最後の誕生日会

まるまる⭐️

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6 私の初恋

 実はセフィール殿下の祖母と、私の祖母は従姉妹同士で共に別の侯爵家へと嫁いだ。

 家名は違えど同じ侯爵家に嫁いだもの同士。二人はとても仲が良く、よく互いの屋敷を行き来していたらしい。その影響もあって二人の娘である王妃様と母もまた、幼い頃からまるで姉妹のように仲が良かった。5歳年下の母を王妃様はずっと、実の妹の様に可愛がってくれたそうだ。軈てそんな二人の関係は年齢を重ねるうちに、何でも相談し合える親友の様なものへと変わっていった。

 そして王妃様が王家に嫁がれた後も、二人の関係はそのままずっと続いていたのだ。

 そう……。父と母が出会うきっかけとなった母の親友とは、王妃ヴァイオレット様の事だった。

 父と母が出会った日……。

 その日母は王妃様、いや当時はまだ王太子妃だったヴァイオレット様とひょんな事から言い争いになり、王宮の庭園で一人泣いていた。そこへ宮廷文官だった父がたまたま通りかかって母を見つけたのだ。

 その時、父は母に言ったそうだ。

「意地を張らずに、お互いに歩みよれば良いんです。このままではでは貴方は大切な人を失ってしまいますよ。その方は貴方にとって大切な人なのでしょう? だったらまずは貴方から話し掛けてみて下さい。そのかたが貴方を本当に大切に思ってくれているのなら、きっと貴方の話に耳を傾けてくれますよ」と……。

 今の父から見ればどの口がと呆れるところだが、以前の父は本当にこの言葉通りの誠実な人だったのだ。

 まぁそれはさておき、父のこの説得のお陰で二人は仲直り出来た。

 二人はまた親友に戻れたのだ。

 この事がきっかけで母は父を好きになり、王妃様は二人の仲を取り持ってくれた父に感謝した。

「アリアの話を聞いて、アドバイスをしてくれたそうね。あの子から聞いたわ。相手の立場に立って物事を考える。そう言うのって国政や外交でも大切なことでしょう? 貴方、きっと向いていると思うの。どう? やってみる気はないかしら?」

 王妃様はそう言って、父を高く評価してくれた。

 こうして、それから暫くして父は宰相様付きの補佐官に任命された。

 そしてこの時、お互いに思いをぶつけ合った事で母と王妃様の絆はより深まり、父と結婚し私が生まれてからも、母はよく王宮に王妃様を訪ねていた。

 その時、私を遊んでくれていたのがセフィール殿下だった。彼もまた母ヴァイオレット様と同じ様に3歳下の私を、まるで本当の妹の様に可愛がってくれた。そして幼い私もまた、そんなセフィール殿下を兄の様に慕っていた。軈てその気持ちは、いつの間にか淡い恋心へと変わっていった。

 そう……。彼が私の初恋の人だった。

 でも、当時の私はゾールマン伯爵家の一人娘。家を継ぐ立場だ。結局私の初恋が叶う事はなく、私は子爵家の次男と婚約した。

「王子様! 私、ラデッシュと言います!」

 父の答えを聞いたラデッシュは殿下に歩み寄り、キラキラした目で彼を見つめながら自己紹介する。

 本当に彼女は空気が読めていない。

 殿下はそんなラデッシュからの視線を気にする様子すら見せず、王族らしい威厳を漂わせた穏やかな声で父に語り掛けた。

「伯爵、そのピンクのネックレスはね、今年成人を迎えるアイリスの為に、侯爵がアイリスに贈った、今、彼女が着ているドレスに合わせて母が自ら選んだ物なんですよ。大事な親友が残したたった一人の忘れ形見の成人を祝うために、母は心を込めてそれを選んだんです。それをその娘は事もあろうに、自分の物だなどと言い張った。まるで嘘を吐いているのがアイリスだと言わんばかりに、夫人と共に彼女を陥れてね。貴方達がした事は母がアイリスを大切に思う気持ちを踏み躙ったも同然なんですよ」

 殿下は柔らかい口調ながらも、その話の内容から彼の強い憤りを感じとった父は顔色を変えた。

「それから伯爵夫人。貴方もそうだ。アイリスは言ったでしょう? そのネックレスがそんなに簡単に買える物だと思っているのかと……。あれは貴方を馬鹿にして言ったのではない。彼女は知っていたんですよ。そのネックレスがどんな物なのかをね」

 殿下はそう言って、今度はメラニアに鋭い視線を向けた。

「知っていますか? そのネックレスに使われている石はピンクダイヤモンドなんですよ。ピンクダイヤは市場に出回るダイヤの僅か0.01パーセント以下しか流通しない、簡単には手に入らない非常に希少性の高い石だ。それを娘に買い与えた? 良くそんな嘘を堂々と吐く事が出来ますよね?」

 王妃様が自らの手で選んだ私への誕生日プレゼントを、殿下の目の前でラデッシュは自分の物だと言い張り、メラニアはそれを自分が買い与えたのだと嘘を吐いた。

 王族である殿下の目の前で、王妃様が贈った物に対して彼女達は堂々と嘘を吐いたのだ。

 彼女とて元は王宮務めの文官。この状況がどの様な意味を持つのかくらい分かっているだろう。メラニアは、真っ青な顔をしてガタガタと震え出した。

 殿下は更に彼女を追い詰めていく。

「それから夫人、貴方がされているそのパープルのイヤリングとネックレス。先日の王家主催の夜会でも着けておられましたね。本当に綺麗な色の石だ。ところで夫人、それはどうされたのですか?」

「……え? どうされたって……」

 突然のセフィール殿下からの問いにメラニアは息を飲んだ。

 それもそのはず。それもまた、私から奪い取った母の遺品。

 だがこの状況で更にそんな事が殿下に知れれば、自分達が日常的に私から物を奪い取っていた事を証明する様なものだ。

 メラニアは咄嗟にそう考え、何とか取り繕わなければと考えたのだろう。

 だから彼女はまた苦し紛れに嘘を吐いた。

「これですか? これは私が自分で買った物です」

 



 

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