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美意識高い系の猫
しおりを挟む「こう…誰もが振り返るような美しさってあると思うのよ」
「…へ~。…………そうかもしれませんね」
「貴方、あいずちが下手くそね?…もっと、親身になって下さらない?」
目の前で爪をピカピカに磨きながら、私にそう言ってくるのは…マンチカンの白猫獣人のクライアントだ。本人が私に相槌が下手くそだというが、まず爪を磨きながら話すのもどうかと思うのだ。…まぁ、クライアントにそんなことは指摘できない。それが、この"ねこ猫相談事務"の仕事の辛い所だ。そう、これは仕事。仕事なのだからしっかりクライアントの要望を聞かなくては。今日の私は真面目モードだ。
「そう言われましても…、私には美というのもが分かりませんから」
「まぁ、そうよね。…貴方の見た目で最初から分かっていたわ。ビンテージ物の丸メガネは素敵なのに、それ以外が論外だもの。…駄目駄目ね」
何故か私がクライアントに駄目だしをされてしまった。どうやら今日のクライアントは美意識が高い猫獣人らしい。…今までも"ねこ猫相談事務"に相談にくるマンチカンは総じて美意識がとてつもなく高かったが、今日も例外に漏れず美意識の高いマンチカンだったようだ。オスなのかメスなのかすら分からない。…ただ、声がオスよりだ。
クライアントは私が何も言わなくても一人で話していく。
「今日ね、町中で振り返ってしまったのよ。何でだと思う?」
「さー?…何でですか?」
「余りにも美しかったのよ…。それも、垂れさせた耳につけられたピアス…あぁ、もう最高だったわ!」
クライアントの周りに花が幻覚で見えるくらい咲き誇る。私に幻覚の花がポンポン当たる。クライアントのおしゃべりは止まらない。
「それでね?驚きなのが、これと言って特徴のない灰色の猫獣人だったのよ?もちろん灰色が悪いわけじゃないわよ、ただ特色じゃないのよね…。でも、艶はあったわ…相当いい環境なのね~とても羨ましいわ。……だからかしら、私が振り返ってしまったのも」
「……………………………」
クライアントの相談の内容が未だに見えない。私は頬に腕をつく。クライアントの話は長引きそうだった。…ついついあくびが出てしまう。
「__________で…って、聞いてます?…もう、これからなのよ?ちゃんと聞いてくださらないと」
「…ふみません。………ちゃんと聞いてますよ」
あくびをしていたことで、口調が少し回らなかったが…まぁ、いいだろう。
クライアントは眉を下げたような表情をし、咳払いしてから話の続きを聞かせてくれる。
「…私も、誰かに振り返ってもらいたいのよ。………ほら、私ってこの通り美しいから? この美しさを埋もれさせてしまうのは罪だと思わない?」
「思いませんね」
「あら、貴方のビンテージ物のメガネ壊れてない?…私の美しさが分からないなんて可愛そうな猫ね」
本当に驚いたような表情をする。これは、自意識も高いと見えた。
私は無意識に耳をたれさせてしまう。
「ッ!まぁまぁまぁ! 私、思いついたわ!」
何故かクライアントは私を見て急いで帰る準備をしだす。
「…お悩みは解決しましたか?」
「ええ!今、解決したわ!! 時代はたれ耳よ!…こんなことしてられないわ、帰って鏡の前で練習しないと♡」
…よく分からないが、クライアントの悩みは解決したようだ。
クライアントは耳を垂れさせながら鼻歌を歌いだし、事務所から出ていった。
「……………………くぁあ」
私はあくびをして、書類の整理をしだす。
真面目な日に限って、いい相談事は舞い込んで来ない。
…誰も困ってないなら喜ぶべきなのだろう。
「…時代はたれみみ」
鏡の前で…私は少し耳を垂れさせてみた。
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