15 / 21
15 ヨーゼフ⑥ 道化だった自分
そんな馬鹿な……。
あれが全て芝居だったと言うのか……。
信じられなかった。
あの頃、メラニアは毎日思い詰めた様な虚ろな目をしていた。
だから放っておけなかった。慰め、励ます私に涙をはらはらと流しながら縋り付く。
その姿は、その手を離せばいっそ儚くなってしまうのではないかと思う程だった。
だから側にいたのだ。
ただでさえ満足に会えないアイリスが、屋敷で一人私の帰りを待っている事を知っていながら……。
私の頭の中にあのアイリスの誕生日の日のメラニアの姿が思い浮かぶ。
ネックレスが自分のものだと言うアイリスに、それは自分がラデッシュに買い与えた物だ。娘を泥棒扱いするなんて酷いと……そう言ってメラニアは涙を流した。
だが実際はどうだった?
ネックレスは王妃がアイリスに誕生日プレゼントとして贈った物で、メラニアは明らかに嘘を吐いていた。
要するに、涙を流したメラニアのあの姿は全て嘘で、あの場で私を自分とラデッシュの味方につける為の芝居だったのだ。
「まさか……私は初めからずっと彼女に騙されていたのか……」
私は呆然とした。
私のその言葉に、王妃がまた答える。
「嘗て自分を選ばなかった男と再会したと思ったら、その男は筆頭補佐官と言う重要な役職に就き、次期宰相と目されていた。然も妻を病で亡くし今は独り身。メラニアにとってこんな美味しい話はなかったてしょうね。もし後妻に収まる事が出来れば、地位も名誉も一度に手に入る。だから今度こそ、どんな手を使っても必ず貴方を手に入れたい……そう思ったとしても不思議ではないわ」
そうか……。メラニアは私の気を引くために、夫に愛人がいるなどと嘘を吐き、哀れな女の姿を演じながら私の庇護欲をくすぐったのだ。
そして私は、そんな彼女にまんまと騙された愚か者だった。
あんな嘘ばかり吐く女のせいで、私はアリアが残してくれたたった一人の娘を失った……。
誰よりも大切だった娘、アイリスを失ったのだ。
怒りに震え拳を握り締める。
だが待て。メラニアの夫もまた王宮で勤めていたのだ。そんなありもしない噂を立てられて黙っているはずがない。
そう思って更に書類を読み進める。
そうして漸く真実に気付いた。
夫は既に王宮勤めを辞めていたのだ。
しかし、彼もまた領地を持たない宮廷貴族だ。
本来なら仕事を辞めれば生計は成り立たなくなるはずだ。
それなのに男爵家は、メラニアの元夫が王宮を辞める前よりもずっと、豊かな暮らしをしている様だ。
「以前より良い食材を買い求める様になった」
「以前より良い服を仕立てる様になった」
書類には男爵家に出入りする商人達からのそんな証言までもが記載されていた。
恐らく何処からか男爵家へ金が流れているのだ。
書類はそれを示唆していた。
本当に良くここまで調べたものだと感心するが、裏を返せばここまで徹底的に調べる程、侯爵夫妻の怒りが強いと言うことだ。
そして、この状況で何処から男爵家に金が流れていたかなど、もはや考えるまでも無かった。
そうか……。だからメラニアは結婚したら家政と子育てに専念したいと言ったんだ。
そうすれば伯爵家の金を自由にできるから……。
そうとは知らず私はあの頃、仕事をやめてまで家庭に入ってくれるメラニアに感謝していた。
これでもうアイリスは寂しい思いをしないで済む……。そう思ってほっとしていたのだ。
だが結果はどうだ。
メラニアはアイリスを虐げ、彼女は私を捨て家を出て行った。
アイリスへの仕打ちだけではない。
恐らくメラニアに割り振られた予算や、アリアの遺品を売った金は全て男爵家に流れていたのだろう。
彼女の吐いた嘘を男爵が黙認し、愛人がいると言う汚名を被って離縁する……その代償として……。
『お父様! 目を覚まして下さい!!』
またあの時のアイリスの寂しそうな顔が思い浮かぶ。
自分が余りにも情けなくて惨めだった。
「もう分かったでしょう? 彼女は平然と嘘を吐くの。貴方はそれにまんまと騙されて大切なものを全てを失った道化よ!」
王妃が鋭い視線を向けながら声を荒げる。
道化……。
そう言えばアイリスも私をそう呼んだ。
だが私はそう呼ばれるだけの事をしたのだ。
全ての書類を読み終わり、顔を上げた私に王妃は言った。
「以前貴方はメラニアではなくアリアを選んだ。だから彼女はアリアの身代わりとしてアイリスに見せつけたの。大切な父親が自分より、メラニアを選ぶ姿をね。でもそれが、アイリスにとってどれ程残酷な事だったか貴方に分かる? あの子は貴方を本当に愛していたの。それなのに貴方はあの子のその思いを裏切った。その報いは受けなければいけないわ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
昨夜は更新の後、沢山のエールを頂き驚きました。応援頂き、本当にありがとうございます🙇
皆様の応援に背中を押して頂き、少し遅くなりましたがなんとか更新、出来ました。
物語ももう終盤。
もし宜しければ、アイリスとヨーゼフ親子が最後にどんな結末を迎えるのか……お付き合いいただければ幸いです。
まるまる⭐️
あれが全て芝居だったと言うのか……。
信じられなかった。
あの頃、メラニアは毎日思い詰めた様な虚ろな目をしていた。
だから放っておけなかった。慰め、励ます私に涙をはらはらと流しながら縋り付く。
その姿は、その手を離せばいっそ儚くなってしまうのではないかと思う程だった。
だから側にいたのだ。
ただでさえ満足に会えないアイリスが、屋敷で一人私の帰りを待っている事を知っていながら……。
私の頭の中にあのアイリスの誕生日の日のメラニアの姿が思い浮かぶ。
ネックレスが自分のものだと言うアイリスに、それは自分がラデッシュに買い与えた物だ。娘を泥棒扱いするなんて酷いと……そう言ってメラニアは涙を流した。
だが実際はどうだった?
