71 / 161
第七十一話
しおりを挟む
僕は篠原さんの言葉がその時は気になっても、日常に紛れてすぐに忘れていた。
でもすぐに、篠原さんの言った言葉の意味を嫌と言うほど知る事になる。
季節は梅雨も終わりに中間試験と言う高校生の僕らに大きなイベントを越え、次の期末試験までは少しあるモラトリアムな時間がやって来た。僕らはまだ高校二年生。その為、この期間はかなり気が緩む。ただし、来年になれば、天下に名をとどろかす葵高の事、もう誰もが一年中、頭の中は大学入試の事で一杯で気が抜ける時などなくなる。もうすぐ来る夏休みを楽しめるのも今年が最後なのだ。
そんなこんなで普通なら教室の雰囲気も良い具合にダラけて来るはずだった。しかし、実際には何故か定期考査前の様な微妙な緊張感が漂っているのを僕は感じ取っていた。
板額と緑川と言う本妻と愛人を持つリア充その物の様になった僕ではある。しかしながら、多少、二人のおかげで弄られる事はあっても、僕はクラスではまだボッチのまま変わりはない。その為、クラスの雰囲気がどうであろと基本、僕は無関心だ。それが僕に関係する事はないからだ。
しかしである。今回のこの微妙な緊張感だけは別だった。僕はかつてこの様な緊張感を経験したことがある。しかも今回のそれは、その時と同じく、この僕がこの緊張感を生んでいる事に気がついていたからである。
すごく嫌な感じがした。思い出したくもないこのヒリヒリした感じ。そうだ、この感じを二度と味わいたくないから僕は周りとの関係を断ったのだ。
こちらが関係を断つ代わりに、周りからも関心を持たれる事もなくなるはずだった。そしてそれは今まで巧く機能していた。人は常にはいつも傍にある空気の存在を意識しない。僕はクラスにおいては空気と同じ存在だったはずなのだ。
それが今、彼らにとって僕が関心の的になっているのが僕には分かった。最初は、単に何かにつけて学校内でも目立つ存在である板額の彼氏になってしまった事が原因だろうと思った。しかし、それなら板額が転校して来て、おおぴらに僕の彼女宣言をした直後からそうなるはずだ。実際、それで僕は周りから今までより関心を持たれる存在になった。しかしである。それでも、その感じは今までとはまったく違った。特に相手が男どもだと、殺気を含んだ嫉妬をひしひし感じる事はたまにはあった。でも、今のこの感じは性別を超えていた。そして学年さえも超えている気がする。それは嫉妬とは明らかに違う物だった。
しかも、ある日を境にじわりと、そう半紙に墨汁を一滴垂らしたかの様にじわりじわりと広がっていった感じがした。僕の周りの空気が少しづつ、だが確実に黒に染まってゆく様な息の詰まる嫌な感じがした。そう、その空気の浸食は確実に僕を目指して進んでいたのだ。
やはりこれはあの時と同じなのだ。僕は確信した。でも、それなら何故? あの事はここではもう誰も知らないはずだ。
「与一、君も感じてるよね、この嫌な感覚」
その日、板額はいつもの様に僕の机に腰かけて僕にそう声を掛けた。
そう言った板額の顔はとても冗談を言っている感じはなく真剣そのものだった。
今までなら放課後、僕の席の周りは板額を中心としたクラスメイトの集まりが出来ていた。しかし、ここの数日、その集まりは非常に閑散としたものだった。ある意味、板額が転校してくる前に戻った感があった。
「板額、やはりあなたも気づいているのね」
板額の言葉に、緑川が僕の代わりにそう答えた。
緑川はそう言って僕をちらりと見た。僕は思わず緑川の視線から顔を逸らせてしまった。そして見てはいないが、そんな僕を見て緑川はきっと悲しい表情を浮かべていた事を僕には分かっている。
そう緑川は知っているのだ。僕がかつてこれと同じ様な感覚を持つ雰囲気の中心になった事を。緑川はそれを良く知ってる。なぜなら緑川はその時の当事者の一人でもあったからだ。そしてその時の僕は気がつかなかったが、緑川はそんな僕を心配してその時からずっと傍で見守っていてくれたのだ。
「当然だよ、巴。
僕は与一の事なら何でも知ってるからね」
緑川の問い掛けに、板額はそう答えて挑戦的な笑みをその口元に浮かべた。
僕は板額の言葉に、心臓が口から飛び出るほど驚いた。
