【完結】美貌のオメガは正体を隠す

竜鳴躍

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西野と父、裏で頑張る。花梨、破滅する。

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4月中旬から7月にかけて、証拠を集めて氷室を抱き込む手はずを整えながら、身動きがとれない拓海の代わりに、西野は動いていた。

「ねえ、蜂谷君。私とは会えるでしょう、息抜きに一緒に遊びましょうよ。」


蜂谷君は北村君を諦めてはいけない。

何としても私が繋いでいかなければ。


カフェに呼び出せば、蜂谷君は現れた。

元気がなくて、痛々しい。


「久しぶり。…みんなどう?就職試験、とか。」

「色々あったけれど、彼は大丈夫よ。国家公務員の総合職の試験を受けて、この間一次試験合格したらしいから。下旬から二次試験があるけど、きっと合格すると思うわ。」


「そう、よかった。それが気がかりだったから。」


「蜂谷君も、実習大変そうね。」


「うん、でもまあ、大丈夫だよ。実習先の人はいい人たちだし、一緒に受けている同期もそうだから。」


「あのね……。」


言いかけて、ハッとする。

蜂谷君の後ろの席の男。こちらを様子見ている。…………あの病的な女は、自分が見張れないけど、蜂谷君に見張りをつけているのね。

金で雇った探偵かなんかだろう。

あの女は自由になる金があるようだから。


……まずいわ、どうやって彼に伝えよう。

LINE?電話?盗聴とかハッカーされていたら?
………アナログに郵便は?盗まれて勝手に開封されるわよね。



「そうだ!私、漫画家だって言ったでしょ?約束してたのに、似顔絵描いてあげてなかったわね。今描いてあげる!」

「え?」

目配せして、蜂谷君を黙らせた。


スラスラとメモ帳に書く。


『彼は裏切っていない。子どもの父親は別。信じて待ってて。彼の迎えを。』


「はい、どうかしら。可愛く描けたと思うんだけど。大事にしてくれると嬉しいわ!」

「……あっ、ありがと。」


誰にも見えないように裏返してメモ帳ごと渡した。






私には、あれが精いっぱいだった。

伝わっているといいんだけど。


それから時々、蜂谷君のアパート付近を見に行ったけれど、いつもあの探偵が見張っていた。


毎日、遠回しではあるが、北村君の気持ちを伝えたつもりだ。
でも、そのうち電話がつながらなくなった。

アパートもいつの間にか引っ越しして。




あの女には鉄槌をくらわさなければならない。






健吾が氷室を捕まえて、氷室が彼女を捕まえる。

氷室はたとえ自分がヒートアタックの被害者だとしても、今までの行いもあり、芸能人ということもあって、訴えることができない。

訴えても、捨てても、芸能人として『終わって』しまうから、好きでもない女を一度は引き受けざるを得なかった。


氷室が受け入れるふりをしなければ、あの女は北村君から手を引くことはない。

子どもの遺伝子検査もあの女は絶対に同意しないだろう。



だから、みんなで考えた。


あの女の父親も母親も、諦める様に同意した。



蜂谷君のお兄さんたちが家に軟禁されているように、あの女はどこかに押し込めておかなければならない。

蜂谷君のお兄さんたちより、もっと悪質で質が悪い。


でもまずは、あの女自身に今までの所業を認めさせて、北村君から退かせなければ。




束の間の幸福に頭の中ハッピーになるがいいわ。

氷室は一時的に結婚する。

だが、すぐに離婚して、子どもの親権は吉田父が取る。

離婚理由は、妻の精神的DV。


吉田父は、娘の責任を取って、週刊誌に面白おかしく書きたてられる前に会社を辞職し、甥に会社を譲るらしい。

氷室は、一般女性と結婚したが、その女性が豹変したことにより別れることになったかわいそうな男になる。

表向きは、それでもあの女を愛しているような体を取る。

芸能人としてケチはつくが、そういうシナリオなら芸能生命を絶たれるほどのマイナスはないだろう。

尤も、あの男にとってはそれでも何事にも耐えがたい苦痛だろうけれど。

今までみたいにブイブイモテないだろうし。


あの女は結納の後、すぐに精神病院に収容される。

誰からも愛されず、精神病院で子どもを産んで、そして子どもを抱くこともなく取り上げられることが決まっているのだ。










結納会場で、北村拓海は連絡が取れないことに茫然としていた。



なんとかして、連絡を。

彼のアパートにすぐに行かなくては。


「北村君。」


呼びかけに振り返ると、蜜瑠の父の和泉大臣がそこにいた。

激務で忙しいはずなのに。

ラフな格好でお忍びだろうが、よくみれば、そこかしこに私服のSPがいる。


「……ご無沙汰しております。」


「蜜瑠だが、今は別のところに引っ越している。新しい住所はこれだ。実習先は、青山の蒲谷弁護士事務所だ。」

蜜瑠は司法修習生だ。その伝手から調べてくれたらしい。


「……あの子は、妊娠しているようだ。君の子だろう。あの子の考えていることはわかる。例え君が裏切っていなくて、あの女の子の父が別で、君がいつか迎えに来ようとしていると聞かされたとしても、あれと君は幼馴染なんだろう?遠慮してしまったのかもしれない。…あの子はそういうところがある。早く、会いに行ってやってくれ。」


一礼して、俺は会場から走り出した。






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*前話、少し修正しました。






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