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第九話
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『葵高のキング』の二つ名を持つ望月先輩がたぶん在学中最後になるだろう『しきたり』イベント。しかも相手は突如現れたモデルばりの長身美人転校生とあって学校中上へ下への大騒ぎとなった。イベント開催日前から観覧場所の奪い合いまで始まる有様だった。
ただ結果に関しては、勝率ほぼ100%を誇る望月先輩だけの事はあって、ほとんどの生徒が順当に板額が望月先輩高校生活最後の彼女に納まると踏んでいた。その為、その彼女を一目見ようと、うちのクラスには学年を問わず他クラスの生徒が頻繁にやってくる様になった。
もちろん、渦中であるうちのクラスも例外ではなく、いや他のクラス以上に盛り上がっていた。特に女子連中などお節介にも、板額に望月先輩の好みなど付き合う上においての注意事項を馬鹿丁寧にレクチャーする者まで現れる始末だった。
まったく僕にとっては、ただただうっとしいだけである。特に隣の緑川など、ことあるごとに僕にいつも以上に色々ちょっかい掛けて来て本当にうざったい。
ところが、当事者である板額自身は妙に落ち着いていた。転校して来て一週間足らずで、こんな学校中が大騒ぎする一大イベントに巻き込まれたのだ。普通なら浮足立って日常生活もままならぬほどになるのものだ。しかし板額は何事もなかったかの様にいつも通り毎日を過ごしていた。逆に浮足立ってる周りの者たちを落ち着かせようとするほどだった。しかし、板額が板額らしいのは、ここであまり他人事みたいに振舞うと『お高く留まってる女』と反感を買う事もあるのだが、そのあたりの匙加減が絶妙だった。ともすれば誰もが憧れる望月先輩から告白されるとあって、全校女子(このご時世、ある種の男子も)から嫉妬され、いやがらせ等受ける事になる。ところが板額に限っては特にそう言う事は起こらず、普通に羨ましいと思われる程度で収まっていた。
「色々気を付けろよ、お前なら分かると思うけど、
今のお前ってかなり微妙な立場に居るんだからな」
実際、僕はたまたま板額と二人きりになれた時にそう小声で彼女にアドバイスした。
僕は知ってるのだ。そう言う処世術にたけていると自分では思っていても、所詮、人生経験が未熟な僕らである。『上手の手から水が漏る』事だってあるのだ。僕は板額にはそうなって欲しくはなかった。
あれ……こう思うって事は、もしかしてすでに僕は板額を特別な女の子って意識し始めてるんだろうか?
そう言えば、メッセンジャーが板額の所に来てからと言うもの、妙に胸の辺りがぞわぞわするのは気のせいだろうか?
「心配してくれてありがとう、与一。
僕はとてもうれしいよ」
僕のアドバイスを聞いた板額はそう言ってまたあのとびきり素敵な笑顔を僕にくれた。
「お、おう……」
馬鹿野郎、そんな笑顔するんじゃない! このままじゃどんどんお前に夢中になっちまうじゃないか! 僕は心の中でそう叫びながらも、表向きはただめんどくさそうに窓の外に目を向けた。
そして小さく誰にも聞こえない様にそっと呟いた。
「そんな笑顔、僕以外に見せるんじゃないぞ」
この後、板額が僕の傍を離れた後、隣の席に居た緑川が帰り支度をしながら僕にこう尋ねて来た。
「与一は、烏丸さんって化粧してると思う?」
「いや、ありゃすっぴんだろ。
まあ、リップクリームくらいは塗ってるんだろうけど」
僕は思っていたままの事を答えた。
「やっぱり男の子にはそう見えるんだ」
「どう意味だよ、それ」
緑川の言葉に僕は思わずそう問い返した。
「あの娘、化粧してるわよ。しかも結構しっかり。
一見すっぴんに見えるほど上手なナチュラルメイク。
たぶん化粧なんかしなくても十分に綺麗なのに何でだろうね」
「ふ~ん、そうなんだ」
