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第百二十八話
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「そしてこれは与一、君にとっても、とても大事な事だよ」
この流れで、僕にとって大事な事?僕はますます話の流れが分からなくなった。
板額が遺伝的には『男』だって事で、なんで緑川が安心するのか?
そしてその緑川が今度は失望する様な事と僕にとって大事な事ってなんだ?
僕は訳も分からず息をのんで板額の言葉の続きを待った。
「巴、君は僕が完全な女の子じゃないって事で、
与一の彼女としては、僕より有利な立場にあるって一瞬思ったよね」
「べ、別にそんな事思ってないわよ!」
板額が意地悪い笑みを浮かべてそう言うと、緑川はすぐさまそう言って否定した。でもその時の緑川の頬を少し紅く染めた、緑川らしからぬ、とぎまぎした様子を見ると板額の言葉は事実だったんだろう。
なるほどそういう事か、僕はやっと合点がいった。忘れてたけど、板額と緑川は僕と言う男を巡って『恋のライバル関係』にあったのだ。緑川にすれば、相手が『生物的には本物の女性じゃない』ってのは、この場合、女として恋敵に対して絶対的に優越な立場に立ったという事なのだろう。まあ、僕は男なのでこの辺りの事は、あまりはっきりとは分からないけど、やっぱりそういうもんなんだろうなって思った。
でもそうなるとその緑川の優位な立場を崩す物ってなんだ?
そう考えた刹那、僕は背筋にぞくりと冷たい気配を感じた。
『すごわ、あの人。
あの人には私の存在が見えてるみたい。
さすが半分こっち側の存在ね』
氷の様に冷たい吐息と共にあの囁き声が僕の耳元でした。
板額は、僕に『白瀬京子の怨霊』が憑り付いている事に気が付いている!
今度は僕が酷く動揺することになった。
「巴には悪いけど、与一には僕以上に手ごわい恋敵がいるんだよ」
板額が僕の気持ちもを知らず、にやにや何か楽し気にそう緑川に言った。
「ダメだ、板額、それを緑川に言わないでくれ!」
僕は思わず叫んでいた。
なぜなら、僕の背中に居た白瀬京子の怨霊が、その時、身も凍るような恐ろしい笑みを浮かべて板額と緑川を見た気がしのだ。
自分の存在に気が付いた板額とそれを知らされた緑川を、白瀬の怨霊は殺そうとしている。とっさに僕は白瀬の怨霊が思ったことを察知した。
鬼牙の力を持ち、化け物と化した望月先輩を真っ二つにしたあの黒い刀を持つ板額ならまだしも、普通の女の子である緑川が怨霊となった白瀬に敵う筈がないのだ。
いや、違う。
そうじゃない。
僕は、板額と今は怨霊となってしまった白瀬が戦う所を見たくなかったのだ。
二人が戦えば、必ずどちらかが死ぬ。そしてさらに板額が敗れるようなことがあれば緑川だって殺される。僕は、板額と緑川が殺されるのはもちろん、僕の所為で怨霊となってしまった白瀬が板額によって消されるのも見たくは無かったのだ。
怨霊となった白瀬から解放され自由の身になることは僕にとって正義じゃないのだ。僕は、そう僕自身は白瀬の怨霊に憑りつかれ続ける事を心の底では望んでいるのだ。それが僕の愛していた白瀬に対する贖罪であるのだ。
そして、白状しよう。今は怨霊となってしまった白瀬を、僕は今でも愛しているんだ。
板額と緑川を失いたくない上に、白瀬の怨霊も失いたくないななんて、それは男として本当に身勝手極まりない願望だとは僕は分かっている。でも、僕はこの三人、まともな人間はその中には一人しかいないけど、誰一人かけて欲しくは無かったんだ。
「巴、君は何故、白瀬京子の真実を与一に話さないんだい?」
ところが板額は僕が思っていた事とは少し違う事を口にした。
いや、白瀬の事を口にしたのは思っていた通りだけれど、『白瀬京子の真実』って何だ?
それにそれを緑川にそう問いただすのはどういう意味なんだ?
僕にはそれがさっぱりわからなかった。
それに、僕はこの時、気づくべきだった。
もし白瀬の怨霊が僕のが思っている通りのなら、この時に彼女は僕に何かを囁きかけてくるはずだ。あの氷の様な吐息と共に板額と緑川への殺意のこもった言葉を吐くはずなのだ。そうじゃないにしろ、いつもの白瀬の怨霊なら少なくとも何かしらの反応を示すはずだ。
でも、その時、白瀬の怨霊は全く無反応だった。いや無反応と言うより、背中に感じるあの氷の様な冷気を纏った独特の存在感すら消えていた。
もっともその時の僕はそのことにすら気づく心の余裕を失っていたのだ。
この流れで、僕にとって大事な事?僕はますます話の流れが分からなくなった。
板額が遺伝的には『男』だって事で、なんで緑川が安心するのか?
