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本編
【スバルが生み出したレン】
「レン!アキと一緒にあそぼーぜ!」
放課後の家の中にインターホンの機械音が響く。玄関を開けると、スバルが手をこちらに差し出して無邪気な声を出した。スバルの隣で顔を赤くし、恥ずかしそうに手をつないでいるアキがいた。
「うん!今日はなにしてあそぶの?」
スバルに差し出された手を取って走り出す。毎日の放課後、この瞬間が何より嬉しい瞬間だった。
スバルとアキは普段は仲良く遊んでいるが、時折、意見が合わなかったりスバルがアキを揶揄いすぎて喧嘩になる。そんなときはいつもレンが二人の仲裁をする。二人が困っているときもすぐにレンを頼っていた。レンも二人に頼られることがうれしくて、弟のようにかわいく思っていた。アキは普段、素直じゃないが、レンやスバルに頼るときや、初めて会う子がいるときに服の裾をつかんでくっついてくる。そんなふうに可愛く頼ってくるところが特別扱いをされているようでとてもうれしかった。レンの心はいつの間にかアキに惹かれていった。
「今日はあのちょーでっかいこうえんのほうまで行こうぜ!」
「でも、あそこまで行くのけっこうとおいんじゃ……」
「いーじゃん!ふたりがいるならどこ行ったってたのしいよ!」
「おい、スバル!」
レンとアキの制止も聞かずにスバルは二人の手を引いて公園に向かって走る。こうやっていつでも二人を引っ張って進んでいくのに、頼るときには真っ先にレンを選んでくれる。レンにとってそれはアキから頼られるのと同じくらいに嬉しかった。こんなスバルにずっと頼られていたい。二人に頼られる自分で居たい。こうやって三人でずっと一緒に居たい。
三人で川をまたぐ橋を渡り、十分ほど歩いて見えてきたスバルたちの住む地域で一番大きい公園。子供が遊ぶエリアはもちろんバーベキューをするためのエリアやハイキングコースがあり、様々な人が集まる公園だ。三人は大きな案内板を見て遊具がたくさんあるエリアに行こうと決めた。遊具エリアまでの道はいくつかあるが一番の近道がハイキングコースを通っていく道だった。
ハイキングコースは道幅は広いが、ところどころ木の根っこが飛び出していたりしていて不安定だった。
「意外とたいへんな道だな」
スバルが愚痴をこぼす。
「ス、スバルがこっちが近いって言ったんだろ!レン~おれ、つかれた」
アキが後ろにいるレンに抱き着く。
「アキはいちばん年下だからね。仕方ないよ」
慰めるようにアキの頭をなでるが、アキは幼いと言われたことが気に入らなくて抱き着く腕に力が入る。
「アキはいちばんガキだって~」
スバルがアキのことをからかう。アキは怒った顔でスバルに振り向いた。
「なんだと~!」
アキがスバルを追いかけ、逃げるようにしてスバルが不安定な道を走る。レンも後ろから小走りで追いかける。
「ふたりとも、そんな走るとあぶないよ!」
三人とも楽しそうに笑いながらハイキングコースを走った。しばらくすると少し開けた休憩エリアのようなところに着き、三人とも息が上がっていた。三人は少し休憩しようとベンチに近づく。スバルは後ろの二人を急かすように見ながら、前を見ないで後ろ歩きをする。
「「スバル!」ちゃんと前見て!」
「え?」
スバルのかかとが急に止まった。地面から生えた木の根っこに引っかかる。バランスを崩した勢いで後ろに勢いよくよろける。
腰のあたりに何かがぶつかった。体が浮かぶ感覚がした。
空が見えた。地面が踏めない。
「スバル!」
目の前のがけに消えていったスバルに届くはずのない手を伸ばす。柵から身を乗り出しスバルの落ちたところを見る。地面まではさほど離れていないようで少し安心するが違和感がある。スバルの右足に何かが刺さっていた。ただの枝じゃない。小学生のレンの拳ほどの太さのものが刺さっていた。頭が空っぽになる。いや、目の前の光景を理解することを頭が拒む。隣のアキも同じものを見て、あまりの現実に震えている。
「……ッ!」
勝手に体が動いた。ハイキングコースを全速力で走り途中の道で数人で歩いている年配の集団を見つけた。
「助けてください!スバルが……スバルが!」
スバルがいなくなってしまう。三人で居られなくなってしまう。その恐怖と今目の前で見た現実でのパニックでうまく説明はできなかったが、レンの様子を見て老人はレンを落ち着かせて状況を聞き、急いで救急に電話を掛ける。そこからの記憶はあまりなかった。救急隊の人が来るまで二人はご老人に保護してもらい、一人の老人とともにスバルの救急車両に乗り込む。病院までの道で親の電話番号、年齢、住所などを聞かれた。眠ったように目を閉じているスバルを生きた心地がしないまま見ていた。
