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父親同士の繋がり
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昔ながらの武家屋敷風の北村家の応接間で、関係者の父親同士が集まっていた。
鯉が泳ぐ日本庭園で、ししおどしが小気味よく鳴る。
「………えっ、まさか…っ。うちの花梨が…。」
眼に入れても痛くないくらい可愛い一人娘。
残念ながらオメガに生まれ、会社の後継としては厳しいが、しっかりした婿をとって…と考えていた。
もし、婿が会社を継ぐのが厳しければ、娘に優秀な子どもが生まれたらその子を。
孫を後継にするのもいい。
孫の代くらいまでなら、自分も何とか元気でいられるだろう。
そんなふうに思って、蝶よ花よと育てて、気が付けば甘やかしすぎたかもしれないが、決して悪い子ではなかった。
しかし、そう思っていたのは親だけで、甘やかしてしまったせいで、他人の拒絶を受け入れられず、思い通りにならなければ強硬手段をとるような狂気も孕んでいたのか。
吉田花梨の父親、株式会社吉田建設の代表取締役社長 吉田重蔵は、小太りのがっしりした体躯が小さく見えるほど、消沈した。
娘の腹の子の父親は、アルファであることには違いないが、北村拓海ではない。
娘はそのアルファに妻にしてもらおうと、敢えて妊娠するように行為を持ち、そしてそれを責められて拒絶され、幼馴染の拓海を嵌めたのだ。
それが事実であれば、娘は犯罪者として裁かれても仕方がない。
「…………よく調べもせず、一方的に責め立てて申し訳なかった…。」
重蔵は二人の父親に謝罪した。
「ということなので、うちの拓海とそちらの婚約はなかったことにしたい。結婚も無しだ。」
「あたりまえだ。」
「だが、お嬢さんはどう考えても病んでいる。これで結婚が白紙になれば、拓海君の本当の相手であるうちの蜜瑠に何をするか分からない。」
「和泉先生。はい、承知しております…。」
「そのことで、協力してくれている人がいる。西野さん、入ってくれないか。」
黒髪の知的な上位アルファの男が、一人のアルファの男を連れて入ってくる。
「すっ、すみませんでした!!!!」
派手な髪色の方が、いきなり土下座をした。
「……彼らは?」
「拓海と蜜瑠さんの大学の同級生で友人の西野マリさんの旦那さんで、民放のTV局でドラマのプロデューサーをしている西野健吾さんと、俳優の氷室和哉さんだ。這いつくばっているほうが、氷室さん。なんで這いつくばってるか、察しはつくでしょうが。」
「………君か。花梨のお腹の子の本当の父親は!」
「吉田社長。怒らないでやってください。不誠実な付き合いをした彼も因果応報ですが、夜の街でへそやら太ももやら露になった胸がぱっつんぱっつんの服を着て、一人バーで呑んだくれるような娘であるということを先ずご理解いただきたい。さらに言えば、彼はヒート時の性交は避けていましたし、避妊はきちんとしていました。遊び人ですが、だからこそそういうところはキチンとしていたのです。彼と結婚したくて、お嬢さんは態と自分で避妊具に穴をあけ、ヒートが来るのを黙って、むしろヒートが始まるタイミングを見計らって彼と寝たのですから。」
「………ああ、花梨……。なんて愚かなんだ。」
「ですが、すみません。私が悪いのです。私が彼女を追い詰めて、そのせいであんな風になってしまったのかもしれません。」
氷室はしおらしく目を潤ませながら、吉田社長を見た。
「責任を取ります。私が、花梨さんと結婚します。ですが、私は芸能人。スポンサーもおり、コマーシャルも何本か走っています。急に既婚者になった場合、契約に不具合が生じることもある。もうしばらくお待ちいただけないでしょうか!」
和泉大臣と北村議員が睨む。
「大丈夫。この男は私が逃がしません。」
(よし、よくやったぞ。氷室。お前はこれから一生、愛していない女を愛している演技をして生きていくんだ。)
