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第十七話 戦いの始まり
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トンネルだった名残りが無くなった壁や床、天井から軽く後悔をし始めた静馬だったが、既に落ちた場所からはかなり離れてしまった事も有って今すぐに戻るという選択肢を取るのを諦める。
本来なら戻るべきだと訴えかける本能に逆らう様に進むその道は徐々に下へ下へと降っているのだとなんとなく理解する。
そして、今までの事が嘘のように一向に姿を現さないEVEたちに静馬たちは底知れない恐怖を感じ始める。
「な、なんかおかしいし、引き返さないか?」
「そうだよ、静馬君。なんか様子がおかしいし」
「そう言うけど、戻ろうとしても戻れそうに無さそうだぞ」
静馬はそう言って後ろに振り向くと今まで居なかったのが嘘のように走り寄ってくる野犬の姿が見えた。
どうやらここに来るまでの間にラトなどのEVEを倒したのか、鋭い爪と牙に鋭く伸びた体毛を手に入れた姿が有った。
その数もどんどん増えていくのが見て取れるが、それらは襲い掛かる事無く静馬たちから少し離れた位置で全てが止まるとそのまま唸り声を上げる。その姿はまるで戻る事は許さないと言わんばかりだった。
「ここを無理に突破して戻るのは難しいと思うぞ」
「ごめん、先に進もう」
後ろから聞こえる唸り声に警戒しながらも前に進み始めた静馬たちを待っていたのは造られたように広く、そして高くなっていた広場のような空間とその中央で佇む六つの影だった。
「なんだよ、ここ」
「そんな事よりもあれを見て」
周りを見渡す和也に中央に立つ存在を指さしながら話しかけてくる陽の姿を無視するように静馬はその存在から目を離せなかった。
六つの影の中で唯一二本足で立つ存在。他の五つの影がそれを取り囲むように佇む姿から力関係が見てとれる。
「ほぅ、やっと来たか……」
低く響くその声に静馬たちの視線はそれに集中する。そして、その声の主は唯一二本足で立つ人ならざる者。
全身を黒い毛で覆い、丸い耳を持ちながらも他者を威嚇する凶暴な顔。胸元に横向きの月が有るようにその部分だけ白い毛が生え、太い手足にそれに支えられる大きな身体。
静馬は恐らくその胸の特徴や顔から熊がエヴォルオ因子の影響で進化した個体だと思った。ただ、状業で習った今まで出現したEVEで喋る個体がいたとは聞いていた事が無かったから余計に目の前の個体に警戒する。
「うん? 儂の事が気になるか。まぁ、仕方ないだろうのぅ」
恐らく笑っているだろう顔は怖く、その顔を見た陽はきゃっと悲鳴を上げながら静馬の後ろに隠れる。
「儂は……、そう、ウルソス……。かつては五州二島の太守……。肥前の熊と呼ばれた……、者よ」
今までの様子が嘘のように頭に手を当てながら少し顔を顰めながらもそう言ったそれに合わせるように吠える周りのEVE。
だが、静馬はそんな事を気にしている余裕は無かった。
他の二人はどうか窺う余裕すら無いほどにウルソスの言った言葉が引っかかるのだ。
肥前と言えば、今でいう長崎、佐賀県の辺りの筈だ。
「あぁ、お前らにも力を分けてやらねばならぬな……」
静馬が考えている内にもウルソスは動き、周りのエヴォルオ因子を活性化させて空間を歪ませ始める。
徐々にその歪みが広がっていき、その奥は何かこの世の物とは思えないモノが広がっている気がした静馬。そして、その様子を同じように見ていただろう和也たちから声が漏れる。
「な、なんだよ! あり得ない……!!」
「やだ、やだ、やだ、やだ……」
そして、その声に合わせるように徐々に広がっていた歪みの変化が止まる。
「ふわははは、どうやら恐ろしいようだな」
その声に二人の様子が気になって答える余裕も無くなった静馬だったが、目の前の歪みからは目を離す事は出来ず、目を離さずに何とかして後ろの二人の様子を見ようとする。
