ふたりと独りの執着

たたらふみ

文字の大きさ
16 / 28
本編

【スバルが生み出したレン】

「レン!アキと一緒にあそぼーぜ!」

放課後の家の中にインターホンの機械音が響く。玄関を開けると、スバルが手をこちらに差し出して無邪気な声を出した。スバルの隣で顔を赤くし、恥ずかしそうに手をつないでいるアキがいた。

「うん!今日はなにしてあそぶの?」

スバルに差し出された手を取って走り出す。毎日の放課後、この瞬間が何より嬉しい瞬間だった。
スバルとアキは普段は仲良く遊んでいるが、時折、意見が合わなかったりスバルがアキを揶揄いすぎて喧嘩になる。そんなときはいつもレンが二人の仲裁をする。二人が困っているときもすぐにレンを頼っていた。レンも二人に頼られることがうれしくて、弟のようにかわいく思っていた。アキは普段、素直じゃないが、レンやスバルに頼るときや、初めて会う子がいるときに服の裾をつかんでくっついてくる。そんなふうに可愛く頼ってくるところが特別扱いをされているようでとてもうれしかった。レンの心はいつの間にかアキに惹かれていった。

「今日はあのちょーでっかいこうえんのほうまで行こうぜ!」

「でも、あそこまで行くのけっこうとおいんじゃ……」

「いーじゃん!ふたりがいるならどこ行ったってたのしいよ!」

「おい、スバル!」

レンとアキの制止も聞かずにスバルは二人の手を引いて公園に向かって走る。こうやっていつでも二人を引っ張って進んでいくのに、頼るときには真っ先にレンを選んでくれる。レンにとってそれはアキから頼られるのと同じくらいに嬉しかった。こんなスバルにずっと頼られていたい。二人に頼られる自分で居たい。こうやって三人でずっと一緒に居たい。

三人で川をまたぐ橋を渡り、十分ほど歩いて見えてきたスバルたちの住む地域で一番大きい公園。子供が遊ぶエリアはもちろんバーベキューをするためのエリアやハイキングコースがあり、様々な人が集まる公園だ。三人は大きな案内板を見て遊具がたくさんあるエリアに行こうと決めた。遊具エリアまでの道はいくつかあるが一番の近道がハイキングコースを通っていく道だった。
ハイキングコースは道幅は広いが、ところどころ木の根っこが飛び出していたりしていて不安定だった。

「意外とたいへんな道だな」

スバルが愚痴をこぼす。

「ス、スバルがこっちが近いって言ったんだろ!レン~おれ、つかれた」

アキが後ろにいるレンに抱き着く。

「アキはいちばん年下だからね。仕方ないよ」

慰めるようにアキの頭をなでるが、アキは幼いと言われたことが気に入らなくて抱き着く腕に力が入る。

「アキはいちばんガキだって~」

スバルがアキのことをからかう。アキは怒った顔でスバルに振り向いた。

「なんだと~!」

アキがスバルを追いかけ、逃げるようにしてスバルが不安定な道を走る。レンも後ろから小走りで追いかける。

「ふたりとも、そんな走るとあぶないよ!」

三人とも楽しそうに笑いながらハイキングコースを走った。しばらくすると少し開けた休憩エリアのようなところに着き、三人とも息が上がっていた。三人は少し休憩しようとベンチに近づく。スバルは後ろの二人を急かすように見ながら、前を見ないで後ろ歩きをする。

「「スバル!」ちゃんと前見て!」

「え?」

スバルのかかとが急に止まった。地面から生えた木の根っこに引っかかる。バランスを崩した勢いで後ろに勢いよくよろける。
腰のあたりに何かがぶつかった。体が浮かぶ感覚がした。
空が見えた。地面が踏めない。

「スバル!」

目の前のがけに消えていったスバルに届くはずのない手を伸ばす。柵から身を乗り出しスバルの落ちたところを見る。地面まではさほど離れていないようで少し安心するが違和感がある。スバルの右足に何かが刺さっていた。ただの枝じゃない。小学生のレンの拳ほどの太さのものが刺さっていた。頭が空っぽになる。いや、目の前の光景を理解することを頭が拒む。隣のアキも同じものを見て、あまりの現実に震えている。

