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命名家族会議 そして、初散歩

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 「優弥。私達にも、アイスティーをくれないか?。」
 少し汗をかき始めた結衣のアイスティーを見ながら、父はそう言う。
 僕はその言葉に従い、両親の分それと自分の分のアイスティーを用意し、リビングのテーブルの上に置いて座った。
 「ありがとう。優弥。で、この子の名前は決まっているのか?」
 父は既に腰を下ろしており、子犬を我が物と言わんように膝の上に置き、撫でながら僕に尋ねる。
 「いや、まだなんだ。」
 そう答えると父は「ならば、家族会議だ。静子もそこに座りなさい。」と、言い。にやけた顔とは別に、普段通りの言葉で少し離れた所で怯えている母を呼ぶ。
 『第一回斉藤家子犬命名家族会議』の始まりである。
 「この子は、パピヨンだろう?なら、『アゲハ』と言うのはどうだろうか?』
 父は開口一番、待ってました。と言わんばかりにそう言う。
 「「『アゲハ』?」」
 僕と結衣は、なぜ?と言わんばかりに首を傾げる。
 「パピヨンの犬種名の由来は、フランス語で『蝶』と言う言葉が由来だろう?今はまだ小さいから、こんな耳だか、大きくなると耳が蝶が羽を広げたように見えるからその名前がついたらしい。」
 父は詳しかった。予想外な事に。
 あ~。なるほど。アゲハチョウのアゲハね。と僕と結衣は感心していると、母がおずおずと手を挙げて言う。
 「『モモ』なんて、どうかしら?」
 「「「『モモ??』」」」
 3人揃って母の方へ振り向く。
 いっぺんに3人がこちらを向くものだから、母は慌てたように言った。
 「あっ。いや。あのね。白っぽくて丸々してるから、白桃に見えちゃって。『モモ』なんて可愛いらしいじゃない?と思っちゃって。」
 あ~。確かに。と、言うように、3人は頷く。確かに呼びやすいし、可愛い。
 すると、今度は結衣が提案した。
 「なら、『チョコ』なんてどう?頭の模様の色はチョコ色だよ?」
 ……『チョコ』か~。
 ん~~。結衣以外の3人は難色を示す。確かに言いやすくはあるけど、そこまで可愛くもないし、この子犬には似合わないような気がする。
 皆の表情で『チョコ』は……。というのが分かったのだろう。結衣は不服そうに口を尖らせながら言った。
 「じゃあ、お兄ちゃんは、どんな名前が良いと思うのよ~。」
 僕は、帰りの車の中で考えていた、名前を渾身の一撃を繰り出さんばかりに、堂々と言った。
 「『コテツ』!」
 「「「『コテツ』!?」」」
 皆、無いわ~。と、一同に首を横に振る。
 何でだよ!そんなに悪い名前か!?と不満の声をあげる。散々悩んだ名前だぞ。格好いいだろう?と僕が今度は口を尖らせる番だった。そんな僕を見て、父は言った。
 「……優弥。この子は……女の子だ。」
 ……ええっ!?女の子!?ええっ!?!?
 まさか!と思い、血統書などの書類を見ていた、母から書類を見せて貰った。正真正銘、メスと書かれていた。
 確認も店員さんの話も上の空だったので、少ししか覚えていない。……オスだと思っていた。
 そんな事も確認していなのか?と、家族は呆れ顔をしていたが、次々と名前はあがっていった。
 『ココ』『ミント』『タンポポ』『シロ』など、子犬の色や形に似た、食べ物や植物など、色々な名前が出てきた。
 そして『第一回斉藤家子犬命名家族会議』も1時間が過ぎ、行き詰まってきた頃。父が何気ない一言を言った。
 「優弥。今日は何日だ?」
 「今日は、七夕。7月7日だよ。」
 それを聞いて、母が、はっとしたように言った。
 「『セブン』。……あ、いや、『ナナ』なんてどうかしら!?今日、7月7日に相応しいし、ラッキーセブンで縁起も良さそうだし、『セブン』だと、男の子っぽいけど『ナナ』なら、女の子っぽくて可愛いいわ。」と母は満面の笑顔で言う。
 唯一、苦手で反対していた母は、実は一番子犬の事を考えていたのかもしれない。本当は興味があるのだけれど、ただ怖いってだけじゃない?と、そう思ってしまった。
 『ナナ』か……。
 皆、頭の中で呼んでいるシチュエーションを想像しているのだろう。無言になる。
 そして、結衣が第一声を放つ。
 「『ナナ』……うん。良いと思う!」
 父から、子犬を受け取り、目の前に抱きなから名前を連呼する。
 「ナナ。ナナ!ナナ!!うん。この子にぴったり!いい名前!!」
 それにつられるように、家族で呼び始める。
 名前が『ナナ』に決定した瞬間だった。
 最初は、『ん?ナナって、何だろう?』と不思議そうな顔をして首を傾げていたが、次第に自分に向けられていると知ったのか、自分の事かな?と思ったのか?『ナナ』と言うと反応するようになり、自分の名前が『ナナ』だと言う事を認識し始めたのか『ナナって、私の事かな?』と呼ぶと来るようになった。そして、『ナナ』と呼ばれて行くと撫でられる。遊んでもらえる。『ナナ』は、自分が『ナナ』と言う名前であることを確信したようだった。
呼ぶと飛んで来るようになった『ナナ』は、とても可愛かった。小さな花火が無数に咲いたように輝いていた。
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