でもすぐに、篠原さんの言った言葉の意味を嫌と言うほど知る事になる。
季節は梅雨も終わりに中間試験と言う高校生の僕らに大きなイベントを越え、次の期末試験までは少しあるモラトリアムな時間がやって来た。僕らはまだ高校二年生。その為、この期間はかなり気が緩む。ただし、来年になれば、天下に名をとどろかす葵高の事、もう誰もが一年中、頭の中は大学入試の事で一杯で気が抜ける時などなくなる。もうすぐ来る夏休みを楽しめるのも今年が最後なのだ。
そんなこんなで普通なら教室の雰囲気も良い具合にダラけて来るはずだった。しかし、実際には何故か定期考査前の様な微妙な緊張感が漂っているのを僕は感じ取っていた。
板額と緑川と言う本妻と愛人を持つリア充その物の様になった僕ではある。しかしながら、多少、二人のおかげで弄られる事はあっても、僕はクラスではまだボッチのまま変わりはない。その為、クラスの雰囲気がどうであろと基本、僕は無関心だ。それが僕に関係する事はないからだ。
しかしである。今回のこの微妙な緊張感だけは別だった。僕はかつてこの様な緊張感を経験したことがある。しかも今回のそれは、その時と同じく、この僕がこの緊張感を生んでいる事に気がついていたからである。
すごく嫌な感じがした。思い出したくもないこのヒリヒリした感じ。そうだ、この感じを二度と味わいたくないから僕は周りとの関係を断ったのだ。
こちらが関係を断つ代わりに、周りからも関心を持たれる事もなくなるはずだった。そしてそれは今まで巧く機能していた。人は常にはいつも傍にある空気の存在を意識しない。僕はクラスにおいては空気と同じ存在だったはずなのだ。
それが今、彼らにとって僕が関心の的になっているのが僕には分かった。最初は、単に何かにつけて学校内でも目立つ存在である板額の彼氏になってしまった事が原因だろうと思った。しかし、それなら板額が転校して来て、おおぴらに僕の彼女宣言をした直後からそうなるはずだ。実際、それで僕は周りから今までより関心を持たれる存在になった。しかしである。それでも、その感じは今までとはまったく違った。特に相手が男どもだと、殺気を含んだ嫉妬をひしひし感じる事はたまにはあった。でも、今のこの感じは性別を超えていた。そして学年さえも超えている気がする。それは嫉妬とは明らかに違う物だった。
しかも、ある日を境にじわりと、そう半紙に墨汁を一滴垂らしたかの様にじわりじわりと広がっていった感じがした。僕の周りの空気が少しづつ、だが確実に黒に染まってゆく様な息の詰まる嫌な感じがした。そう、その空気の浸食は確実に僕を目指して進んでいたのだ。
やはりこれはあの時と同じなのだ。僕は確信した。でも、それなら何故? あの事はここではもう誰も知らないはずだ。
「与一、君も感じてるよね、この嫌な感覚」
その日、板額はいつもの様に僕の机に腰かけて僕にそう声を掛けた。
そう言った板額の顔はとても冗談を言っている感じはなく真剣そのものだった。
今までなら放課後、僕の席の周りは板額を中心としたクラスメイトの集まりが出来ていた。しかし、ここの数日、その集まりは非常に閑散としたものだった。ある意味、板額が転校してくる前に戻った感があった。
「板額、やはりあなたも気づいているのね」
板額の言葉に、緑川が僕の代わりにそう答えた。
緑川はそう言って僕をちらりと見た。僕は思わず緑川の視線から顔を逸らせてしまった。そして見てはいないが、そんな僕を見て緑川はきっと悲しい表情を浮かべていた事を僕には分かっている。
そう緑川は知っているのだ。僕がかつてこれと同じ様な感覚を持つ雰囲気の中心になった事を。緑川はそれを良く知ってる。なぜなら緑川はその時の当事者の一人でもあったからだ。そしてその時の僕は気がつかなかったが、緑川はそんな僕を心配してその時からずっと傍で見守っていてくれたのだ。
「当然だよ、巴。
僕は与一の事なら何でも知ってるからね」
緑川の問い掛けに、板額はそう答えて挑戦的な笑みをその口元に浮かべた。
僕は板額の言葉に、心臓が口から飛び出るほど驚いた。
0
あなたにおすすめの小説
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる