Strawberry&Cigarette

雪葵

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A Sweet Trick of Halloween ー第7話ー

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 10月最後の、金曜の夜。
 岡崎の連絡を受け、片桐は以前岡崎と会った居酒屋に来ていた。


 とりあえず今日、岡崎から何らかの反応が得られる。
 ——一体、どのような結果になっているだろうか。

 もし、自分のせいで彼ら二人の関係が以前より悪化したり、破綻をきたしたりしている場合は——間違いなく、自分の恋はここで終了だ。

 そうなれば……今日は岡崎から散々責められ、詰られるような事態になる可能性も否めない。
 それだけではない。多分今後は、会社でリナとすれ違うのさえ、寿命が縮む思いをしなければならないだろう。

 そう考えると、自然と顔から血の気が引いていく。

 ……おい、しっかりしろ!
 とにかく、これは自分のできることを精一杯やった結果なのだ。どうなったとしても、静かに受け入れるしかない。


 先ほど、岡崎から連絡があった。
 彼は時間に少し遅れるらしいが、席を予約してあるから先にそこで待っていてほしい、とのことだった。

「はい、岡崎様のご予約ですね。承っております。……こちらへどうぞ」

 店に着き、スタッフに通されたのは、個室である。
 自分の背筋が、一層ぞわりと冷えるのを感じた。

 ——ああ。
 多分ここで自分は、これから心ゆくまで岡崎に非難され、罵倒されるのだ。
 それに、ことによっては何か踏まれたりとか蹴られたりとか……
 ああーーーー、やばい。胃がキリキリし始めた。

 だが……だがっ!

「ここで逃げるな片桐洋輔!!男だろっっ!!?」


 片桐は、個室の隅の席でひたすらブルブルと縮こまりつつ岡崎を待った。



 恐怖に震え自分の酒すらオーダーせず、10分ほど経っただろうか。
 ふと、入口がすっと開いた。

「片桐さん、お待たせしてしまって済みません」


「……いえ…………」

 その声に、恐々顔を上げる。

 と……
 自分の目の前に、なんとも華やかなオーラを放つ男二人が立っている。
 一人はもちろん岡崎だ。
 そして……もう一人は。


「————……」

「片桐さん、突然で済みません。
 今日は、恋人を一緒に連れてきました」

「初めまして。吉野です」
 そう挨拶すると、吉野は爽やかな微笑を浮かべた。


「————は、はっ初めまして……
 か、片桐です……」

 片桐の向かいに座りながら、岡崎は穏やかに微笑む。
「この前お会いした時は、ちゃんとお話できなくて済みませんでした。
 ——同性で、驚いたでしょ?」

「あ、いえ……えっと……」
「岡崎から、あなたに告白されたと聞いた時は、驚きました。
 しかも、あなたが彼を簡単には諦めない気持ちでいる……と。
 その話に、ますますびっくりして」
 そう言いながら、吉野は凛々しい笑顔で片桐を見る。
 なんというか、この爽やかさ穏やかさが、逆にもう怖くて死にそうなんだが……

「あっ、はい…………
 あの時は、本当に夢中で……
 とんでもなくご迷惑なことを言ってしまって……済みません。

 でも——岡崎さんへの想いは、真剣です」


 恐怖を押し殺して必死にそう告げる片桐に、二人はなんとなく視線を合わせて微笑む。

 そして、二人同時に、何やらそれぞれのスーツの内ポケットを探り出した。


「…………?」

「片桐さん、ごめんなさい。
 あなたの気持ちには、お応えできません。
 ……あなたが俺たちの間に入るスペースは、残念ながら見つからなさそうで」


 そして——
 二人はポケットから取り出したものを、それぞれの指に静かに嵌めた。


「————————」


「……こういうことなので」



 片桐の前に差し出された二人の左手の薬指には、シルバーのペアリングが輝いていた。




✳︎




 居酒屋を出て片桐と別れた後、二人は何となく黙って夜道を歩く。


「——わかってもらえたようで、よかったな」

 吉野が、ぼそりとそう呟いた。


「ああ。
 ……まあ、最初からそんなにタチの悪い男ではないだろうと思ったしな」
「ん。俺も、実際会ってみてそれわかったわ。
 ……最初にお前が彼のこと好印象みたいに話した時は、ぶっちゃけ半端なく嫉妬したけどな」
 吉野は、どこか居心地悪そうに苦笑いする。

