ハンガク!

化野 雫

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第二十六話

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「ここが僕の家だぞ」

 結局、僕の部屋……と言うか家……の前まで板額は一緒に来てしまった。

「満足したか?」

「実はここまで来るの僕、初めてじゃないんだよ、与一」

 僕の言葉に、板額はまた思いもよらぬ言葉を吐いた。

「お、おま、お前、マジで僕のストーカーか?
 つうか、その時どうやってここまで入って来たんだ?
 それってほとんど非合法的行為だぞ!」

 僕はまだ僕の腕に自分の腕を絡ませぴったりと寄り添っている板額を見た。

「嫌だなぁ、いくら与一が好きだからってそんな危ない事しないよ。
 僕は普通に誰にも咎められずここまで入って来られたんだよ。
 さっきの与一好みのお姉さんの前を通ってね」

 板額は平然とした顔でそう答えた。

 あの受付のお姉さんを『与一好み』って、ホント、こいつ、どこまで僕の趣味嗜好を把握してるんだ。板額の奴、一見僕に従順そうに見えるが、実際は僕の方がすでに板額の尻に敷かれているんじゃないのか? 僕はちょっとだけ板額が怖くなった。でも怖くなったと言っても、たぶん、いや、間違いなく、僕は板額の彼氏をやめる事など出来はしないだろ。板額は、男の子を虜にする何か特別な魔性の魅力を持っている様な気がする。

 いや、そんな事より、今は何故、板額がここまで来れたかという事が問題だ。それを考えると僕は、家の門を目の前にして動けなくってしまった。頭の中を色々な考えが巡った。その中には、板額が熱光学迷彩を使ってとか、板額が実は魔法使いで、などと言う荒唐無稽な物まで出て来る有様だった。秘密にしてるがアニメやラノベ好きの僕は少し厨二病を今でも患ってる。

「もう、与一、そう悩まずとも一番シンプルな答えで良いだってば」

 僕の困惑した様子を見てくすくす笑いながら板額が言った。

「一番シンプルな答え?」

 僕が板額を見てそう聞き返すと、板額は笑顔で頷いた。

「あっ!」

 ある答えに気がついて僕は思わず声を上げた。

 そう、その答えにたどり着けば、板額の学校を出てからここまでの奇妙な行動に全部説明がつく。何故、板額は僕の家を知っていたのか? そして、何故、僕の家まで一緒に行く事に何の戸惑いもなかったか? そう、もしその通りなら何の不思議もない事だったのだ。

 板額は、僕と一緒である事を除けば、葵高に転校して来てから毎日している『いつもと変わらぬ行動』をしていただけなのだ。

「お前もこのマンションに住んでるのか!」

「正解だよ、与一」

 僕が思いついた答えを叫ぶと、板額は何だか嬉しそうな表情でそう答えた。

「僕の部屋と言うか家もこのマンションにあるんだ」

「……ってお前はどの階に住んでるんだよ」

 板額の言葉に僕は思わずそう聞き返した。でも、すぐにこれはまずいって思った。だって、押しかけ女房的に彼女になった女の子とは、言え板額とは知り合ってまだ十日程ほどだ。そんな女の子の家の場所を事細かに聞くなんて、普通なら警戒されるんじゃないだろうか。特に板額の場合、同じマンションなのだ。いくらセキュリティーが厳しいこのマンションだって、同じ住人ならそれもある程ハードルが低くなってしまう。でも、こんな綺麗な女の子が同じマンションに住んでいれば僕だって気がつくはずなのに何故だろうと一瞬、僕はその時思った。

「僕の家はここ最上階だよ」

 でも板額はそんな僕の心配を知ってか知らずか、何の躊躇もなくそう即答していた。

「最上階って、お前……」

 そう、ここの最上階と言えば、ここの住人ならすぐにぴんと来ることがある。そして、それを聞けば僕が同じマンションに住みながら今の今まで気がつかなかった訳も分かった。

 ちょうど板額が転校してくる少し前にマンションの管理会社から住民全員に対して連絡があったのだ。その内容は……

『この度、当マンション最上階にて部屋の改装を行うのでご了承願いたい』

 と言う趣旨の物だった。

 これ、当時の住民説明会では、最上階ワンフロアー全部を一つの部屋……と言うかもう完全に家と言うレベルだ……として使う為の改装工事って事だった。何でもすごい金持ちがワンフロー全部買い取ったらしいとの噂だった。

 と言う事は板額はつい最近引っ越して来たその金持ちの娘だって事になるじゃないか!
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