17 / 21
17 ヨーゼフ⑧ 2つの選択肢
「2つの選択肢……?」
私は戸惑いながら王妃に問いかけた。
「そう。簡単な二択よ。貴方が今持っている全てを捨ててメラニアを救うのか、それとも彼女を切り捨てるのか。言い換えれば家を守るのか、メラニアを守るのかね」
王妃はそう答えた。
切り捨てる……。
その言葉の響きに、私は胸を抉られる様な痛みを覚えた。
王妃はそのあと、侯爵の出した条件について詳しく説明してくれた。
侯爵の提示した、アリアの遺品を売った金の回収方法は2つ。
1つ目は私と離縁して、彼女が自分で働いた金で弁済する。その場合の弁済期限は20年の分割。
だが20年の期限があったとしても、仕事を辞めた今の彼女が、これだけの金額を自身で返済するなど到底無理な話だ。
それに加え、彼女に憎しみを持つ侯爵の手が既に回っており、彼女にまともな働き口など見つからないだろうと王妃は言った。
だとすれば、メラニアが金を返す方法として考えられるのもまた2つ。
娼館に身を落とすか、犯罪に手を染めるか……。
どちらにせよメラニアにとってはこの先、碌な人生にはならないだろう。
2つ目は彼女の代わりに私が返済する。その場合は出来るだけ速やかに全額一括払い。
だが今の伯爵家に返済出来る金などない。宮廷貴族であるゾールマン伯爵家には領地もない。だとしたら売れるものは爵位と屋敷。
それ以外にはない。
だからこそ全てを捨ててと王妃は言ったのだ。
迷う余地などない事は分かっていた。
だがあんな女でも、5年と言う月日を共に過ごした夫婦なのだ。それに2人の間にはノアだっている。
なかなか答えを出せないでいる私を、王妃は憐れみの籠もった瞳で見つめた。
「貴方には呆れたものだわ。これ程の事をされてもまだメラニアを切り捨てられないの?」
「ですが、私達にはノアもいるんです」
私がその言葉を吐いた途端、王妃はまた鋭い目で私を見据えた。
「やっぱり貴方を補佐官から外した事は正解だったようね。まともな判断さえ出来ないなんて! 貴方、自分が全てを投げ出してメラニアを救えば幸せになれるとでも思っているの? さっきの書類。一体貴方は何を読んでいたの? 彼女は貴族と婚姻を結び、優雅な生活を送りたかった。だからその為に平気で嘘を吐いた。そんな女が平民になった貴方で満足出来るとでも思っているの? 貴方は全てを失って彼女に捨てられるだけ。いい加減目を覚ましなさい!」
王妃は私を一括した。
そして……。
「これは貴方に伝えるかどうか迷っていたのだけれど……」
そう迷いながら重い口を開いた。
「侯爵が何故、これ程までに怒っているのか貴方に分かる? アイリスが傷つけられた……。ただそれだけではないのよ。きっともう貴方も知っているでしょうけれど、成長期だと言うのにアイリスは、満足に食事すら与えられてはいなかったの。だから低栄養から来る栄養不良であともう少し遅かったら、彼女は子供を授かれない体になっていたかもしれないのよ。ねぇ、貴方の子はノア一人だけなの?」
「えっ?」
私は驚いて問い返した。
確かに最後に見たアイリスは体も小さく、とても痩せていた。
だがまさかそれ程の状態だったとは……。
「貴方だって知っているでしょう? 貴族に生まれた女にとって後継となる子を産み、育てる事がどれだけ重要な意味を持つのかくらい……。あの子はメラニアのせいでもう少しでその貴族令嬢としての幸せさえ失うところだったのよ!」
話す途中、王妃の声が涙で掠れていく。
その姿を見ただけで、彼女が親友の残したたった一人の忘れ形見であるアイリスをどれ程大切に思っているのか、伺い知る事が出来た。
それなのに私はあの子に何をした……?
