壊れる世界の歩き方〜異世界化した地球で、サイコパスはどう生きるのか〜

木下美月

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二章 暴かれてゆく

話をしよう

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「初めまして。僕は美城サイ、貴女に会う為にここに来ました」

 微笑んでいるサイの右手を、少女は優しく握った。

「私はクラリス・キラ……伶奈から私の事を聞いたのね。サイも協力してくれるなら心強い」

「えぇ、もちろんです。よろしくお願いします、クラリスさん」

 それから、とサイは付け加える。

「水谷先生、お久しぶりです。こんな世界ですが、再会できた事を嬉しく思います」

 クラリスの隣で零士は笑った。

「こちらこそ。半年ぶりだけど、大きくなったな、サイ」

「それは嫌味ですか?」サイはおどけてみせる。
「見ての通り身長は低いままですよ。まったく、気にしてるのに」

 零士はサイの戯れに目を丸くし、伶奈はサイに便乗した。「わー、先生ってイジワルぅ」

「そ、そういう事じゃない」零士は笑いながら取り繕った。
「成長したなって事だ。生徒の成長ほど嬉しい事は無いからな、教師として」

 三人は笑い合いながら校舎に向かって行く。
 一歩後ろの物静かなクラリスに、サイは問い掛けた。

「故郷が恋しいですか?」

 クラリスは少し呆然とした。「恋しい?」

「ああ、気を遣ってくれたの。ありがとう。私は別に寂しいとか思わない。浮かない顔してるのは生まれつき」

「あ、いや、そんな事は思ってませんでしたよ」
 慌てるサイを、伶奈は茶化す。「わー、サイくんって失礼ぃ」

「ただ、被害者は地球人だけじゃないんだろうなって思って。クラリスさんだって巻き込まれたんでしょう? それってつまり、自分の意思とは関係なしにここに連れてこられてしまったということ。もし、僕らに役立てることがあればなんでも仰って下さい。ここでの生活はもちろん、帰るお手伝いもしますから」

 クラリスは驚いた様にサイを見つめた。
 あっちの世界でもこんな優しさは受けた事ないのに、悲惨な災害時に、加害者側の人間を気遣ってくれるなんて。
 また、零士も同じように驚いていた。
 サイが戯けた様子も、他人を気遣う素振りも、まるで本心をありのまま見せているかのような自然さだ。
 いや、事実そうなのだろう。
 零士は首を振る。
 俺はもうサイを疑う事をやめなくちゃ。

「……ありがとう。貴方が望むなら、改めてこの災厄について話す。この前話した事を掘り下げていくから、前のメンバーも集めて欲しい」

「わかった。なら会議室に集合だ」


 それから三人は会議室に向かう。途中で抜けた零士は五人の仲間を連れて戻って来た。その中には大田健もいた。
 九人は広い会議室にバラバラに座り、その中で零士が声を上げる。

「さて、早速始めようか。他の避難所から来たって言うサイの話は後で聞くとして、先ずクラリスからこの災害の裏にある真実を一から説明してもらう」

 零士から目配せをされ、クラリスは立ち上がった。

「今回初めて話を聞く者がいるから、事細かに説明する」

 クラリスはサイに視線を送る。サイは目を合わせて軽く微笑んだ。

「先ず、私の世界の話をする」

 そうして彼女は話し始めた。
 異世界“ティスノミア”の話を。



 その世界には様々な生物が存在している。
 現在地球を蹂躙している魔物だったり、魔物に似た人型の種族、魔族だったり。
 また、魔族と分類される者のなかでも多くの種族がいる。獣族やエルフ族、ドワーフ族に竜族、鬼族。つまり、人族以外の種族は全て魔族と呼ばれている。
 魔族と人族は拒み合う様に生きている。ここ数年で争いは起こっていないが、お互い争いに備えた力は常に持っている。
 それこそが魔族の“魔神”と、人族の“勇者”である。
 魔神とは神格をもった魔族の事であり、魔族の全て(数は人族の半分以下であるが)をたった一人の魔神が統べている。
 神格をもった存在というのは、それ以下からの干渉を受けない。神格をもたない存在からの攻撃は害にならないのだ。
 しかし人族に神は生まれない。だからそのままでは世界の均衡が取れない。
 そこで生まれたのが“勇者”だ。
 勇者とは、創造神アルスティアから加護を受けた者。人族の中でも最も気高く優美な、強き存在に与えられる加護。神化しないため、勇者は全ての人族と同じ様にあらゆる存在から干渉を受けるが、勇者ならば魔神に干渉する事が出来る。神格をもたない者の中で唯一魔神を倒す事が可能な存在なのだ。