そしてその緑川が今度は失望する様な事と僕にとって大事な事ってなんだ?
僕は訳も分からず息をのんで板額の言葉の続きを待った。
「巴、君は僕が完全な女の子じゃないって事で、
与一の彼女としては、僕より有利な立場にあるって一瞬思ったよね」
「べ、別にそんな事思ってないわよ!」
板額が意地悪い笑みを浮かべてそう言うと、緑川はすぐさまそう言って否定した。でもその時の緑川の頬を少し紅く染めた、緑川らしからぬ、とぎまぎした様子を見ると板額の言葉は事実だったんだろう。
なるほどそういう事か、僕はやっと合点がいった。忘れてたけど、板額と緑川は僕と言う男を巡って『恋のライバル関係』にあったのだ。緑川にすれば、相手が『生物的には本物の女性じゃない』ってのは、この場合、女として恋敵に対して絶対的に優越な立場に立ったという事なのだろう。まあ、僕は男なのでこの辺りの事は、あまりはっきりとは分からないけど、やっぱりそういうもんなんだろうなって思った。
でもそうなるとその緑川の優位な立場を崩す物ってなんだ?
そう考えた刹那、僕は背筋にぞくりと冷たい気配を感じた。
『すごわ、あの人。
あの人には私の存在が見えてるみたい。
さすが半分こっち側の存在ね』
氷の様に冷たい吐息と共にあの囁き声が僕の耳元でした。
板額は、僕に『白瀬京子の怨霊』が憑り付いている事に気が付いている!
今度は僕が酷く動揺することになった。
「巴には悪いけど、与一には僕以上に手ごわい恋敵がいるんだよ」
板額が僕の気持ちもを知らず、にやにや何か楽し気にそう緑川に言った。
「ダメだ、板額、それを緑川に言わないでくれ!」
僕は思わず叫んでいた。
なぜなら、僕の背中に居た白瀬京子の怨霊が、その時、身も凍るような恐ろしい笑みを浮かべて板額と緑川を見た気がしのだ。
自分の存在に気が付いた板額とそれを知らされた緑川を、白瀬の怨霊は殺そうとしている。とっさに僕は白瀬の怨霊が思ったことを察知した。
鬼牙の力を持ち、化け物と化した望月先輩を真っ二つにしたあの黒い刀を持つ板額ならまだしも、普通の女の子である緑川が怨霊となった白瀬に敵う筈がないのだ。
いや、違う。
そうじゃない。
僕は、板額と今は怨霊となってしまった白瀬が戦う所を見たくなかったのだ。
二人が戦えば、必ずどちらかが死ぬ。そしてさらに板額が敗れるようなことがあれば緑川だって殺される。僕は、板額と緑川が殺されるのはもちろん、僕の所為で怨霊となってしまった白瀬が板額によって消されるのも見たくは無かったのだ。
怨霊となった白瀬から解放され自由の身になることは僕にとって正義じゃないのだ。僕は、そう僕自身は白瀬の怨霊に憑りつかれ続ける事を心の底では望んでいるのだ。それが僕の愛していた白瀬に対する贖罪であるのだ。
そして、白状しよう。今は怨霊となってしまった白瀬を、僕は今でも愛しているんだ。
板額と緑川を失いたくない上に、白瀬の怨霊も失いたくないななんて、それは男として本当に身勝手極まりない願望だとは僕は分かっている。でも、僕はこの三人、まともな人間はその中には一人しかいないけど、誰一人かけて欲しくは無かったんだ。
「巴、君は何故、白瀬京子の真実を与一に話さないんだい?」
ところが板額は僕が思っていた事とは少し違う事を口にした。
いや、白瀬の事を口にしたのは思っていた通りだけれど、『白瀬京子の真実』って何だ?
それにそれを緑川にそう問いただすのはどういう意味なんだ?
僕にはそれがさっぱりわからなかった。
それに、僕はこの時、気づくべきだった。
もし白瀬の怨霊が僕のが思っている通りのなら、この時に彼女は僕に何かを囁きかけてくるはずだ。あの氷の様な吐息と共に板額と緑川への殺意のこもった言葉を吐くはずなのだ。そうじゃないにしろ、いつもの白瀬の怨霊なら少なくとも何かしらの反応を示すはずだ。
でも、その時、白瀬の怨霊は全く無反応だった。いや無反応と言うより、背中に感じるあの氷の様な冷気を纏った独特の存在感すら消えていた。
もっともその時の僕はそのことにすら気づく心の余裕を失っていたのだ。
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