ウルソスはその様子を知ってか知らずか態々静馬たちから背を向けるようにして歪みに向かい合い、その手を歪みの中へと突っ込んだ。
「おい、大丈夫か二人とも!」
その様子にマズいと感じた静馬は直ぐに和也たちに声を掛けて正気に戻そうとする。だが、二人はそんな事お構いなしにブツブツと同じことを呟いているだけだった。
必死に声を掛けている後ろで事態は刻一刻と変化しているのに静馬は気が付かなかった。
ウルソスが歪みから手を引き抜くとその後に続くように五つの光の玉が現れ、ウルソスの周りを囲み回り始める。
その姿にウルソスはニヤリと笑いながらエヴォルオ因子を操り、光の玉を野犬たちに向かって動かしていく。
待ちわびたかのようにその光の玉が向かってくる姿を見ながら吠え続ける野犬たちに光の玉は何の抵抗も無く吸い込まれていく。そして、次第に野犬たちから光が溢れ出し、その姿を隠した。
「あぁ……、し、静馬か……?」
「あれ……、静馬君?」
漸く正気に戻った二人の姿に安心した静馬だったが、直ぐにその二人が目を覆う様に手を翳した事で後ろの状況に気が付く。
そして、そんな姿を見たウルソスが嬉しそうにその光を見ろと言っているように視線を静馬たちから動かす。
「あれって……」
「静馬、あれはヤバいだろ……」
「あぁ、だけど逃げれるとは思えない……」
徐々に治まっていく光の中から姿を現したそれを満足そうに頷きながら眺めるウルソスの姿に和也が逃げる事を進めるように静馬に言うが、まるで図ったかのようにそのタイミングで静馬を見たウルソスの視線に静馬はその考えを否定した。
「うむ、お主らはこれからフンディーノだ。まぁ、それぞれにそれとは別に名を授けねばならぬがな」
その言葉に答えるように吠えるフンディーノたちの姿は静馬たちがここに来るまでに見た野犬やエヴォルオ因子を吸収したものたちよりも威圧感と強さを感じるものだった。
鋭く伸びた爪は個々によって微妙に生え方や鋭さ、形が違うようでどれも簡単に皮膚を切り裂けそうなのが見てとれ、伸びた体毛は鈍く光を反射していて普通の野犬よりも強靭な物になっているように感じる。
「そうだのぅ、儂を支える四天王に相応しいように……。ノブ、トモ、マサ、ツネ、タネと言った所でどうだろぅ?」
そう言ったウルソスに嬉しそうに尻尾を振りながら吠えるフンディーノたちは直ぐに自分たちのやるべき事を思い出したのか静馬たちに向き直り、唸り声を上げ始める。
「おぅ、待て待て。どう見てもお前たち全員でやったら面白くないだろぅ。タネから順番に一頭ずつだ」
五頭の内、一番身体の小さいフンディーノが静馬たちの前に歩み出てくる。恐らくそれがタネと言われる個体なんだろう。
その様子にどうするかと和也が声を掛けてくるが、どう足掻いても逃げれるような気のしなかった静馬は一つ頷いてから一歩足を踏み出す。その手に展開させた嵐狐を持ちながら。
「最初は俺が相手だ!」
頭の中で浮かぶ事を否定するように声を上げてタネと呼ばれたフンディーノと向きあう。後ろからは和也と陽から止める声が掛かるがそれを無視するように嵐狐を構えた。
目の前でタネは体勢を低くしていつでも飛び掛かれるように静馬を睨みつける。
面白そうにその姿を眺めるウルソスと他のフンディーノたちと対照的に声を掛け続ける和也たちをしり目に静馬とタネのにらみ合いは続く。
そして、ついてにその時が来る。
静馬が深く呼吸をした瞬間、互いに相手に向かって踏み出した。
既に静馬の意識は目の前のタネに向いていて和也たちの声は置き去りに素早く踏み込んで右手に持った嵐狐をそのまま横に振り抜く。
それを飛び掛かってきたタネは鋭く伸びた爪をぶつける事で弾き、その勢いのままに静馬に噛みつこうと口を大きく開けて迫る。
防がれた静馬は近づいてくるタネの姿を見ると焦りながらも左手に持った鞘をその顔に向かって振り上げる。
