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Bランク冒険者
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冒険者ギルドの奥にある黒く輝く重厚な扉。
その扉をギルドの受付の女性がコンコンとノックしてから、扉を開けて中に入った。
その後にわたしも続く。
部屋の中は大きな書斎になっていた。
いくつもある本棚にはたくさんの本が並べられ、入りきらない本は地面に高く並べられている。
はっきりと言うと、部屋の中はそこまで整理整頓されていなかった。
脱ぎ捨てられた服、食べ残しの入った食器、誇りの浮いた机。
その汚さにわたしは思わず眉をひそめてしまった。
「マスター、噂の冒険者メイをお連れしました」
「そうか、ご苦労じゃった。クラリスお主はもう下がってよいぞ」
「それでは私はこれで失礼します」
どうやら案内してくれた受付のお姉さんは、クラリスという名前のようだ。
部屋の奥から聞こえた声に、クラリスさんは会釈をするとすぐに部屋を出て行った。
そしてクラリスさんが部屋を出ていくとすぐに部屋の奥から、黒いローブと帽子を身に着けた女性が現れた。
ローブは床を引きずるように長く、かぶっている帽子の先は鋭くとんがっている。
それはまるで物語に出てくる魔女のような風貌の女性であった。
年齢は40代ほどで、身長はやや低く150センチほど。
黒く長い髪と血のように赤い目をしている。
そして肌は白いというか、まるで生気がないように青白かった。
なお腰が痛いのか、腰を抑えながらのゆっくりとした動作だ。
「なるほどな、ワシが思っていたよりも本当にそっくりじゃ。まあ立ち話もなんだ、そこに座ってくれ」
ギルドマスターはそう言うと置かれていた椅子の1つを指し示す。
(そっくり?)
その言葉に疑問を浮かべたものの、とりあえず彼女の言うとおりにそこに座る。
そして机を挟んだ向いにギルドマスターが痛そうに腰を抑えながら、ゆっくりと腰かけた。
「まずは自己紹介じゃな。ワシはこの支部のギルドマスター、元A級冒険者のクラウディアじゃ。長ったらしいので、クラウと呼んでくれ。
してメイ、いや勇者メイと呼んだ方が良いのか?」
「いえ、わたしは冒険者の一員です。勇者の肩書を呼ぶ必要ございません」
「そうか、ならメイと呼ぶとしよう。メイお主の噂は聞いている、
それでお主を呼んだ理由は他でもない、まずはこれを渡す為じゃ」
クラウさんはそう言うと、銀色に輝くキラキラとしたカードを手渡した。
「これは?」
そのカードを受け取り、わたしは目を丸くする。
それは新しいわたしの冒険者カードであった。
そしてなんとそこには、Bランクという文字が記されていたのだ。
「び・Bランクですか、わたしEランクですよ?いきなりこんなに飛ぶんですか?」
「いやお主の能力と実績ならBランクで全く問題ないと思うぞ。じゃが年齢的にAランクはまだ早いと思うので、暫くは我慢しておいてくれ」
「ええええ、Bランクでもびっくりですよ。わたしが本当にBランクで宜しいんですか?」
「もちろんじゃ。勇者で魔人を倒したお主は、それほどの実績を積んでいる。
これからも冒険者そして勇者としての活躍を期待しているぞ」
「はい!身に余る光栄です。これからも頑張ります」
わたしは冒険者カードをぎゅっと握りしめると、ピンと背筋を伸ばした。
Bランク冒険者はライラさんと同じランクで、ベテランの冒険者として一目を置かれるレベルだ。
そして次のAランクの人達は、最強の人類と称され恐れられている別格の存在であると言われている。
元A級のハルクさんはかなり強かったし、おそらくクラウさんもかなりの実力を秘めているのであろう。
