悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️

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「待って下さい、義父上。隠居って……まだそんな歳でもないでしょう? それに私はまだ、学園を卒業するまで1年あるんですよ? 第一姉さんはどうするつもりですか? 実子である姉さんの結婚が無くなったのです。本来なら辺境伯家は私ではなく姉さんが継ぐべきでしょう!」

 突然のワシの隠居宣言にランスルは焦って矢継ぎ早に質問を繰り返す。

 ところがだ。

 ランスルのこの言葉を聞いたアルテミスが噛みついた。

「ちょっと、ランスル! 何故私が辺境伯家を継ぐなんて話になるのよ? 継ぐのはその為の教育をきちんと受けて来た貴方でしょう? だいたい貴方がもしそれを私に気を使って言っているのだとしたら、こんなに私を馬鹿にした話はないわ! 私はね、これでも強いの。家なんて継がなくても自分の生きていく道くらいちゃんと自分で決められるのよ!!」

 アルテミスは声高々にそう言い切ると、どうだと言わんばかりに胸を張る。流石ワシのアルテミスちゃん。何故ここで胸を張るのか訳は分からんが、何故かとても頼もしい……。

「……ですが……姉さん……」

 だがそんなアルテミスを他所に、ランスルはオドオドと彼女に戸惑う様な視線を向けた。

 するとアルテミスは今度は優しく微笑むとランスルを諭す様に声を掛けた。
 
「ねぇ、何を迷っているの? 貴方はグランベルクを継ぐためにこの家の養子になったのでしょう? その為に努力もしてきたはずよ。ねぇ、そうでしょう? それが貴方に与えられた使命でしょう? 私はね、ランスル。エドガー様に婚約を破棄された時、あの人と結婚出来なくなった事なんて全然悲しくも辛くも何ともなかった。寧ろ嬉しかった位よ。だけどこれまで私が王太子妃になる為に重ねてきた努力が無駄になってしまうのは悔しかった。この国の役に立ちたいって思いがあったから……。いえ、それが私に与えられた使命だって思っていたから……。だからね、ランスル。私は貴方には私と同じ思いをさせたくはないの……」

 アルテミスの言う通り、ワシはランスルの今までの努力を簡単に無碍にしようとした。ワシのした事はあのエドガーと何ら変わりはない。ワシはこのアルテミスの言葉を聞いて己の犯した愚かな行為に耳を塞ぎたくなった。

「だからね、ランスル。私はこれは神様が今まで頑張って来た私にくれたご褒美だと思っているねよ。これからはお前の好きな様に生きろってね。お陰で私は今度こそ見つけられるかも知れないのよ。自分が心から支えたいと願える大切な人を……。ねぇ、そうは思わない?」

 アルテミスはそう言って少しだけ顔を赤らめた。

 ワシにはこの時、自分よりアルテミスの方が余程立派な大人に見えた。

「それにね、ランスル。お父様が言い出したら聞かない頑固者だって事は知っているでしょう? だいたい貴方、何年お父様と付き合って来たのよ。きっと身軽になってやりたい事があるんだわ。その為にお父様は何だかんだ理由をつけて、貴方に自分の仕事を押し付けるつもりなのよ? ねぇ、そうでしょう。お父様?」

 然もアルテミスはそう言ってワシにもニコッと微笑む。

 ぎくっ!

 ワシは唾を飲み込んだ。バレておる……。

「ほら、ご覧なさい。この態度がその証拠よ! ほんと分かりやすいんだがらお父様は!」

 アルテミスが呆れ顔でワシを見つめる。今回の事でワシは何度、娘にこの顔をされただろう……。

「そうなんですか!?」

 ランスルが不思議そうに問い返すと、アルテミスは今度は腕を組んで「絶対そうよ」と頷く。

 こらこら。令嬢が腕を組むな! 腕を……。

「それで? お父様はこれで幕引きするつもりなんてないんでしょう? 今度は一体何をするつもり?」

 挙句、アルテミスはさも当然の事の様にそう聞いて来た。

「……それは……。この件を納得するまで調べようと…」

 ワシはたじろぎながら答えた。何せ娘のワシへの威圧感が半端ない……。アルテミスは「ほら、やっぱりそうだったでしょう?」と言いながらランスルに同意を求める様に更に笑みを深くした。

「だいたいダンケルはワシを舐め過ぎておるのだ。オスカー1人に罪を擦り付けおって! あんな幕引きでワシが納得する訳がなかろう? それに何だ、あの騎士の数は? 騎士など何百人寄越したところでこのワシを足止めする事など出来んわ!」

 娘のこの言葉に反応して、ワシはダンケルへの怒りを口にした。

「それで? お父様のお考えを聞かせて下さい」

 アルテミスがワシの目を真っ直ぐに見て問い掛ける。

 こんな目をされてはもはや隠し事など出来なかった。ワシは己の抱いた違和感について答える事にした。何よりずっと王太子妃教育を受けていたアルテミスは、30年近く領地に引き篭もっていたワシなんかよりずっと今回の関係者について詳しい。ワシはそれを聞きたかった。

「なぁ、アルテミス。アルテミスから見た王妃はどんな女だ? オスカーの話を聞く限りでは、今回起こったことの全ての元凶は彼女だ。だがな、ランスルの王妃の本当の目的は国の乗っ取りではないかも知れないと言う言葉を聞いた時、ワシは思い出したのだ。アルテミス、覚えているか? 卒業パーティーの夜、ワシが王妃の執務室を訪れたことを?」

「……ええ。勿論、覚えているわ」

 突然話題を変えたワシにアルテミスは戸惑いながら答えた。

「ワシの瞬間記憶魔法の事はお前も知っているな? 今になって思い出してみればあの部屋にはペンの1本すらなかったのだ。なぁ、アルテミス。彼女は本当に王妃としての執務をきちんとこなしていたのか?」

「……そう言えば確かにそうね。未来の王太子妃になる者として私にはある一定量の執務が割り振られていたわ。でも王妃様が執務をされていたと言う話は文官達からも聞いた事が無かったわね」

 アルテミスのこの答えを聞いて、ワシの中に生まれた疑問が形になっていく。

「……やはりそうか。オスカーは言っておったの。ダンケルが毒に倒れた後、政務を取り仕切っていたのは王大后とマリエッタだったと……。だが反対にこうも言っておった。王妃はダンケルを誑かし、この国を危険に晒したと……」

「ええ……。確かにそう言っていたわ」

 アルテミスもそしてランスルもが頷いた。

「だったら何故ダンケルの倒れたこの好機に、王妃は自らの手で執務を行わなかった? もし彼女が国の乗っ取りを企んでいたのなら、そうすれば国は王妃の思いのままに動かせた……。何故簡単に王太后とマリエッタにその座を譲った? ランスルも疑問を抱いた通り、彼女の本当の目的はそんな事ではないのかも知れん……」

 そのワシの言葉にアルテミスが疑問を投げかける。

「だとしたら王妃様の本当の目的はなんだと言うの?」

「この場合、考えられるのは1つだけ。ワシが言った最悪のシナリオだよ。イスタルはルクソルと手を結びこの国を攻め滅ぼそうとしておる。恐らく王太后とマリエッタはそれに纏わる何かの情報を手に入れた。だからそれを阻止しようと王妃の意のままに動くダンケルに毒まで盛ったのだ……。そう考えると全ての辻褄が合う……」














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