父親でありながらそんな事にも気付かず、メラニアの術中に嵌りアイリスをずっと気に掛けてすらいなかった。
アイリスの話をまともに聞かず、口を開けはあの子を叱ってばかりいた。
侯爵夫妻が怒るのも当然だ。
そうか……。こんな男が国の中枢になど、いて良いはずがないのだ。だから、侯爵は私を文章課に降格させたのだ。
もう一度、一からやり直せと……。
「何故、侯爵が私にあの書類を貴方に渡すようにと託したか分かる?」
王妃が涙ながらに問い掛ける。
「メラニアは貴方に嘘を吐き、伯爵家のお金を貴方の許可も得ず私的に使っていた。それも自分の吐いた嘘を隠す為にね。少なくともこれを突き付ければ、彼女は貴方との離婚に応じるしかなくなる。これだけ言っても貴方はまだ彼女を許すの? もう一度だけ言うわ……。目を覚ましなさい!」
『お父様、お願い。目を覚まして下さい!!』
王妃の言葉が、あの……誕生日会の日のアイリスの言葉と重なった……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
以前も書きましたが、ここ数日、沢山のエールを頂き、話の途中でこんなに沢山のエールを頂くのは初めての経験で、作者自身とても驚いております。
励みになります! 応援、本当にありがとうございます🙇
ストックがなく、本業の合間の執筆のため、これからは書け次第随時更新させて頂きます。完結まで不定期更新になりますが、(明日は夜更新になると思います)宜しくお願いします🙇
まるまる⭐️
私は戸惑いながら王妃に問いかけた。
「そう。簡単な二択よ。貴方が今持っている全てを捨ててメラニアを救うのか、それとも彼女を切り捨てるのか。言い換えれば家を守るのか、メラニアを守るのかね」
王妃はそう答えた。
切り捨てる……。
その言葉の響きに、私は胸を抉られる様な痛みを覚えた。
王妃はそのあと、侯爵の出した条件について詳しく説明してくれた。
侯爵の提示した、アリアの遺品を売った金の回収方法は2つ。
1つ目は私と離縁して、彼女が自分で働いた金で弁済する。その場合の弁済期限は20年の分割。
だが20年の期限があったとしても、仕事を辞めた今の彼女が、これだけの金額を自身で返済するなど到底無理な話だ。
それに加え、彼女に憎しみを持つ侯爵の手が既に回っており、彼女にまともな働き口など見つからないだろうと王妃は言った。
だとすれば、メラニアが金を返す方法として考えられるのもまた2つ。
娼館に身を落とすか、犯罪に手を染めるか……。
どちらにせよメラニアにとってはこの先、碌な人生にはならないだろう。
2つ目は彼女の代わりに私が返済する。その場合は出来るだけ速やかに全額一括払い。
だが今の伯爵家に返済出来る金などない。宮廷貴族であるゾールマン伯爵家には領地もない。だとしたら売れるものは爵位と屋敷。
それ以外にはない。
だからこそ全てを捨ててと王妃は言ったのだ。
迷う余地などない事は分かっていた。
だがあんな女でも、5年と言う月日を共に過ごした夫婦なのだ。それに2人の間にはノアだっている。
なかなか答えを出せないでいる私を、王妃は憐れみの籠もった瞳で見つめた。
「貴方には呆れたものだわ。これ程の事をされてもまだメラニアを切り捨てられないの?」
「ですが、私達にはノアもいるんです」
私がその言葉を吐いた途端、王妃はまた鋭い目で私を見据えた。
「やっぱり貴方を補佐官から外した事は正解だったようね。まともな判断さえ出来ないなんて! 貴方、自分が全てを投げ出してメラニアを救えば幸せになれるとでも思っているの? さっきの書類。一体貴方は何を読んでいたの? 彼女は貴族と婚姻を結び、優雅な生活を送りたかった。だからその為に平気で嘘を吐いた。そんな女が平民になった貴方で満足出来るとでも思っているの? 貴方は全てを失って彼女に捨てられるだけ。いい加減目を覚ましなさい!」
王妃は私を一括した。
そして……。
「これは貴方に伝えるかどうか迷っていたのだけれど……」
そう迷いながら重い口を開いた。
「侯爵が何故、これ程までに怒っているのか貴方に分かる? アイリスが傷つけられた……。ただそれだけではないのよ。きっともう貴方も知っているでしょうけれど、成長期だと言うのにアイリスは、満足に食事すら与えられてはいなかったの。だから低栄養から来る栄養不良であともう少し遅かったら、彼女は子供を授かれない体になっていたかもしれないのよ。ねぇ、貴方の子はノア一人だけなの?」
「えっ?」
私は驚いて問い返した。
確かに最後に見たアイリスは体も小さく、とても痩せていた。
だがまさかそれ程の状態だったとは……。
「貴方だって知っているでしょう? 貴族に生まれた女にとって後継となる子を産み、育てる事がどれだけ重要な意味を持つのかくらい……。あの子はメラニアのせいでもう少しでその貴族令嬢としての幸せさえ失うところだったのよ!」
話す途中、王妃の声が涙で掠れていく。
その姿を見ただけで、彼女が親友の残したたった一人の忘れ形見であるアイリスをどれ程大切に思っているのか、伺い知る事が出来た。
それなのに私はあの子に何をした……?
