リス・フルールの箱庭

どろさき睡蓮

文字の大きさ
上 下
4 / 4

エピローグ

しおりを挟む
 黒い喪服姿のフルールの夫であった方が私に挨拶してくる。私は貴族夫人として…フルールの友人として微笑みを浮かべる。本当はフルール以外に微笑みなんて浮かべたくなんてないのに。




「妻のフルールと仲が良かった貴方なら安心です…。子供のためにも会いに来てやってください」


駄目よ…私を見て顔を赤らめては。…貴方、フルールの夫でしょ?何故、フルールが死んだばかりなのに私に鼻の下を伸ばすのかしら。
 …本当に、フルールじゃなく貴方が死んでしまえば良かったのに。



フルールは死んでしまった。
フルールは赤ちゃんを産んで死んでしまった。

 出産はいつの時代も命がけで行われるものだった。…本当になんでフルールだったのかしらね?

フルールは可愛い赤ちゃんをのこして…私を置いて逝ってしまった。






 私のフルールが逝ってしまってから、私は本当の笑顔を思い出せなくなった。だから、今も貴族の作り物の笑顔を顔に貼り付けている。

 私はフルールの赤ちゃんを見てこれからもこの貴族社会で生きていくって覚悟を決めたわ。

それにはフルールの子供を守らなきゃいけない。フルールが命をかけてまで無事に産んだ子供。私がフルールの代わりに…私が私であるためにフルールの産んだ子供を守るわ。


「えぇ。…私、フルールと約束したんです。………ですから、ベル様にも…これからも会いに来ますね」


 私は目の前の赤子を抱く…ベル様を腕に抱く男性に微笑みを落とす。
フルールの産んだ赤子は男の子だった…。

フルール、私は貴方の産んだ赤ちゃんを守るわ。





_____________________________________


フルールがこの世界にいなくなってから10年、時が移ろいだ。

 あれから私の目には世界の色が鮮やかに映ることは無かった。フルールと箱庭で愛を囁やきあっている頃が懐かしい。あの頃の世界は…フルールを中心に何もかも色が鮮やいて…美しく私の瞳に映っていたのに。




フルール………フルール………。

もう会えない貴方か恋しいわ。






「________母様!」  「リス様!」





 子供達が私とフルールが愛を囁きあったあの箱庭で遊んでる。そして、私を嬉しそうに呼ぶのよ。



「リス様! 僕の母様は、どんな人でしたか?」



「…そうねぇ、…………愛せずには要られなかった人よ」


「僕も母様にお会いしたかっです」



「………フルールなら、きっと、ベル様のことを何処かで見守ってるわ」





フルール、見てるかしら?

貴方の子供は、もうこんなにも大きくなったわよ。

ベル様は笑うと貴方に似てるわ。やっぱり親子ね。可愛いわ。








フルール、私は今も貴方のことを愛してるわ。
 だから、私がそちらにいくまでもう少し待っててね。


きっと直ぐよ。





庭に咲き誇る花たちが風で優しく揺らぐ。
風が花の甘い香りを運んでくる__________。







私はフルールに囚われた蝶。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...