Strawberry&Cigarette

雪葵

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A Sweet Trick of Halloween ー第4話ー

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「……初対面の男に、告られた」

 ため息交じりに頬杖をつくと、岡崎はぼそりとそう呟いた。


「————はあ?」

 その言葉に、吉野は思わず片眉を不穏な形に持ち上げた。


 岡崎が、突然片桐の告白を受けたその週の金曜。
 二人はいつものカクテルバーに来ていた。

 話したいことがある、と岡崎に言われてはいたが……予想をはるかに超えるぶっ飛んだ報告に、吉野は唖然とする。

「…………ちゃんと説明しろ、岡崎。
 どこのどいつだそのクソヤローは!?」
 吉野はがっと席を蹴って立ち上がらんとする勢いで岡崎を問い詰める。
「おい、ちょっと落ち着けよ。ガキじゃないんだから。
 ——まあ、なんというかそれほど突飛なことするような奴には見えないんだけどなあ……真面目そうだし、清潔感あってそれなりに可愛いし」
「おいお前っっ……まっまさか、なんだかんだ言って微妙にそいつに傾いてんのかよっ!?」
「はあ?
 ふざけるな。俺をどんだけ尻の軽い男だと思ってるんだお前は。
 それに、もしほんとにそいつに傾いたとしたら、お前にこんな相談しないから」
「…………そう言われれば、まあ」
 岡崎のぎりっと冷たい横目に、吉野は思わずオーバーヒートした自らを反省しつつボソボソと呟く。
「……ってか。
 冷静に考えれば……なんでお前そんなやたら男にモテてんだよ?」
「俺に聞くな!!!!」

 そう吉野を睨みつつ、岡崎は片桐の名刺を取り出しテーブルに置く。

「素性のわからない男の話など聞けないからな、一応もらった」
「○○システム(株)経理部、片桐洋輔……
 って、ここ……リナと同じ会社じゃんか」
「そうなんだよなー。まあ、社員も大勢いる会社だし……たまたまなのか」
「……ふうん……
 リナにどんな奴か聞いてみたら、何か分かるかもな……」
「んー。それもちょっと考えたんだが……
 この前、リナさんからメッセージ来たろ。これから少し忙しくなりそうだからしばらく会えない、って。
 彼女のことだ。彼のこと聞いたりしたら、なんで?どうしたの?何かあったの??……って、絶対根掘り葉掘り聞かれる気がする。
 彼女の気持ちを変に煩わせるような情報は、控えた方がいいような気もして……うーーん」


「……あのさ」
 名刺を静かにテーブルに置くと、吉野は少し改まったように岡崎を見た。

「……一番大事なこと、聞いてなかった。
 お前、こいつに告られて、なんて答えたんだよ?」


「————
 だから。
 ……俺にはもう、付き合ってる相手がいる……って」

 その言葉をもぞもぞと口にしつつ、岡崎は俄かに赤面して俯いた。


「…………」

 予想以上にピュアな岡崎のその反応に、吉野も急速にどぎまぎと照れ……なんだか甘ったるいその空気を慌てて追い払いつつ言葉を続ける。
「……そっ、それ聞いておきながら、なんで諦めねーんだよそいつは?」
「——問題は、そこなんだ。
 婚約とか、将来をちゃんと約束したわけじゃないならば、まだ自分にも可能性がある……と、食い下がられて。
 その相手と固く約束を結んでいないなら、自分も選択肢に入れてくれ……そう頭を下げられた」

「……なんかめんどくせー奴だな」
 吉野は難しい顔で胸ポケットから煙草を取り出しかけ——ふとその手を止めると、岡崎に呟く。

「——なあ。
 この続き……俺のとこで話すか。
 人のいる場所で、あんまり突っ込んだ話もできないし……
 対応策、ちゃんと考えといた方がいいだろ」

「————
 確かに、そうかもしれないな」

 なんとなく小声でそう話しつつ、二人は目の前のグラスを飲み干した。




✳︎




「——よく考えればさ」
 吉野の部屋のソファで、二次会的に開けた缶ビールを啜り、吉野は呟く。

「今回の件って、割とシンプルじゃねえのか?
 ……つまり。
 俺とお前が将来を固く誓い合えば、そいつは諦めてくれるってことだろ?」

「どこがどうシンプルなんだ」
 その言葉に、岡崎は手にしていた缶をテーブルに置き、複雑な表情で吉野を見る。

「片桐は、俺の相手が同性だとはまさか思っていないはずだ。
 異性同士ならば、婚約だのなんだのといくらでも具体的な話もできるだろう。
 だが——
 俺たちの場合は……どう考えても、シンプルとは言い難い」

