダンジョンを攻略する

みぃた

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第九十一話:儀式の始まり、魂の奔流

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カイは、リリアの力強い眼差しに見送られ、ゆっくりと森の心臓(ハート・オブ・フォレスト)へと向き直った。覚悟は、決まっている。彼は、そのエメラルドグリーンに輝く巨大な水晶体に、そっと両手を触れた。

その瞬間、カイの意識は、肉体から引き剥がされるかのような強烈な感覚と共に、圧倒的な情報の奔流に飲み込まれた。それは、この森に生きていた、ありとあらゆる生命の記憶と感情の濁流だった。天を突く大樹が、何百年もの歳月をかけて見下ろしてきた風景。名もなき小さな花が、一夜の命を精一杯咲かせた喜び。母を求める子鹿の悲しみ。そして、全てを飲み込んだ『生命汚染の魔術』への恐怖と、石化の瞬間の、永遠の別れの絶望。

「ぐ……うぅっ……!」

カイの口から、苦悶の呻きが漏れる。彼の精神は、広大な森の魂そのものと化した、巨大な奔流の中の、一艘の小舟に等しかった。一つでも気を抜けば、その奔流に飲み込まれ、自己という輪郭を失い、二度と戻れなくなるだろう。

だが、彼は耐えた。リリアとの約束が、彼の魂を繋ぎとめる錨となっていた。彼は、ただ受け流すのではない。自らの魂から放たれる、温かい癒しの光を、奔流の一つ一つの記憶に、語りかけるように注ぎ込んでいく。それは、凍てついた魂を、無理やり溶かすのではない。春の陽光のように、優しく、辛抱強く、その目覚めを促す、慈愛の儀式だった。

リリアは、カイの背後で、剣を構えたまま、その一部始終を固唾を飲んで見守っていた。彼女の鋭敏な感覚は、カイが今、どれほど危険な綱渡りをしているのかを、痛いほどに伝えてくる。彼の魂が、巨大な悲しみと共鳴し、きしむ音が聞こえるようだ。彼女は、ただ祈ることしかできない。自分の相棒の、その強靭な魂の力を、信じることしか。

儀式が始まってから、どれほどの時間が経っただろうか。森の心臓が、カイの癒しの光に応えるように、その鼓動のリズムを、わずかに早め始めた。エメラルドグリーンの輝きが、黄金色の光を帯び、その脈動は、大地を通じて、森全体へと伝わっていく。石化したマザーツリーの幹に、微かな亀裂が走り、そこから、淡い緑色の光が漏れ出した。

永い、永い眠りの終わりを告げる、夜明けの兆し。だが、その純粋で、あまりにも強大な生命力の再生は、この森の暗がりに、永く潜んでいた、穢れた残滓たちを、呼び覚ますことにもなった。森の奥深く、汚染が最も濃かった場所から、複数の、邪悪な気配が、一斉に、この聖域へと向かって動き出したのだ。
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