ふたりと独りの執着

たたらふみ

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本編

15.歪んでしまった幼なじみ

さっきまで食卓を囲んでいた空間を重い沈黙が支配している。何を話したいか、何を話すべきかわかっているがどう話し始めればいいかわからない。声を出そうとしても息を吐き出させないように喉が詰まる。

最初に口を開いたのはレンだった。

「まずはごめんねスバル。あの時の僕はどうかしていたよ。僕たちの関係を知ってもらうにしても、やり方を考えるべきだった。」

レンが頭をテーブルに付けて謝る。

「まぁ、俺もあれは驚いたけど……一応大丈夫だ。ただびっくりしただけ……」

「……それで、なんでお前はこのシェアハウスを出ていくってことになるんだよ。別に出ていく必要はないだろ。それにその脚で急に一人暮らしするとかさすがに無理があるだろ」

スバルが顔を一瞬しかめる。胸に一つ針が刺さったように痛む。

「……それは、俺が一人でも生きていけるようにならなきゃって……」

「そういうことを言ってんじゃねぇよ」

アキがイラついて舌打ちをする。スバルの逃げるような理由ではなくてもっと奥にある根本的な理由をアキは求めていた。

「……俺が……二人の空間を邪魔してたんじゃないかって思って……」

唇が震えるせいで声も震えてしまう。

「スバル、そんなことは決してないよ。僕たちはこの生活の中で一度だって君を邪魔だなんて思ったことはない。だからどうか、ここを出ていこうと考えた理由がそれだけなら考え直してほしい」

レンが強い目でスバルを見つめる。嘘偽りのないまっすぐな瞳がスバルをとらえて離さない。スバルが一つ大きな息を吸って話し始める。

「俺たち三人はさ、幼いころからずっと一緒にいたじゃん。それが当たり前でずっとこれからも続いていくもんだと、ちっちゃいころの俺は思ってたんだよ。だけどさ、俺が義足になったとき俺たち一度バラバラになっちまっただろ。俺、あんときそれがすごいつらくて、だからどうにかしてまた三人で一緒に居たかったからそういう役割・・になろうと思ったんだよ」

レンは真剣な表情のまま、アキの顔は苛立ちと苦しさで歪んでいた。

「だって俺は三人で一緒に過ごす時間が大好きで失いたくなくて、二人が俺の脚のこと気にするたびに苦しく思ってるのはなんとなく気づいてたけど、気づいてないふりをしてきた」

「苦しくだなんてそんな……」

「ごまかしてんじゃねぇよ!幼なじみだからずっと目の前で見てきた。二人が俺の脚を見るたびに、俺が困ったりするたびに苦しそうな顔をするところを。気づかないわけないだろ。お前たちが俺に罪悪感を感じてくれてることも。……お前たちが俺と一緒に居続けてくれたのだって、二人が俺に責任を感じ続けてくれてるからって、俺はそれをずっと利用してきて……」

スバルの涙声にレンの顔は悲しみに歪んでいく。

「でも、いつの間にか二人は俺の知らないとこで……もっと仲良くなっちまって。……俺が、なんでここにいたのかわかんなくなるじゃん……」

スバルの目から涙が落ちる。

「だからもう……シェアハウスも、幼なじみも終わりにしよう」

苦しそうな笑顔でそう告げる。


「……ふざけんのも大概にしろよ……!」

アキが怒気を孕んだ声で言う。

「勝手にこっちの気持ちを代弁してんじゃねぇ!いつ俺たちがスバルを嫌がった。ずっとずっとお前がその脚だから助けてやってた。たしかに最初は責任も感じてたさ、でも今はちげぇ。俺がやりたくてやってた。お前が困ってるから助けてやってたんだよ。その今までの気持ちをお前は勝手に想像して踏みにじってんじゃねぇ!」