なお、その上にSランクが存在するが、未だかつて誰も認定されたことはない。
その為、実質の最高ランクはAランクなのだ。
「それにしてもお主、ジュンと姿は似ているが、性格はあまり似とらんのー。
どうじゃ、ジュンは元気にしているか?まあ聖女であるあいつが病気なんてするわけないか」
「え?お母さまをご存じなんですか?」
「ああ、共に魔法学校に通っていた古くからの知り合いじゃ。と言っても友人と呼べるほど仲がいいわけではなかったのじゃがな」
魔法学校・・・。
数年前まではこの世界にも魔法学校というものが存在し、魔法適正がある者は身分を問わず通うことが義務付けられていた。
しかし魔法は各国、各家系に秘術が存在し、公に学ぶことは不要であると提唱され、廃止に至ったのだ。
一応規模は縮小され、塾や専門学校のような魔法を学ぶ機関は存在するものの、マルチーズ家で魔法を教わったわたしが通うことはなかった。
「知り合いだったのですね。わたしは最近は家に帰っていないので最近の事情はわかりませんが、家にでる前は元気でしたよ」
「そうか、そうか・・・。あの憎たらしい奴は元気だったか。あいつ聖女であることを鼻にかけて本当に生意気な奴だったからな。
まったく今思い出しても、ハラワタが煮えくり返るぞい」
「な、なんだか、お母様が申し訳ございません・・・」
「なーに。お主が誤ることはないぞ。言い換えれば、お主も被害者じゃろ?まあ、あいつがお主を手放したおかげで優秀な冒険者を手に入れられたわけじゃからな。
ジュンのような性格なのかは危惧していたが、別にそんなことなさそうだし安心したぞ」
クラウさんは、どうやらわたしがマルチーズ家を出た理由等を詳しく知っているようだ。
「あの・・・どうしてそんなに詳しいのですか?」
「なに、知りたいか?ピナトスの町のギルドマスターのハルクは知っておるな?そいつから聞いたんじゃよ。ハルクはワシが冒険者をしていた時のかつての仲間なんじゃ」
(あれ?ハルクさん・・・誰にも言わないっていってたのに・・・)
その言葉にわたしは訝しむ。
しかしわたしはすぐに切り替えた。
わたしは、お世話になったハルクさんを信頼している。
そしてクラウさんはハルクさんと同じギルドマスターだ。
その為、偉い者同士共有すべき情報と判断したのであろう。
それよりも、わたしは彼女とハルクさんがかつての仲間という点に、大きな驚きを感じた。
「驚きました。ハルクさんはピナトスの町でお世話になったので、本当に感謝しているんですよ。
冒険者時代の話とか聞かせて頂けませんか?」
その言葉にクラウさんは快く承諾すると、冒険者時代のことを説明してくれた。
ハルクさん、クラウさん、そしてもう一人ゲイルさんという方の3人で、冒険者パーティー『天龍戦士団』を結成して活動していたらしい。
なお、全員がAランクのこのパーティーは、当時最強と名高かったそうだ。
何よりも驚いたのが、彼らはピナトスの町を襲ったアースドラゴンを始め、数多のAランクの魔物を討伐したということであった。
「わははは。どうじゃ凄いじゃろ。アースドラゴンは強敵じゃが、ワシら3人が居たら楽勝じゃったわい。中でも一番手強かったのはヘルハウンドかの。
ヘルハウンドのスピードと言ったら、速すぎて魔法が全然当たらんのじゃ。
ハルクが捨て身で奴の動きを止めて、なんとか倒せたんじゃよ。
いやーヘルハウンドだけはもう二度と戦いたくないわい。って痛ててててて」
なお、ヘルハウンドどいうのは10メートルくらいの大きな3つの首を持つ犬型の魔物である。
3つの首と言えばケルベロスを思い浮かべる人が多いと思うが、ヘルハウンドはその劣化版というか下位種だ。だがその強さは強力でAランクの中でも上位と言われている。
すると機嫌よく大笑いを浮かべたクラウさんは、背中を抑えて苦しみだした。
