漆黒の万能メイド

化野 雫

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第15話

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 若い商人の男はゆっくりと重い瞼を開いた。

 真っ暗だった薄らぼんやりと視界が明るくなったが見えるものはすりガラスを通した様ではっきりしなかった。その上、頭の奥で大きな太鼓がゆっくり鳴り続ける様の鈍痛がしている。

 頭の中で鳴る太鼓の他に、何かがぼんやり聞こえていた。

「あっ……はぁ……ああああっ!」

 視界より先に聞こえる音が少し明瞭になった。

 先ほどからとぎれとぎれ聞こえるのは声の様だった。しかも女の声。それは妙に艶めかしく『男としての本能』を刺激する様な声だった。そして、その声はどこか聞き覚えのある様な気がした。

 やがて、ぼやけていた視界も霧がゆっくり晴れる様に徐々にはっきりとしてきた。

 薄暗い景色の中、少し先に男が椅子に座ってる。そして、その男の膝の上には長い髪の女が跨って男にしがみついている。女は黒いロングドレスに白いエプロンドレス、頭には白いカチューシャを乗せたメイドの姿をしている。

 男の膝に跨ったメイド姿の女は、波に揺れる海藻の様に長い髪を揺らしながら、上下左右に腰をくねらせている。そして、時折、その顔を大きくのけぞらせ耐えかねた様に妖しい喘ぎ声を漏らしていた。

「キルシュ!」

 その女の顔を見た途端、若い商人の男は思わず声を上げた。

 自分のメイドが、見ず知らずの男の膝に跨り、その腰をくねらせ、快楽に顔をのけ反らせ喘ぎ声を上げているのだ。

 それを見て、商人の男はメイドに駆け寄ろうとした。

 しかし、その腕は後ろ手に縛られ、その足も縄できつく縛り上げられていた。商人の男の体は上半身が少し持ち上がっただけで、ばさりと石の床に落ちた。


 自分の膝の上で激しく腰を動かす女の腰を掴み、のけ反る首筋を舐め回していた町長がその声に気がつき、黒く汚れた石の床に横たわる若い男を見た。そして、イヤラシイ笑みをその口元に浮かべた。

「気がついたか?」

 町長が言った。

「今すぐキルシュを離せ!」

 若い商人が町長を睨みつけ怒鳴った。

「離せだと? 私はこの女に無理強いしてるわけじゃないよ。
 その証拠に良く見て見ろ……」

 町長はそう言って、メイドの腰から両手を離した。それでも、メイドはそのまま自らの腰を妖しくくねらせ甘い喘ぎ声を上げ続けていた。

「この女は自ら望んでこうしているのだよ、君。
 君は見ていなかったが、
 この女は自らの手で私の物を自身の中に受け入れたんだよ」

 町長は商人の男を見てそう言って笑った。

「キルシュ! しっかりしろ!
 いますぐ、そいつから離れろ!」

 それでも、その現実を受け入れられないのか商人の男はメイドに向かって叫んだ。それでもメイドは商人の男の声を無視して、体の奥底から沸き起こる快楽に身をまかせ無心に腰をくねらせ続けていた。

「お前も無理強いでないことをちゃんと前の主人に教えてあげなさい」

 町長は商人の男の叫びを聞いて、メイドに向かって猫なで声で言った。

 町長の声を聞いて、波の様に繰り返し襲い来る激しい快楽に目を閉じ身を任せていたメイドがゆっくり目を開いた。そして、床に転がされている商人の男を悲しそうな目で見て囁く様に言った。

「ごめんなさい……若旦那様……。
 でも、今の私は、身も心もすでにこの方の物ですから……」

 そう言ってメイドは再び目を閉じると、自らその唇を町長の口元に押し当てた。そして、傍から見ても分かるほど激しくその舌を求めて絡ませた。メイドの唇の脇から涎がつぅっと流れ落ちた。

 そして、同時にメイドの目から一筋だけ涙の滴を零れ落ちるのを商人の男は見逃さなかった。

「これで分かっただろう。
 この女は自らの意思で新しい主人を選んだのだよ」

 そう言って町長は勝ち誇った様な高笑いをした。

 一番大切にしているメイドが理不尽に奪われた。しかも目の前で信じがたい辱めまで受け入れさせられている。

「貴様、殺してやる!
 絶対にキルシュを取り返す!」

 商人の男は怒りに燃える目で町長を睨みつけて怒鳴った。

 しかし、その目がかえって町長のサディスティックは性癖を燃え上がらせた。

「わははははっ! 小僧が何を粋がってやがる!
 金も地位も権力もすべて、
 お前なんぞ、私から見れば地べたを這い回る蟻程でしかないわ!
 良く見るが良い!」

 町長はそう叫ぶと、白い膝の上で腰をくねらせ続けるメイドの腰を掴むとより激しく上下させ始めた。
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