アキの怒声が静かなダイニングに響く。

「俺の気持ちも知らねぇくせに、助けてやってきたとか言ってんじゃねぇ!俺がずっとお前たちに助けられるのがうれしく感じてたかと思うか?一番嫌だったよ!幼なじみのお前たちから今まで通り接してもらえなくなって、クラスの奴らより何倍も苦しくて悲しかったよ。でも俺はそれをずっと受け入れてきた。三人でずっと一緒にいるためだよ!それを二人は目の前でぶち壊してきやがった!」

スバルもアキに反抗するように声を荒げる。

「二人の負担になって苦しめるくらいなら……俺は……」

レンの手に力が入る。

「二人ともいったん落ち着いてくれ。スバル、僕たちの気遣いが今まで君に不快な気持ちにさせてきたなら謝らせてくれ。すまない。それでも、僕たちは君のことを負担だなんて……」

「いつも悲しそうな顔しながら俺の脚見てたんじゃ説得力ねぇよ!」

レンとアキがぐっと言葉に詰まる。レンとアキは昔からスバルに対しては罪悪感を感じていた。時が経つにつれて薄れても完全に消えはしない。

「……それでも僕は君がこの家から出ていくことは認められないよ」

レンの中で、スバルが目の前からいなくなる、それだけは絶対にありえない未来だった。

「……それは俺が、お前らなしじゃ生きていけないからか……」

自嘲するように言うと、瞬間アキの目が大きく見開かれる。

「てめぇ!俺とレンのことを馬鹿にするのもいい加減にしろよ!」

アキがスバルにつかみかかる。

「やめてくれアキ!スバル、僕たちは君を失うことなんて考えられない。だから、どうかここにいてほしい。僕たちにスバルと一緒にいることを許してほしい」

「何がそんなに気に入らねぇんだよお前らは!俺はお前らが苦しむところをもう見たくない、これ以上俺がつらい思いをしたくないから……」

「その被害者意識が気に入らねぇっつってんだよ!」

スバルの核心を突く言葉だった。スバルの目が大きく揺れた。

「そんなに気遣いされんのがきつかったんだったら言えばよかっただろ、勝手に気遣われるように振舞ってそれがつらいとか舐めたこといってんじゃねぇよ!それも言わねぇで一人で抱えて俺たちを信頼してねぇのはどっちだ!いいか、俺は絶対お前を離す気はない。左脚を動かなくしてでもここにつなぎとめてやる」

空気が一瞬固まった。

「アキ!本当に言いすぎだ。……スバル、君は本当に僕たちから離れたいと思ってるのかい?」

そのまなざしはひどく冷たく鋭かった。

「俺だって三人で居続けてぇよ。……でも、もうここに必要もなくて負担にしかならねぇんだったら……」

スバルの心は擦り切れそうなほど疲弊していた。レンとアキの関係、今まで一人で抱えてきた苦悩、三人で居たい気持ちとそれを邪魔するかのごとく突き付けられる現実。スバルにはもうどうしたらいいのかわからなくなっていた。堂々巡りの思考の迷路の先には一つの答えがあった。









———もう考えなくていいか。










「はは、もういいよ。考えるのも疲れちまった……」

乾いた笑いと共に言われた言葉に二人は固まる。

「あ?てめぇいきなり何言いやがって……」

「いいよ。俺はここを出てかない。二人の好きなようにしてくれ。もう何にも考えたくねえ。飼い殺しにでも何でもしてくれよ」

諦観の言葉はレンとアキの執愛のストッパーを壊した。スバルの耳から音が遠ざかり体から一気に力が抜けていく。

「何だそれ、いいじゃん。俺たちに全部任せちまうのか」

いつの間にか体を挟まれ、アキに顎を持ち上げられ、レンに手を包まれる

「あぁスバル、スバル。すまない、君にそんな思いをさせてしまうなんて。もう苦しまなくていい、君は僕たちのそばで何も考えずにいていい。すべて僕たちに任せてくれ」

身体は動かない。動かそうとする思考すら生まれなかった。

「言ったろ。離さねぇって」

「僕たちはずっと三人だ」

耳元でささやかれる声はこれまでのどんな声よりも甘くスバルの鼓膜に響いた。
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