タネは躱す事が出来ずにその鞘を顎に受け、微妙に斜め下から受けた衝撃で静馬からズレて地面に着地した。
自分の横を飛び抜けていったタネを追う様に静馬は攻撃の勢いを利用して身体を回転させてタネのいるほうに向き、すぐさま追撃を掛けるべく動き出す。
一方で痛みに耐えながらも地面に着地したタネだったが、その痛みから直ぐに静馬に対応する事が出来ず、近づいてきた静馬の攻撃をギリギリでしか躱す事が出来ずにその身体に傷を受ける。
「これで止めだ!!」
既に動き出している静馬と対照的なタネはそんな静馬に対応する事が出来ずにその場に立っているだけだった。
そして、静馬がエヴォルオ因子を纏わせた嵐狐は無防備なままのタネの首へと吸い込まれ、その切れ味を証明するかのように途中で止まる事も無く振り切られた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ふん、所詮、奴は四天王の中でも微妙な奴だったしのぅ。次は分かっているだろぅ?」
目の前で首を斬られたタネが次第にその身体を黒い霧に変えていくのを見ながらも静馬は嵐狐を振り下ろした姿勢から変わる事が無い。
勿論、そんな事は気が付いているウルソスだったが、目の前で自分の配下が倒されたのが癪なのか次の者へと声を掛ける。
そして、その声に答えるように前に進んだのは他のフンディーノたちよりも身体が大きく、右目の所に縦に傷を持つ個体だった。
「うむ、流石はツネだな」
その声に誇らしげに立つツネを見て不満そうにウルソスを見る残りのフンディーノたちだったが直ぐにウルソスに睨まれてそれを止める。
そして、それを見て少し笑ったような顔をしたツネだったが、直ぐにその顔を元に戻すと未だに動かない静馬に向かって走り出した。
「マズい!」
「静馬君!!」
静馬の様子に和也が因牙武装を展開しながら走り出し、陽もツネの動きに声を上げる。
ツネが静馬まであとちょっとというギリギリのタイミングでなんとか静馬を庇う様に割り込む事に成功した和也はその手に持った盾をツネに向けて差し出す事でツネの鋭い爪が静馬に当たるのを防ぐ。
「おい、静馬! 気が付いたなら手伝ってくれ!!」
和也が静馬に声を掛ける間も攻撃を続けるツネ。何とか盾と片手剣でそれを捌き続けている和也だが、静馬を庇いながらという事も有って攻撃に移る事が出来ずに防戦一方になってしまう。
そして、徐々に後退って遂には背中越しに静馬が分かるほどの距離までになる。だが、ちょうどその時になって静馬も我に返り、状況を理解して動き出す。
「すまん」
「良いって事よ。俺も少し前まではそうだったんだし」
互いに並んでツネと対峙する静馬と和也。ツネはそんな二人の様子に嬉しそうにしながらも数の不利を悟ってか自分から動くのを止めた。
にらみ合おう二人と一頭だったが、直ぐにその静寂は和也が動くことで破られる。
「はぁー!!」
和也が勢いよくツネに向かって走り、静馬もその後に続く形で走り出す。勿論、ツネも警戒しながらも和也に向かって走っていた為に直ぐにその距離はゼロとなり、勢いそのままに和也は片手剣を突き出す。
その一撃は簡単にヒラリと避けられてしまうが、避けた先に静馬が嵐狐を振るう。だが、ツネはそれも読んでいたようで再び和也に向かって走り、和也の持っていた盾と和也自身を踏み台にする事でそれを避ける。
そして、そのまま飛び越えたツネは空中で身体を回転させて着地と同時に走り出す。
目標は勿論、踏み台にされたことで倒れた和也。
静馬が庇う様に前に出て嵐狐を振るう事で和也の立ち上がる時間を稼ごうとするが、見え見えな攻撃をいとも簡単にツネは避けて和也に迫る。
何とかして立ち上がろうとしていた和也だったが、ツネが迫りくる方が早いとみると立ち上がるのを諦めてツネの攻撃に合わせて横に転がる事で難を逃れる。
「ふん、やはり数が増えようと儂らの方が有利か……」