「今のところ魔神ウラリュス以外に神格をもった存在はいない。創造神アルスティアは、いる様でいない存在。“加護”という形でしかこちらに干渉できないから。つまりウラリュスが地球侵略の犯人なんだけど、それを倒す存在は勇者しかいないという事」

 クラリスの話は地球を侵す魔神ウラリュスの話へと移行して行く。


 魔族は種族に関わらず、二種類に分類される。
 他種族を蹂躙し、力を誇示する“過激派”と、全種族が共存する事を望む“穏健派”。
 魔神ウラリュスは過激派である。
 しかし彼女は過激派の中では珍しく、同族である魔族を自分の物の様に大事にしている。
 故に人族の国を滅ぼそうなどとは考え至らない。それをすれば多くの大事な魔族が滅びるからだ。

 ならばどうやって過激派の魔族を飼い慣らそうかと、ウラリュスは考えた。
 せめて魔族が思う存分に暴れられるほどの広い土地があれば、彼らはそれなりに満足するだろう。
 そこで彼女の創造力が発揮される。
 弱い世界を侵略し、その星ごと魔族の領土として仕舞えばいい。
 その舞台が、ここ地球となった。


「ティスノミア以外に世界が存在するなんて、誰も思いつかなかった。でも、ウラリュスはその可能性にかけて別世界を探した。人族は勿論、魔族すら誰も知らない内に、彼女は一人で研究し、魔法を完成させた」

 それは、異世界ティスノミアの理を地球に混ぜる魔法。それによって地球には魔力が生まれ、魔物が転移してきて、今の現象が起こっている。

「この魔法の欠点は二つある。一つは、世界の均衡を大きく崩す事は出来ないと言うこと。ウラリュスは地球を侵略する為に貴方達を弱体化させたかった。でも、魔物を送り、貴方達の積み上げてきた科学技術を使用不可とした時に、均衡が崩れた。魔法を正しく発動させる為に、ウラリュスは慌てて地球人にとって有利な条件を足した。それこそが“レベルシステム”と“二人の勇者”の存在」


 話の後半になってきて、聴衆の真剣度が増した。サイは自分以外の者もこの辺の話は聞いていなかったのだろう、と判断した。


「二つ目の欠点は、この魔法発動には膨大な魔力を消費するということ。ウラリュスは魔神。神格をもった存在は万能に見えるけど、その偉大過ぎる身体を異世界に転移させるには、これまた膨大な魔力が必要となる。だからウラリュスは現在、ティスノミアで魔力の回復を待っている。それが済み次第、数名の精鋭と地球に転移してくるでしょう。その時がこの星の最期」