病院に着くと、スバルは担架で運ばれレンとアキは別室へと連れていかれた。事故の状況を説明して、しばらくすると三人の親が迎えに来た。スバルの母親の顔は血の色がなく、今にも泣きだしてしまいそうな顔をしていた。レンとアキは迎えに来た母親に抱かれると堰が決壊したようにあふれ出して泣いた。
その日は一度家に帰され、翌日の学校も二人とも休んだ。スバルの意識が戻ったと聞き、急いで病院に向かいスバルのいる病室に入り目を開けているスバルの顔を見て安心する。しかし、脚を見て再び絶望した。そこにあるはずの脚が無い。病院着のズボンの片方に膨らみがない。アキもその脚を見て震えていた。
(あぁ、ぼくのせいだ。僕が……スバルを止めなかったから)
(俺が……スバルを……追いかけた。スバルの脚を……)
二人ともスバルの悲しそうな目と無くなった脚を見て抱えきれないほどの罪悪感で押しつぶされそうになった。
学校にスバルが戻ってくるとスバルのことを見られなくなっていた。顔を見るとスバルが崖に消えていく瞬間が、脚を見ると崖に落ちたスバルが、義足を見るとスバルの病室での顔が浮かんでくる。すべてがあの日につながっていった。そこからはスバルを避けるようになり、自然とアキとも話さなくなった。二人がそばにいないのは身体の一部がなくなってしまったような感覚だったがスバルへの罪悪感が心の中にずっと重りとしてあった。そんなことを考えながら日々を過ごしているとき、スバルの方から近づいてくるようになった。最初はすこし冷たくしていたが、小さなことでも頼ってきたりアキと一緒にレンのところに来るようになってまた三人で居ていいと、愛しいスバルとアキと居ていいと許されたような気持ちになる。スバルの明るい顔と感謝がレンを温める。スバルが頼ってくるたびにレンの鎖が解かれていく。解かれた鎖から出てきたものは甘い庇護欲と暗い独占欲だった。
(スバルは僕とアキで守り続けなきゃ……か弱いスバルは僕たちだけのものだ)
———だから僕は、三人で居続ける。
放課後の家の中にインターホンの機械音が響く。玄関を開けると、スバルが手をこちらに差し出して無邪気な声を出した。スバルの隣で顔を赤くし、恥ずかしそうに手をつないでいるアキがいた。
「うん!今日はなにしてあそぶの?」
スバルに差し出された手を取って走り出す。毎日の放課後、この瞬間が何より嬉しい瞬間だった。
スバルとアキは普段は仲良く遊んでいるが、時折、意見が合わなかったりスバルがアキを揶揄いすぎて喧嘩になる。そんなときはいつもレンが二人の仲裁をする。二人が困っているときもすぐにレンを頼っていた。レンも二人に頼られることがうれしくて、弟のようにかわいく思っていた。アキは普段、素直じゃないが、レンやスバルに頼るときや、初めて会う子がいるときに服の裾をつかんでくっついてくる。そんなふうに可愛く頼ってくるところが特別扱いをされているようでとてもうれしかった。レンの心はいつの間にかアキに惹かれていった。
「今日はあのちょーでっかいこうえんのほうまで行こうぜ!」
「でも、あそこまで行くのけっこうとおいんじゃ……」
「いーじゃん!ふたりがいるならどこ行ったってたのしいよ!」
「おい、スバル!」
レンとアキの制止も聞かずにスバルは二人の手を引いて公園に向かって走る。こうやっていつでも二人を引っ張って進んでいくのに、頼るときには真っ先にレンを選んでくれる。レンにとってそれはアキから頼られるのと同じくらいに嬉しかった。こんなスバルにずっと頼られていたい。二人に頼られる自分で居たい。こうやって三人でずっと一緒に居たい。
三人で川をまたぐ橋を渡り、十分ほど歩いて見えてきたスバルたちの住む地域で一番大きい公園。子供が遊ぶエリアはもちろんバーベキューをするためのエリアやハイキングコースがあり、様々な人が集まる公園だ。三人は大きな案内板を見て遊具がたくさんあるエリアに行こうと決めた。遊具エリアまでの道はいくつかあるが一番の近道がハイキングコースを通っていく道だった。
ハイキングコースは道幅は広いが、ところどころ木の根っこが飛び出していたりしていて不安定だった。
「意外とたいへんな道だな」
スバルが愚痴をこぼす。
「ス、スバルがこっちが近いって言ったんだろ!レン~おれ、つかれた」