西野プロデューサーに肩を軽くはたかれ、氷室はビクッと体をわずかに震わせた。
鯉が泳ぐ日本庭園で、ししおどしが小気味よく鳴る。
「………えっ、まさか…っ。うちの花梨が…。」
眼に入れても痛くないくらい可愛い一人娘。
残念ながらオメガに生まれ、会社の後継としては厳しいが、しっかりした婿をとって…と考えていた。
もし、婿が会社を継ぐのが厳しければ、娘に優秀な子どもが生まれたらその子を。
孫を後継にするのもいい。
孫の代くらいまでなら、自分も何とか元気でいられるだろう。
そんなふうに思って、蝶よ花よと育てて、気が付けば甘やかしすぎたかもしれないが、決して悪い子ではなかった。
しかし、そう思っていたのは親だけで、甘やかしてしまったせいで、他人の拒絶を受け入れられず、思い通りにならなければ強硬手段をとるような狂気も孕んでいたのか。
吉田花梨の父親、株式会社吉田建設の代表取締役社長 吉田重蔵は、小太りのがっしりした体躯が小さく見えるほど、消沈した。
娘の腹の子の父親は、アルファであることには違いないが、北村拓海ではない。
娘はそのアルファに妻にしてもらおうと、敢えて妊娠するように行為を持ち、そしてそれを責められて拒絶され、幼馴染の拓海を嵌めたのだ。
それが事実であれば、娘は犯罪者として裁かれても仕方がない。
「…………よく調べもせず、一方的に責め立てて申し訳なかった…。」
重蔵は二人の父親に謝罪した。
「ということなので、うちの拓海とそちらの婚約はなかったことにしたい。結婚も無しだ。」
「あたりまえだ。」
「だが、お嬢さんはどう考えても病んでいる。これで結婚が白紙になれば、拓海君の本当の相手であるうちの蜜瑠に何をするか分からない。」
「和泉先生。はい、承知しております…。」
「そのことで、協力してくれている人がいる。西野さん、入ってくれないか。」
黒髪の知的な上位アルファの男が、一人のアルファの男を連れて入ってくる。
「すっ、すみませんでした!!!!」
派手な髪色の方が、いきなり土下座をした。
「……彼らは?」
「拓海と蜜瑠さんの大学の同級生で友人の西野マリさんの旦那さんで、民放のTV局でドラマのプロデューサーをしている西野健吾さんと、俳優の氷室和哉さんだ。這いつくばっているほうが、氷室さん。なんで這いつくばってるか、察しはつくでしょうが。」
「………君か。花梨のお腹の子の本当の父親は!」
「吉田社長。怒らないでやってください。不誠実な付き合いをした彼も因果応報ですが、夜の街でへそやら太ももやら露になった胸がぱっつんぱっつんの服を着て、一人バーで呑んだくれるような娘であるということを先ずご理解いただきたい。さらに言えば、彼はヒート時の性交は避けていましたし、避妊はきちんとしていました。遊び人ですが、だからこそそういうところはキチンとしていたのです。彼と結婚したくて、お嬢さんは態と自分で避妊具に穴をあけ、ヒートが来るのを黙って、むしろヒートが始まるタイミングを見計らって彼と寝たのですから。」
「………ああ、花梨……。なんて愚かなんだ。」
「ですが、すみません。私が悪いのです。私が彼女を追い詰めて、そのせいであんな風になってしまったのかもしれません。」
氷室はしおらしく目を潤ませながら、吉田社長を見た。
「責任を取ります。私が、花梨さんと結婚します。ですが、私は芸能人。スポンサーもおり、コマーシャルも何本か走っています。急に既婚者になった場合、契約に不具合が生じることもある。もうしばらくお待ちいただけないでしょうか!」
和泉大臣と北村議員が睨む。
「大丈夫。この男は私が逃がしません。」
(よし、よくやったぞ。氷室。お前はこれから一生、愛していない女を愛している演技をして生きていくんだ。)
西野プロデューサーに肩を軽くはたかれ、氷室はビクッと体をわずかに震わせた。
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