 その時、机を殴りつけながら立ち上がる者がいた。見るからに暑苦しい成人男性だ。

「ふざけるなよ! 黙って聞いてりゃ、お前も魔神も何様なんだよ! 何が最期だよ、勝手に俺たちの世界を壊すんじゃねぇ!」

「……ごめんなさい、言葉が悪かった」

 男の怒号に、クラリスはすまなそうに俯く。クラリスを庇う者がいないのは、室内の全員が男と同じ気持ちだからなのだろうか。

「そもそもお前はなんでここにいんだよ! 全部お前がなんとかしろ……」

 サイは堪らず立ち上がった。「話を遮らないで下さい」

 感情のコントロールが出来ない男は今度はサイに罵声を浴びせようと口を開くが、サイの眼光に怯んで黙り込む。

「ネガティブな情報だけ聞いて悲劇を嘆きたいなら失せて下さい。彼女の話を最後まで聞いて地球を守る方法を考えてくれるなら黙っていて下さい。どっちにします?」

「わ、わるかったよ……アツくなっちまって」
 男はサイから目を逸らして座った。

 サイが先程までとは打って変わって穏やかな表情でクラリスに視線を送ると、彼女は頷いてから話を再開した。零士は複雑な表情でそれらを見守っていた。


「この世界を守る為に倒すべき敵、ウラリュスの性格を知っておいてほしい。……理解する事は難しいかもしれないけど」

 クラリスが言うには、ウラリュスは多くの過激派魔族と同じ様に力を誇示するのだが、彼女は戦闘が好きなわけではない。弱い者を蹂躙する事が好きなのだ。
 故に戦闘狂の魔族とは違って、敵は弱い内に仕留めるのが彼女のやり方。
 即ちウラリュスは魔力が溜まり次第、直ぐに地球の侵略にやってくる。地球人に与えたレベルシステムが成長しない内に、また、自身を殺す可能性のある勇者が強くならない内に。


「クズだ……」
 誰かが呟いた事にクラリスは頷く。

「そう、あいつはタチが悪い。でも、力があるのは事実だし、そういう性質のお陰で長生きもしている。だからこそ勇者の成長は急がなくてはいけない。その為にまず、魔物を狩るより魔法の習得や力の扱い方を学んで欲しいんだけど……」

 クラリスは零士をチラリと見た。
 サイは疑問に思う。勇者は力を上手く扱え無いのだろうか。

「今みたいに人探ししてれば、もう一人の勇者も見つかるかもしれないんだし、二人同時に練習したほうが効率的だろ」

「でも、避難所から離れれば強力な魔物が貴方の元に集まってくる。ウラリュスはそういう念を魔物に送っている。中には本当に強い魔物もいる。私一人で今の貴方を守りきる事は不可能。貴方にも強くなってもらわないと……」

「魔物を倒しながら強くなってるじゃないか」

「貴方に限って言えば実践よりも先ず力の扱い方を特訓した方が効率的。焦る気持ちはわかるけどその精神面のせいで魔法能力が著しく低下している。このままではロクな戦い方をしない。自分が鍵だということを自覚――」

「――なりたくてなったわけじゃない!」

 零士の怒声で室内は静まり返る。
 普段冷静な彼が熱くなっている理由を全員が知っていた為、同情する様に零士を見つめている。

「……大事な人一人探しに行けないなら、力なんていらなかった。無力でいいから、叶子に会いたい……」


 その時、椅子を倒す勢いで立ち上がった少年に、全員が注目した。

「先生、僕がいます」

 サイは自信ありげに零士を見た。
 恋人を探しに行きたいけど、世界を守る鍵として身動き取れない、哀れな勇者を。

「僕なら山場先生を知っています。貴方の代わりに捜す事が出来ます。だから先生は僕を信じてこの避難所で力を磨いていて下さい。いつか再会した時に、その力で全てを守れる様に、ね」

「さ、サイ……」
 机に突っ伏していた零士は縋るようにサイを見上げる。そうか、失念していた。サイはここで唯一俺と叶子の共通の知人……生徒なんだ。彼の提案は合理的だ。零士はそう思いながらもまだ迷っている。

「でも、そんな、お前を危険な目に……俺のわがままのせいで」

「なら、クラリスさんも僕に同行してくれますか? 貴女がいれば心強い」

「え?」
 声を発したのはクラリスだ。

「ほ、本当にいいのか? クラリス、それなら俺はお前に言われた通り大人しく訓練する。だからサイと一緒に山場叶子を捜してくれるか?」

 クラリスは大きな目を二回瞬かせた後、ゆっくり頷いた。

「え、ええ。わかった。じゃあ朝の数時間は零士の訓練に付き合う。その後はサイと叶子を探す。零士はその間も訓練を怠らないように。決して避難所から離れないで」

「ああわかったよ……サイ、ありがとな」

 零士はサイに心からの感謝を述べる。


 しかしこれは大きな間違いだった。
 サイは山場叶子と水谷零士に情報の共有をさせたくない、つまり再会させたくないからだ。
 故に今回サイが提案した事の目的の一つは、二人を会わせない様に行動制限をかける事。

 そしてもう一つの目的は、クラリスと少しでも長い時間を共に過ごす事だ。
 何故そうするのか。
 それは惹かれてしまったからに他ならない。

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