僕はこの時、緑川の言った言葉が後で重要な意味を持ってくるとはまったく思いもよらなかった。この時の僕は、もうすでに板額が化粧をしてるかどうかなんてもう全然関係にくらいに夢中になっていたのだ。だからその時が来るまで、緑川のこの言葉をすっかり忘れていた。
ただ結果に関しては、勝率ほぼ100%を誇る望月先輩だけの事はあって、ほとんどの生徒が順当に板額が望月先輩高校生活最後の彼女に納まると踏んでいた。その為、その彼女を一目見ようと、うちのクラスには学年を問わず他クラスの生徒が頻繁にやってくる様になった。
もちろん、渦中であるうちのクラスも例外ではなく、いや他のクラス以上に盛り上がっていた。特に女子連中などお節介にも、板額に望月先輩の好みなど付き合う上においての注意事項を馬鹿丁寧にレクチャーする者まで現れる始末だった。
まったく僕にとっては、ただただうっとしいだけである。特に隣の緑川など、ことあるごとに僕にいつも以上に色々ちょっかい掛けて来て本当にうざったい。
ところが、当事者である板額自身は妙に落ち着いていた。転校して来て一週間足らずで、こんな学校中が大騒ぎする一大イベントに巻き込まれたのだ。普通なら浮足立って日常生活もままならぬほどになるのものだ。しかし板額は何事もなかったかの様にいつも通り毎日を過ごしていた。逆に浮足立ってる周りの者たちを落ち着かせようとするほどだった。しかし、板額が板額らしいのは、ここであまり他人事みたいに振舞うと『お高く留まってる女』と反感を買う事もあるのだが、そのあたりの匙加減が絶妙だった。ともすれば誰もが憧れる望月先輩から告白されるとあって、全校女子(このご時世、ある種の男子も)から嫉妬され、いやがらせ等受ける事になる。ところが板額に限っては特にそう言う事は起こらず、普通に羨ましいと思われる程度で収まっていた。
「色々気を付けろよ、お前なら分かると思うけど、
今のお前ってかなり微妙な立場に居るんだからな」
実際、僕はたまたま板額と二人きりになれた時にそう小声で彼女にアドバイスした。
僕は知ってるのだ。そう言う処世術にたけていると自分では思っていても、所詮、人生経験が未熟な僕らである。『上手の手から水が漏る』事だってあるのだ。僕は板額にはそうなって欲しくはなかった。
あれ……こう思うって事は、もしかしてすでに僕は板額を特別な女の子って意識し始めてるんだろうか?
そう言えば、メッセンジャーが板額の所に来てからと言うもの、妙に胸の辺りがぞわぞわするのは気のせいだろうか?
「心配してくれてありがとう、与一。
僕はとてもうれしいよ」
僕のアドバイスを聞いた板額はそう言ってまたあのとびきり素敵な笑顔を僕にくれた。
「お、おう……」
馬鹿野郎、そんな笑顔するんじゃない! このままじゃどんどんお前に夢中になっちまうじゃないか! 僕は心の中でそう叫びながらも、表向きはただめんどくさそうに窓の外に目を向けた。
そして小さく誰にも聞こえない様にそっと呟いた。
「そんな笑顔、僕以外に見せるんじゃないぞ」
この後、板額が僕の傍を離れた後、隣の席に居た緑川が帰り支度をしながら僕にこう尋ねて来た。
「与一は、烏丸さんって化粧してると思う?」
「いや、ありゃすっぴんだろ。
まあ、リップクリームくらいは塗ってるんだろうけど」
僕は思っていたままの事を答えた。
「やっぱり男の子にはそう見えるんだ」
「どう意味だよ、それ」
緑川の言葉に僕は思わずそう問い返した。
「あの娘、化粧してるわよ。しかも結構しっかり。
一見すっぴんに見えるほど上手なナチュラルメイク。
たぶん化粧なんかしなくても十分に綺麗なのに何でだろうね」
「ふ~ん、そうなんだ」
僕はこの時、緑川の言った言葉が後で重要な意味を持ってくるとはまったく思いもよらなかった。この時の僕は、もうすでに板額が化粧をしてるかどうかなんてもう全然関係にくらいに夢中になっていたのだ。だからその時が来るまで、緑川のこの言葉をすっかり忘れていた。
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