ツネと戦う静馬たちを見ていたウルソスだったが、その光景に面白くなさそうに呟いた。そして、その視線を静馬たちを一人応援する陽へと向けるのだった。
本来なら戻るべきだと訴えかける本能に逆らう様に進むその道は徐々に下へ下へと降っているのだとなんとなく理解する。
そして、今までの事が嘘のように一向に姿を現さないEVEたちに静馬たちは底知れない恐怖を感じ始める。
「な、なんかおかしいし、引き返さないか?」
「そうだよ、静馬君。なんか様子がおかしいし」
「そう言うけど、戻ろうとしても戻れそうに無さそうだぞ」
静馬はそう言って後ろに振り向くと今まで居なかったのが嘘のように走り寄ってくる野犬の姿が見えた。
どうやらここに来るまでの間にラトなどのEVEを倒したのか、鋭い爪と牙に鋭く伸びた体毛を手に入れた姿が有った。
その数もどんどん増えていくのが見て取れるが、それらは襲い掛かる事無く静馬たちから少し離れた位置で全てが止まるとそのまま唸り声を上げる。その姿はまるで戻る事は許さないと言わんばかりだった。
「ここを無理に突破して戻るのは難しいと思うぞ」
「ごめん、先に進もう」
後ろから聞こえる唸り声に警戒しながらも前に進み始めた静馬たちを待っていたのは造られたように広く、そして高くなっていた広場のような空間とその中央で佇む六つの影だった。
「なんだよ、ここ」
「そんな事よりもあれを見て」
周りを見渡す和也に中央に立つ存在を指さしながら話しかけてくる陽の姿を無視するように静馬はその存在から目を離せなかった。
六つの影の中で唯一二本足で立つ存在。他の五つの影がそれを取り囲むように佇む姿から力関係が見てとれる。
「ほぅ、やっと来たか……」
低く響くその声に静馬たちの視線はそれに集中する。そして、その声の主は唯一二本足で立つ人ならざる者。
全身を黒い毛で覆い、丸い耳を持ちながらも他者を威嚇する凶暴な顔。胸元に横向きの月が有るようにその部分だけ白い毛が生え、太い手足にそれに支えられる大きな身体。
静馬は恐らくその胸の特徴や顔から熊がエヴォルオ因子の影響で進化した個体だと思った。ただ、状業で習った今まで出現したEVEで喋る個体がいたとは聞いていた事が無かったから余計に目の前の個体に警戒する。
「うん? 儂の事が気になるか。まぁ、仕方ないだろうのぅ」
恐らく笑っているだろう顔は怖く、その顔を見た陽はきゃっと悲鳴を上げながら静馬の後ろに隠れる。
「儂は……、そう、ウルソス……。かつては五州二島の太守……。肥前の熊と呼ばれた……、者よ」
今までの様子が嘘のように頭に手を当てながら少し顔を顰めながらもそう言ったそれに合わせるように吠える周りのEVE。
だが、静馬はそんな事を気にしている余裕は無かった。
他の二人はどうか窺う余裕すら無いほどにウルソスの言った言葉が引っかかるのだ。
肥前と言えば、今でいう長崎、佐賀県の辺りの筈だ。
「あぁ、お前らにも力を分けてやらねばならぬな……」
静馬が考えている内にもウルソスは動き、周りのエヴォルオ因子を活性化させて空間を歪ませ始める。
徐々にその歪みが広がっていき、その奥は何かこの世の物とは思えないモノが広がっている気がした静馬。そして、その様子を同じように見ていただろう和也たちから声が漏れる。
「な、なんだよ! あり得ない……!!」
「やだ、やだ、やだ、やだ……」
そして、その声に合わせるように徐々に広がっていた歪みの変化が止まる。
「ふわははは、どうやら恐ろしいようだな」
その声に二人の様子が気になって答える余裕も無くなった静馬だったが、目の前の歪みからは目を離す事は出来ず、目を離さずに何とかして後ろの二人の様子を見ようとする。
ウルソスはその様子を知ってか知らずか態々静馬たちから背を向けるようにして歪みに向かい合い、その手を歪みの中へと突っ込んだ。
「おい、大丈夫か二人とも!」