「……ッ!」

勝手に体が動いた。ハイキングコースを全速力で走り途中の道で数人で歩いている年配の集団を見つけた。

「助けてください!スバルが……スバルが!」

スバルがいなくなってしまう。三人で居られなくなってしまう。その恐怖と今目の前で見た現実でのパニックでうまく説明はできなかったが、レンの様子を見て老人はレンを落ち着かせて状況を聞き、急いで救急に電話を掛ける。そこからの記憶はあまりなかった。救急隊の人が来るまで二人はご老人に保護してもらい、一人の老人とともにスバルの救急車両に乗り込む。病院までの道で親の電話番号、年齢、住所などを聞かれた。眠ったように目を閉じているスバルを生きた心地がしないまま見ていた。

病院に着くと、スバルは担架で運ばれレンとアキは別室へと連れていかれた。事故の状況を説明して、しばらくすると三人の親が迎えに来た。スバルの母親の顔は血の色がなく、今にも泣きだしてしまいそうな顔をしていた。レンとアキは迎えに来た母親に抱かれると堰が決壊したようにあふれ出して泣いた。
その日は一度家に帰され、翌日の学校も二人とも休んだ。スバルの意識が戻ったと聞き、急いで病院に向かいスバルのいる病室に入り目を開けているスバルの顔を見て安心する。しかし、脚を見て再び絶望した。そこにあるはずの脚が無い。病院着のズボンの片方に膨らみがない。アキもその脚を見て震えていた。

(あぁ、ぼくのせいだ。僕が……スバルを止めなかったから)

(俺が……スバルを……追いかけた。スバルの脚を……)

二人ともスバルの悲しそうな目と無くなった脚を見て抱えきれないほどの罪悪感で押しつぶされそうになった。

学校にスバルが戻ってくるとスバルのことを見られなくなっていた。顔を見るとスバルが崖に消えていく瞬間が、脚を見ると崖に落ちたスバルが、義足を見るとスバルの病室での顔が浮かんでくる。すべてがあの日につながっていった。そこからはスバルを避けるようになり、自然とアキとも話さなくなった。二人がそばにいないのは身体の一部がなくなってしまったような感覚だったがスバルへの罪悪感が心の中にずっと重りとしてあった。そんなことを考えながら日々を過ごしているとき、スバルの方から近づいてくるようになった。最初はすこし冷たくしていたが、小さなことでも頼ってきたりアキと一緒にレンのところに来るようになってまた三人で居ていいと、愛しいスバルとアキと居ていいと許されたような気持ちになる。スバルの明るい顔と感謝がレンを温める。スバルが頼ってくるたびにレンの鎖が解かれていく。解かれた鎖から出てきたものは甘い庇護欲と暗い独占欲だった。

(スバルは僕とアキで守り続けなきゃ……か弱いスバルは僕たちだけのものだ)

———だから僕は、三人で居続ける。
感想 1

あなたにおすすめの小説

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

落ちこぼれオオカミ、種族違いのため群れを抜けます

椿
BL
とあるオオカミ獣人の村で、いつも虐げられている落ちこぼれの受けが村を出ようと決意したら、村をあげての一大緊急会議が開催される話。

春野くんち―僕の日常は、過保護な兄弟たちに囲まれている―

猫に恋するワサビ菜
BL
春野家の朝は、いつも賑やかで少しだけ過保護。 穏やかで包容力のある長男・千隼。 明るくチャラめだが独占欲を隠さない次男・蓮。 家事万能でツンデレ気味な三男・凪。 素直になれないクールな末っ子・琉生。 そして、四人の兄弟から猫のように可愛がられている四男の乃空。 自由奔放な乃空の振る舞いに、兄たちは呆れながらも、とろけるような笑顔で彼を甘やかす。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

イケメンな先輩に猫のようだと可愛がられています。

ゆう
BL
八代秋(10月12日) 高校一年生 15歳 美術部 真面目な方 感情が乏しい 普通 独特な絵 短い癖っ毛の黒髪に黒目 七星礼矢(1月1日) 高校三年生 17歳 帰宅部 チャラい イケメン 広く浅く 主人公に対してストーカー気質 サラサラの黒髪に黒目

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 ★1000 Thank_You!!