「あの?大丈夫ですか?」
わたしは慌てて立ち上がると、クラウさんへ寄り添う。
だがそんなわたしをクラウさんは手で制した。
「いや・・・すまないすまない、笑うと古傷が傷んでしまっての。冒険者としての無理がたたってこのザマなんじゃ。腰の骨を痛めてしまって立つこともままならないんじゃよ」
「治療はしたんですか?」
「いやこの腰は聖女レベルの力じゃないと治らない。一度昔の伝手でジュンに頼んだんじゃが、きっぱりと断られてしまったんじゃ」
お母様が・・・。
たしかに聖女の仕事は暇ではない。
世界中からマルチーズ家の治療を受けに、訪ねてくるからだ。
だが日々の生活を見ていたが、治療は予約制で事前に数が決められている。
もちろん全魔力を全て使い切るような、ハードなスケジュールは組んでなかった筈だ。
それに母やお姉さまが知人や旧友を優先的に治療することもあったと記憶している。
それでも治療を断るということは、よっぽどこの二人は仲が悪かったのであろう。
「それなら、わたしが治しますよ」
「いや、大丈夫じゃ。お主の回復魔法の力はハルクから聞いておる。気持ちだけ受け取っておこう」
「いえ騙されたと思って、試してみてください。ハルクさんが知っている時よりも、わたしの魔法の力はかなり上がっているんですよ」
「うーむ。そうか!わかった、ではお主の治療を受けてみることにしよう。本当にすまないの。でも失敗しても気に病まないでくれよ」
「はい、ではそのままでいてくださいね。ヒーリングソード!」
わたしはそう言うと呪文を唱え、光の剣を手に持つ。
「なるほど、これが噂に聞く勇者が使える光の剣か・・・って!まてお主何をするつもりじゃ」
「動かないでください。この剣に殺傷力は一切ありません。だからしっかり刃を受けてください」
わたしはそう言いながら、グサッと勢いよくクラウさんに光の剣を突き刺した。
そしていつものように金色の光が患部を包み込むと、その傷をきれいさっぱり癒すのであった。
「どうですか?」
「どうですか?って突然なんてことするんじゃ?危うく死ぬかと思ったぞ」
そう言うと、クラウさんは怒りだしで椅子からバンと立ち上がる。
しかしすぐにキョトンとした顔に変わる。
「あれ?痛くないぞ。しかも何だか前より調子がいい気がする。」
「よかったです。わたしの光の剣は癒しの効果があるんですよ。どちかと言えばそちらがメインで、魔人にはたまたま効果があったという感じなんです」
「いや、なんだかよくわからんがありがとう。これで毎日腰痛に悩まされることもなく、ぐっすり眠ることができる。自由に歩き回ることもできる。ありがとう本当にありがとう」
クラウさんはそう言うと、ぎゅっとわたしの体を抱き寄せた。
「あっあの・・・」
「メイ。ワシはお主に大きな借りができた。もしお主が困っていることがあったら、喜んで力を貸そう。今日からお主はワシの大切な友人いや盟友じゃ」
「きょ・恐縮です」
コンコン
するとちょうどいいというか悪いタイミングでノックの音が響き渡る。
そしてノックの後、すぐにクラリスさんが入ってきた。
「マ・マスター。緊急な用事がって・・・って何しているんですか?まさかいい大人がこんな趣味に目覚めたんですか?」
しかしクラウさんがわたしを抱き寄せているこの状況に、嫌悪感を顕わにする。
「ちっ違う!メイに感謝をしていただけじゃ。これは嬉しすぎた事故のようなものじゃ」
クラウさんはそう言うと、慌てて抱擁を解いた。
その顔は茹蛸のように耳まで真赤だ。
「ほっ本当ですか・・・ってそれどころじゃなかった。
メイさん。今すぐお城に戻ってきてほしいと連絡がありました。どうやら重大事項のようです。
あと貴女への指名依頼は処理しておきましたので、ご安心ください」
「わかりました。クラウさん、クラリスさんありがとうございました。
