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第四十一話
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確かにその通りだけれど、それって、もてもての望月先輩みたいな男が言うならまだしも、女の子である板額が言うかって僕は思った。それって板額が浮気を公認するって事ではないのかと思った。そりゃ、板額がそう言ってくれるのは男の僕としては嬉しいと言えば嬉しいが、やっぱり何か違うと僕は感じた。
「もちろん、僕だって与一が僕以外の女の子を愛してるってのは嫌だ。
与一が僕以外の女の子とキスしたりいちゃいちゃするのは許せない。
与一の愛は独り占めしたいってのが正直な気持ちだ。
こう見えて僕はとても独占欲の強いんだよ」
そう続けて板額は笑った。
「いや、君が独占欲強そうなのはもう分かってるって。
でも、それなら何故、僕に二人とも選べば良いって言うんだ?」
「相手に因るって事さ。
僕は相手が巴なら与一が僕以外に愛しても許せるんだ」
「いやいや、今、自分で独占欲が強いって言ったところじゃなか。
それに板額、君はさっきまで巴を散々挑発してたよね。
あれって、嫉妬じゃないのかい。
どうみても今しも緑川に殴り掛かりそうだったぞ」
僕は思ったことをそのまま口にした。だってそうだろ、あの時の板額はまさに嫉妬に狂った鬼女と化していた。刃物でも持っていれば確実に刃傷沙汰にするところだったとマジで僕はあの時思った。
「そうよ! それにもっと前からあなた、私を挑発してたでしょ!」
僕の言葉を聞いて、今まで黙っていた緑川が声を上げた。
「えっ、前から緑川を挑発してたって?」
僕は緑川に反射的に問い返していた。まあ、考えられる事は色々あった。そもそも、転校初日に彼女にしてって言ったこともしかり。告白ショーの後、特別教室で緑川を含めたギャラリーの前でキスしたのもしかり。でも、あれは挑発って感じとは違った気がした。
「板額、あなた、わざと私の目に触れる所で与一とじゃれてたでしょ」
んっ? 緑川の前で僕らがじゃれてた? 僕にはちょっと心当たりが無かった。
「与一の手をあんな風に……。
あれって私に対して……
『もう与一とは軽い関係じゃないわよ』
……ってアピールだったんでしょ。
与一が全然普通の態度でそれを受け入れてたのが、
私はまた腹立たしかったけど」
あっ! あの時の板額の指の動きか! 僕は思い出した。
緑川が言ってるのは、板額が僕の机に座って他のクラスメイト達と話す時に、時折、人目を盗んでちょっとエッチな動きで僕の手のさすってたあれだ、と僕はすぐに分かった。
しかし、確かにちょっとえっちな動きだったけど、あれはほんのわずかな間。しかも当人にしか分からないような動きだったはず。それを緑川がちゃんと見逃さずにいたなんて驚きだった。でも同時にあの時の緑川の目は板額と僕の秘め事を見ての事だったのだと理解出来た。あれは緑川の板額への嫉妬と憎悪だったのだ。
「だって、巴も与一もここまでやらなきゃ踏み出せないままだろ。
そりゃ、与一が巴に呼び出し食らった時点で、
僕がここまで出しゃばらなくても良かったかもしれない。
結果だけを知りたければ僕がここに来なくても
『僕の目』はここにもあるからね」
んっ? 『僕の目』? 今、なんか板額は変な事言った気がしたが気のせいか? 聞き返したい気持ちは強かったが、ここはこの先の板額の言葉の方が僕は知りたかった。
「僕がここまで悪役演じなければ君たちは全然相手を分かろうとしない。
与一は与一で……
これだけ傍に自分を想ってくれる素敵な女の子がいるのに、
全部の女の子を十羽ひとからげにして『めんどくさくて嫌い』だなんて。
巴は巴で……
それだけ与一の事が好きならその気持ちを言葉にするか、
はっきりしたたいどで示さなきゃ鈍感な与一には伝わらないよ。
ホント、二人とも不器用なんだから。
でもすごく優しい人たちだよね」
「板額、あなたって人は……」
板額の言葉に緑川はそう言って涙を拭いながら微笑んだ。その緑川の微笑みはすごく素敵だった。あの板額の微笑みと比べても全然引けを取らない程素敵な微笑みだった。
