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エピローグ 白い部屋で

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 いつの間に寝ていたのかと思いながらも重い瞼を持ち上げると視界一杯に広がったのは見覚えのない真っ白い天井だった。
 身体から感じる痛みに耐えながらもなんとか視線を動かして目に入ったのはこれまた周りから遮るように真っ白いカーテンが揺らめいている。

「こっ、ここ、は?」

 俺の言葉に反応するように遮られたカーテンの向こう側から何かが落ちた音と直ぐに人が走り去っていくのが聞こえた。
 どうにかして身体を起こしたい俺だったがそんな思いは虚しく、全身から感じる痛みがその思いを無くす。
 するとまだ誰かが走り寄ってくる音が聞こえたと思うと勢いよくカーテンが開かれた。

「静馬君!!」

 その声と共に姿を現したのは陽だった。
 そして、その後ろには息を切らせながらも走り込んできた橘先生の姿とそれを避けるように部屋に入ってきた医者と看護師の姿が見える。

「おはよう。突然で悪いけど自分の名前やここにいる理由が分かるかい?」

 そう言って俺の身体の確認を始める医者と看護師にぼんやりしながら答えていく。
 そう、迷宮に入ってからの事を。
 そして、俺の答えに頷き、他にも問題が無い事を確認したのか直ぐに部屋を出ていった。

「静馬君、良かった……」

「陽?」

「心配したんだよ」

 入れ替わるように部屋に戻ってきた陽はその眼に涙を浮かべながらも用意された椅子に座る。
 どうしたらいいのかっと慌てふためく俺を無視するように布団に顔を押し付けて泣き始める陽。
 そして、今までその様子を唯々見ていた橘先生がため息を一つすると話始めた。

「桜庭さんも落ち着いて……。それで神居君、今回は命が助かったから良かったけど、今後は無茶しちゃダメだからね!」

 そう言って橘先生は陽を慰めながらも俺に怒ってますと言わんばかりの言葉を投げかけてくる。ただ、その眼には俺が無事だった事に対しての安堵が有るような気がした。

「取りあえず、説明しておくと貴方が気を失った後に私以外にその場に駆け付けた人がいたけど知らないわよね?」

 頷く俺に仕方ないわねと言いながらも話を続ける橘先生によるとその人物はあの六天魔の一人、《剣聖》ウォルター・R・ピゴットだったそうだ。
 最初は陰から様子を窺っていた橘先生も直ぐに存在がバレて姿を見せる事になったらしいが、そこは流石の六天魔と言うべきかウルソスの相手を片手間とも言える様子で引き受けてくれて無事に俺や陽、和也を助ける事が出来たらしい。

「それで神居君も藤井君も緊急搬送されてここにいるの」

「和也は、和也は大丈夫なんですか!?」

 言った瞬間に走る痛みに顔を歪ませてしまうが、俺の気持ちが分かったのか橘先生は直ぐに和也の事を教えてくれる。

「えぇ、傷は神居君よりも酷かったんだけど、桜庭さんが応急処置してくれていたお陰でここに運び込まれて無事よ。たぶん、神居君よりは遅くなるけど何の問題も無く退院できるわ」

「良かった……」

 不意に視界が歪んでくるのが分かる。ただ、それを見られるのが嫌で痛みに耐えながらも腕で目元を隠す。
 もっともそんな事は声やらから察した橘先生はそんな俺に何も言わなかった。

「先生……、俺、もっと強くなりたいです……」

「今回の事は反省してるわよね?」

 頷く俺に優しく声を掛けてくれる橘先生。

「なら、大丈夫よ。失敗は成功の母って言うし、私もその為に協力してあげるから」

「ありがどうございます……」

 そう言った俺を優しく撫でてくる橘先生に恥ずかしさを覚えながらも俺は心で誓ったのだった。
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