その様子にマズいと感じた静馬は直ぐに和也たちに声を掛けて正気に戻そうとする。だが、二人はそんな事お構いなしにブツブツと同じことを呟いているだけだった。
必死に声を掛けている後ろで事態は刻一刻と変化しているのに静馬は気が付かなかった。
ウルソスが歪みから手を引き抜くとその後に続くように五つの光の玉が現れ、ウルソスの周りを囲み回り始める。
その姿にウルソスはニヤリと笑いながらエヴォルオ因子を操り、光の玉を野犬たちに向かって動かしていく。
待ちわびたかのようにその光の玉が向かってくる姿を見ながら吠え続ける野犬たちに光の玉は何の抵抗も無く吸い込まれていく。そして、次第に野犬たちから光が溢れ出し、その姿を隠した。
「あぁ……、し、静馬か……?」
「あれ……、静馬君?」
漸く正気に戻った二人の姿に安心した静馬だったが、直ぐにその二人が目を覆う様に手を翳した事で後ろの状況に気が付く。
そして、そんな姿を見たウルソスが嬉しそうにその光を見ろと言っているように視線を静馬たちから動かす。
「あれって……」
「静馬、あれはヤバいだろ……」
「あぁ、だけど逃げれるとは思えない……」
徐々に治まっていく光の中から姿を現したそれを満足そうに頷きながら眺めるウルソスの姿に和也が逃げる事を進めるように静馬に言うが、まるで図ったかのようにそのタイミングで静馬を見たウルソスの視線に静馬はその考えを否定した。
「うむ、お主らはこれからフンディーノだ。まぁ、それぞれにそれとは別に名を授けねばならぬがな」
その言葉に答えるように吠えるフンディーノたちの姿は静馬たちがここに来るまでに見た野犬やエヴォルオ因子を吸収したものたちよりも威圧感と強さを感じるものだった。
鋭く伸びた爪は個々によって微妙に生え方や鋭さ、形が違うようでどれも簡単に皮膚を切り裂けそうなのが見てとれ、伸びた体毛は鈍く光を反射していて普通の野犬よりも強靭な物になっているように感じる。
「そうだのぅ、儂を支える四天王に相応しいように……。ノブ、トモ、マサ、ツネ、タネと言った所でどうだろぅ?」
そう言ったウルソスに嬉しそうに尻尾を振りながら吠えるフンディーノたちは直ぐに自分たちのやるべき事を思い出したのか静馬たちに向き直り、唸り声を上げ始める。
「おぅ、待て待て。どう見てもお前たち全員でやったら面白くないだろぅ。タネから順番に一頭ずつだ」
五頭の内、一番身体の小さいフンディーノが静馬たちの前に歩み出てくる。恐らくそれがタネと言われる個体なんだろう。
その様子にどうするかと和也が声を掛けてくるが、どう足掻いても逃げれるような気のしなかった静馬は一つ頷いてから一歩足を踏み出す。その手に展開させた嵐狐を持ちながら。
「最初は俺が相手だ!」
頭の中で浮かぶ事を否定するように声を上げてタネと呼ばれたフンディーノと向きあう。後ろからは和也と陽から止める声が掛かるがそれを無視するように嵐狐を構えた。
目の前でタネは体勢を低くしていつでも飛び掛かれるように静馬を睨みつける。
面白そうにその姿を眺めるウルソスと他のフンディーノたちと対照的に声を掛け続ける和也たちをしり目に静馬とタネのにらみ合いは続く。
そして、ついてにその時が来る。
静馬が深く呼吸をした瞬間、互いに相手に向かって踏み出した。
既に静馬の意識は目の前のタネに向いていて和也たちの声は置き去りに素早く踏み込んで右手に持った嵐狐をそのまま横に振り抜く。
それを飛び掛かってきたタネは鋭く伸びた爪をぶつける事で弾き、その勢いのままに静馬に噛みつこうと口を大きく開けて迫る。
防がれた静馬は近づいてくるタネの姿を見ると焦りながらも左手に持った鞘をその顔に向かって振り上げる。
タネは躱す事が出来ずにその鞘を顎に受け、微妙に斜め下から受けた衝撃で静馬からズレて地面に着地した。
自分の横を飛び抜けていったタネを追う様に静馬は攻撃の勢いを利用して身体を回転させてタネのいるほうに向き、すぐさま追撃を掛けるべく動き出す。
