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出会い ナナ編

出会い ナナ編1

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 安らげるぬくもりは、もうそこにはなかった。
 外の見える小さな部屋に入れられたワタシの前を知らない人間達が通って行き、物珍しそうに私を眺めていったり、呼んだりする。
 何?怖い……。何でワタシはこんな所に入れられているの?寝ている間に、ワタシはどこに来てしまったのだろ?
 そうだ!ママ!ママはどこ?!ママなら、ワタシを助けてくれる!!
 「ママ!ママ!!」
 ワタシは何度もママを呼んだ。でも、何度呼んでも、ママは返事をしてくれない。一緒に居たはずの弟妹達の姿も見当たらなかった。
 ワタシがママ達と引き離されたんだと、気が付くのに、そう時間は必要無かった。
 ワタシが初めて見た人間の姿もそこには無かった。あの人間は、ママが言っていた『ご主人さま』ではなかったのだ。暖かかった手は偽りだったのだろうか?あの、優しいと思っていた声も……。
 そんな事を考えていると、ワタシは知らない人間に、その部屋から出された。
 少し大きな部屋?外が見える事は変わりがない。そして、あの小さな部屋に居た時より沢山の人間が歩いていたり、立ち止まり、ワタシを呼んだりする。
 なんなの?ここは??
 ワタシがキョロキョロと当たりを伺っていると、知らない子から声を掛けられた。
 「やあ。キミ。今日、ここに来たパピヨンちゃん?」
 パピヨンちゃん?え?ワタシの事??
 ワタシと同じ犬?茶色い毛色。垂れた耳に長い鼻。何より足が短いように見えた。
 「アナタは?」
 「ボク?ボクはまだ名前は無いんだ。ここの人間はダックスって呼んでいるから、ダックスでいいよ。」
 「名前?」
 「うん。名前。キミのママもご主人さまから特別な呼び方で呼ばれていたでしょ?それが名前なんだって。ボクのママがそう言っていたよ。」
 そう言えば、ワタシのママも人間に呼ばれて返事したり喜んでいたわ。あれが名前なのね。
 「名前は特別なんだよ~。ボク達が本当のご主人さまに出会った時に、ご主人さまがつけてくれるらしいんだ。ママがそう言ってた。」
 そうなんだ。名前……。特別なんだ。ワタシはママと居た場所では特別ではなかったんだ。
 なら、他の弟妹達はどうなったのだろう?ママ以外は名前なんて呼ばれていなかった。あそこでは、ママ以外は特別ではなかったんだ。他の弟妹達が心配だ。ワタシみたいに、こういう場所に連れてこられているのだろうか?
 「オ~ッホッホッ。アナタ。そんな事も知らなかったのですの?無知にもほどがありますわよ!!」
 ワタシが少し沈んだ気持ちでいると、また、違う子が話し掛けてきた。それも、どこか私達とは違う。
 「やあ。ペルシャちゃん。」
 「ペルシャ……ちゃん?」
 ダックスくんの言葉にワタシが疑問に思っていると、ワタシがダックスくんに聞くより早く、ペルシャちゃんは自己紹介を始めた。
 「はじめまして。わたくし、ペルシャ猫ですわ。わたくしの事はペルシャとお呼びになって。」
 これが、ママが言っていた……猫。何か凄くやわらかそう。それに、凄くしなやか。もしかして、動くのが速かったりするのかしら?追いかけっこしたら、楽しいのじゃないのかしら?遊んだら楽しいのじゃないのかしら??
 そう思うと、ワタシの身体は勝手に、ペルシャちゃんに飛び付いた。
 「ちょ!あなた?!いきなり過ぎますわよ!!……ダックスくん!ちょっと、この子を止めて下さいませ!まだ、話は……。」
 「わ~い。ボクも遊ぶ~。」
 「ちょっと~~!!……。」
 ペルシャちゃんの叫び声は虚しく、ダックスくんも遊びに加わるのだった。
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