ネックレスは王妃がアイリスに誕生日プレゼントとして贈った物で、メラニアは明らかに嘘を吐いていた。
要するに、涙を流したメラニアのあの姿は全て嘘で、あの場で私を自分とラデッシュの味方につける為の芝居だったのだ。
「まさか……私は初めからずっと彼女に騙されていたのか……」
私は呆然とした。
私のその言葉に、王妃がまた答える。
「嘗て自分を選ばなかった男と再会したと思ったら、その男は筆頭補佐官と言う重要な役職に就き、次期宰相と目されていた。然も妻を病で亡くし今は独り身。メラニアにとってこんな美味しい話はなかったてしょうね。もし後妻に収まる事が出来れば、地位も名誉も一度に手に入る。だから今度こそ、どんな手を使っても必ず貴方を手に入れたい……そう思ったとしても不思議ではないわ」
そうか……。メラニアは私の気を引くために、夫に愛人がいるなどと嘘を吐き、哀れな女の姿を演じながら私の庇護欲をくすぐったのだ。
そして私は、そんな彼女にまんまと騙された愚か者だった。
あんな嘘ばかり吐く女のせいで、私はアリアが残してくれたたった一人の娘を失った……。
誰よりも大切だった娘、アイリスを失ったのだ。
怒りに震え拳を握り締める。
だが待て。メラニアの夫もまた王宮で勤めていたのだ。そんなありもしない噂を立てられて黙っているはずがない。
そう思って更に書類を読み進める。
そうして漸く真実に気付いた。
夫は既に王宮勤めを辞めていたのだ。
しかし、彼もまた領地を持たない宮廷貴族だ。
本来なら仕事を辞めれば生計は成り立たなくなるはずだ。
それなのに男爵家は、メラニアの元夫が王宮を辞める前よりもずっと、豊かな暮らしをしている様だ。
「以前より良い食材を買い求める様になった」
「以前より良い服を仕立てる様になった」
書類には男爵家に出入りする商人達からのそんな証言までもが記載されていた。
恐らく何処からか男爵家へ金が流れているのだ。
書類はそれを示唆していた。
本当に良くここまで調べたものだと感心するが、裏を返せばここまで徹底的に調べる程、侯爵夫妻の怒りが強いと言うことだ。
そして、この状況で何処から男爵家に金が流れていたかなど、もはや考えるまでも無かった。
そうか……。だからメラニアは結婚したら家政と子育てに専念したいと言ったんだ。
そうすれば伯爵家の金を自由にできるから……。
そうとは知らず私はあの頃、仕事をやめてまで家庭に入ってくれるメラニアに感謝していた。
これでもうアイリスは寂しい思いをしないで済む……。そう思ってほっとしていたのだ。
だが結果はどうだ。
メラニアはアイリスを虐げ、彼女は私を捨て家を出て行った。
アイリスへの仕打ちだけではない。
恐らくメラニアに割り振られた予算や、アリアの遺品を売った金は全て男爵家に流れていたのだろう。
彼女の吐いた嘘を男爵が黙認し、愛人がいると言う汚名を被って離縁する……その代償として……。
『お父様! 目を覚まして下さい!!』
またあの時のアイリスの寂しそうな顔が思い浮かぶ。
自分が余りにも情けなくて惨めだった。
「もう分かったでしょう? 彼女は平然と嘘を吐くの。貴方はそれにまんまと騙されて大切なものを全てを失った道化よ!」
王妃が鋭い視線を向けながら声を荒げる。
道化……。
そう言えばアイリスも私をそう呼んだ。
だが私はそう呼ばれるだけの事をしたのだ。
全ての書類を読み終わり、顔を上げた私に王妃は言った。
「以前貴方はメラニアではなくアリアを選んだ。だから彼女はアリアの身代わりとしてアイリスに見せつけたの。大切な父親が自分より、メラニアを選ぶ姿をね。でもそれが、アイリスにとってどれ程残酷な事だったか貴方に分かる? あの子は貴方を本当に愛していたの。それなのに貴方はあの子のその思いを裏切った。その報いは受けなければいけないわ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
昨夜は更新の後、沢山のエールを頂き驚きました。応援頂き、本当にありがとうございます🙇
皆様の応援に背中を押して頂き、少し遅くなりましたがなんとか更新、出来ました。
物語ももう終盤。
もし宜しければ、アイリスとヨーゼフ親子が最後にどんな結末を迎えるのか……お付き合いいただければ幸いです。
まるまる⭐️
あなたにおすすめの小説
