アユミちゃん

まろ蔵

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〈アユミちゃんと一寸法師〉

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まだ朝陽が顔を出したばかりの早朝なのに、表でポチがバウバウ吠えています。

「ちょっとポチ、ウルサイわよ。
隣の高校生のお姉さんに叱られるわよぉ。
睡眠不足はお肌の大敵!」

バウバウバウバウバウバウーン!

「ポチィーっ!
もぉ、いい加減にしてぇ。」

眠い目はショボショボ、頭はボサボサ、パジャマからはおへそをはみ出させながらもアユミちゃん犬小屋へ向かいます。

「ねえポチ一体全体どうしたの?
お腹か身体にムシでも湧いた?」

すると足元から怪しの声。

「これ、其処な女童。
ちいと道を尋ねたい」

「ん、んんーっ?」
声はすれども、姿は見えず。

「女童、ここじゃここじゃ、助けてくれぇ。
先ほどより、此処な犬コロがじゃれついて、もうヨダレでベタベタじゃ」

あらあらポチの足元をじっくりよく見ると、髪振り乱し着物はだけた侍のミニチュアが転がってます。

「なんか汚ぁーい!
ポチ食べちゃダメよ。
きっとお腹壊すからね」
「ぶ、ぶ、無礼者ぉーっ!!」

「えーっ!
このフィギュア喋ってる。
あら、動いてる。
リモコン?ラジコン?流行りの自走式ロボットかしら?
それにしても小汚いわねぇ」
「な、なんと失礼な小わっぱじゃ。
このバカ犬にやられたんじゃあー!
このバカ娘!
もう良い、道を教えよ」

「やだっ」
「え、えーっー?」

「だいたいあなた失礼じゃない!
名前も名乗らず、人をバカ呼ばわり。
チビのくせに上から目線って、なんかちょっと、うーけーるー」

「ううむ、確かにこれは失礼仕った。
拙者、名は、、、」
「あ、ちょっと待って。
アユミ何だか分かっちゃったから、当ててあげる」

「ほお、しからば儂の名は?」
「えへへへ、えーっと、君の名は〈ちょっとほうし〉だよね」

ズコーーッ!
ミニ侍、お約束通りずっこけます。

「ちゃうわー!!」
「ごめんなさい、ちょっとボケてみましたぁ。
では正解を発表しまぁーす!
君の名はぁ」
「拙者の名は?」

「さんてんぜろさんセンチメートルほうしサンでぇーす!」
「、、、。」

ああ、それはあかんわ、アユミちゃん。
幾ら寝起きで寝ぼけてるからって、そのボケは頂けません。
あまりに寒い、さむすぎる。

「何よ、ポチまで埴輪みたいな顔になっちゃって。
もう良いわよ。
早く聞きたいなら言いなさいよ、一寸さん」

慌てて、その場の空気を変えようとするアユミちゃん。

「うむ、実は道に迷っておっての。
川を探しておるのじゃ、川を。
拙者一刻も早く都へ参らぬといかんのでな」
「川ならぁ、ほら直ぐそこの道を一町ほど行った所にあるけどぉ、、、、。」
アユミちゃんなんだか歯切れが悪い。

「おお、左様か、おおよそ108メートルほど先ぢゃな。
これはかたじけない、助かり申した。
では、身共急ぎにつき、これにて失敬」
「あ、あ、あ、ちょ、ちょっと待って、一寸法師~っ!」

でも、一寸法師はよほどせいていたのでしょう。
振り向きもせずに行ってしまいました。

一寸法師、アッと云う間に川岸に辿り着くと、おもむろにお椀の船と箸の櫂を取り出して、よっこらせっと、漕ぎ出しました。

川面を滑る様に進む船ですが、何だか様子が変です。
川の流れが、どんどん早くなって来て、お椀はクルクルグルグル木の葉の様に流されて行きます。

おお、もはや急流下り。
そして、目の前からいきなり川面が無くなりました。

た、た、滝ダァーーッ!
嗚呼、なんと云う事でせう。
お椀船は、濁流の中、滝壺へと吸い込まれて行くのでした。

一寸先は闇、と言うお話。
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