「んー……
 異性でも同性でも、あんま変わんねーだろ。
 とりあえず、そいつの入る余地がないことを示せればいいわけで」

「簡単に言うけどな……どうやってだよ?」


「————
 というか……」

 吉野は、そこで何か言いにくそうに眉間を少し寄せながら、煙草に手を伸ばす。


「……吉野? どうした?」

 岡崎の問いかけに、吉野はケースから取り出した一本をじっと見つめ……そして、何か意を決したように、その視線を岡崎に移した。


「——岡崎。
 俺たちって、間に邪魔の入る余地がないほど、固い関係になれてんのかな……?」


「————どういう意味だよ」

「…………
 お前、片桐に、自分には付き合ってる相手がいる……そう言ったんだよな?
 けど……
 俺たち、ちゃんとそういう距離に近づけてるか……?」


「…………」


「——本当のこと、言っていいか?

 ……不安なんだよな、少し。

 ——俺は、もっと……ちゃんとお前を見たい。
 お前を、もっと見せて欲しい。
 もっと、お互いを全部見せ合えたらと……俺は、そんな気がして仕方ないのに。

 もっと俺に近づいて、自分自身を見せてくれようとする気配が……いつになっても、お前からは感じられない。

 だからって、もし俺から無神経に踏み込めば、きっとお前に拒絶される……気づけば俺は、相変わらずそうやってビクビクしてる。
 ——これって、恋人か?

 俺たちさ……
 マジで、恋人って関係になれるのか?」


「————
 それは……だから、少しずつ——」

 戸惑うように視線を逸らそうとする岡崎の肩に吉野は手を伸ばし、ぐっと掴む。


「——晶。

 俺は、お前が好きだ。
 ——もっと、お前を見せて欲しい。
 もっと、この腕の中に引き寄せて、抱き締めて……それを許してくれるお前を見たいと思うのは、間違いか……?」


 間違ってなどいない。

 知っている。
 お互いをそうやって求め合うのが、恋なのだと。


 ————怖い。

 自分自身の心も身体も、誰かに預けてしまう……そのことが。

 そんな温かさを、いつも求めているくせに——怖くてたまらない。


 ざわざわと揺れ動く眼差しを、熱の籠った吉野の瞳にぐいと絡め取られた。


「————頼む」


 懇願するような囁きが耳の奥を擽り、身体の芯を震わす。

 それと同時に、唇が重なり——
 逞しい雄の力で、有無を言わさずその場に横たえられた。


 首筋を唇で辿られる刺激に浮かされながら、自分のベルトに吉野の指が掛かったことを感じる。
 やがて入り込んだそれが、熱を持ちかけた芯を捉えた瞬間——
 全身がびくりと強く反応し、目の前の引き締まった肩を思わず縋るように掴んだ。

 堪えかねた吐息が、唇から漏れる。


「————あ……」

「……晶……」


 身体の芯を揺さぶり溶かそうとする、その甘い波に呑み込まれる寸前——

 鋭い恐怖感が、ギリギリと強烈に脳を刺した。


「…………順。
 待ってくれ、順」


 掠れるようなその呟きに、吉野の動きはぴたりと止まった。


「…………ごめん」

 吉野が、いつものように小さく呟く。

 ——違う。
 悪いのは、臆病者の俺だ。


「——こういうのってさ。
 片一方だけがどんだけ気合入ってても、ダメなんだよな」

 沈み込んだ空気を切り替えるように乱れた髪をざっとかき上げ、吉野は寂しげに乾いた微笑を漏らす。


「——片桐にどう答えるか、の前に……
 お前の気持ちが、どうなのか。
 ……俺は、むしろそれが知りたい」


 言葉を探せないまま身を起こした岡崎に、吉野は背を向けて呟いた。


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