アキが後ろにいるレンに抱き着く。
「アキはいちばん年下だからね。仕方ないよ」
慰めるようにアキの頭をなでるが、アキは幼いと言われたことが気に入らなくて抱き着く腕に力が入る。
「アキはいちばんガキだって~」
スバルがアキのことをからかう。アキは怒った顔でスバルに振り向いた。
「なんだと~!」
アキがスバルを追いかけ、逃げるようにしてスバルが不安定な道を走る。レンも後ろから小走りで追いかける。
「ふたりとも、そんな走るとあぶないよ!」
三人とも楽しそうに笑いながらハイキングコースを走った。しばらくすると少し開けた休憩エリアのようなところに着き、三人とも息が上がっていた。三人は少し休憩しようとベンチに近づく。スバルは後ろの二人を急かすように見ながら、前を見ないで後ろ歩きをする。
「「スバル!」ちゃんと前見て!」
「え?」
スバルのかかとが急に止まった。地面から生えた木の根っこに引っかかる。バランスを崩した勢いで後ろに勢いよくよろける。
腰のあたりに何かがぶつかった。体が浮かぶ感覚がした。
空が見えた。地面が踏めない。
「スバル!」
目の前のがけに消えていったスバルに届くはずのない手を伸ばす。柵から身を乗り出しスバルの落ちたところを見る。地面まではさほど離れていないようで少し安心するが違和感がある。スバルの右足に何かが刺さっていた。ただの枝じゃない。小学生のレンの拳ほどの太さのものが刺さっていた。頭が空っぽになる。いや、目の前の光景を理解することを頭が拒む。隣のアキも同じものを見て、あまりの現実に震えている。
「……ッ!」
勝手に体が動いた。ハイキングコースを全速力で走り途中の道で数人で歩いている年配の集団を見つけた。
「助けてください!スバルが……スバルが!」
スバルがいなくなってしまう。三人で居られなくなってしまう。その恐怖と今目の前で見た現実でのパニックでうまく説明はできなかったが、レンの様子を見て老人はレンを落ち着かせて状況を聞き、急いで救急に電話を掛ける。そこからの記憶はあまりなかった。救急隊の人が来るまで二人はご老人に保護してもらい、一人の老人とともにスバルの救急車両に乗り込む。病院までの道で親の電話番号、年齢、住所などを聞かれた。眠ったように目を閉じているスバルを生きた心地がしないまま見ていた。
病院に着くと、スバルは担架で運ばれレンとアキは別室へと連れていかれた。事故の状況を説明して、しばらくすると三人の親が迎えに来た。スバルの母親の顔は血の色がなく、今にも泣きだしてしまいそうな顔をしていた。レンとアキは迎えに来た母親に抱かれると堰が決壊したようにあふれ出して泣いた。
その日は一度家に帰され、翌日の学校も二人とも休んだ。スバルの意識が戻ったと聞き、急いで病院に向かいスバルのいる病室に入り目を開けているスバルの顔を見て安心する。しかし、脚を見て再び絶望した。そこにあるはずの脚が無い。病院着のズボンの片方に膨らみがない。アキもその脚を見て震えていた。
(あぁ、ぼくのせいだ。僕が……スバルを止めなかったから)
(俺が……スバルを……追いかけた。スバルの脚を……)
二人ともスバルの悲しそうな目と無くなった脚を見て抱えきれないほどの罪悪感で押しつぶされそうになった。
学校にスバルが戻ってくるとスバルのことを見られなくなっていた。顔を見るとスバルが崖に消えていく瞬間が、脚を見ると崖に落ちたスバルが、義足を見るとスバルの病室での顔が浮かんでくる。すべてがあの日につながっていった。そこからはスバルを避けるようになり、自然とアキとも話さなくなった。二人がそばにいないのは身体の一部がなくなってしまったような感覚だったがスバルへの罪悪感が心の中にずっと重りとしてあった。そんなことを考えながら日々を過ごしているとき、スバルの方から近づいてくるようになった。最初はすこし冷たくしていたが、小さなことでも頼ってきたりアキと一緒にレンのところに来るようになってまた三人で居ていいと、愛しいスバルとアキと居ていいと許されたような気持ちになる。スバルの明るい顔と感謝がレンを温める。スバルが頼ってくるたびにレンの鎖が解かれていく。解かれた鎖から出てきたものは甘い庇護欲と暗い独占欲だった。
(スバルは僕とアキで守り続けなきゃ……か弱いスバルは僕たちだけのものだ)
———だから僕は、三人で居続ける。
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