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王太子は見事ハニトラの試練をクリアしましたが?

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「マリエル=アザール男爵令嬢。いや、スノウ=ホワイト伯爵令息。陛下と伯爵には許可を得ている。私の婚約者には貴方になっていただきたい。」

婚約者だった公爵令嬢はガチな断罪の上婚約破棄され、何故か王家の影である俺に王太子が求婚している。

俺は自称ヒロインの王太子の試練用ハニトラ役!

本当に婚約者が悪人だったのは分かったけど!
なんでよりによって俺に求婚する!?

俺は天を仰ぐ。





時間を少し戻そう。


四季があり、花に彩られ、資源が豊富で豊かな七つの島からなる島国セブンスホビット王国。

この国の王太子であるジョエル=プリンス=セブンスホビットは、今日、学園を卒業した。
その卒業パーティー。

王太子が陛下になるために。
彼は階段を一歩一歩上がる。

俺はそれを誇らしく階下の下級貴族たちの集団に埋もれながら見守る。


(殿下はよくやった。よく、に騙されず、婚約者を守り通した。最後の試練も乗り越えた。王太子として合格だ。)


勝手に王太子の髪色と瞳の色にちなんだ黄色のドレスに紫色のアメジストのアクセサリーを身に付けた俺、スノウ=ホワイトはホワイト伯爵家の養子だ。

まあ、この学園では、マリエル=アザール男爵令嬢と名乗っているが。



我ながら酷かった。
ワザと目の前で転んだり、詰め物をした胸を押しつけてみたり、上目遣いに首傾げ。
王太子の婚約者であるウイッチ=アップル公爵令嬢に意地悪をされたと、嘘も言いふらして。
ずいぶん公爵令嬢を辱めてしまったと思う。

だが王家からの指令だったのだ。

良心が痛まないわけではなかったが、こんな碌でもない女くらい、将来の王と王妃ならうまくあしらえねば。


『ご覧になって。あの方。みっともないわね。』

『バカみたいなストロベリーブロンド。たかが男爵令嬢が殿下に相手にされるわけないでしょうに。』

『ふしだらな阿婆擦れ。厚顔無恥ね。今日のパーティーに顔を出せるなんて。』


俺を評する声が聞こえる。
バカみたいな真っピンクな髪はウイッグだし。
何なら青色の瞳もカラコンだ。

ちっとも傷つかないわけじゃないが、仕事だし。


両性具有の奇怪な体。

この体ゆえに生まれてすぐに親に捨てられたこの俺だが、どの性でも演じられる体が評価されて王家の影に選ばれた。

俺を育てて下さったホワイト伯爵の恩義に報いるためにも、俺は立派にやってみせる。
男としても女としても中途半端な体だが、働きを喜ばれて昇進し、ホワイト伯爵家を陞爵することが俺の夢。



ジョエル王子は壇上の陛下、妃殿下の前に立つと、恭しく礼をする。

「皆の者。本日は卒業おめでとう。我が息子である王太子ジョエルも学園を卒業した。ここで、息子に関して重大発表をする。」


陛下の挨拶で、ウイッチ=アップル公爵令嬢とその両親が前に出る。

いよいよ結婚か。



俺は他人事のように眺めていた。
だって任務はもう終わる。
勉強なら家庭教師で卒業過程まで済ませているし、影としてまた別の任務に戻るだけだ。
頭の中では退学した後の生活に還る。



王太子はにっこり微笑んで、婚約者の前に向かう。
公爵令嬢も微笑みを浮かべて。

皆と一緒に俺も両手を軽く胸の高さで重ねて、拍手の準備をしていた。


しかし、王太子はその微笑んだ唇から、冷たい声を出す。

「ウイッチ。お前は私の婚約者候補達を襲わせ、傷を負わせてきたな。殆どは恥じて自死を選び、ある者は修道院に行っている。また、アップル公爵は兄である先代を馬車の事故に見せかけ殺害、先代に庇われ生き残った夫人は身重だったが、忘れ形見を産み落として死亡。唯一の正当な後継であるその赤子も殺害しようと、当時公爵家の騎士であった者に指示したな。」

えっ?



静かになった会場内で、声が響く。


公爵夫妻と令嬢は目を剥いて固まっている。



「殿下!誰が私を陥れようとそのような!」

「残念だが。王家の影に調べさせたことだ。証拠はが保管してくれていた。」


物影からホワイト伯爵が出てきて礼をする。

おとう………さま?



「なっ…………!」

アップル公爵がお父様を見て、睨んでいる。
額にうっすら汗が浮かび、顔色も心なしか青白い。


「時が来れば、と前々から準備していたのだ。発端は婚約者候補をめぐる一連の事案だったがな。調べていくうちに、公爵の過去の所業が明らかになった。」


コレは何だ。
断罪か。

俺への依頼とは別に動いていたのか。


それとも、王太子が気づいて、影を動かしたのか。




「公爵家を簒奪したこやつらを地下牢へ!罪人につき王太子との婚約は破棄するものとする!」



「……くぅぅう!!まさか、まさかッ!こんなところでぇええ!」

「いやよぉ!私は王太子妃になるのぉお!!ジョエル様ぁ!ジョエル様ぁああああ!」


まさか公爵家と公爵令嬢があのような者たちだとは思っていなかった。
自分の仕事に集中していたからとはいえ、俺も半人前だな。

みっともなく抵抗する彼らを一瞥し、帰るか、と思っていた矢先。



俺の目の前に現れたのは。



金色の髪。アメジストの瞳。




ジョエル王太子は俺に微笑むと、膝を折って俺の右手をその手にとった。


「マリエル=アザール男爵令嬢。いや、スノウ=ホワイト伯爵令息。陛下と伯爵には許可を得ている。私の婚約者には貴方になっていただきたい。」




「・・・・・・・・・・・え?」

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