でも、僕はここでも板額の言葉にひっかかる所があった。緑川が優しいのを板額が知るのは分かる。でも僕が優しいとはちょっと分からない。僕はクラスでは他人と関わる事を極力嫌っている。それは板額が居る時でもほとんど変わらない。板額と二人ならそうでもないが、優しいと思われえる様な事はしてない気がする。これが仮に相手が緑川なら分かる。何故なら緑川は今と違う僕を知っているからだ。
「もちろん、僕だって与一が僕以外の女の子を愛してるってのは嫌だ。
与一が僕以外の女の子とキスしたりいちゃいちゃするのは許せない。
与一の愛は独り占めしたいってのが正直な気持ちだ。
こう見えて僕はとても独占欲の強いんだよ」
そう続けて板額は笑った。
「いや、君が独占欲強そうなのはもう分かってるって。
でも、それなら何故、僕に二人とも選べば良いって言うんだ?」
「相手に因るって事さ。
僕は相手が巴なら与一が僕以外に愛しても許せるんだ」
「いやいや、今、自分で独占欲が強いって言ったところじゃなか。
それに板額、君はさっきまで巴を散々挑発してたよね。
あれって、嫉妬じゃないのかい。
どうみても今しも緑川に殴り掛かりそうだったぞ」
僕は思ったことをそのまま口にした。だってそうだろ、あの時の板額はまさに嫉妬に狂った鬼女と化していた。刃物でも持っていれば確実に刃傷沙汰にするところだったとマジで僕はあの時思った。
「そうよ! それにもっと前からあなた、私を挑発してたでしょ!」
僕の言葉を聞いて、今まで黙っていた緑川が声を上げた。
「えっ、前から緑川を挑発してたって?」
僕は緑川に反射的に問い返していた。まあ、考えられる事は色々あった。そもそも、転校初日に彼女にしてって言ったこともしかり。告白ショーの後、特別教室で緑川を含めたギャラリーの前でキスしたのもしかり。でも、あれは挑発って感じとは違った気がした。
「板額、あなた、わざと私の目に触れる所で与一とじゃれてたでしょ」
んっ? 緑川の前で僕らがじゃれてた? 僕にはちょっと心当たりが無かった。
「与一の手をあんな風に……。
あれって私に対して……
『もう与一とは軽い関係じゃないわよ』
……ってアピールだったんでしょ。
与一が全然普通の態度でそれを受け入れてたのが、
私はまた腹立たしかったけど」
あっ! あの時の板額の指の動きか! 僕は思い出した。
緑川が言ってるのは、板額が僕の机に座って他のクラスメイト達と話す時に、時折、人目を盗んでちょっとエッチな動きで僕の手のさすってたあれだ、と僕はすぐに分かった。
しかし、確かにちょっとえっちな動きだったけど、あれはほんのわずかな間。しかも当人にしか分からないような動きだったはず。それを緑川がちゃんと見逃さずにいたなんて驚きだった。でも同時にあの時の緑川の目は板額と僕の秘め事を見ての事だったのだと理解出来た。あれは緑川の板額への嫉妬と憎悪だったのだ。
「だって、巴も与一もここまでやらなきゃ踏み出せないままだろ。
そりゃ、与一が巴に呼び出し食らった時点で、
僕がここまで出しゃばらなくても良かったかもしれない。
結果だけを知りたければ僕がここに来なくても
『僕の目』はここにもあるからね」
んっ? 『僕の目』? 今、なんか板額は変な事言った気がしたが気のせいか? 聞き返したい気持ちは強かったが、ここはこの先の板額の言葉の方が僕は知りたかった。
「僕がここまで悪役演じなければ君たちは全然相手を分かろうとしない。
与一は与一で……
これだけ傍に自分を想ってくれる素敵な女の子がいるのに、
全部の女の子を十羽ひとからげにして『めんどくさくて嫌い』だなんて。
巴は巴で……
それだけ与一の事が好きならその気持ちを言葉にするか、
はっきりしたたいどで示さなきゃ鈍感な与一には伝わらないよ。
ホント、二人とも不器用なんだから。
でもすごく優しい人たちだよね」
「板額、あなたって人は……」
板額の言葉に緑川はそう言って涙を拭いながら微笑んだ。その緑川の微笑みはすごく素敵だった。あの板額の微笑みと比べても全然引けを取らない程素敵な微笑みだった。
でも、僕はここでも板額の言葉にひっかかる所があった。緑川が優しいのを板額が知るのは分かる。でも僕が優しいとはちょっと分からない。僕はクラスでは他人と関わる事を極力嫌っている。それは板額が居る時でもほとんど変わらない。板額と二人ならそうでもないが、優しいと思われえる様な事はしてない気がする。これが仮に相手が緑川なら分かる。何故なら緑川は今と違う僕を知っているからだ。
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