父親でありながらそんな事にも気付かず、メラニアの術中に嵌りアイリスをずっと気に掛けてすらいなかった。
アイリスの話をまともに聞かず、口を開けはあの子を叱ってばかりいた。
侯爵夫妻が怒るのも当然だ。
そうか……。こんな男が国の中枢になど、いて良いはずがないのだ。だから、侯爵は私を文章課に降格させたのだ。
もう一度、一からやり直せと……。
「何故、侯爵が私にあの書類を貴方に渡すようにと託したか分かる?」
王妃が涙ながらに問い掛ける。
「メラニアは貴方に嘘を吐き、伯爵家のお金を貴方の許可も得ず私的に使っていた。それも自分の吐いた嘘を隠す為にね。少なくともこれを突き付ければ、彼女は貴方との離婚に応じるしかなくなる。これだけ言っても貴方はまだ彼女を許すの? もう一度だけ言うわ……。目を覚ましなさい!」
『お父様、お願い。目を覚まして下さい!!』
王妃の言葉が、あの……誕生日会の日のアイリスの言葉と重なった……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
以前も書きましたが、ここ数日、沢山のエールを頂き、話の途中でこんなに沢山のエールを頂くのは初めての経験で、作者自身とても驚いております。
励みになります! 応援、本当にありがとうございます🙇
ストックがなく、本業の合間の執筆のため、これからは書け次第随時更新させて頂きます。完結まで不定期更新になりますが、(明日は夜更新になると思います)宜しくお願いします🙇
まるまる⭐️
あなたにおすすめの小説
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
春の避暑地
朝山みどり
恋愛
ミネルバの婚約者テリウスは、妹フローラと頻繁に顔を合わせるようになり、二人はミネルバの前でも親しげに会話を重ねながら距離を縮めていく。
買い物への付き添いや夜会のダンスなどをきっかけに、二人の仲は次第に深まり、周囲の若者たちも「二人はお似合いだ」と面白がりながら応援するようになる。
その関係は、まるでミネルバの存在を忘れているかのようだった。
やがて両家が集まる席で、テリウスはミネルバとの婚約を解消し、フローラと婚約したいと告げる。
こうして、ミネルバを置き去りにしたまま、テリウスとフローラの関係は周囲の後押しの中で進んでいくのだった。
婚約を失ったミネルバは、家の跡取りの立場も妹に譲ることになり、父の姉ガーベラのいるフォード元伯爵家へ送られる。そこでは理由を詮索されることもなく、ただ静かに休むように受け入れられる。
穏やかな生活の中でミネルバは、自分が思っていた以上に疲れていたことに気づく。伯母に「そのドレスはとても似合う」と言われたことをきっかけに、これまで母や妹の影に隠れていた自分の人生を少しずつ取り戻し始める。
やがて伯母に連れられてローハン元侯爵夫人の茶会に参加すると、ミネルバの美しい筆跡が評価され、令嬢マーガレットに字を教えてほしいと頼まれる。
最初は通いで教えるだけだったが、ローハン夫人は娘が気に入っていることから、住み込みの家庭教師として迎えたいと申し出る。
ミネルバは迷いながらも、過去に縛られない新しい人生を選ぶ決意をする。
この世界は貴族制度が廃止されたばかりです。力のある平民が台頭してきています。 ほかのサイトにも投稿しています。
【完結】婚約破棄?勘当?私を嘲笑う人達は私が不幸になる事を望んでいましたが、残念ながら不幸になるのは貴方達ですよ♪
山葵
恋愛
「シンシア、君との婚約は破棄させてもらう。君の代わりにマリアーナと婚約する。これはジラルダ侯爵も了承している。姉妹での婚約者の交代、慰謝料は無しだ。」
「マリアーナとランバルド殿下が婚約するのだ。お前は不要、勘当とする。」
「国王陛下は承諾されているのですか?本当に良いのですか?」
「別に姉から妹に婚約者が変わっただけでジラルダ侯爵家との縁が切れたわけではない。父上も承諾するさっ。」
「お前がジラルダ侯爵家に居る事が、婿入りされるランバルド殿下を不快にするのだ。」
そう言うとお父様、いえジラルダ侯爵は、除籍届けと婚約解消届け、そしてマリアーナとランバルド殿下の婚約届けにサインした。
私を嘲笑って喜んでいる4人の声が可笑しくて笑いを堪えた。
さぁて貴方達はいつまで笑っていられるのかしらね♪
【完結】手紙
325号室の住人
恋愛
☆全3話 完結済
俺は今、大事な手紙を探している。
婚約者…いや、元婚約者の兄から預かった、《確かに婚約解消を認める》という内容の手紙だ。
アレがなければ、俺の婚約はきちんと解消されないだろう。
父に言われたのだ。
「あちらの当主が認めたのなら、こちらもお前の主張を聞いてやろう。」
と。
※当主を《兄》で統一しました。紛らわしくて申し訳ありませんでした。
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。
あなたの幸せを祈ってる
あんど もあ
ファンタジー
ルイーゼは、双子の妹ローゼリアが病弱に生まれたために、「お前は丈夫だから」と15年間あらゆる事を我慢させられて来た。……のだが、本人は我慢させられていると言う自覚が全く無い。とうとう我慢のしすぎで命の危機となってしまい、意図せぬざまぁを招くのだった。
ドアマットだと自覚してないドアマット令嬢のお話。
こんな婚約者は貴女にあげる
如月圭
恋愛
アルカは十八才のローゼン伯爵家の長女として、この世に生を受ける。婚約者のステファン様は自分には興味がないらしい。妹のアメリアには、興味があるようだ。双子のはずなのにどうしてこんなに差があるのか、誰か教えて欲しい……。
初めての投稿なので温かい目で見てくださると幸いです。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。