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
春の避暑地
朝山みどり
恋愛
ミネルバの婚約者テリウスは、妹フローラと頻繁に顔を合わせるようになり、二人はミネルバの前でも親しげに会話を重ねながら距離を縮めていく。
買い物への付き添いや夜会のダンスなどをきっかけに、二人の仲は次第に深まり、周囲の若者たちも「二人はお似合いだ」と面白がりながら応援するようになる。
その関係は、まるでミネルバの存在を忘れているかのようだった。
やがて両家が集まる席で、テリウスはミネルバとの婚約を解消し、フローラと婚約したいと告げる。
こうして、ミネルバを置き去りにしたまま、テリウスとフローラの関係は周囲の後押しの中で進んでいくのだった。
婚約を失ったミネルバは、家の跡取りの立場も妹に譲ることになり、父の姉ガーベラのいるフォード元伯爵家へ送られる。そこでは理由を詮索されることもなく、ただ静かに休むように受け入れられる。
穏やかな生活の中でミネルバは、自分が思っていた以上に疲れていたことに気づく。伯母に「そのドレスはとても似合う」と言われたことをきっかけに、これまで母や妹の影に隠れていた自分の人生を少しずつ取り戻し始める。
やがて伯母に連れられてローハン元侯爵夫人の茶会に参加すると、ミネルバの美しい筆跡が評価され、令嬢マーガレットに字を教えてほしいと頼まれる。
最初は通いで教えるだけだったが、ローハン夫人は娘が気に入っていることから、住み込みの家庭教師として迎えたいと申し出る。
ミネルバは迷いながらも、過去に縛られない新しい人生を選ぶ決意をする。
この世界は貴族制度が廃止されたばかりです。力のある平民が台頭してきています。 ほかのサイトにも投稿しています。
【完結】婚約破棄?勘当?私を嘲笑う人達は私が不幸になる事を望んでいましたが、残念ながら不幸になるのは貴方達ですよ♪
山葵
恋愛
「シンシア、君との婚約は破棄させてもらう。君の代わりにマリアーナと婚約する。これはジラルダ侯爵も了承している。姉妹での婚約者の交代、慰謝料は無しだ。」
「マリアーナとランバルド殿下が婚約するのだ。お前は不要、勘当とする。」
「国王陛下は承諾されているのですか?本当に良いのですか?」
「別に姉から妹に婚約者が変わっただけでジラルダ侯爵家との縁が切れたわけではない。父上も承諾するさっ。」
「お前がジラルダ侯爵家に居る事が、婿入りされるランバルド殿下を不快にするのだ。」
そう言うとお父様、いえジラルダ侯爵は、除籍届けと婚約解消届け、そしてマリアーナとランバルド殿下の婚約届けにサインした。
私を嘲笑って喜んでいる4人の声が可笑しくて笑いを堪えた。
さぁて貴方達はいつまで笑っていられるのかしらね♪
【完結】手紙
325号室の住人
恋愛
☆全3話 完結済
俺は今、大事な手紙を探している。
婚約者…いや、元婚約者の兄から預かった、《確かに婚約解消を認める》という内容の手紙だ。
アレがなければ、俺の婚約はきちんと解消されないだろう。
父に言われたのだ。
「あちらの当主が認めたのなら、こちらもお前の主張を聞いてやろう。」
と。
※当主を《兄》で統一しました。紛らわしくて申し訳ありませんでした。
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。
あなたの幸せを祈ってる
あんど もあ
ファンタジー
ルイーゼは、双子の妹ローゼリアが病弱に生まれたために、「お前は丈夫だから」と15年間あらゆる事を我慢させられて来た。……のだが、本人は我慢させられていると言う自覚が全く無い。とうとう我慢のしすぎで命の危機となってしまい、意図せぬざまぁを招くのだった。
ドアマットだと自覚してないドアマット令嬢のお話。
こんな婚約者は貴女にあげる
如月圭
恋愛
アルカは十八才のローゼン伯爵家の長女として、この世に生を受ける。婚約者のステファン様は自分には興味がないらしい。妹のアメリアには、興味があるようだ。双子のはずなのにどうしてこんなに差があるのか、誰か教えて欲しい……。
初めての投稿なので温かい目で見てくださると幸いです。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。