それではわたしはこれで失礼します」
わたしはそう言って会釈をすると、慌てて王宮へ戻るのであった。
その扉をギルドの受付の女性がコンコンとノックしてから、扉を開けて中に入った。
その後にわたしも続く。
部屋の中は大きな書斎になっていた。
いくつもある本棚にはたくさんの本が並べられ、入りきらない本は地面に高く並べられている。
はっきりと言うと、部屋の中はそこまで整理整頓されていなかった。
脱ぎ捨てられた服、食べ残しの入った食器、誇りの浮いた机。
その汚さにわたしは思わず眉をひそめてしまった。
「マスター、噂の冒険者メイをお連れしました」
「そうか、ご苦労じゃった。クラリスお主はもう下がってよいぞ」
「それでは私はこれで失礼します」
どうやら案内してくれた受付のお姉さんは、クラリスという名前のようだ。
部屋の奥から聞こえた声に、クラリスさんは会釈をするとすぐに部屋を出て行った。
そしてクラリスさんが部屋を出ていくとすぐに部屋の奥から、黒いローブと帽子を身に着けた女性が現れた。
ローブは床を引きずるように長く、かぶっている帽子の先は鋭くとんがっている。
それはまるで物語に出てくる魔女のような風貌の女性であった。
年齢は40代ほどで、身長はやや低く150センチほど。
黒く長い髪と血のように赤い目をしている。
そして肌は白いというか、まるで生気がないように青白かった。
なお腰が痛いのか、腰を抑えながらのゆっくりとした動作だ。
「なるほどな、ワシが思っていたよりも本当にそっくりじゃ。まあ立ち話もなんだ、そこに座ってくれ」
ギルドマスターはそう言うと置かれていた椅子の1つを指し示す。
(そっくり?)
その言葉に疑問を浮かべたものの、とりあえず彼女の言うとおりにそこに座る。
そして机を挟んだ向いにギルドマスターが痛そうに腰を抑えながら、ゆっくりと腰かけた。
「まずは自己紹介じゃな。ワシはこの支部のギルドマスター、元A級冒険者のクラウディアじゃ。長ったらしいので、クラウと呼んでくれ。
してメイ、いや勇者メイと呼んだ方が良いのか?」
「いえ、わたしは冒険者の一員です。勇者の肩書を呼ぶ必要ございません」
「そうか、ならメイと呼ぶとしよう。メイお主の噂は聞いている、
それでお主を呼んだ理由は他でもない、まずはこれを渡す為じゃ」
クラウさんはそう言うと、銀色に輝くキラキラとしたカードを手渡した。
「これは?」
そのカードを受け取り、わたしは目を丸くする。
それは新しいわたしの冒険者カードであった。
そしてなんとそこには、Bランクという文字が記されていたのだ。
「び・Bランクですか、わたしEランクですよ?いきなりこんなに飛ぶんですか?」
「いやお主の能力と実績ならBランクで全く問題ないと思うぞ。じゃが年齢的にAランクはまだ早いと思うので、暫くは我慢しておいてくれ」
「ええええ、Bランクでもびっくりですよ。わたしが本当にBランクで宜しいんですか?」
「もちろんじゃ。勇者で魔人を倒したお主は、それほどの実績を積んでいる。
これからも冒険者そして勇者としての活躍を期待しているぞ」
「はい!身に余る光栄です。これからも頑張ります」
わたしは冒険者カードをぎゅっと握りしめると、ピンと背筋を伸ばした。
Bランク冒険者はライラさんと同じランクで、ベテランの冒険者として一目を置かれるレベルだ。
そして次のAランクの人達は、最強の人類と称され恐れられている別格の存在であると言われている。
元A級のハルクさんはかなり強かったし、おそらくクラウさんもかなりの実力を秘めているのであろう。
なお、その上にSランクが存在するが、未だかつて誰も認定されたことはない。
その為、実質の最高ランクはAランクなのだ。
「それにしてもお主、ジュンと姿は似ているが、性格はあまり似とらんのー。
