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旅立ち

旅立ち 3

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 「どうじゃ?勇者、ララノアよ。この城は美しいであろう?」

 玉座の間へ通され、一通り、形式的なやりとりを終えたあと、国王は興味深そうにララを玉座から見下ろし言った。
 ララはその表情と視線に嫌悪感を覚えた。

 (この都市で、ここが一番、臭い。城門の比じゃなかった。あの国王というのは、本当に私達と同じエルフなの?醜悪なモンスターにしかみえない。……こんな感じ、スティングと一緒じゃない?人の形をしただけの化け物。舐めまわすように見つめてくる。……気持ち悪い。)

 「……はい。とても美しいと……思います。」
 
 流石にララも思った事は言えず、無難に返答した。
 その事に満足したのか、バザルーナ王は隣に控えているスティングにも話をふった。

 「そうであろう。そうであろう。この王宮の美しさもさることながら、勇者殿もとても美しい。将来が楽しみであるな。アルスター卿も、よい妻を選んだものだ。」
 「ありがとうございます。王よ。我がアルスター家も嬉しゅうございます。」
 「そうであろうな。勇者殿を妻に迎えるアルスター家もまた繁栄するであろう。そして、その家臣を持つ我が国も………。ははは。」
 「そうでございますね。ふふふふふ。」

 国王とスティングはお互いに利害が一致しているようで、お互い、気味悪く笑う。

 (もう、嫌だ。こんな所、一秒も長く居たくない。)

 ララは本当にその後予定されていた、晩餐会など全てを欠席した。
 そして、村へ帰りある計画の準備に取りかかった。


 王宮で繰り広げられるはずだった物を全て欠席して来たのだから、時間はまだたっぷりある。
 時刻的には、昼を少し回った所だろう。
 ララは聖剣を眺め、長年考えていた計画を実行するための決意を固めた。

 (私は……ガリウスを殺す。……村に居るスティングの手下の冒険者をみんな殺す。今まで、村人にしてきた事の報いを受けてもらう。私がこの村から居なくなれば、冒険者は必要ない。ゴールドランクのガリウス達以上の冒険者を雇うのはスティングにも難しいはず。それに、守銭奴であるスティングが、私の居なくなった村に、そんな高いお金を払って冒険者を雇うとは思えない。昔のような状態に戻るなら、魔石の結界だけで十分なはず。)

 ララは聖剣を持ち、腰を上げた。

 (ガリウスが王都に行っている今がチャンス。ガリウスを除いた5人を、結界の外の巡回に出た時に順番に殺そう。)

 この日の為に買った、ホクホクグマの毛皮を着て、ララは結界の外で、冒険者達を待った。

 …………。
 ………。
 ……。
 ララは最後の一人にトドメを刺し、遺体を他の4体と一緒のように、森の深くに投げ捨てた。

 (……以外と呆気なかったな。こんなに弱かったのか……。何に私達は怯えていたのか……。まあ、いいか。死体は放置しておけば、勝手にモンスターが食べるだろう。それに、そうした方がモンスターに襲われたと思われるはず。)

 何事も無かったかのように、ララは返り血を浴びたホクホクグマの毛皮を脱いで魔法で焼いた。

 (……全く、罪悪感というものがない。あいつらが今までやってきたの事を考えると自業自得ではあるけれど……。自分がこんなにも簡単に同族を殺せるとは思わなかった。……やっぱり、私も壊れているのだろうか?悲鳴を聞いても。命乞いの言葉を聞いても。全く、何も感じ無かった。)

 最後にエクスカリバーついた血を拭き取り、燃えているホクホクグマの毛皮の中に放り込む。

 (問題は、ガリウス。あいつは、村人を殺さなかったけど、仲間が村人を殺しているのを止める事もしなかった。同罪だ。それに、毎日、毎日、私が取ってきた魔石やドロップアイテムを殆ど通行料だと言って奪っていった。許せないし、嫌いだ。ただ……心のどこかでは正直、憎めないところがある。……そんな気がしている。スティングや他の冒険者と、臭いも違うし……。本当は悪い奴じゃないのかもしれない……。いや……悪い奴だ。それは間違いないんだ。ガリウスを殺さないと、他の冒険者を殺した意味がない。また、同じ事の繰り返しだ。覚悟を決めろ、私!私がやらないと村は救えない!!)

 ララはもう一度集中するために、お気に入りの村の見渡せる崖へ向かった。
 
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