悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️

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 ワシはまたアルテミスに手を差し出した。娘はその手に自分の手を重ねる。

 指を弾くと一瞬で馬屋に着いた。

「うわっ!」

 突然目の前に光と共に現れたワシ達に、馬番は驚き腰を抜かした。

「あー。此処にも人がおったか。すっかり忘れておったわ」

 ワシは馬番を見据えながらまた指を弾く。すると馬番は腰を抜かしたまま、仰け反る様な格好で眠りについた。

「凄く体に負担がかかりそうな格好ですね。何だかとても申し訳ないわ」

 アルテミスが同情したように眉を顰める。

「そうだな。目覚めた時、少し体が痛いかもしれんが、まぁ、見たところまだ若く体力もありそうだ。大丈夫だろう。すまぬが馬を借りるぞ」

 ワシは眠っている馬番の男に声を掛け、馬を1頭馬屋から出すとアルテミスを抱き抱えその馬に乗せた。そして娘を包み込む様に自身も馬に乗る。

「では、行くぞ! まずはどっちに進めばよい?」 

 ワシはアルテミスの指示に従い、真っ暗な王都を馬で駆け抜ける。

「いつ以来かしら? こうしてお父様と馬に乗るのは……」

 娘はワシの腕の中、懐かしそうに頬を緩めた。

 そうだ。このが子供の頃は、よくこうしてグランベルクの山々を駆けた。それが王太子妃になる為にと娘は王都へと向かい、ワシらは引き離されたのだ。そんなワシらの犠牲を考えもせずに彼奴ら……。

 また、ダンケルとエドガーへの怒りがり返して来た。

「あんな男に姉さんを渡したくはなかったか。確かランスルはそう言っておったな。ワシも今では彼奴の言う事がよく分かる…。王家になんぞ大切な娘をやれるか!」

 アルテミスの体温を体に感じながら、気がつけばワシはそう声を上げていた。

 プトン家には直ぐに到着した。

「何だ! お前達は!?」

 馬で駆けつけたワシらを門番達が取り囲む。此方の方が警備は厳重な様だ。馬上から屋敷の中を伺うと、馬車が2台、玄関口に止まっていた。

 つまり屋敷に訪れていた誰かが帰るところなのだろう。だとすると、此奴らの中の数人はこれから帰る者達の護衛か……?

「まぁ、どうせ眠って貰うのだ。どちらでも良いか」

 ワシはそう言うとまた指を弾く。すると彼らはばたばたとその場に倒れ眠り出した。

「あのままにしておいて良いのですか? とても目立ちますけれど……」

 アルテミスが戸惑いがちに声を掛けた。確かにクレア家では目立たぬようにと門番は立ったまま眠らせたからな。

「ああ、構わん。それより急ぐぞ!」

 ワシはそう答えると門の中へと馬を進めた。

 屋敷の玄関に着いたワシは先に馬から降り、アルテミスを馬から降ろす。そして今回もまた指を弾いて屋敷内の時間を止めた。

「さて、行こうか」

 屋敷の扉を開けるとそこには何人もの使用人と共に、この屋敷の主人とおぼしき仕立ての良い洋服を着た紳士と、その夫人らしき女性が4人の客人を平身低頭、正に見送りの最中と言った様子で止まっていた。この様相を見ただけで6人の中の力関係が伺えた。

 ワシは4人の客人の顔を交互に見ていく。まるで双子かと見紛う程にそっくりの2人の女性。そしてそれぞれの夫と思われる2人の男性の内の1人は、見送っている紳士と面影が似ている。となると此方の男が弟か。

 だが、この者達がワシの思い付く通りの人物だったとしたなら、何故これほどまでに此奴らに気を使う……?

 ワシは怪訝に思いアルテミスの顔を伺うと、娘は頷いた。

「ええ、お父様の推察通りこのお二人がプトン伯爵夫妻です。そして恐らくこの4人もお父様のお考え通りの者達でしょう。男性のお2人は以前、夜会でお見かけした事がありますから間違いありませんわ」

「やはりそうか」

 娘の言葉にワシもまた頷いた。

「ならばこの時間この家に集まっていたと言う事はこれからの対策を練っていたと考えるのが妥当。アルテミス、行くぞ」

 ワシは娘にそう声を掛け、今度は応接室を目指した。

 案の定、応接室のテーブルの上には沢山の書類が広げられている。

 ワシらはその書類を丁寧に見ていった。

「まさか……。そんな……」

 途中アルテミスが震え出した。それは怒りなのかそれとも恐ろしさなのか……。

 恐らくその両方だろう。

 その時だ。

「誰だ! 出て来い!!」

 玄関の方から怒声が聞こえた。

「思ったより早かったな。アルテミス、これは全て持って行く。悪いが其方はこれを守ってくれるか? ワシはこれからこの国の戦力を確かめに行く」

 ワシはそう言って机の上の書類を全てかき集めるとアルテミスに手渡した。

 受け取ったアルテミスは不安そうに顔を歪めた。

「戦うのですか?」

「ああ」

 娘の問いにワシは頷いた。

「なに、心配はいらん。寧ろこれからの事を考えると少しくらい手応えがあった方が助かるのだ」

 ワシはそう言って心配する娘に笑顔を見せた。

 そうこうしているうちに、ドドドドーっと派手な足音を立て沢山の人達が屋敷の中を駆け回る音が聞こえて来た。

「出て来い! いるのは分かっているのだぞ!!」

 ワシらを探し回っているのだろう。バタン、バタンと部屋の扉を開ける音も聞こえてきた。

 その音を聞きながらワシとアルテミスは頷き合い部屋を出た。

「ワシらはここだ! 逃げも隠れもせん! かかって来い!!」

 部屋の外にいたのは思った通り騎士達だった。ざっと見たところ20人といったところか……。そして真ん中に立つ彼らを指揮する男。此奴は少しは骨がありそうだ。

 貴族の屋敷の前で人が何人も倒れていた。これは誰が見ても貴族の屋敷の襲撃事件だ。然も屋敷に入ってみれば家人達は皆、止まっている。報告が入ってから騎士をかき集めたとすれば、夜中とはいえこの数は妥当か寧ろ少ない位だろう。

 騎士達は即座にワシら2人を取り囲んだ。

「お父様、真ん中におられるのは騎士団長のカスケード侯爵です」

 アルテミスがワシの後ろから教えてくれた。

「ほう、彼奴か騎士団長か。思ったより大物が出て来たな。だが、丁度良い。お手並み拝見と行こう!」

 そうは言ったが、心配なのはアルテミスだ。

 するとアルテミスは、ワシの心配を感じ取ったかの様に笑顔で力強く言い切った。

「私の事はご心配なく。自分の身くらい自分で守れます。言ったでしょう? 迷惑はかけないと!」

 その声でアルテミスを認識したカスケードが声を上げた。

「ほう。これはこれはグランベルクのお嬢様ではありませんか? 自分の身は自分で守るとは誠に頼もしい事だ。ならば貴方の前におられるお方は辺境伯殿か!? でしたら手加減は要りませんな? 本気で行かせて頂きますぞ!!」

 カスケードはそう言い放つと剣を構えた。
































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