どうじゃ、ジュンは元気にしているか?まあ聖女であるあいつが病気なんてするわけないか」
「え?お母さまをご存じなんですか?」
「ああ、共に魔法学校に通っていた古くからの知り合いじゃ。と言っても友人と呼べるほど仲がいいわけではなかったのじゃがな」
魔法学校・・・。
数年前まではこの世界にも魔法学校というものが存在し、魔法適正がある者は身分を問わず通うことが義務付けられていた。
しかし魔法は各国、各家系に秘術が存在し、公に学ぶことは不要であると提唱され、廃止に至ったのだ。
一応規模は縮小され、塾や専門学校のような魔法を学ぶ機関は存在するものの、マルチーズ家で魔法を教わったわたしが通うことはなかった。
「知り合いだったのですね。わたしは最近は家に帰っていないので最近の事情はわかりませんが、家にでる前は元気でしたよ」
「そうか、そうか・・・。あの憎たらしい奴は元気だったか。あいつ聖女であることを鼻にかけて本当に生意気な奴だったからな。
まったく今思い出しても、ハラワタが煮えくり返るぞい」
「な、なんだか、お母様が申し訳ございません・・・」
「なーに。お主が誤ることはないぞ。言い換えれば、お主も被害者じゃろ?まあ、あいつがお主を手放したおかげで優秀な冒険者を手に入れられたわけじゃからな。
ジュンのような性格なのかは危惧していたが、別にそんなことなさそうだし安心したぞ」
クラウさんは、どうやらわたしがマルチーズ家を出た理由等を詳しく知っているようだ。
「あの・・・どうしてそんなに詳しいのですか?」
「なに、知りたいか?ピナトスの町のギルドマスターのハルクは知っておるな?そいつから聞いたんじゃよ。ハルクはワシが冒険者をしていた時のかつての仲間なんじゃ」
(あれ?ハルクさん・・・誰にも言わないっていってたのに・・・)
その言葉にわたしは訝しむ。
しかしわたしはすぐに切り替えた。
わたしは、お世話になったハルクさんを信頼している。
そしてクラウさんはハルクさんと同じギルドマスターだ。
その為、偉い者同士共有すべき情報と判断したのであろう。
それよりも、わたしは彼女とハルクさんがかつての仲間という点に、大きな驚きを感じた。
「驚きました。ハルクさんはピナトスの町でお世話になったので、本当に感謝しているんですよ。
冒険者時代の話とか聞かせて頂けませんか?」
その言葉にクラウさんは快く承諾すると、冒険者時代のことを説明してくれた。
ハルクさん、クラウさん、そしてもう一人ゲイルさんという方の3人で、冒険者パーティー『天龍戦士団』を結成して活動していたらしい。
なお、全員がAランクのこのパーティーは、当時最強と名高かったそうだ。
何よりも驚いたのが、彼らはピナトスの町を襲ったアースドラゴンを始め、数多のAランクの魔物を討伐したということであった。
「わははは。どうじゃ凄いじゃろ。アースドラゴンは強敵じゃが、ワシら3人が居たら楽勝じゃったわい。中でも一番手強かったのはヘルハウンドかの。
ヘルハウンドのスピードと言ったら、速すぎて魔法が全然当たらんのじゃ。
ハルクが捨て身で奴の動きを止めて、なんとか倒せたんじゃよ。
いやーヘルハウンドだけはもう二度と戦いたくないわい。って痛ててててて」
なお、ヘルハウンドどいうのは10メートルくらいの大きな3つの首を持つ犬型の魔物である。
3つの首と言えばケルベロスを思い浮かべる人が多いと思うが、ヘルハウンドはその劣化版というか下位種だ。だがその強さは強力でAランクの中でも上位と言われている。
すると機嫌よく大笑いを浮かべたクラウさんは、背中を抑えて苦しみだした。
「あの?大丈夫ですか?」
わたしは慌てて立ち上がると、クラウさんへ寄り添う。
だがそんなわたしをクラウさんは手で制した。