「しかし……
 俺たちの薬指見た時はマジで驚いた顔してたなー。
 ネットで適当に買ったおもちゃのリングだとはまさか思わないだろ、彼も」

 そう言いながら、岡崎は悪戯っ子のようにクスクスと笑う。


「————
 今度、ちゃんとしたの見に行くか」

 ふいと素っ気なく横を向きながらそう呟く吉野を、岡崎は一瞬驚いたように見つめたが——
 くっと笑うと、小さく答えた。

「……確かに、あんまり安物じゃ多分すぐ壊れるからな」

「……不吉なこと言うなよ」

 そうして軽く笑い合いながら、二人は澄んだ夜空を仰いだ。




✳︎




 11月始めの、金曜日。
 リナと片桐は、以前二人で会ったカクテルバーに来ていた。
 片桐から、例のミッションの成果を報告したいと、リナに連絡があったのだ。


 自分の酒を飲むのもそこそこに片桐の語るその報告内容に、リナは呆気に取られた。

「———ちょっと、待ってよ……。
 なに……それ、本当なの?」

「本当です。
この目でしっかりと確認しました」


「…………信じられない……
 すごすぎるじゃない……」

「でしょ!?」


「————」


 大仕事をやり遂げたような片桐の満面の笑みを、リナはじっと見つめる。
 その視線に気づき、片桐はふと表情を改めた。

「……でも。
 今回のことで、あなたに『彼女になってくれ!』とか、迫る気はないんです。
 これをきっかけに、あなたが少しでも僕の方を見てくれるなら……それで」

 そうボソボソと呟きつつ頬を赤らめる片桐に、リナはどこかつっけんどんに返す。

「へえ。そっかー。
 じゃ、早速だけど。
 そろそろ冬物のコート、新しいのが欲しいのよねー。
 ……今度見に行きたいから、一緒に来てくれる?」


「…………へ?」


 聞き違いでもしたような顔をする片桐を、リナは横目でちらりと見ながら呟く。

「……自分を見てほしいなら、もっとそばに近づいてくれなきゃ。
 あなたがどんな人なのか、よく見えないじゃない。……でしょ?」


「…………はい。
 ……もちろん、それはもう……喜んで」


 微かに照れくさそうなリナのそんな言葉に、片桐は一層赤くなって俯いた。




✳︎




 11月最後の、金曜の夜。

 久しぶりに会おう!というリナのメッセージを受け、吉野と岡崎は約束の居酒屋の前にいた。

「リナさんに会うの、久しぶりだな本当に」
「ああ。いつも慌ただしいやつだけど、会わなくなるとすげえ物足りないもんだなー」
「彼女だって、いつまでもこうやって俺たちといてくれるかどうかわかんないだろ。
 吉野、そろそろリナさん離れすべきじゃないのか?」
 そんなことを言いながら微妙にニヤつく岡崎を、吉野はじろっと見る。
「は?何言ってんのお前?
 リナはな、そろそろ本気で彼氏でも見つけなきゃヤバいんだからな」
「彼女は最高に素敵な人だ。その気になればいくらでも」
「その『その気』がなさそうだからヤバいんだよなぁ……あいつ」

 寒さに小刻みに足踏みしつつそんな話をしているところへ、久々に聞く明るい声が届いた。

「二人ともお待たせー!」

「あ、来ましたねリナさ…………
 って、……!!??」

「…………片桐……さん!?
 ちょっとあんたなんでここにいるんだよっ!?」

 リナの後ろから不意に顔を出した片桐に、岡崎は思わず後ずさり、吉野は岡崎を庇うようにしながら険しい表情で唸る。

「ちょっとー、そんな怖い顔で威嚇するのやめてよ順。
 片桐くんはね、私の彼氏最有力候補なんだからっ♪」

「……そういうわけなので……よ、よろしくお願いします……」

 リナの楽しげな声に応援されるように、片桐はドギマギと恥ずかしげな笑顔でぺこりと頭を下げた。


「…………
 どうなってんだ、これ」

 全く状況が把握できずぽかんとする二人に、リナは悪戯っぽく微笑んだ。

「詳しいことは、これからじーーっくり話すわ。
 それからねー。
 あなたたちの恋の進捗状況も、もう楽しみすぎて……うふふっっ♬
 今日はじーーーーっくり聞かせてもらうわよ♡♡
 じゃ、とりあえず入りましょ!」


 そんなこんなで、秋は深まり——やがて、暖かな冬がやってくる。

 それぞれの幸せを掴んだ……のかどうか。
 そんな彼らを、優しく見守るように。

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