一方で痛みに耐えながらも地面に着地したタネだったが、その痛みから直ぐに静馬に対応する事が出来ず、近づいてきた静馬の攻撃をギリギリでしか躱す事が出来ずにその身体に傷を受ける。
「これで止めだ!!」
既に動き出している静馬と対照的なタネはそんな静馬に対応する事が出来ずにその場に立っているだけだった。
そして、静馬がエヴォルオ因子を纏わせた嵐狐は無防備なままのタネの首へと吸い込まれ、その切れ味を証明するかのように途中で止まる事も無く振り切られた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ふん、所詮、奴は四天王の中でも微妙な奴だったしのぅ。次は分かっているだろぅ?」
目の前で首を斬られたタネが次第にその身体を黒い霧に変えていくのを見ながらも静馬は嵐狐を振り下ろした姿勢から変わる事が無い。
勿論、そんな事は気が付いているウルソスだったが、目の前で自分の配下が倒されたのが癪なのか次の者へと声を掛ける。
そして、その声に答えるように前に進んだのは他のフンディーノたちよりも身体が大きく、右目の所に縦に傷を持つ個体だった。
「うむ、流石はツネだな」
その声に誇らしげに立つツネを見て不満そうにウルソスを見る残りのフンディーノたちだったが直ぐにウルソスに睨まれてそれを止める。
そして、それを見て少し笑ったような顔をしたツネだったが、直ぐにその顔を元に戻すと未だに動かない静馬に向かって走り出した。
「マズい!」
「静馬君!!」
静馬の様子に和也が因牙武装を展開しながら走り出し、陽もツネの動きに声を上げる。
ツネが静馬まであとちょっとというギリギリのタイミングでなんとか静馬を庇う様に割り込む事に成功した和也はその手に持った盾をツネに向けて差し出す事でツネの鋭い爪が静馬に当たるのを防ぐ。
「おい、静馬! 気が付いたなら手伝ってくれ!!」
和也が静馬に声を掛ける間も攻撃を続けるツネ。何とか盾と片手剣でそれを捌き続けている和也だが、静馬を庇いながらという事も有って攻撃に移る事が出来ずに防戦一方になってしまう。
そして、徐々に後退って遂には背中越しに静馬が分かるほどの距離までになる。だが、ちょうどその時になって静馬も我に返り、状況を理解して動き出す。
「すまん」
「良いって事よ。俺も少し前まではそうだったんだし」
互いに並んでツネと対峙する静馬と和也。ツネはそんな二人の様子に嬉しそうにしながらも数の不利を悟ってか自分から動くのを止めた。
にらみ合おう二人と一頭だったが、直ぐにその静寂は和也が動くことで破られる。
「はぁー!!」
和也が勢いよくツネに向かって走り、静馬もその後に続く形で走り出す。勿論、ツネも警戒しながらも和也に向かって走っていた為に直ぐにその距離はゼロとなり、勢いそのままに和也は片手剣を突き出す。
その一撃は簡単にヒラリと避けられてしまうが、避けた先に静馬が嵐狐を振るう。だが、ツネはそれも読んでいたようで再び和也に向かって走り、和也の持っていた盾と和也自身を踏み台にする事でそれを避ける。
そして、そのまま飛び越えたツネは空中で身体を回転させて着地と同時に走り出す。
目標は勿論、踏み台にされたことで倒れた和也。
静馬が庇う様に前に出て嵐狐を振るう事で和也の立ち上がる時間を稼ごうとするが、見え見えな攻撃をいとも簡単にツネは避けて和也に迫る。
何とかして立ち上がろうとしていた和也だったが、ツネが迫りくる方が早いとみると立ち上がるのを諦めてツネの攻撃に合わせて横に転がる事で難を逃れる。
「ふん、やはり数が増えようと儂らの方が有利か……」
ツネと戦う静馬たちを見ていたウルソスだったが、その光景に面白くなさそうに呟いた。そして、その視線を静馬たちを一人応援する陽へと向けるのだった。
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