「いや・・・すまないすまない、笑うと古傷が傷んでしまっての。冒険者としての無理がたたってこのザマなんじゃ。腰の骨を痛めてしまって立つこともままならないんじゃよ」
「治療はしたんですか?」
「いやこの腰は聖女レベルの力じゃないと治らない。一度昔の伝手でジュンに頼んだんじゃが、きっぱりと断られてしまったんじゃ」
お母様が・・・。
たしかに聖女の仕事は暇ではない。
世界中からマルチーズ家の治療を受けに、訪ねてくるからだ。
だが日々の生活を見ていたが、治療は予約制で事前に数が決められている。
もちろん全魔力を全て使い切るような、ハードなスケジュールは組んでなかった筈だ。
それに母やお姉さまが知人や旧友を優先的に治療することもあったと記憶している。
それでも治療を断るということは、よっぽどこの二人は仲が悪かったのであろう。
「それなら、わたしが治しますよ」
「いや、大丈夫じゃ。お主の回復魔法の力はハルクから聞いておる。気持ちだけ受け取っておこう」
「いえ騙されたと思って、試してみてください。ハルクさんが知っている時よりも、わたしの魔法の力はかなり上がっているんですよ」
「うーむ。そうか!わかった、ではお主の治療を受けてみることにしよう。本当にすまないの。でも失敗しても気に病まないでくれよ」
「はい、ではそのままでいてくださいね。ヒーリングソード!」
わたしはそう言うと呪文を唱え、光の剣を手に持つ。
「なるほど、これが噂に聞く勇者が使える光の剣か・・・って!まてお主何をするつもりじゃ」
「動かないでください。この剣に殺傷力は一切ありません。だからしっかり刃を受けてください」
わたしはそう言いながら、グサッと勢いよくクラウさんに光の剣を突き刺した。
そしていつものように金色の光が患部を包み込むと、その傷をきれいさっぱり癒すのであった。
「どうですか?」
「どうですか?って突然なんてことするんじゃ?危うく死ぬかと思ったぞ」
そう言うと、クラウさんは怒りだしで椅子からバンと立ち上がる。
しかしすぐにキョトンとした顔に変わる。
「あれ?痛くないぞ。しかも何だか前より調子がいい気がする。」
「よかったです。わたしの光の剣は癒しの効果があるんですよ。どちかと言えばそちらがメインで、魔人にはたまたま効果があったという感じなんです」
「いや、なんだかよくわからんがありがとう。これで毎日腰痛に悩まされることもなく、ぐっすり眠ることができる。自由に歩き回ることもできる。ありがとう本当にありがとう」
クラウさんはそう言うと、ぎゅっとわたしの体を抱き寄せた。
「あっあの・・・」
「メイ。ワシはお主に大きな借りができた。もしお主が困っていることがあったら、喜んで力を貸そう。今日からお主はワシの大切な友人いや盟友じゃ」
「きょ・恐縮です」
コンコン
するとちょうどいいというか悪いタイミングでノックの音が響き渡る。
そしてノックの後、すぐにクラリスさんが入ってきた。
「マ・マスター。緊急な用事がって・・・って何しているんですか?まさかいい大人がこんな趣味に目覚めたんですか?」
しかしクラウさんがわたしを抱き寄せているこの状況に、嫌悪感を顕わにする。
「ちっ違う!メイに感謝をしていただけじゃ。これは嬉しすぎた事故のようなものじゃ」
クラウさんはそう言うと、慌てて抱擁を解いた。
その顔は茹蛸のように耳まで真赤だ。
「ほっ本当ですか・・・ってそれどころじゃなかった。
メイさん。今すぐお城に戻ってきてほしいと連絡がありました。どうやら重大事項のようです。
あと貴女への指名依頼は処理しておきましたので、ご安心ください」
「わかりました。クラウさん、クラリスさんありがとうございました。
それではわたしはこれで失礼します」
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